導帝転生 〜仕方ない、世界を救うとしよう。変態の身体だけど〜

飛びかかる幸運

2 - 5 「大物の風格」

 時の進みが遅くなった世界で、ハルトは教鞭が自分の股間へと振り下ろされる光景を見守っていた。


(スローモーションか…… 身動き出来ない状態で起きても、全く意味ないよな…… いや、もしや狂人になると願えば助かったり……? いやいや、ダメだダメだ…… あれやったら次こそ取り返しのつかないことになる。じゃあ樹人ツリーフォークに助けを求めてみるのは…… まぁ無理だろうな…… スローモーションが終わればきっと俺の息子は一秒の命もない。はぁ…… こんなことなら、ビビらずにもっと風俗行くんだったな…… さようなら…… 俺の第二の息子……)


 ゆっくりと目を閉じる。

 その顔は、何かの悟りを開いたかのように、とても穏やかで、これから起きる事を全て受け入れるとでもいうような、まるで仏のような表情をしていた。

 恐らく、隣の房で状況を見守っていたキングには、ハルトの背後に輝く七色の後光が見えたことだろう。


 そして時が再び進み出し――

 ハルトは下半身の先の感覚を失った。


 メイリンが全力で振り抜いた教鞭は、ハルトの大切な息子を、目にも留まらぬ速さで打ち抜いていた。

 ズボンは、名刀で袈裟斬りされたかのように綺麗に切り裂かれ、そこからは赤紫に腫れ上がったジュニアが、その頭を左右にブルンブルンと震わせながら、こんにちはしている。


(良かった…… 俺の息子、弾け飛ばなかった…… ちゃんとくっ付いてる…… ありがとう…… 母ちゃん…… 強い身体に産んでくれて…… )


 まだ痛みという感覚は襲ってこない。

 恐らくこの後、死にたくなるような痛みがやってくるのだろう。

 取り敢えず、息子が千切れ飛ぶといった最悪な状況は回避できた。

 それだけでハルトは満足だった。


 渾身の一撃に、メイリンは興奮した様子でハルトを見て叫ぶ。


「アーハッハッハッ! どうだどうだッ!? この鞭の味はッ!?」


 再び高笑いを始めるメイリン。

 だが、ハルトはもうそれどころではなかった。


(もう、出ます)


