導帝転生 〜仕方ない、世界を救うとしよう。変態の身体だけど〜
2 - 10 「大精霊との契約」
突然の出来事に、大歓声で溢れていた会場が突如静まり返る。
「どういうことだ…… 奴は一体何をした……」
ジーディスが疑問を投げかけるも、その問いに答えられる者は誰もいない。
死の巨人が炎の雄牛を圧倒していた所までは、ジーディスの筋書き通りの展開だった。
本来であれば、そこで炎の雄牛にトドメを刺し、そこからミーニャ、ジョーカーへと殺戮ショーに切り替わるはずだった。
歯車が狂い始めたのは、ジョーカーが動き始めてからだ。
死の巨人と炎の雄牛が戦闘を行う中、それを無視してミーニャへと向かったジョーカー。
逃げ場のないステージでミーニャを煽り、ステージの側面を追い回す。
ジーディスの目には、恐怖でその場から動けなくなったミーニャがその場に留まることがないように、ジョーカーが追い立てている様にも見えていた。
何故そんなことをするのかまでは理解できなかったが。
そして、炎の雄牛が死の巨人によって追い詰められると、ジョーカーは誰もが予想しなかった行動に出た。
なんと、死の巨人を挑発し始めたのだ。
ジョーカーの挑発を受け、死の巨人が、標的を炎の雄牛からジョーカーへと変えた。
今思えば、ジョーカーはこれが狙いだったのかもしれない。
何故ならば、炎の雄牛から目を逸らした死の巨人は、その直後、横腹を炎の雄牛の大角で突き上げられ、そのまま灼熱の炎に焼かれたのだから。
それだけでもジーディスには信じ難い展開だったが、問題は更にその後に起きた。
大歓声の中、炎の雄牛がジョーカーに近付き、まるで家臣が王にかしずくかのように、ゆっくりとそのこうべを垂れたのだ。
そしてジョーカーが炎の雄牛へと右手を差し出すと、その場から炎の雄牛が消え去った。
正確には、炎の雄牛が突如大量の光り輝く粒子へと姿を変え、ジョーカーへと吸い込まれていったのだが、この光景を瞬時に理解できた者はいなかった。
誰もが目の前の光景を疑った。
すると今度は、ジョーカーの身体に異変が起きた。
ジョーカーの周辺を赤い火花が舞い踊ると、ジョーカーの身体の一部が変化したのだ。
それは、炎の雄牛を自身の身体に取り込んだという事実を主張するかのような変化だった。
「なんだ…… あの角は……」
静まり返った会場に、ジーディスの呟きだけが響き渡る。
ジョーカーの頭部には、マグマのように真っ赤な血脈を張り巡らせた漆黒の角が、時折火花を散らしながら、その存在感を周囲に示していた。
漆黒のローブに、見るものに畏怖を感じさせる不気味な仮面、そしてマグマのように煮え滾る大角。
もはや人間とは程遠い見た目へと変化した囚人――ジョーカー。
そしてそのジョーカーを前に、誰もが絶対的な勝利を確信して止まなかった二体の怪物が沈んだ。
その事実に、会場はまるで火山が噴火したかのような大歓声をあげた。
「……馬鹿な」
いつの間にか前のめりになり、腰を椅子から浮かしながら、目の前の光景に見入っていたジーディスは、溜息とともにそう呟くと、椅子へ力なく腰を下ろした。
そして目の前で起きた現実をゆっくりと咀嚼していく――
この怪物達――死の巨人、炎の雄牛の捕獲には、それぞれ一個中隊分の犠牲を払った。
そのくらいの犠牲を払わなければ捕獲できない極上の魔獣なのだ。
実際に稼働させたのは一個大隊――約1000人程の人間を投入してようやく捕獲できたのだが、これは紛れもなく第一線級の魔獣である証明に他ならない。
つまり、そんな強力な魔獣が、たかが一人の新人囚人に勝ちを譲るなどあってはならないのだ。
ましては二体同時に負けるなど……
「……ふざけるな」
ジーディスの呟きは次第に大きくなっていく。
「ふざけるなッ! そんな事が許されるはずがないッ!!」
ついには叫びとなって会場に轟いた。
「死の巨人ーーッ! 貴様の力はそんなものかッ!? いつまで寝ているッ!? 早く起きてそのふざけた囚人を嬲り殺せぇーーッ!!」」
ジーディスの罵声ともとれる叫びに応えるかのように、焦げ茶色に変色した鎧の塊が、その場にゆっくりと立ち上がり始める。
◇◇◇
(お、おいおい、あのデカブツ焼け死んだんじゃなかったのかよ!)
