異世界でマンション経営 - 異世界だろうと金が物を言うことに変わりはない -

霧谷霧夜

対談

 昨日クラウに聞いた話だが、メーレルはクラウ――つまり、もっとも王の位に近い人物が存在するため、王都と呼ばれているらしい。どの国にも言えることらしいのだが、周りを高い壁に囲まれているのが王都の特徴で、この壁が民の安全と安心を確保しているのだそうだ。
 高い身分を持ち、常に安全な生活を送り大した危険に遭ったことのない人間ほど、自分の思い通りにならないことがあるということを知らない。――そして、目の前の扉の中で俺たちを待ち受けているのは、そんな中でもトップの人間だ。
 王族――つまりは、最高クラスの権力者なら、当然国民の前で常に善人のフリをしなければならない。
 裏表のない人間なんて1人もいないかもしれない。だが、裏と表の差が激しい場合、それは脅威になる。裏表のがあるということは、イコールそれだけ自分の感情を抑えられるということである。対談においてそんな人間ほど厄介な相手はいない。
 ひょうひょうとした態度をとっているが、内心ではかなりビビっている。

「ロトスは、部屋の外で待ってて」

「分かりました」

 かなりビビっている俺に気づいていないと思われるクラウが、ノックもせずに応接室のドアを開けた。
 同じ建物内なのだから、温度が変わるはずはないが、それでも部屋に入った途端にわずかな冷気を感じた。恐らく、俺の心理的状態が原因の錯覚だろう。

 茶色いカーペットが敷かれ、長机とソファーが配置されているシンプルだが、面積は広い応接室だ。壁には、見たことのない綺麗な絵が飾ってあった。
 応接室の中で俺たちを待っていたのは、俺の予想に反し、この野郎と思いたくなるような――というか実際に思った――整った顔立ちの男だった。
 身長は170は越えているだろう。小柄な俺からしたら羨ましい限りだ。鼻は高く、あごのラインは女子のように細い。髪色は金色で短髪。そして、肌の色は白いせいで、爽やかな見た目だ。

「やぁ、初めまして。スクルージって言います。よろしく」

 正面に立つ俺に対して爽やかな微笑みを浮かべながら手を差し出してくるスクルージ。
 ……何こいつ、見た目だけじゃなくて中身までリア充なの? さぞかしモテるんでしょうね。爆破しろ。

「た、タクマだ。よろしく」

 クソッ。俺の意識に逆らって、反射的に俺も笑顔を浮かべて挨拶しちまったじゃねーか。
 だが、目の前の憎たらしい爽やか男の手を握る前にふと我に返り、手を引っ込める。
 ……スクルージは、笑顔を崩さずに俺の手を見つめている。恐らく、握手を阻まれたことはないのだろう。
 ヘッ、屈辱を味わうが良い。そう思いながら、差し出されたままの手を叩く。
 スクルージは、不思議そうに叩かれた自身の手を眺めている。初体験だったのだろうか。いいざまだ。

「タクマ……」

 隣に立っているクラウが俺の耳元で小さい声で囁きかけてくる。

「そんなに失礼なことすると殺されちゃうよ」

 ……マジかよ。
 目の前に現れたリア充っぽいイケメンにケチつけるだけで殺されるとかどんなに物騒な世の中なんだよ……。

「ところで、君は一体何者なんだい?」

 俺たちのやりとりに気づいていない様子のスクルージが問いかける。まぁ、当然の質問か。

「俺? 俺は、クラウの彼氏だけど……痛ッ」

 クラウが、俺の右すねを軽く蹴ってきた。軽くでもこんなに痛い。さすが、弁慶の泣き所と言われるだけある。

「仲良さそうだし、クラウディアさんの友達ってことでいいのかな?」

 にっこりと笑いながらスクルージが言う。
 ――なるほど、これがラノベとかでたまに見るリア充スマイルか。男子相手には効果ないけど。

「まぁ、そんなとこじゃねーの?」

「まぁ、そんなところ……かな?」

 俺とクラウの声がかぶる。
 さほど重要でもないかもしれないが、お互いの関係について問われたのに、二人揃って疑問形で答えるというのはなかなか滑稽だ。関係の浅さを表しているのかもしれない。

