導帝転生 〜仕方ない、世界を救うとしよう。変態の身体だけど〜
3 - 11 「ネイト討伐戦」
ネイトが俺を指さし、小刻みに震えている。
そのせいで、皆の視線が集まり始めた。
俺とネイトの関係に、興味を持ち始めている証拠だ。
まずい。
こういう状況になった時、どうなるか。
この先の展開を、俺は知っている。
そう――
これは、先に言ったもん勝ちになる展開だ!
ネイトが、俺の世にも恐ろしい実際にやらかしてしまった話を暴露すると、村人の敵意が、俺たち――いや、俺個人に向けられる。
それで話が拗れ、最終的には、俺は罵声を浴びせられながら、泣く泣く村を出る羽目になるのだ。
きっとそうなる。
間違いない。
俺には、そういう未来が見える。
だから、ネイトが変なことを言う前に対処する必要がある。
幸い、ネイトは緊張と恐怖で混乱しているのか、上手く言葉を発せていない。
さっきも、どもりまくっていた。
よ、よぉーし!
相手が躊躇している今なら、まだ間に合う!
まだ状況は五分!
ネイトに場を支配される前に、先手を打ってこの場を制す!!
そうだ!
それしかない!!
「ネイト!」
突如大きく声をあげると、ネイトは驚きのあまり小さく飛び跳ね、そのまま棒立ちになった。
これは――
精神的優位!
いける!
いけるぞ!!
「ようやく見つけた! 俺たちの子供を置いて一人で逃げるなんて、俺たちの何が嫌だったんだ!?」
「…………えっ?」
訳も分からず混乱するネイト。
だが、それはこちらの女性陣も同じだった。
「子供……? シロちゃんは、ハルトの…… 子供?」
「奴に子供が……?」
「聞いてニャいニャ…… 師匠に愛人がいたニャんて……」
『クックック…… この状況でその選択をしたか。相変わらず人の斜め上をいきよる』
俺の思考を読んだ炎の雄牛が笑う。
斜め上とは失礼な奴だ。
この場で、魔族に見間違われるような禍々しい大角を生やした俺が、幼気な娘と言い合いをしたとしよう。
果たして、どちらが有利か。
どちらが信用性のある意見を言っているように見えるか。
この場合、相手が有利なことは間違いない。
――というか、正攻法でいったら確実に負ける。
なぜならば、きっとネイトの発言は真実だから……
悲しいことに、変態行為をしたのは事実。
そして、ネイトがこの場でその主張をした場合、第三者の目にはどう映るか。
見た目の悪い男が、か弱い乙女に付きまとっているという構図が成り立ち、証言に信ぴょう性が出てしまう。
そう、重要なのは見た目であり、第三者が納得できる状況かどうかということだけ。
真相は二の次だ。
――今回に限っては、語られる真相もきっと事実。
どうしようもない。
状況的不利は否めない。
だからこその奇手。
ここは攻めの一手しかない。
引いたら負ける!
黙っていても負ける!
だが、この策なら勝機はある!
「まさか忘れたのか!? 二人の子供だ! お前が失踪してから、こんなに大きくなったんだぞ!?」
そう告げながら、手をつないでいたシロを抱きかかえるあげる。
すると、村人がネイトと俺の抱えたシロを交互に見始めた。
(よし、食いついた。これならいける)
シロが驚いて何か言おうとする前に、耳元で囁いて制す。
「(今は俺がシロのパパってことで演技できるかい?)」
「(う、うん)」
よし、シロが物分かりの良い子で助かった。
ネイトが立ち直る前に、このまま一気に畳みかけてしまおう!
「ネイト! お前は何がそんなに嫌だったんだ!? 俺が大精霊と契約したからか!? こんな醜い見た目になってしまったからか!?」
すると、頭の中で抗議する者が約一名――
『何を言うか。醜いとは酷い。こんなにも立派で雄々しい大角は他にないぞ?』
(だぁー!? ちょっ、今大事なところなんだから割り込んでくんなっ!)
ブーブーと不満を垂れる炎の雄牛を無視して進める。
「そ、それとも、生まれてきたこの子に、俺たちにはない耳が…… 狐耳が生えていたからか!?」
「な、ななな、なにを……」
ネイトの顔が盛大に引き攣る。
俺の意図に気付いたのだろう。
だが、もう遅い。
既に、村人たちは、可哀想なものを見る目で俺とシロを見始めている。
きっと、頭の中では、ネイトが俺と幼子を捨てた母親という設定が出来上がっていることだろう。
どうだ!