ゆっくりとその巨体を持ち上げる死の巨人を前に、ハルトは心の中で叫んでいた。
その叫びに炎の雄牛が答える。
『死の巨人の再生力は強力だ。心臓を潰して完全に息の根を止めない限りは再生するだろうな』
(ちょ、勝手に心の声拾うなよ! なにこれ!? これから心の声筒抜けになんの!?)
『気にするな。ワシのような大精霊は、人族の邪な心の声が聞こえたところで何も思わん』
(いやいやいや、俺が気になるの!)
最初に炎の雄牛が話しかけてきた時は、それこそ腰が抜けそうなくらい驚いた。
だが、実際にテレパシーみたいなもので会話してみると、これが中々話の分かるおっちゃん?で――見た目は炎を身に纏った馬鹿でかい牛だが――この身体の元の持ち主であるハイデルトにも恩があるとのことで、互いに協力してここから出ようということになった。
炎の雄牛曰く、魔族との縄張り争いで力を使い果たして眠っていたところを人族に襲われて捕まったのだとか。
力の源である魔力を回復しようも、魔力を封じる環境に閉じ込められ、本来の力を一割も発揮できずにいたらしいのだが、それも俺の身体に憑依すればすぐ力を取り戻せることができると言われ、言われるがままに憑依を許可した結果がこれである。
(頭になんか違和感が…… 絶対何か生えてるよね…… 正直怖くて触りたくない)
『ワシ自慢の勇ましい大角が生えておるぞ』
(やはり角か…… なぜ生えた)
『本当にお主はハイデルトではないらしいな。そんなことも知らないとは……』
人族と大精霊が契約を結び、人族の身体を依り代として憑依する場合、一つだけ大きな問題が生じる。
それは大精霊の持つ莫大な魔力が、人族の身体の許容量を超えてしまうという問題だ。
限界を超えた状態では、人族の身体が崩壊してしまう。
そうならない為に、大精霊はその膨大な魔力を凝縮させ、人族の身体の一部へと具現化させることで、人族との身体の力バランスを保つのである。
それは大精霊によって数多の形が存在し、こと炎の雄牛にとっては、その象徴とも言える大角に変化したに過ぎない。
そもそも、大精霊との契約自体、あり得ないことではあるのだが……
『それよりも、早く奴に止めを刺さなければ完全に再生されてしまうぞ? いいのか?』
(そ、そんなこと言われてもどうすればいいのか…… あ、何か強力な魔法とか使えないの!?)
『お主の身体だろう。なぜワシに聞く。少なくとも身体はハイデルトのものであるのは確かだ。であればハイデルトが使える魔法は全て使えるはずだが』
(し、知らないんだって…… 記憶や知識は共有されてないんだよ…… だから炎の雄牛は何か攻撃手段ないの!?)
『あるにはあるが…… 奴に火属性の攻撃は有効打にならないぞ?』
(な、なんでもいいから! それを教えて!)
『ふむ、ではイメージを送ろう』
頭の中に直接映像が流れ込んでくる。
それは目を開けながら夢を見ているような、幻覚を見ているような感覚だった。
(す、すげぇ…… これマジで使えんの……)
『では頼んだぞ』
(えっ? いやいや、フォローしてくれるんでしょ? さっきみたいに炎の雄牛が戦ってくれれば、その隙を突いて俺が……)
『それは無理だ。暫く具現化できそうにない』
(な、なんで!?)
『そもそもが既に限界だったのだ。お主と契約していなければ、魔力の残滓となって消えていただろうよ』
(マ、マジか……)
『アドバイスくらいならできよう。本来なら魔力の譲渡が最大の援助となるのだが…… お主には必要ないな』
(くっ…… やるしかないのか…… な、なら回復される前に!)
