スクールライフCREATORs

石原レノ

心情

神巫女、紫音から依頼を受けた次の日。僕は部室で二人と話していた。内容はもちろん月見翠葉。後で気がついた事で蒼葉の妹らしい。そして蒼葉の方は風邪が酷くなった事により、最近入院したらしい。
、、、この現状は僕にとってはかなり厳しい状況に陥っている。
「月見さんに頼るなって言うわけにもいかないし、妹さんの方から怪しまれる。一体どうしたら、、、」
「ごめんね。私達がお願いした事で悩ませちゃって」
「何言ってんのさ。僕は部活とはいえ良心でやってるんだよ。気にしなくて大丈夫」
神巫女の表情が少し和らいだ。しかし隣に座っている紫音は俯いたままだった。
『月見翠葉に頼ってほしい』
そのための手伝いをする事になった僕だけど、結局の所頑張らなくてはならないのは自分なのだ。その不安と何も役に立てない歯がゆさが彼女の表情を暗くさせていた。
「紫音ちゃん」
「っ!?は、はい!」
不意をつかれたように驚く紫音。どうやら考え中だったようだ。僕は構わず話を続けた。
「今日月見さん―翠葉さんのお姉ちゃんの所に行こう。そこで何かわかるかも知れない」
「何か、、、ですか?」
紫音の瞳に僅かに希望がもたらされた気がした。表情も少しだが暗さが取れている。
ここで悩んでいても何も始まらない。現状を打開するためには情報収集が大切だと思った結果の提案だった。
「榊さんもどうかな?」
「、、、私はごめんなさい行けないわ。部活の事もあるし、、、」
「大丈夫。榊さん部長だもんね。今日は紫音ちゃんと2人で行ってくるよ」
「え、先輩と2人ですか?」
ここで場を乱すように紫音が口を挟む。僕は疑問を生じた表情で紫音を見つめる。紫音の顔は微かに赤かった。
「え、いや、、その、、、や、やっぱりいいですっ!それでは午後にまたっ!」
そう言って一気に駆けていく紫音。僕はただ後ろ姿を見ることしか出来なかった。
何をそんなに恥ずかしがっているのだろう。
そんな僕を神巫女はふふっと微かに声を出しながら笑っていた。

さて、本日の授業がすべて終わり、時刻は夕刻4時を指す。僕は昼間の通り蒼葉のいる病院へと足を運ぼうとしているところだった。
、、、、のだが。
「そんなところに隠れてないで出てきなよ。隠れてちゃ行けないしさ」
帰りのHRが終わり、廊下に出た時は僕の後ろの物陰から、靴箱で靴を履き替えている時は隣の靴箱の物陰からじーっと紫音に見られていた。まるで尾行のように。
「(やっぱり信頼を得るってのも難しいな。紫音ちゃんに怯えられてるようだし)」
本来普通の関係ならもっとこう馴れ馴れしくするものである。紫音の性格もあるとは思うのだが、これは多分というか、絶対に怖がられてる。物凄く怖がられてる。
先程の一声も空を切り、紫音は未だにじーっと僕を見つめたままだ。僕と目が合っても尚目を逸らさない所を見ると弱点でも探されている気分になる。
「、、、はぁ」
ため息をこぼしながら紫音へと歩み寄る。
「え、えぇ、、、ひゃっ!」
僕が近づくにつれて紫音の表情が徐々に青くなっていった。
怯えさせないように、怯えさせないように。
そう思いながら、無理やり顔をひきつらせて笑を作る。
「大丈夫だから、、ね?」
「うぅ、、、」
青くなった顔が今度は一変して真っ赤に染まる。よほど恥ずかしいのだろう、紫音はゆっくりと物陰から姿を現した。
「さ、行こっか。病院まではそんなにかからないみたいだし」
「、、、はい」
半ば強制的ではあるが、僕は紫音を連れ出すことに成功した。

