異世界でマンション経営 - 異世界だろうと金が物を言うことに変わりはない -
冥王
「あのさぁ、なんで俺の手首こんなに鎖でぐるぐる巻きにされてんの?」
「さて、『冥王』がこの街に何のようなのか話してもらおうか?」
目の前の男が、俺の質問を無視して言った。薄暗いこじんまりとしたかび臭い部屋の中で、俺と衛士長らしい男の声が響く。
……クソッ。なんなんだよ、一体。
手首は鎖で壁と繋がってぐるぐる巻きにされている。動かそうとすると、ジャッという音とともに手首に鈍い痛みが走る。
「答える気は無いってことか。じゃあ、プルートさんよぉ、俺と一つ取り引きをしないか?」
「はぁ? 取り引きってなんだよ。それに乗ったら、この鎖どもを解いてくれるのか?」
「あぁ、それは約束しよう。当然、貴様がプルートであることは黙秘しておくつもりだ」
「へぇ? そりゃ随分気前がいいことだなぁ。で? 俺は何をしたらいいんだ?」
「決まってるだろ? これだよ、これ」
そう言いながら、親指と人差し指で輪っかを作って俺に見せた。
なるほどね、この世界の人間も元の世界の人間とほとんど一緒じゃねえか。
それに、どうせいくら俺が人間だと叫んだところで、信じてもらえないだろう。だったら、早々に相手に従うのがベストだろう。
「分かったよ、乗ってやる。だがまぁ、俺は見ての通り一文無しだ。という訳で、金を稼ぐために武器を手配してくれると助かる」
「あぁ、分かった。武器の種類の要望は?」
「とにかく、使いやすさ重視で頼む」
「では、片手剣を渡すから、しばらくここで待っていろ」
「仕事は夜から始めるから、それまでは自由にさせてもらうからな」
先ほど聞いたばかりの俺の能力を最大限に生かすためには、夜でなければならない。
「分かっている。一時間もあれば戻ってくるから、この部屋から出るんじゃないぞ」
「へいへい」
――さて、なぜこんなことになったのかと言うと、それは一時間くらい前にまで話を遡らなければならない。
「ようこそ、クラウ様。今日はどのような御用でしょうか?」
教会の中(中身も普通の民家っぽい)に足を踏み入れた俺たちを出迎えたのは、金髪ポニテの清潔そうな女性だった。20歳くらいだろうか。
「もう、その様ってのと喋り方は止めてって言ってるのに……」
クラウが少し顔をしかめながら言った。
「いえいえ、クラウ様に対してタメ口なんてとんでもないです。なんせクラウ様は――」
「あーあーあー! それより、今日はこの人の適性能力について調べてもらいたくて来たの。この人はタクマって言って、記憶を失っちゃってるの。あ、タクマ、この人はこの教会の司祭のシーナだよ」
「初めまして、タクマ様。この教会の司祭をやってますシーナ・フラストです。どうぞよろしくお願いします」
「あ、ども、こちらこそよろしくお願いします」
あからさまにシーナさんの言葉を遮ろうと大声を出しながら、話題を逸らした。
クラウが一体何なのだろうか?
