一般人に魔王をしろと言われても

百舌@

1-15.勇者について、

とりあえずせっかくの異世界初のギルド兼居酒屋ということでさっきシーシェの料理を食ったばかりだが食べなきゃ勿体無いし適当に頼んでみた。
奢りということで定番そうなステーキ、後は気になったオークシチュー。
そんなところだろうか、他は自分がいた所でも見たような魚介系の煮込み物や魚の塩焼きなんかだったためとりあえず今の所は後回し。

さて、待ってる間暇なのでと店内を見回して見ると店先で見るよりも大きく見える。
確かサクラから聞いた話だと定食屋と宿屋、仲介所全部一緒にしていると聞いていたが一階はギルドと定食屋、各所受け付けってとこだろうか。

上に行く人はほとんどいないからたぶん二階と三階は宿部屋になってるんだろうな。

店員さんや冒険者たちに活気もあるしなんだかこうやって見ると本当に異世界に来たんだなって自覚してしまう。

考えてもみれば元の世界での俺はどうなってるんだろうか。
まぁ、親なんか気付くの一ヶ月後とかだろうな。ほぼ放任というか帰っても来ねぇし……。
友達もまぁ心配するようないいヤツはいないな、うん。

あ、なんかスゴい悲しくなってきた。考えるの止めよ、二次元最高、異世界万歳。

それにしてもどうしたものかな、あのまま放置出来なかったとはいえ成り行きでこんな場所に来てしまったけど俺こっちの通貨とか持ってないんだよなぁ。
サクラはあぁ言っているが夜にでもサクラと分かれた後ダンジョンまで帰れば良いのだろうか。
ただあの様子だと一日二日はこっちにいることになりそうだな、なにかしら理由を付けて帰れれば良いんだけど、
まぁ、なるようになるか。

「はい、おまちどうさま。オークシチューとステーキだよ。」

と待ってる間に頼んでいたものが来たようだ。
んで、気になってたオークシチューだがどうみても見た目はビーフシチューだな。

味もほとんど似たような感じだな。
違うって言うと肉に若干独特の臭みがあるくらいだが、
羊とかとまた違うがこれはこれで美味しいかも。
味もほとんど牛みたいなもんだし。

ステーキはおもったよりも普通か。
まぁ奢りだからって美味そうなもの頼んだだけだしな。
強いて言うならあれか、なんとなく味的にシチューに使ってる肉とおんなじように感じるしちょっと鼻に来る感じもあるし、なんか香辛料とかで臭い消してるんだろうか。
ソースもいい感じに利いてるし定食屋らしく値段のもたぶんあんまり高くないし高級感なくて最高にジャンキーって感じで好感ある。

とりあえずあれだ、スゴくご飯も一緒に食べたくなってきた。
メニューにはそれっぽいもの無いしなぁ。
我慢してガーリックトーストでも頼むかな。
ソースと絡めて肉でも挟んで食えば美味そうだ。

「ただいまー。また遠慮なく美味しそうなもの頼んでるねぇ。」

そうこう考えている内に背後から声が降ってきた。
どうやらサクラの用事は終わって帰ってきたらしい。

「おかえり、奢りと言われると遠慮はしない主義なもんで。」
「うんうん、ボクも気にしないしジャンジャン頼んじゃって。あ、すいません。ボクにもこの子と同じものください!」

値段から見るに他と比べて高めのものではあったがサクラ自身気にしていないどころか同じものを頼んでいる辺りもしかしなくても小金持ちくらいにはお金持ってる人なんじゃないだろうか。

「すんません。それに追加でガーリックトーストも二人分お願いします。」
「おー、それを選ぶとはシュウくん通ぶるねぇ。」

通ぶるってなんだ。
これくらいなら元の世界なら普通だと思うがやはりその辺りは文化の違いって事だろうか。
ということはこっちで米を食べるなんて夢かも知れないな…。

「そんなこと無いって。……ところであっちでなんの話してたんだ?」

茶化す気満々のサクラの相手をする気もないのでとりあえず別の話題を振ることにした。
実際、なんの話をしたのかも気になるし。

「あーそれかぁ。さっきのダンジョンでの件、もうここの領主の耳に入っちゃってみたいでね。そこの息子がわざわざ来てて大変だったよ。」
「それってけっこう大事になってるってことか?」

出し渋るかと思ったが普通に話してくれる辺り別に言っても良いことなのだろうか。
この街の領主が関わってくるって言ってる以上けっこう大きな話だと思うんだけど、

「大事になるかはこれからだろうけど、問題はその息子さんがねー」

本当にあのダンジョンが異常だと思うならサクラの方も真剣になると思うのだがやはりそんな気配はなく、むしろ彼女の態度逆に見える。

「……何を言ってたんだ?」
「もしかしたら勇者を呼ぶかも、って。そんなことしたらどうなるかわかるのに馬鹿だよねぇ」

この店は提供するのが速いな。もうサクラの頼んだ追加が来た。
礼を言って改めて向き直るが、サクラの表情は晴れる様子はない。

彼女からしても悩みなのだろうか、すごく嫌そうな雰囲気がこちらにも伝わってくる。
それよりもこちら側からしたらヤケに物騒な単語が聞こえてきた。
勇者というと、あの勇者だろうか。選ばれた存在で聖剣持ってゲームの主人公のような存在がこの世界にはいるって事なのか。

だがそれにしてはヤケにサクラの方は乗り気ではないように見えるが。

「勇者が来るといったいどうなるんだ?」
「そっか、シュウくん知らないのか。んーっと勇者って言う人たちはギルドと各都市全てに認められた冒険者の事でね。栄光ある二つ名、それと各々に特殊なスキルが与えられるんだ。」