醜い見た目を逆手に取った奇手!
これなら信ぴょう性があるだろう!
さぁ、どんどん同情してくれ!
その同情心が、俺に勝利をもたらしてくれる!
そして、次の一言で、その状況は確定するはずだ!
「それとも……」
俺は声を震わせ、シロを抱き締めた。
「この子が…… この子の眼が……」
村人たちの注目が俺へと集まる。
「生まれつき、物が見えなかったから、か……?」
その言葉に、村人は視線を落とし、口を押さえて憐れんだ。
(ここで涙を流せたら最高だったんだが…… あ、涙出た)
すると、村人から「可哀想に……」という声があがった。
その声は、たちまち周囲の者へと伝播していく。
「自分の子を認められなかったのか……」
「例え見た目が違くても、お腹を痛めて生んだ子でしょう? なんで愛せないの? 愛してやれないの?」
「若い娘のようだしのぅ、現実を受け止めきれなかったんじゃろうて」
勝負あった。
自分で言っておいて、シロの盲目をダシに使うなんて最低なクソ野郎だな! と軽く目眩がしたが、シロの眼は俺が絶対に治すので、この非道にはどうか目を瞑ってもらいたい。
「ち、違う、み、皆こいつの……」
ネイトが反論しようと口を開くも、それを意外な人物が打ち消した――
「お、お母さん? そこに…… そこに、いるの?」
シロだ。
光のない瞳を、必死にネイトのいる方向へと漂わせている。
(これは…… 俺でも信じちゃうわ……)
自然とシロを抱き締める力が強くなる。
その光景を疑う者は、村人の中にはいなかった。
すると、恰幅の良いおばさんが、ネイトの尻を思いっきり引っ叩き、ネイトを飛び上がらせた。
「あんた! 母親が子供から逃げてどうするんだい!? ちゃんと母親としての責任を果たしな!!」
「えっ!? えっ!? えっ!? ち、ちが」
「まだ言うのかい!? そんな人でなしは、この村には置いておけないよ!!」
おばさんの言葉に、他の者が「そうだ! そうだ!」と続く。
それには、さすがのネイトも堪えたようで、目尻に涙を溜めると、力なく地面へとへたり込んだ。
(よし、ここで仕上げだ!)
俺はネイトへと駆け寄ると、ネイトを庇うように、村人とネイトの間に割って入った。
そして――
「やめてください! 妻はまだ心の整理ができてないだけなんです! 許してあげてください! 私も、娘も、妻に会えただけで十分ですので……」
そういい、ネイトへと振り返った――
悪魔の笑みを浮かべて――
その笑みを見たネイトが、ふぅっと意識を飛ばす。
どうやら、あまりのストレスに、心が耐えられなかったようだ。
(勝ったな)
『まさに外道だな』
(魔王だしな)
こうして、俺達は無事に村へと立ち入ることに成功したのだった。
◇◇◇
老夫婦が、空を見上げながら、しみじみと話す。
「今日は不思議なことばかり起きるのぅ」
「本当ですねぇ。お昼に突然夜になったり、突風が吹いたと思ったら、空から大鷲や鳥が落ちてきたり。何かが起きる前触れかしらねぇ。怖いわぁ」
「そうじゃのぅ。南では戦が始まったとも聞いた。そのせいかのぅ。若い者が戦に駆り出されなければいいんじゃが……」
「そうですねぇ。村の働き手が減るのは辛いですねぇ」
「うむ、ところで、あの若者たちはこの村に居ついてくれたりせんかのぅ? 大精霊様の加護をもつ若者など、そうはおらんじゃろうて」
「どうですかねぇ」
「この村に住んでもらえれば、心強いんじゃが」
「爺さんや、無理強いはしてはいけませんよ」
「分かっとるよ」
お爺さんがお茶をずるずると啜り、ほぉっと一息ついて、空を見上げる。
「婆さんや、今日の晩飯は何じゃ?」
「今日は大鷲料理ですよ。皆、ご馳走が空から降ってきたって大喜びでもう。今日はどこのお家もお祭り騒ぎでしょうねぇ」
「ふぉっふぉっふぉっ、それは楽しみだのぅ」
そう笑い合う二人の間を、そよ風が優しく通り抜ける。
その遥か遠方には、風雲急を告げる灰色の狼煙が、次々と上がり始めていた。
そのせいで、皆の視線が集まり始めた。
俺とネイトの関係に、興味を持ち始めている証拠だ。
まずい。
こういう状況になった時、どうなるか。
この先の展開を、俺は知っている。
そう――
これは、先に言ったもん勝ちになる展開だ!