「今日は、タクマ様の適性診断ということでよろしいのですね?」
「はい、よろしくお願いします」
「では、準備があるので、少々お待ちください」
そう言って、奥の部屋に入っていってしまった。
シーナさんの姿が見えなくなってから、
「なぁ、さっきなんで必死にシーナさんの言葉を遮ろうとしたんだ?」
先程から気になっていたことを聞いてみた。
「何でもないから、タクマは気にしなくてもいいよ。また、いつか、話せる時が来たら話すから」
そう言われてしまっては、これ以上は言及できまい。
「ところでさ、タクマは適性診断やったことある?」
「いや、生まれてから一度もないよ……と思う」
「じゃあさ、どんなことやるかだけは一応説明しとくね。まず……」
クラウの説明をまとめると、触れたものによって色が変わる性質を持つ白い花の成分を抽出した柔らかい紙を口に入れ、唾液を付着させた後にそれを燃やすことでどのような系統の魔法が向いているのかが分かるらしい。
赤く燃えたら炎、青く燃えたら水、緑色に燃えたら自然、黄色に燃えたら光、紫色に燃えたら闇、というように、色で判断するとのことだ。
そして、それを見た後に司祭が魔法を使い、さらに詳細を確認する――という流れだそうだ。
炎色反応のような感じなのだろうか? まあ、実際にやってみてのお楽しみということにしておこう。
「お待たせしました。では、これを口に入れて唾液を充分に付着させてから、この小皿の上に出してください」
奥の扉から戻ってきたシーナさんが、そう言った。
さっきまでは何も持っていなかったが、今はお盆を持っている。お盆の上には、ティッシュのような物と小皿と箸が乗っていた。
そのうちの、小皿とティッシュを俺に手渡してきた。
言われた通りに口に入れ、唾液を絡ませてから小皿の上にペッと出す。
「こんな感じでいいっすか?」
「はい、では見ていてください」
そう言ってから、お盆に残っていた箸で俺の出したティッシュをつまみ上げ、
「燃えなさい」
と、とても小さな声で呟いた。
声は小さかったが、起こった変化は大きかった。――シーナさんの命令通りに、ティッシュが突然パチパチッという音を立てながら発火したのだ。
「これ……は……?」
「あぁ、そういえば、タクマは魔法に関する記憶さえも無くなってたんだよね。これが、炎属性の魔法だよ」
驚きのあまり、口からこぼれてしまった声に対して、クラウが返事をした。
なるほど、これが魔法なのか。物体を自然発火させることが出来るとは、使いようによっては恐ろしいことも出来る。
「いやー、相変わらずシーナの炎は見事だねー」
「褒めていただけて、恐縮です」
俺の内心の恐れにも気が付かずに、呑気に会話をするクラウ。この世界では、魔法は当たり前の存在なのかもしれないが、それで問題が起こったりはしないのだろうか?
――例えば、今シーナさんが使っている魔法を使いさえすれば、身元不明の放火事件だって容易に起こすことが出来るのだ……。
これからの異世界生活に対して不安を感じていると、そんな俺の不安を映し出したかのように、ティッシュの炎が徐々に暗い色に変わっていき、そして、完全な黒になった。
黒い炎は何系統の魔法の適性なのだろうか……。さっきのクラウの説明には、黒い炎に対する説明はなかった。
「あの、これは何に対する適性を表しているんですか?」
「く……黒い炎は、何にも適していないことを示す物です。し、しかし、魔法に適性のない人間なんて、この世界には…………」
話しているうちに、シーナさんの顔が青白くなっていった。青白くなった顔で、俺の目をじっと見つめてから、フラリとよろけ、壁に手を当てて体勢を整えてから、
「少し、出かけてくるのでそこでしばらく待っていてください」
と、まるでなにかに怯えているかのように、唇を震わせながら言い、外に出て行ってしまった。
「どうしたんだろうな、シーナさん?」
「さあ? それより、タクマ、残念だったね。魔法に対する適性無いってね」
「ホントに残念だ。それに、シーナさん変なこと言ってなかったか? この世界には魔法に適性がない人はいないとかって」
「うん、この世界にはみんな何らかの適性は持っているはずだよ。なのに、タクマは持っていなかった。実はタクマは遠いどこかから来た私たちとは別の生命体だったりして……なんてね」
……ギクッ。
「そんなわけないだろ。君は小説家にでもなったらどうだ?」
とりあえず、推理小説の犯人っぽいセリフを吐いて、その場を乗り越えてみたりー。
「なぁ、俺って一生魔法使えないのかなぁ……」
「それは大丈夫だよ。適性があると効果が増強されるってだけで、別に適正なくても使えるには使えるよ」
よかったよかった。
「ところで、クラウの適性は何なんだ?」
「私は、自然を操る魔法にちょこっとだけ適性があるよ」
そうだったんだ。俺が適性を持っていないのは、この世界の住人ではないからであって、他の人にはちゃんとした適性があるのかと思っていた。
そう思うと、クラウも少し不幸な人間なのかもしれない。
「でもね、私はそれでもいいんだ。だって私には……」
「そこの男ッ! 手を挙げて動くんじゃないッ!!」
クラウの言葉は、急に割り込んできた言葉に遮られた。
誰だ?
「あの男がこの街に潜り込んだ『冥王』で間違いないですか?」
「はい、彼の中身を見たら『冥王』と同じ能力が……!」
……え? シーナ……さん?