「ま、まぁ、別に気にすることでもないね」

 互いの関係を断定できない俺たち二人に気を使ってくれたのか、話題を打ち切ってくれた。……ちなみに、笑顔を絶やしていない。

「立ち話もなんだし、そこにでも座って。ほら、タクマも座りな」

 スクルージを少し離れた椅子に座らせ、俺とクラウは扉に近い位置の椅子に座る。
 今までに聞いたことのないような声だった。クラウの口から発せられているのだから、クラウの声なのだろうが、今までのクラウとは違う。俺の知っているクラウは、一人の少女だ。だが、今のクラウが身に纏っている雰囲気からは少女らしさは感じられない。
 クラウらしくない。いや、この言い方ではクラウに失礼だ。出会って僅かの相手のことを知っているかのようなフレーズだ。分かりきっているようなことを言うのは傲慢でしかない。
 俺みたいなただの一般人には、よく分からないが、これがクラウの私ではなく公としての顔なのだろう。
 ていうか、話が堅苦しい内容になる前にここから逃げたい。

「えーと、俺はここにいていいのか?」

「くーどーいー!」

「僕は別に気にしないよ」

 クラウには文句を言われ、スクルージには許容されてしまった。正攻法では無理か……。
 なら――、

「ウグッ、きゅ、急に腹が……。す、済まないが、トイレに行ってもいいか……?」

 両手で腹を抑え、両膝を床についてうずくまる。
 これなら、どうだ?

「不自然にも程があるよ。私はタクマをそんな嘘をつくような子に育てたつもりはありません!」

 俺はクラウに育てられたつもりはありません!
 だがまぁ、逃げ道はもう塞がれたようだ……。

「つーか、俺ここにいて何すればいいの? 何も聞いてないから、打ち合わせなしで話し合わせろとかそういう無茶振りやめてくれよな」

 クラウの顔を恨めしそうに見ながら言う。
 スクルージは相変わらずにこにこ笑っていて気味が悪い。クラウが俺に何をさせたいのかも分からない。今から何が始まるのかさえよく分からないというのに、こんな空間には居たくない。

「タクマの出番はまだだから、ちょっと待っててね」

 ……やっぱり、出番あるんですね。

「つーか、そんなことをスクルージの目の前で言っていいのか? 敵だぞ、コイツ」

「敵だなんて悲しいこと言わないでほしいな」

 相変わらず笑顔を崩さずにスクルージが文句……なのかは分からないが、口を挟んできた。

「それにさ、別に今さら君に出番があるって分かっても僕には何も出来ないしさ。もっと仲良くフレンドリーにやろうよ」

 うへぇー、さすがにここまで爽やか系リア充キャラを貫かれると、鳥肌が立つわー。
 ふと、クラウの方を見ると、クラウは顔をしかめていた。あからさまに表情に出すとは失礼なヤツめ。

「タクマ、話の腰折りすぎだよ。話が全然進まないー」

 プクーっと頬を膨らませて反論してくるクラウ。さっきまでしかめていたのに、すぐに表情を変えやがった。
 てか、俺悪者扱いかよ……。

「もう進まないから勝手に無理やり進めるね。――結論だけ言わせてもらうけど、私はあなたと結婚する気なんて砂粒ほどにも無いからね。はい、話おしまい。もう帰って」

 oh......。さすがに、ここまで拒絶されるとスクルージにも同情してしまわなくもない。だが、悪い気分ではない。むしろ、清々しくまである。

「うーん、でも君と結婚しないと僕も困るんだけどなぁ。なんでそんなに拒絶するんだい? 今の世の中、下級貴族ですら政略結婚を行っているんだから、我々が政略結婚をするのなんて当たり前じゃないか。これも、国民のためなんだ」

 おーおー、やけに積極的だなー。そんなことを考えながら、部外者ヅラして眺めていると、

「私、タクマと結婚するもん!」

 ……は? 急に俺の名前が出てきたと思えば、俺と結婚だァ?

