一般人に魔王をしろと言われても

百舌@

1-17.ハイテクオーブ

これ掛かるかな。
とりあえず、なんか問題無さそうではあるが。

遮音状態にはしているけど携帯の音が普通に鳴るのはちょっとビックリするな…。

あ、繋がった。いったい誰が出てくるやら。

「……おや、本当に繋がっておったのか。主殿、そちらの様子はどうじゃ?」

10コールくらいだろうか。さすがになにかの間違いだと切ろうと思ったところで電話が取られる音がした。

息を呑んで誰が出てくるのか期待したが思っていたよりも掛けてきたのは見知った相手だったようで。

「主殿よ、聞こえておるのか?」

「あー、すまんすまん。まさか電話掛けてくるなんて思わなくて、」

「レーラから水晶にはこういう使い方も出来ると聞いての。試しにと思ってやってみたんじゃが先程は掛からんかったんじゃがな。」

声からしてミズホが掛けて来たらしい。
あの水晶、色々連動出来るとは話は聞いていたがトランシーバーみたいな事も出来るんだな。

じゃあ他の番号には掛からないって事になるのかどうか後で試してみるか。

「さっきまでこっちの電源は切ってからそれでじゃないか?」
「なるほどのぅ。ではいつでもと言うわけにはいかんのか。」

一応念のため電話切っといて正解だったっぽいな。
もし付けてたら最悪、人前で電話が掛かってきてたって事か。

「まぁ、音が鳴るし人にバレるかも知れないからな。」
「相、分かった。ではこちら掛けることは極力止めることにしておくとする。」

思っていたよりも淡々としているように聞こえるけどアイツは元からそんなに騒がしくもないか。
それよりなにか用事の一つでもあるんだろうか。

「それでミズホ、何か他に用があったりするのか?」
「いや、主が無事にしておるか確認したかっただけじゃ。」

なるほど、態度は冷たいがミズホって以外と心配性だな。

「じゃあ、こっちからいくつか聞きたい事があるんだがレーラはいるか?」
「はい、呼ばれましたか?」
「うわっ、いたのか。」

「もちろんです。こちらはオーブから通話しておりますので。魔王の間には普段からワタシかシーシェ、どちらかが常駐しております。」

唐突に声が聞こえてきて焦ったが普通に携帯を持っていないあっちが通話するならあのオーブか。
こっちと違ってスピーカーなら聞いてても不思議じゃないが、なんか自分のしてる話を垂れ流しにされてると聞くとなんか腹が立つな。
いや、誰かに八つ当たりすることもないんだが。
それよりも聞かなきゃいけない事があるんだった。

「それでシーラ、勇者ってのを知ってるか?」
「はい、存じております。冒険者の成り上がりですね、先代の魔王がいなくとも何度か撃退しているので特に報告も後ほど暇になってからと思っておりましたがどちらでお聞きに?」

どうやらシーラにとっては魔王がいなくても撃退出来る程度の少し強いだけの冒険者って認識らしい。
とは言え一応相談しておいて問題はないだろ。

「こっちに来たときに。なんでももしかしたらダンジョンの攻略を街側で依頼するかもってさ。」

「……その情報は誰から?」
「フタバ サクラって冒険者だ。」
「なるほど、であればその話の信憑性は高い。詳しい話は帰ってから行いましょう。アナタは無事に帰還する事をお考えください、場合によってはミズホをこちらから送ります。」

間を置いた後、元から低いシーラの声のトーンがさらに低くなり警戒心が高まっているのがわかる。
どうやら言っておいて正解だったようだ。

「撃退出来るんじゃなかったのか?」
「通常であれば、彼女が言うことが本当ならばそちらは警戒するに値します。」

サクラ言っていた勇者というのとシーラのいうものは違うっていうのはわかった。
だがシーラの口調だとまるでサクラを知っている風に聞こえるが。
ちょうどだしなにか聞いてみるか、サクラの事で聞けるといいんだが、

「なんか知ってる風だけどサクラの事について知ってたりするか?」
「はい、彼女は唯一ワタシ達のダンジョンを踏破しておりますので何度か戦闘を行っております。」

なんでそんなのが一階層にいたんだろうか、ってのは置いといて知ってるならもう少しなにか教えてもらえそうだが。

「それならアイツがどんなヤツなのか知ってたりするか?」
「冒険者としては非常に優秀かと、あちら側の戦士で彼女より厄介な相手は見たことありません。まぁ人としては…ただのお人好しですね、アレは。」