未だにヨロヨロとフラついている死の巨人へ向けて走り出したハルト。
角からは火花が溢れ、ハルトの通り過ぎた空間は熱により陽炎となってもやもやと揺らめいている。
ハルトが右手をお椀を持つかのように空へと向けると、その掌から一瞬だけ紅蓮の炎が溢れ出した。
(あれ…… 消えた)
『この場所は、魔封じの結界により常に魔力が消失するようになっている。絶えず魔力を放出しなければ維持すらできんだろう。遠慮せずに常に全力で撃つつもりでイメージしろ』
(お、おう)
イメージ通りに再び手に意識集中すると、再び紅蓮の炎が溢れ出した。
◇◇◇
「馬鹿なッ!?」
ジーディスの叫びが再び響き渡る。
「なぜここで魔法が使える!? メイリン! 結界は正常に機能しているのか!?」
「せ、正常に機能しています!」
「ではあれはなんだッ!?」
「か、考え難いですが、結界の力を超える魔力の行使としか……」
「そんな馬鹿げた人族がこの世に居て……」
途中で言葉を止めるジーディス。
その瞳は驚きのあまり限界まで大きく見開かれ、瞳孔はまるで目の前の事を否定するかのように小刻みに揺れていた。
「まさか…… いや…… そんなはずは」
ジーディスは特等席となった観覧場所の端まで走り寄ると、手摺に手をつき、前かがみになるように身を乗り出した。
その突然の行動に、メイリンとカーンが驚き、ジーディスへと駆け寄る。
「ジーディス様!?」
「館長!?」
ジーディスが転落しないよう、二人がジーディスの身体を抑える。
「ジーディス…… 様?」
メイリンがジーディスの異変に気が付き、言葉を失う。
ジーディスの目線は、依然としてステージにいるジョーカーへ釘付けになっている。
そしてその身体は、何かに怯えるように小刻みに震えていた。
ステージでは、紅蓮の炎を身に纏ったジョーカーが、その右手から魔法詠唱とは思えぬ程の灼熱の業火を放ち、死の巨人を追い詰めているところだった。
「どういうことだ…… 奴は一体何をした……」
ジーディスが疑問を投げかけるも、その問いに答えられる者は誰もいない。
死の巨人が炎の雄牛を圧倒していた所までは、ジーディスの筋書き通りの展開だった。
本来であれば、そこで炎の雄牛にトドメを刺し、そこからミーニャ、ジョーカーへと殺戮ショーに切り替わるはずだった。
歯車が狂い始めたのは、ジョーカーが動き始めてからだ。
死の巨人と炎の雄牛が戦闘を行う中、それを無視してミーニャへと向かったジョーカー。
逃げ場のないステージでミーニャを煽り、ステージの側面を追い回す。
ジーディスの目には、恐怖でその場から動けなくなったミーニャがその場に留まることがないように、ジョーカーが追い立てている様にも見えていた。
何故そんなことをするのかまでは理解できなかったが。
そして、炎の雄牛が死の巨人によって追い詰められると、ジョーカーは誰もが予想しなかった行動に出た。
なんと、死の巨人を挑発し始めたのだ。
ジョーカーの挑発を受け、死の巨人が、標的を炎の雄牛からジョーカーへと変えた。
今思えば、ジョーカーはこれが狙いだったのかもしれない。
何故ならば、炎の雄牛から目を逸らした死の巨人は、その直後、横腹を炎の雄牛の大角で突き上げられ、そのまま灼熱の炎に焼かれたのだから。
それだけでもジーディスには信じ難い展開だったが、問題は更にその後に起きた。
大歓声の中、炎の雄牛がジョーカーに近付き、まるで家臣が王にかしずくかのように、ゆっくりとそのこうべを垂れたのだ。
そしてジョーカーが炎の雄牛へと右手を差し出すと、その場から炎の雄牛が消え去った。
正確には、炎の雄牛が突如大量の光り輝く粒子へと姿を変え、ジョーカーへと吸い込まれていったのだが、この光景を瞬時に理解できた者はいなかった。
誰もが目の前の光景を疑った。
すると今度は、ジョーカーの身体に異変が起きた。
ジョーカーの周辺を赤い火花が舞い踊ると、ジョーカーの身体の一部が変化したのだ。
それは、炎の雄牛を自身の身体に取り込んだという事実を主張するかのような変化だった。
「なんだ…… あの角は……」
静まり返った会場に、ジーディスの呟きだけが響き渡る。