ふと我に返り、声の主の方に手を挙げたまま顔を向けると、シーナさんの隣には丈夫そうな金属製の鎧を着て、腰に帯剣をしている焦げ茶色い短髪の男がいた。
「あ、あの、タクマがどうかしたんですか?」
クラウが少し怯えながら、鎧男に声をかけた。俺に手を挙げたままにさせている男に。
だが、クラウの疑問に答えたのはシーナさんだった。
「さっき、彼に適性が無いという結果が出ましたよね? ただ、普通の人間には適性がないなんてことは有り得ません」
「それはそうだけど、タクマは記憶喪失だし、少しくらい他の人と少しくらい違ってても別に……」
「私も、初めはそう思いました。ただ、彼の中身を閲覧してみたんです。そしたら……」
中身の閲覧とはなんだろうか?
「彼には、二つの能力があります。一つは、『夜間無限自動回復』ともう一つは、『夜間能力超化』」
中身とはステータスの事のようだった。
「うわぉ、俺めっちゃ強いじゃん」
こりゃあ、俺の異世界チート無双来ちゃったんじゃねぇの? これからが楽しみになってきたぜ。
「……タクマ、『冥王』だったの?」
クラウまで、変なことを言い出した。
「なぁ、さっきから言ってる『冥王』ってなんなんだ?」
「とぼけるなッ! どれだけ誤魔化そうと、その能力が貴様が『冥王』であることの証拠なんだからな!」
聞く耳持たずとは、まさにこのことだ。
……まったく、『冥王』って何なんだよ。
「強制連行させてもらおう」
「どこに?」
「ここの地下室にだ」
この男とシーナさんの話によると、どうやら、この教会(笑)の地下にはちょっとした小部屋があり、たまに人を閉じ込めておくのに使われるらしい。
「三食昼寝付きの条件でいいんなら従ってやるぜ?」
「その程度、お安い御用だ」
限りなく不本意でしかないが、一応異世界での生活に目処がついた。退屈この上ないが、さすがに一生解放されずに閉じ込められたままということもないだろうしな。
というような流れで、俺は部屋に閉じ込められている今日このごろであった。
三食昼寝付きという条件を了承してくれたのはいいが、手首ぐるぐる巻きというのは頂けない。
一刻も早く、ここから逃げ出さなければならない。
「ほら、持ってきてやったぞ」
部屋に戻ってきた男が、そう言いながら地味な見た目の片手剣を雑に放り投げてきた。
「さて、『冥王』がこの街に何のようなのか話してもらおうか?」
目の前の男が、俺の質問を無視して言った。薄暗いこじんまりとしたかび臭い部屋の中で、俺と衛士長らしい男の声が響く。
……クソッ。なんなんだよ、一体。
手首は鎖で壁と繋がってぐるぐる巻きにされている。動かそうとすると、ジャッという音とともに手首に鈍い痛みが走る。
「答える気は無いってことか。じゃあ、プルートさんよぉ、俺と一つ取り引きをしないか?」
「はぁ? 取り引きってなんだよ。それに乗ったら、この鎖どもを解いてくれるのか?」
「あぁ、それは約束しよう。当然、貴様がプルートであることは黙秘しておくつもりだ」
「へぇ? そりゃ随分気前がいいことだなぁ。で? 俺は何をしたらいいんだ?」
「決まってるだろ? これだよ、これ」
そう言いながら、親指と人差し指で輪っかを作って俺に見せた。
なるほどね、この世界の人間も元の世界の人間とほとんど一緒じゃねえか。
それに、どうせいくら俺が人間だと叫んだところで、信じてもらえないだろう。だったら、早々に相手に従うのがベストだろう。
「分かったよ、乗ってやる。だがまぁ、俺は見ての通り一文無しだ。という訳で、金を稼ぐために武器を手配してくれると助かる」
「あぁ、分かった。武器の種類の要望は?」
「とにかく、使いやすさ重視で頼む」
「では、片手剣を渡すから、しばらくここで待っていろ」
「仕事は夜から始めるから、それまでは自由にさせてもらうからな」
先ほど聞いたばかりの俺の能力を最大限に生かすためには、夜でなければならない。
「分かっている。一時間もあれば戻ってくるから、この部屋から出るんじゃないぞ」
「へいへい」
――さて、なぜこんなことになったのかと言うと、それは一時間くらい前にまで話を遡らなければならない。
「ようこそ、クラウ様。今日はどのような御用でしょうか?」
教会の中(中身も普通の民家っぽい)に足を踏み入れた俺たちを出迎えたのは、金髪ポニテの清潔そうな女性だった。20歳くらいだろうか。
「もう、その様ってのと喋り方は止めてって言ってるのに……」
クラウが少し顔をしかめながら言った。
「いえいえ、クラウ様に対してタメ口なんてとんでもないです。なんせクラウ様は――」
「あーあーあー! それより、今日はこの人の適性能力について調べてもらいたくて来たの。この人はタクマって言って、記憶を失っちゃってるの。あ、タクマ、この人はこの教会の司祭のシーナだよ」
「初めまして、タクマ様。この教会の司祭をやってますシーナ・フラストです。どうぞよろしくお願いします」
「あ、ども、こちらこそよろしくお願いします」
あからさまにシーナさんの言葉を遮ろうと大声を出しながら、話題を逸らした。
クラウが一体何なのだろうか?