 堰き止めていたダムが決壊するかのように、それは起きた。


「アーハッハッバグッ!? ブハッ!? ペッ! なんだッ? この水…… は……」


 黄金色のシャワーが、メイリンを襲う。

 その無慈悲な攻撃に、メイリンはその釣り長の目が飛び出しそうな程に大きく見開き――

 そして、自身の時を止めた。

 それは脳が精神の危険を察知したためであり、状況を把握することで起きる自己の崩壊を防ぐため、脳が思考を強制停止させたことで起きた現象だった。

 その間も、ハルトジュニアの無慈悲な攻撃は続く。

 黄金色のシャワーが弧を描き、メイリンの綺麗な顔へ、唇へ、そして軌道を少し下げて、その豊満な胸へとぶつかり、弾け散る。

 濡れる唇。

 揺れる乳。

 その弾力に、子供がはしゃぐように弾み、飛び散る水飛沫。

 時に荒々しく強引に、時に優しく控えめに。

 その勢いは強弱を交え、まるで相手の反応を楽しんでいるかのように、メイリンの身体を蹂躙し続けた。

 ハルトは白目を剥きながらも、顔には満面の笑みを浮かべ、時よりブルブルと小刻みに動き出したりしている。

 その笑みは幸福感に満ち溢れていた。

 メイリンは、全身を黄金色の雫で濡らしながらも、その場から一歩も動いていない。

 むしろ瞬きすらしていなかった。

 マネキンのようですらある。

 動いているのはその乳だけだ。

 初めこそ顔にかかるくらいに勢いのあったシャワーも、徐々に勢いがなくなり、ついには止まってしまう。

 だが、その代わりに動き始める時もあった。


「ひぃい……」


 メイリンが白目を剥いてその場に卒倒したのだ。

 ハルトのKO勝利である。


「し、新入りがやりやがった……」


 白目を剥いて意識を飛ばす二人。

 その二人の死闘を見守っていたキングは、顔を青くさせながら、そうボソリと呟いた。



 ◇◇◇



 ――数時間後。


 エリア3の人族房へと戻ってきたキングとハルト。

 二人の顔はどちらも虚ろだった。

 心配した囚人の一人が声をかける。


「キ、キングさん。何があったんですかい?」

「いや…… 何もない。ただちょっとだけ磔にされてただけだ。だがそれも、新入りがメイリンの鞭打ちに耐えたことで解放された」


 その言葉に、囚人達がどよめく。


「あ、あのメイリンの鞭打ちに、耐えた?」

「そんな奴がいるのかよ……」

「す、すげぇ。そ、それでこの傷か……」


 囚人達は、痛ましい姿になったハルトを見て、皆一様に顔を歪めた。

 そうなった過程を想像し、痛みを共感したのだろう。

 その視線の先にいるハルトは、ボロボロになった胸元から、赤黒く腫れ上がった傷が複数見える。

 そして下半身には、まるで棍棒のように先端が膨らんだジュニアが…… その変わり果てた姿を主張していた。


 今のハルトには、それを隠す余裕など残されていなかった。

 恥じらいという感情を、きっと何処かに忘れてきてしまったに違いない。

 精神状態も、既に燃え滓の状態ではあったが……

 キングがハルトの背を優しく押しながら、上階にいる誰かへ声をかける。


「おい! ララ! 傷薬持って来い!」

「チッ、煩いですの。わたしに命令するなかしら」


 大男に担がれた子供が、最上階から梯子を伝い下に降りてくる。

 ハルトの目の前で大男から降りたその子供は、ぶすっとしながらも、その小さい手に小瓶を持っていた。

 目はくりくりとしていて大きく、ボブに切り揃えた髪を、後ろでちょこんと束ねている。見た目からして少女だろう。


「これしかないですの。それをこんな男に使うのは勿体無いかしら。わたしが怪我したときまで取っておき……」

「あー分かった分かった。貸せ。ったく。相変わらずよく口が回るなぁララは」


 ララと呼ばれた少女から小瓶を奪い取ると、その栓を取り、もう片方の掌へその中身を出した。


「ちと痛むだろうが…… まぁお前なら大丈夫か。耐えろよ」


 そう言うと、ハルトの腫れた息子へと塗りたくった。

 その行為を見た周りの囚人達とララの顔が歪む。

 囚人達のそれは、下半身の痛みを共感したからだろう。

 中には内股気味になって自身の息子を守ろうとした囚人さえいた。

 だが、ララは純粋に、男が男のそれを触っている行為に対しての嫌悪感だった。


「男同士で気持ち悪いですの。キングにはそういう性癖もあったかしら」

「はいはい。言ってろ言ってろ。そんなこと気にしてられないくらいの一大事なんだよ。男にとってはな」


 そのキングの言葉に、周りの囚人がうんうんと頷いている。

 ハルトはと言うと、赤紫に腫れた息子に触れられた瞬間は、何も反応を示さなかった様に思えたが、その黒目はゆっくりと上昇し、瞼の中へと消えてしまっていた。

 刺激が強過ぎたあまり、身体が反応するよりも先に、意識が飛んだのである。

 世界が再び暗転し、ハルトは夢の世界へと旅立つ。

 倒れそうになるハルトを他の囚人達が支える。

 そんなハルトを見ながら、キングは数時間前の出来事を振り返っていた。


 ――ハルトとメイリンが共に意識を飛ばしたあの後、どうなったのか。


 アンモニア臭の漂う磔房にて、先に目を覚ましたのはメイリンの方であった。

 虚ろな表情でゆっくりと立ち上がると、少し猫背になる形でピタリと止まる。

 そこから暫くその状態が続く。

 キングがその重い沈黙に耐え兼ねて言葉をかけようとしたその時――


「う、うぇーん、うわぁーん……」


 メイリンが泣いた。


 そのあり得ない光景に、今度はキングが、その眼球が飛び出さんばかりに目を見開いた。

 すんすんと啜り泣くメイリン。

 濡れた両手の甲で目をこすりながら、時よりうぇーんと声に出して泣いている。

 最初は演技かと錯覚したキングも、メイリンの頬を伝う涙を見て、メイリンが本当に泣いているのだと理解した。

 あの歳でうぇーんと泣く奴がいるのか、だとか、あの頬を伝っている水は、ハルトの尿じゃなくて涙だよな? とか、要らぬ疑問が次々に湧いてくるが、声に出すほどキングは愚かではなかった。

 ハルトは依然として意識を飛ばしたままである。

 この状況がいつまで続くのかと、その胸の内でどんどん大きくなる不安に耐え切れず、キングが再び声をかけようとする。

 だが、またもや突然訪れたメイリンに変化に遮られた。


「許さない許さない許さない許さない……」


 泣くのを止め、その両手をだらんと下げたメイリン。

 その目はハルトを見据え、口では同じ単語をぶつぶつと繰り返し繰り返し唱えている。

 その発言に顔を青くするキング。


「ま、待て! 早まるな!」


 咄嗟に声を出してしまう。

 キングの言葉に、メイリンがゆっくりと、その首がギギギと音を出しているかのように小刻みに揺れながら、首だけでキングの方へと向いた。

 メイリンの目を見て息を呑むキング。

 声をかけたことを後悔した瞬間でもあった。

 なぜ俺が、何の縁もない新入りのためにここまで危険を犯さないといけねぇーんだ! とも思った。

 キングを震えさせるほどの闇が、その瞳には存在していたのだ。


「口外したら…… 貴様を殺す…… 貴様の息子を…… 噛みちぎって殺してやる……」


 磔台がギシギシと揺れるほどに、ブンブンと横に首を振るキング。

 その顔は人族房最強と言われる肩書きなど一切感じさせない、まるで幼子が鬼やお化けに怯えるかのような表情であった。

 再びメイリンがハルトへと向き直る。

 そして……


「う、うう…… うぇーん……」


 再び泣いた。

 泣きながら磔房を後にするメイリン。

 その声は、磔房の入口の扉が閉まった後も響いてきていた。



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