ネイトが、俺の世にも恐ろしい実際にやらかしてしまった話を暴露すると、村人の敵意が、俺たち――いや、俺個人に向けられる。
それで話が拗れ、最終的には、俺は罵声を浴びせられながら、泣く泣く村を出る羽目になるのだ。
きっとそうなる。
間違いない。
俺には、そういう未来が見える。
だから、ネイトが変なことを言う前に対処する必要がある。
幸い、ネイトは緊張と恐怖で混乱しているのか、上手く言葉を発せていない。
さっきも、どもりまくっていた。
よ、よぉーし!
相手が躊躇している今なら、まだ間に合う!
まだ状況は五分!
ネイトに場を支配される前に、先手を打ってこの場を制す!!
そうだ!
それしかない!!
「ネイト!」
突如大きく声をあげると、ネイトは驚きのあまり小さく飛び跳ね、そのまま棒立ちになった。
これは――
精神的優位!
いける!
いけるぞ!!
「ようやく見つけた! 俺たちの子供を置いて一人で逃げるなんて、俺たちの何が嫌だったんだ!?」
「…………えっ?」
訳も分からず混乱するネイト。
だが、それはこちらの女性陣も同じだった。
「子供……? シロちゃんは、ハルトの…… 子供?」
「奴に子供が……?」
「聞いてニャいニャ…… 師匠に愛人がいたニャんて……」
『クックック…… この状況でその選択をしたか。相変わらず人の斜め上をいきよる』
俺の思考を読んだ炎の雄牛が笑う。
斜め上とは失礼な奴だ。
この場で、魔族に見間違われるような禍々しい大角を生やした俺が、幼気な娘と言い合いをしたとしよう。
果たして、どちらが有利か。
どちらが信用性のある意見を言っているように見えるか。
この場合、相手が有利なことは間違いない。
――というか、正攻法でいったら確実に負ける。
なぜならば、きっとネイトの発言は真実だから……
悲しいことに、変態行為をしたのは事実。
そして、ネイトがこの場でその主張をした場合、第三者の目にはどう映るか。
見た目の悪い男が、か弱い乙女に付きまとっているという構図が成り立ち、証言に信ぴょう性が出てしまう。
そう、重要なのは見た目であり、第三者が納得できる状況かどうかということだけ。
真相は二の次だ。
――今回に限っては、語られる真相もきっと事実。
どうしようもない。
状況的不利は否めない。
だからこその奇手。
ここは攻めの一手しかない。
引いたら負ける!
黙っていても負ける!
だが、この策なら勝機はある!
「まさか忘れたのか!? 二人の子供だ! お前が失踪してから、こんなに大きくなったんだぞ!?」
そう告げながら、手をつないでいたシロを抱きかかえるあげる。
すると、村人がネイトと俺の抱えたシロを交互に見始めた。
(よし、食いついた。これならいける)
シロが驚いて何か言おうとする前に、耳元で囁いて制す。
「(今は俺がシロのパパってことで演技できるかい?)」
「(う、うん)」
よし、シロが物分かりの良い子で助かった。
ネイトが立ち直る前に、このまま一気に畳みかけてしまおう!
「ネイト! お前は何がそんなに嫌だったんだ!? 俺が大精霊と契約したからか!? こんな醜い見た目になってしまったからか!?」
すると、頭の中で抗議する者が約一名――
『何を言うか。醜いとは酷い。こんなにも立派で雄々しい大角は他にないぞ?』
(だぁー!? ちょっ、今大事なところなんだから割り込んでくんなっ!)
ブーブーと不満を垂れる炎の雄牛を無視して進める。
「そ、それとも、生まれてきたこの子に、俺たちにはない耳が…… 狐耳が生えていたからか!?」
「な、ななな、なにを……」
ネイトの顔が盛大に引き攣る。
俺の意図に気付いたのだろう。
だが、もう遅い。
既に、村人たちは、可哀想なものを見る目で俺とシロを見始めている。
きっと、頭の中では、ネイトが俺と幼子を捨てた母親という設定が出来上がっていることだろう。
どうだ!