「今日は、タクマ様の適性診断ということでよろしいのですね?」
「はい、よろしくお願いします」
「では、準備があるので、少々お待ちください」
そう言って、奥の部屋に入っていってしまった。
シーナさんの姿が見えなくなってから、
「なぁ、さっきなんで必死にシーナさんの言葉を遮ろうとしたんだ?」
先程から気になっていたことを聞いてみた。
「何でもないから、タクマは気にしなくてもいいよ。また、いつか、話せる時が来たら話すから」
そう言われてしまっては、これ以上は言及できまい。
「ところでさ、タクマは適性診断やったことある?」
「いや、生まれてから一度もないよ……と思う」
「じゃあさ、どんなことやるかだけは一応説明しとくね。まず……」
クラウの説明をまとめると、触れたものによって色が変わる性質を持つ白い花の成分を抽出した柔らかい紙を口に入れ、唾液を付着させた後にそれを燃やすことでどのような系統の魔法が向いているのかが分かるらしい。
赤く燃えたら炎、青く燃えたら水、緑色に燃えたら自然、黄色に燃えたら光、紫色に燃えたら闇、というように、色で判断するとのことだ。
そして、それを見た後に司祭が魔法を使い、さらに詳細を確認する――という流れだそうだ。
炎色反応のような感じなのだろうか? まあ、実際にやってみてのお楽しみということにしておこう。
「お待たせしました。では、これを口に入れて唾液を充分に付着させてから、この小皿の上に出してください」
奥の扉から戻ってきたシーナさんが、そう言った。
さっきまでは何も持っていなかったが、今はお盆を持っている。お盆の上には、ティッシュのような物と小皿と箸が乗っていた。
そのうちの、小皿とティッシュを俺に手渡してきた。
言われた通りに口に入れ、唾液を絡ませてから小皿の上にペッと出す。
「こんな感じでいいっすか?」
「はい、では見ていてください」
そう言ってから、お盆に残っていた箸で俺の出したティッシュをつまみ上げ、
「燃えなさい」
と、とても小さな声で呟いた。
声は小さかったが、起こった変化は大きかった。――シーナさんの命令通りに、ティッシュが突然パチパチッという音を立てながら発火したのだ。
「これ……は……?」
「あぁ、そういえば、タクマは魔法に関する記憶さえも無くなってたんだよね。これが、炎属性の魔法だよ」
驚きのあまり、口からこぼれてしまった声に対して、クラウが返事をした。
なるほど、これが魔法なのか。物体を自然発火させることが出来るとは、使いようによっては恐ろしいことも出来る。
「いやー、相変わらずシーナの炎は見事だねー」
「褒めていただけて、恐縮です」
俺の内心の恐れにも気が付かずに、呑気に会話をするクラウ。この世界では、魔法は当たり前の存在なのかもしれないが、それで問題が起こったりはしないのだろうか?