ジョーカーの頭部には、マグマのように真っ赤な血脈を張り巡らせた漆黒の角が、時折火花を散らしながら、その存在感を周囲に示していた。
漆黒のローブに、見るものに畏怖を感じさせる不気味な仮面、そしてマグマのように煮え滾る大角。
もはや人間とは程遠い見た目へと変化した囚人――ジョーカー。
そしてそのジョーカーを前に、誰もが絶対的な勝利を確信して止まなかった二体の怪物が沈んだ。
その事実に、会場はまるで火山が噴火したかのような大歓声をあげた。
「……馬鹿な」
いつの間にか前のめりになり、腰を椅子から浮かしながら、目の前の光景に見入っていたジーディスは、溜息とともにそう呟くと、椅子へ力なく腰を下ろした。
そして目の前で起きた現実をゆっくりと咀嚼していく――
この怪物達――死の巨人、炎の雄牛の捕獲には、それぞれ一個中隊分の犠牲を払った。
そのくらいの犠牲を払わなければ捕獲できない極上の魔獣なのだ。
実際に稼働させたのは一個大隊――約1000人程の人間を投入してようやく捕獲できたのだが、これは紛れもなく第一線級の魔獣である証明に他ならない。
つまり、そんな強力な魔獣が、たかが一人の新人囚人に勝ちを譲るなどあってはならないのだ。
ましては二体同時に負けるなど……
「……ふざけるな」
ジーディスの呟きは次第に大きくなっていく。
「ふざけるなッ! そんな事が許されるはずがないッ!!」
ついには叫びとなって会場に轟いた。
「死の巨人ーーッ! 貴様の力はそんなものかッ!? いつまで寝ているッ!? 早く起きてそのふざけた囚人を嬲り殺せぇーーッ!!」」
ジーディスの罵声ともとれる叫びに応えるかのように、焦げ茶色に変色した鎧の塊が、その場にゆっくりと立ち上がり始める。
◇◇◇
(お、おいおい、あのデカブツ焼け死んだんじゃなかったのかよ!)
ゆっくりとその巨体を持ち上げる死の巨人を前に、ハルトは心の中で叫んでいた。
その叫びに炎の雄牛が答える。
『死の巨人の再生力は強力だ。心臓を潰して完全に息の根を止めない限りは再生するだろうな』
(ちょ、勝手に心の声拾うなよ! なにこれ!? これから心の声筒抜けになんの!?)
『気にするな。ワシのような大精霊は、人族の邪な心の声が聞こえたところで何も思わん』
(いやいやいや、俺が気になるの!)
最初に炎の雄牛が話しかけてきた時は、それこそ腰が抜けそうなくらい驚いた。
だが、実際にテレパシーみたいなもので会話してみると、これが中々話の分かるおっちゃん?で――見た目は炎を身に纏った馬鹿でかい牛だが――この身体の元の持ち主であるハイデルトにも恩があるとのことで、互いに協力してここから出ようということになった。
炎の雄牛曰く、魔族との縄張り争いで力を使い果たして眠っていたところを人族に襲われて捕まったのだとか。
力の源である魔力を回復しようも、魔力を封じる環境に閉じ込められ、本来の力を一割も発揮できずにいたらしいのだが、それも俺の身体に憑依すればすぐ力を取り戻せることができると言われ、言われるがままに憑依を許可した結果がこれである。
(頭になんか違和感が…… 絶対何か生えてるよね…… 正直怖くて触りたくない)
『ワシ自慢の勇ましい大角が生えておるぞ』
(やはり角か…… なぜ生えた)
『本当にお主はハイデルトではないらしいな。そんなことも知らないとは……』
人族と大精霊が契約を結び、人族の身体を依り代として憑依する場合、一つだけ大きな問題が生じる。
それは大精霊の持つ莫大な魔力が、人族の身体の許容量を超えてしまうという問題だ。
限界を超えた状態では、人族の身体が崩壊してしまう。
そうならない為に、大精霊はその膨大な魔力を凝縮させ、人族の身体の一部へと具現化させることで、人族との身体の力バランスを保つのである。
それは大精霊によって数多の形が存在し、こと炎の雄牛にとっては、その象徴とも言える大角に変化したに過ぎない。
そもそも、大精霊との契約自体、あり得ないことではあるのだが……
『それよりも、早く奴に止めを刺さなければ完全に再生されてしまうぞ? いいのか?』
(そ、そんなこと言われてもどうすればいいのか…… あ、何か強力な魔法とか使えないの!?)