醜い見た目を逆手に取った奇手!
これなら信ぴょう性があるだろう!
さぁ、どんどん同情してくれ!
その同情心が、俺に勝利をもたらしてくれる!
そして、次の一言で、その状況は確定するはずだ!
「それとも……」
俺は声を震わせ、シロを抱き締めた。
「この子が…… この子の眼が……」
村人たちの注目が俺へと集まる。
「生まれつき、物が見えなかったから、か……?」
その言葉に、村人は視線を落とし、口を押さえて憐れんだ。
(ここで涙を流せたら最高だったんだが…… あ、涙出た)
すると、村人から「可哀想に……」という声があがった。
その声は、たちまち周囲の者へと伝播していく。
「自分の子を認められなかったのか……」
「例え見た目が違くても、お腹を痛めて生んだ子でしょう? なんで愛せないの? 愛してやれないの?」
「若い娘のようだしのぅ、現実を受け止めきれなかったんじゃろうて」
勝負あった。
自分で言っておいて、シロの盲目をダシに使うなんて最低なクソ野郎だな! と軽く目眩がしたが、シロの眼は俺が絶対に治すので、この非道にはどうか目を瞑ってもらいたい。
「ち、違う、み、皆こいつの……」
ネイトが反論しようと口を開くも、それを意外な人物が打ち消した――
「お、お母さん? そこに…… そこに、いるの?」
シロだ。
光のない瞳を、必死にネイトのいる方向へと漂わせている。
(これは…… 俺でも信じちゃうわ……)
自然とシロを抱き締める力が強くなる。
その光景を疑う者は、村人の中にはいなかった。
すると、恰幅の良いおばさんが、ネイトの尻を思いっきり引っ叩き、ネイトを飛び上がらせた。
「あんた! 母親が子供から逃げてどうするんだい!? ちゃんと母親としての責任を果たしな!!」
「えっ!? えっ!? えっ!? ち、ちが」
「まだ言うのかい!? そんな人でなしは、この村には置いておけないよ!!」
おばさんの言葉に、他の者が「そうだ! そうだ!」と続く。
それには、さすがのネイトも堪えたようで、目尻に涙を溜めると、力なく地面へとへたり込んだ。
(よし、ここで仕上げだ!)
俺はネイトへと駆け寄ると、ネイトを庇うように、村人とネイトの間に割って入った。
そして――
「やめてください! 妻はまだ心の整理ができてないだけなんです! 許してあげてください! 私も、娘も、妻に会えただけで十分ですので……」
そういい、ネイトへと振り返った――
悪魔の笑みを浮かべて――
その笑みを見たネイトが、ふぅっと意識を飛ばす。
どうやら、あまりのストレスに、心が耐えられなかったようだ。
(勝ったな)
『まさに外道だな』
(魔王だしな)
こうして、俺達は無事に村へと立ち入ることに成功したのだった。
◇◇◇
老夫婦が、空を見上げながら、しみじみと話す。
「今日は不思議なことばかり起きるのぅ」
「本当ですねぇ。お昼に突然夜になったり、突風が吹いたと思ったら、空から大鷲や鳥が落ちてきたり。何かが起きる前触れかしらねぇ。怖いわぁ」
「そうじゃのぅ。南では戦が始まったとも聞いた。そのせいかのぅ。若い者が戦に駆り出されなければいいんじゃが……」
「そうですねぇ。村の働き手が減るのは辛いですねぇ」
「うむ、ところで、あの若者たちはこの村に居ついてくれたりせんかのぅ? 大精霊様の加護をもつ若者など、そうはおらんじゃろうて」
「どうですかねぇ」
「この村に住んでもらえれば、心強いんじゃが」
「爺さんや、無理強いはしてはいけませんよ」
「分かっとるよ」
お爺さんがお茶をずるずると啜り、ほぉっと一息ついて、空を見上げる。
「婆さんや、今日の晩飯は何じゃ?」
「今日は大鷲料理ですよ。皆、ご馳走が空から降ってきたって大喜びでもう。今日はどこのお家もお祭り騒ぎでしょうねぇ」
「ふぉっふぉっふぉっ、それは楽しみだのぅ」
そう笑い合う二人の間を、そよ風が優しく通り抜ける。
その遥か遠方には、風雲急を告げる灰色の狼煙が、次々と上がり始めていた。
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