「その、、、先輩は面倒だなって思わないんですか?」
蒼葉のいる病院へ向かっている最中、気まずい空気がしばらく続いていた。年下とはいえ異性と一緒に歩くの自体僕には初めての体験だったし、紫音は紫音で人見知りだったから前々から予想はしていた。このまま一言も話さず病院までついてしまうのかと思っていると唐突に紫音から質問された。
「面倒?何が?」
僕がそう問うと紫音は不安気な顔をする。僕自身鈍感なことは自覚していて、今の現状がどういう事を示すのか分からなかった。
「依頼の事とか、、、わ、私とか、、」
なるほど。段々紫音の性格が分かってきた気がした。簡単に説明すると。
1,人見知り
2,大人しい
3,臆病
とまあこんな感じだろう。まとめて言えば人見知りで大人しくて臆病。まとめ方が悪いのは気にしないでほしい。
とにかく、紫音は周りの事を気にしてしまう、『嫌われてるんじゃないか』等といった不安を抱えてしまう純粋な女の子なのだと僕は感じた。勿論そう思っているわけでもなく、他人からしたら気にすることでもないと思ってしまう事も彼女は気にしてしまう。言い換えれば優しい子なのだ。
「依頼の事はむしろ僕の良心でやってる事だし、あと紫音ちゃんの事は嫌いじゃないよ?だって―」
「だって―」この後の言葉は、強い冬風によってかき消されてしまった。紫音の耳に届いたのか、それは定かではないが、この時の紫音の顔が微かに紅潮している所を見ると薄々聞こえていたのかもしれない。そうこうしている間に蒼葉のいる病院についた。
「あ、瞬君来てくれたんだ、、、その子は後輩かな?モテモテだね」
「わ、私はそんな、そ、そんなんじゃ、、ないです」
「この子は藍原紫音ちゃん。中等部2年で月見さんの妹さんと友達なんだって」
「どうも、、、」
「そっか。翠葉のお友達か。私は月見蒼葉。
そこの瞬君と同じ学年だよ」
軽い自己紹介を終え、僕と紫音は蒼葉の元へと歩み寄る。
「今日はどうしたの?学校のプリントやお知らせは白雪さんから聞いてるよ?」
どうやら白雪と仲良くなったらしい。そうなると僕にとっても嬉しい事である。
「いや、今日は月見さんに用があってきたんだ」
「私に?」
「うん。ええっとね―」
「お姉ちゃんお水買ってきたよー」
以来のことを口に出そうとしたその時、突然ひとりの少女が僕達のいる病室に入ってきた。
緑のセミロング。凛とした目は彼女の性格をその間表しているようだった。
「、、、翠葉ちゃん」
月見翠葉、、蒼葉の妹だった。
「あ、翠葉。ありがとう、、、ええっとこの人達はね」
「あ、紫音ちゃんどうしたの?部活は休みかな、、、隣の人は誰、、、ま、まさか彼氏?」
「ち、ちがうよ!そ、そんなんじゃないもん!」
本日二回目の否定。僕に彼女ができる日は来るのだろうか。
「僕は天上瞬。最近君の学校に転校してきた高等部2年だよ、、君は翠葉ちゃん、、でいいのかな?」
僕が自己紹介を終えると、翠葉は納得したように相槌を打った。やはり知られていたらしい。
「あぁ!あの先輩ですか!あえて光栄だなぁ!私、月見翠葉つきみすいはって言います。お姉ちゃんがいつもお世話になってます。学年は紫音ちゃんと同じです」
会えて光栄という言葉を聞いて僕は少し照れくさかった。これまで冷ややかな目でしか見られなかった僕がこうも歓迎されるなんて思わなかったからである。
「お姉ちゃん私邪魔なら席外すよ?」
「いや大丈夫だよ、、、。今日は様子を見に来ただけだから」
僕の一言を聞いて翠葉は「そうですか」と言って用意された椅子に腰掛ける。手で促され、僕と紫音もぎこちなさを感じながら椅子に腰掛けた。
「調子はどう?」
「大分良くなったよ。明日か明後日には学校に行けるんじゃないかな?」
「そっか、、安心したよ」
「紫音ちゃん。私達席外さない?お姉ちゃん、先輩と【2人で】話したそうだし」
翠葉の一言は、僕のビクッと震わせ、蒼葉の顔を一気に赤くさせた。
「っもう!そんな事言わないの!」
「えへへ~」と翠葉は悪戯な笑みを浮かべながら席を立った。
「紫音ちゃん。購買行かない?私お腹すいちゃった」
「あ、じゃあお菓子買ってきて?私もお腹すいちゃった」
「了解。さ、紫音ちゃん行こ」
「う、うん」
翠葉が紫音の手を引きながら病室から出て行った。扉が閉まると同時に襲う静まり返った空気。女の子と2人で過ごしたことなんて前の高校の忌まわしい記憶でしかない。自然と気まずくなる事は目に見えていた。
「、、、それで、今日は何の用かな?」
唐突に聞かれた質問。僕は蒼葉が何を問いかけようとしているかは理解の上だった。ここでいう回答は先程言った「様子を見に来た」では適当じゃない。
気まずく言い難いことを僕の口は反射的に発することを拒んだ。
「、、、、、大変だったね」
今の一言で蒼葉は何を言っているのか察してくれたようだ。僕の見たくなかった表情。俯きながら可憐な笑みを浮かべている。
「うん、、、でも仕方なかったんだよ。お母さんは昔から体が弱かったの。お医者さんにも長くはないって言われてたから」
「、、、、、仕方なくなんかない」
「え?」
この時の僕はどうかしていた。彼女自身悲しいはずなのに、、何よりも現実が受け入れられないはずなのに、、それなのに無理をしているって分かっていたのに、、、
「人が居なくなって仕方ないなんて有り得るもんか。本当に心の底から仕方ないなんて思っているの?だって、、大好きな人が居なくなったら誰だって悲しくなるだろ。何もかもそうやって仕方ないでまとめられたら、、、まとめられたら、、、っ!」
感情的になって放たれた言葉は蒼葉の目尻に涙を浮かばせた。こうなる事も全部予想はできていた筈なのに、、何よりもその辛さは僕が経験してきた筈なのに、、、。今になって自分の言動に後悔をしても、もう遅かった。
「、、、そんな事分かってるよ!」
「っ!?」
突然放たれた蒼葉の怒号混じりの声に、思わず怯んでしまう。
「そんな事分かってる!だって辛いもん!今まで優しくしてくれたお母さんが、、大好きな人が居なくなって悲しくない筈ないじゃない!分かってる、、本当はすごく寂しいの、、、大好きな人が、、また居なくなるんじゃないのなって、、凄く寂しいんだよ、、辛くて、悲しくて、、だから仕方ないってまとめちゃう、、私は、、私は―」
死んだ人間は戻っては来ない。小学生でも分かる常識だ。だから僕にも分かる。大切な人に会えない事がどれだけ辛いことか、、蒼葉が無理をしているって事も分かっていた、、、なのに僕は蒼葉を攻めた。
こんな僕は―
「最低だ、、、」
蒼葉の最後の言葉は、僕の心内の言葉と一致した。もうどうしようもない事態に、2人はただ黙っただけだった。

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