――例えば、今シーナさんが使っている魔法を使いさえすれば、身元不明の放火事件だって容易に起こすことが出来るのだ……。
これからの異世界生活に対して不安を感じていると、そんな俺の不安を映し出したかのように、ティッシュの炎が徐々に暗い色に変わっていき、そして、完全な黒になった。
黒い炎は何系統の魔法の適性なのだろうか……。さっきのクラウの説明には、黒い炎に対する説明はなかった。
「あの、これは何に対する適性を表しているんですか?」
「く……黒い炎は、何にも適していないことを示す物です。し、しかし、魔法に適性のない人間なんて、この世界には…………」
話しているうちに、シーナさんの顔が青白くなっていった。青白くなった顔で、俺の目をじっと見つめてから、フラリとよろけ、壁に手を当てて体勢を整えてから、
「少し、出かけてくるのでそこでしばらく待っていてください」
と、まるでなにかに怯えているかのように、唇を震わせながら言い、外に出て行ってしまった。
「どうしたんだろうな、シーナさん?」
「さあ? それより、タクマ、残念だったね。魔法に対する適性無いってね」
「ホントに残念だ。それに、シーナさん変なこと言ってなかったか? この世界には魔法に適性がない人はいないとかって」
「うん、この世界にはみんな何らかの適性は持っているはずだよ。なのに、タクマは持っていなかった。実はタクマは遠いどこかから来た私たちとは別の生命体だったりして……なんてね」
……ギクッ。
「そんなわけないだろ。君は小説家にでもなったらどうだ?」
とりあえず、推理小説の犯人っぽいセリフを吐いて、その場を乗り越えてみたりー。
「なぁ、俺って一生魔法使えないのかなぁ……」
「それは大丈夫だよ。適性があると効果が増強されるってだけで、別に適正なくても使えるには使えるよ」
よかったよかった。
「ところで、クラウの適性は何なんだ?」
「私は、自然を操る魔法にちょこっとだけ適性があるよ」
そうだったんだ。俺が適性を持っていないのは、この世界の住人ではないからであって、他の人にはちゃんとした適性があるのかと思っていた。
そう思うと、クラウも少し不幸な人間なのかもしれない。
「でもね、私はそれでもいいんだ。だって私には……」
「そこの男ッ! 手を挙げて動くんじゃないッ!!」
クラウの言葉は、急に割り込んできた言葉に遮られた。
誰だ?
「あの男がこの街に潜り込んだ『冥王』で間違いないですか?」
「はい、彼の中身を見たら『冥王』と同じ能力が……!」
……え? シーナ……さん?
ふと我に返り、声の主の方に手を挙げたまま顔を向けると、シーナさんの隣には丈夫そうな金属製の鎧を着て、腰に帯剣をしている焦げ茶色い短髪の男がいた。
「あ、あの、タクマがどうかしたんですか?」
クラウが少し怯えながら、鎧男に声をかけた。俺に手を挙げたままにさせている男に。
だが、クラウの疑問に答えたのはシーナさんだった。
「さっき、彼に適性が無いという結果が出ましたよね? ただ、普通の人間には適性がないなんてことは有り得ません」
「それはそうだけど、タクマは記憶喪失だし、少しくらい他の人と少しくらい違ってても別に……」
「私も、初めはそう思いました。ただ、彼の中身を閲覧してみたんです。そしたら……」
中身の閲覧とはなんだろうか?
「彼には、二つの能力があります。一つは、『夜間無限自動回復』ともう一つは、『夜間能力超化』」
中身とはステータスの事のようだった。
「うわぉ、俺めっちゃ強いじゃん」
こりゃあ、俺の異世界チート無双来ちゃったんじゃねぇの? これからが楽しみになってきたぜ。
「……タクマ、『冥王』だったの?」
クラウまで、変なことを言い出した。
「なぁ、さっきから言ってる『冥王』ってなんなんだ?」
「とぼけるなッ! どれだけ誤魔化そうと、その能力が貴様が『冥王』であることの証拠なんだからな!」
聞く耳持たずとは、まさにこのことだ。
……まったく、『冥王』って何なんだよ。
「強制連行させてもらおう」
「どこに?」
「ここの地下室にだ」
この男とシーナさんの話によると、どうやら、この教会(笑)の地下にはちょっとした小部屋があり、たまに人を閉じ込めておくのに使われるらしい。
「三食昼寝付きの条件でいいんなら従ってやるぜ?」
「その程度、お安い御用だ」
限りなく不本意でしかないが、一応異世界での生活に目処がついた。退屈この上ないが、さすがに一生解放されずに閉じ込められたままということもないだろうしな。
というような流れで、俺は部屋に閉じ込められている今日このごろであった。
三食昼寝付きという条件を了承してくれたのはいいが、手首ぐるぐる巻きというのは頂けない。
一刻も早く、ここから逃げ出さなければならない。
「ほら、持ってきてやったぞ」
部屋に戻ってきた男が、そう言いながら地味な見た目の片手剣を雑に放り投げてきた。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
93
-
-
23252
-
-
104
-
-
4112
-
-
125
-
-
1
-
-
147
-
-
111
-
-
0
コメント