その割にまだ低レベルのミズホとどっこいどっこいだった気がするんだがサクラのあの状態がなんかあるって事か、それともアイツ自身疲弊してたかってのが妥当だけど数いるからってシーラが優秀なんていうヤツが低レベルの魔物相手にそんなに疲弊するんだろうか。
まぁ考えても仕方ないとして、やっぱお人好しなのかアイツは。
そうなると俺の気にしすぎなのだろうか。

「なるほど。シュウは現在もサクラと行動を共にしてるのですか?」
「今は別行動中だがまた明日合流する予定だけど、それが?」
「では、ミズホを送りますのでそれまで彼女の世話になっていてください。」

ミズホからなにか聞かされたのか小さく相槌が聞こえたが内容はだいたい想像はつくか。
それよりもヤケにレーラはサクラを買ってるな。
というか世話になっておいてアレなんだがアイツを信用するのは本当に恐い。

「なんというか、アイツってそんなに信用しても良いものなのか?」
「はい。と言っても納得はされないでしょうからせめて迎えを寄越すまでは彼女以外に頼ることがないようお願いします。」

サクラとシーラとの間で以前なにかあったのだろうか。
そこまで言わせるアイツはなんなんだろうか。
それに信用してないというのに頼るしかないってのも事実ではあるんだよな。

「……わかった。どのみちこの街にいる以上付き纏われるだろうし努力する。」

今すぐにでもダンジョンに帰ってもいいくらいだが街の外は外で俺一人でのこのこ歩いていたらただの餌でしかないのは自分でわかっている。

「徴」を使ってミズホを召喚するのは…、やめておくことにした。
理由はマナの残量である。
あっちに繋いでいたときはおかしなくらいにあったマナが今は精々ミズホの召喚一回程度の残量しかない。
数秒おきに微妙に増えているように見えるが全然心許ない。

ミズホを呼ぶ以上なにかあるような事はないだろうが、もしもを考えたい。

そういうわけで後一日は堪えることしよう。

「では、お気をつけを。」
「あぁ、それじゃあまた。」

……ふぅ、とりあえず恐くはあるがまだ世話になるようだ。
消音に変えていつでも使えるように携帯は付けたままにしておくか。

「とりあえず帰るか。」
「ねぇ、どうしたの?」
「うわぁっ?!! ってサクラか。ビックリした」

いつからそこにいたのか携帯をしまって帰ろうと振り返った先にサクラは立っていた。
確かさっきまではいなかったと思うんだが。

「ビックリしたはこっちの台詞だよ。具合悪そうにしてたからお薬持ってきて上げたのに部屋にいないんだもん。」

こちらは怪しんでばかりいるが薬袋を片手に俺がいなくなったことを怒るよりも心配する様子を見せるサクラは親切そのものである。
こういうのを見ているとなんだか自分が悪いのではないかと錯覚するがサクラは元から敵側である。

だが、信用しないにしても最低限こっちも応えた方がいい程度には手助けしてもらっているし街にいる間はシーラの助言通りにしようと思った。

「ちょっと、聞いてるのかな?ボクはひじょーに怒っているのです。」
「すまんすまん。ちょっと夜風に当たりたくて。」

わざとらしく腰に手を当て怒っている風にこちらを睨んでくるが見た目相応のかわいさしかない。
あの時のような見られているだけで不安になるような事もなく、彼女が体だけで怒っているのがよくわかる。
とは言え、心配させたというなら一応は謝っておこう。こういうのは長引かせるとめんどくさいだろうし。

「なら良いけど、もう少し気をつけてね?」
「そうする。じゃあ帰るか。」

機嫌を直すことはないにしろ、サクラは俺が頭を下げるの見て簡単に怒るのを止めてくれた辺りやはり形だけだったようだ。
ただ心配していたのは本当のようでやはりこちらの身を案じる姿にこちらも申し訳なくなってくる。

相槌を返し今日はもう大人しく部屋に帰ることにしよう。
路地から出た先、やはり自分とサクラ以外は誰もいない街を傍目に宿へと帰った。……

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