「ちょい待ち! 俺の意思、尊重、大事!」

 思わず単語になってしまったが、俺の意思を尊重してくれよ……。出会って間もない人と結婚とか、有り得ないだろ。

「なるほど、君たちはそういう関係だったのか……」

 スクルージは、笑顔のままだが、俺を見る目が明らかに変わっている。これは、品定めをする時の目だ。
 ……なるほど、俺の出番ってのはこういうことか。恐らくは、この場だけでも何とかして凌ぎ切ればいいんだろ。そういうことなら、凌ぎ切ってみせよう。

「や、さっき関係聞かれた時は照れくさくて言えなかったんだけど、今クラウが言った通りだ。お前はクラウのタイプじゃなかったってことで諦めてくれ。スマンな」

 スクルージの笑顔が崩れる。真剣な表情になっている。目線の冷たさは倍増ってところか。
 スクルージは立ち上がり、

「謝るのはこっちの方さ」

 そう言って、俺の目の前まで歩いてきた。
 ほう、謝ってくれるのか。
 俺の目の前に立つと、口を開いた。顔を笑顔に戻っている。相変わらず、不気味だ。

「二人の仲を裂くような真似をして悪かったね。でも、君がクラウディアさんとどんな約束をしたのかは詮索しないけど、君にクラウディアさんを守りきれるのかい?」

「守る? 何から?」

 言ってから気付いたが、あまりにも情けないな、これじゃあ。

「何からって、それは色々あるよ。政策が気に入らなかった国民や、単純に身代金目的で誘拐しようとする人間。他にも、クラウディアさんみたいな見た目をしてるとわいせつ行為をしたがる人間もいるかもね」

 なぁんだ、全部人間相手じゃないか。

「言っとくけど、別に俺にだってそれなりの体力はあるからな。それでも足りないんだったら、鍛えるから問題ねぇよ」

「なら、大丈夫なんだけどね」

 そう言って、スクルージは扉に向かった。

「帰るの? もう来ないでね」

 身も蓋もないとはこういう発言のことを言うのだろうか?

「また来ますよ」

 そう言うスクルージの顔に、一瞬だったが悲しみの表情が見えた。
 ――やっぱり、スクルージは政略結婚なんかより、普通にクラウのことが好きなんだろう。最後に俺にした質問は、クラウの身の安全を考えてしてきたのだろう。クラウを守り抜けないような人間には譲りたくなかったのだろう。
 そう思うと、クラウの態度はあまりにもやりすぎだったのではないだろうか。
 そう思い、扉の方に目をやると、スクルージの姿はもう見えなくなっていた。

「じゃあ、スクルージが帰ったことだし、私たちも部屋に戻ろ」

「あ、あぁ、そうだな」

 クラウには、冷たい態度がスクルージを傷つけることになると分かっていなかったのだろうか? それとも、分かっていて傷つけるためにあえてやったのだろうか? 人の内面を測ることなんて、俺にはできない。
 でも、それでも――。

「なぁ、クラウ」

「なぁに?」

 言わなければならないだろうか? スクルージは、間違いなくクラウの態度によって傷つけられた。
 妹が病死した後の俺の顔は酷いものだった。鏡で見るたびにため息を吐いた。今となっては、もうそのことを隠せられるようになったが。
 人間に裏表があること自体は別に悪いことではない。人を傷つけないようにするためには大切なことだ。

「タクマ、なんだか顔が怖いよ?」

 クラウが、そう言って、俺の背中に手を回して抱き着いてきた。

「急に何すんだよ、バカ」

「あー、バカって言っちゃいけないんだよー!」

 なんだか、考えていたことがどうでもいいことのように思えてきた。
 今俺の超至近距離にいる白い髪の少女の姿が、妹の姿に重なって見える。――元の世界のことを考えるのは、無駄なことだ。俺は死んだのだから。
 俺の今の命がどうなっているのかは知らない。このまま老人になるまで生きることが出来るのか、それとも神の慈悲で僅かな幸せの時を与えられているのか。

「クラウ、後で相談がある」

 クラウを体から離して言う。
 俺のことについて、クラウに打ち明けてみよう。
 もしかしたら、この世界は死者が集う世界なのかもしれない。さすがに、記憶喪失を貫き通したままこの世界について知ることは出来ないはずだ。誰か一人でもいいから、俺のことを知っている人が欲しい。

「うん、いいよ。とりあえず、部屋行こ?」

「だな」

 クラウの後ろを歩き、応接室を後にした。

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