『お主の身体だろう。なぜワシに聞く。少なくとも身体はハイデルトのものであるのは確かだ。であればハイデルトが使える魔法は全て使えるはずだが』
(し、知らないんだって…… 記憶や知識は共有されてないんだよ…… だから炎の雄牛は何か攻撃手段ないの!?)
『あるにはあるが…… 奴に火属性の攻撃は有効打にならないぞ?』
(な、なんでもいいから! それを教えて!)
『ふむ、ではイメージを送ろう』
頭の中に直接映像が流れ込んでくる。
それは目を開けながら夢を見ているような、幻覚を見ているような感覚だった。
(す、すげぇ…… これマジで使えんの……)
『では頼んだぞ』
(えっ? いやいや、フォローしてくれるんでしょ? さっきみたいに炎の雄牛が戦ってくれれば、その隙を突いて俺が……)
『それは無理だ。暫く具現化できそうにない』
(な、なんで!?)
『そもそもが既に限界だったのだ。お主と契約していなければ、魔力の残滓となって消えていただろうよ』
(マ、マジか……)
『アドバイスくらいならできよう。本来なら魔力の譲渡が最大の援助となるのだが…… お主には必要ないな』
(くっ…… やるしかないのか…… な、なら回復される前に!)
未だにヨロヨロとフラついている死の巨人へ向けて走り出したハルト。
角からは火花が溢れ、ハルトの通り過ぎた空間は熱により陽炎となってもやもやと揺らめいている。
ハルトが右手をお椀を持つかのように空へと向けると、その掌から一瞬だけ紅蓮の炎が溢れ出した。
(あれ…… 消えた)
『この場所は、魔封じの結界により常に魔力が消失するようになっている。絶えず魔力を放出しなければ維持すらできんだろう。遠慮せずに常に全力で撃つつもりでイメージしろ』
(お、おう)
イメージ通りに再び手に意識集中すると、再び紅蓮の炎が溢れ出した。
◇◇◇
「馬鹿なッ!?」
ジーディスの叫びが再び響き渡る。
「なぜここで魔法が使える!? メイリン! 結界は正常に機能しているのか!?」
「せ、正常に機能しています!」
「ではあれはなんだッ!?」
「か、考え難いですが、結界の力を超える魔力の行使としか……」
「そんな馬鹿げた人族がこの世に居て……」
途中で言葉を止めるジーディス。
その瞳は驚きのあまり限界まで大きく見開かれ、瞳孔はまるで目の前の事を否定するかのように小刻みに揺れていた。
「まさか…… いや…… そんなはずは」
ジーディスは特等席となった観覧場所の端まで走り寄ると、手摺に手をつき、前かがみになるように身を乗り出した。
その突然の行動に、メイリンとカーンが驚き、ジーディスへと駆け寄る。
「ジーディス様!?」
「館長!?」
ジーディスが転落しないよう、二人がジーディスの身体を抑える。
「ジーディス…… 様?」
メイリンがジーディスの異変に気が付き、言葉を失う。
ジーディスの目線は、依然としてステージにいるジョーカーへ釘付けになっている。
そしてその身体は、何かに怯えるように小刻みに震えていた。
ステージでは、紅蓮の炎を身に纏ったジョーカーが、その右手から魔法詠唱とは思えぬ程の灼熱の業火を放ち、死の巨人を追い詰めているところだった。
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