勇者という割りにはどちらかというと英雄って感じだな、なんかイメージと違う…。
それにサクラは英雄や勇者を紹介すると言うには少し説明的な気がする。
褒め称えるって言うよりは単純に特別扱いしてるような、

「それって単純にすごい事じゃないのか? なんで来るのにそんな嫌がるんだ」

と疑問に思い訪ねて見るとあからさまに嫌な顔でため息まで吐かれてしまった。

「彼等はしてることがねー。ボスだけじゃなくてコアや魔王の方まで破壊してっちゃうから、」
「それって普通に他の冒険者もしてることだろ、問題あるのか?」

「おおありだよー。ボクたちも攻略はするんだけどあくまで街の発展や自分たちの生活のためでダンジョンはそのための大切な狩場だからダンジョン自体を潰すつもりはないの。でも彼等の目的はそうじゃないから。魔王を倒す、魔物を殲滅させる、ダンジョンも機能停止させる、元凶になりそうなもの全部退治してっちゃうから勇者って呼ばれてるんだよ。」

なるほど、サクラの説明を聞いてなんとなく把握が出来てきた。
確かに俺の知ってる勇者は魔王を倒し、困っている人々から魔物を倒している。
つまりこっちの世界でもしてることは変わらないらしい。

来る前に色々とレーラから話は聞いているがこちらの常識についてはそういえばとんと知らないな。
とはいえそんな戦闘狂みたいな奴らを知らないはずはないと思うんだが、彼女からしたら冒険者も勇者も大して変わらないということだろうか。
それともわざと黙っているのか。どちらにしても後で聞いてみないと行けない事が出来たな。

「つまり、魔物で困ったって言えばしっかり根本から解決してくれると。」
「そんなところ、救うだけ救ってその後ボクたちが食いっぱぐれる事になっても知らん顔だけどね。」

彼女としての問題はそれらしい。
レーラからも軽く聞かされてたがあのダンジョンは効率良く冒険者からのマナを吸うために初心者から玄人まで全体的に難易度の調整がしっかり行われてる。
つまり冒険者からも狩り場として良く使われるように、且つ完全に攻略されないようにしているということ。
たしかにそんな美味しい場所が無くなればレベリングもアイテム集めも大変にはなるだろうが、

「外にも魔物はいるんだろ。そっちや他のダンジョンじゃダメなのか?」

街に帰る間にも弱くはあったが数匹ほど魔物に遭遇した、この街の付近には他にもいくつかダンジョンもあると話は聞いているがなぜそこまで困るんだろうか。

「数量の問題だよ。一人や二人なら外でも他のダンジョンでも問題は無いんだ。でもこの街の冒険者全員ってなると、あのダンジョンほど大きな場所がないと取り合いになっちゃうんだ」

目の前でフォークとナイフを軽くかち合わせそのままステーキに突き刺し乱暴に引き裂く。
そして今度は小さく切り分け小さくなったステーキの欠片をこちらに差し出してくる。

「取り分がこんなに少なくなっちゃえば冒険者も街を離れちゃうか狩り場を巡って争いが起きちゃう。そんな事になれば活気も無くなるし街もギルドも大打撃だよ。」

くるりとフォークを回してステーキを口に入れる。
モグモグと引き裂いたお肉を食べるのに釣られこちらも残りをパンに挟んで食べて行く。

「でもそれなら勇者が来たとしてもギルドの方で協力しなければいいんじゃないか?さすがに彼等だけで攻略ってのは無理なんだろ?」

ただ気になる事ではあるがそれだけ困る事であるならもし領主に呼ばれたとしてもギルド全体で拒否すれば良いんじゃないかと思うが、

「そうしたいのは山々なんだけどね。ギルドも公認してるって言ったでしょ?ギルドに所属してる以上協力しなくちゃいけない、そういう契約なんだ。」

そういうわけにもいかないらしい。
契約である以上破ったら罰則にもなったりするんだろうな、てことはもし勝手に呼ばれたとしてもギルドから協力を断るっていうのは無理らしい。

あまりいい話では無い気がする、最悪の状況は考えておくとしてその対策としてどう動くかが帰ってからの課題だな。
明日か明後日にはダンジョンの方に帰らないとダメそうだ。

「だからボクたちからはなにも出来ない。出来るとしたらそれはね、」

これからどうするか、パンをシチューに浸しながら考えているとサクラはそのまま話を続けていく。
気づけば何を言いたいのかわざわざ間を挟みこちらをジッと見てくる。

「あちら側の人たちに届くように情報を流してあげること。いち早く対処出来るようにって、」

まるでこちらが魔物側であるのだとわかっているかのような口ぶりで話す彼女は来る時にも感じた不安感を再び俺に与えてくる。
背筋が凍りつくというのはこういうことを言うんだろう。だがなぜか不安感はあるが彼女から敵意といったものは感じない、口調が柔らかいせいもあるからだろうか。

「確かに情報は大事だと思うがそんなこと俺に伝えたって意味なんてないだろ?」

「そうとも言えないかも知れないよ?ダンジョンの魔王は魔物を従えれるだけのただの人間だったって話も昔聞いたことあるし、もしかするとキミも……」

全てを見据えたように見つめる彼女の口からは本当は魔王なんじゃないかと問い掛けてくるだけの訴えを感じる。
実際に君があのダンジョンの新しい魔王だと名言して欲しいくらいであるが、こちらもうんと言えるはずがない。

「……まぁ、噂なんだけどね。でも安心して、助けてもらっちゃったしキミが本当に魔王でも襲いかかったりなんてしないからさ。」

サクラの言葉に返事が出来ず押し黙っているとまた彼女から身を引いた。
だが俺の事を魔王じゃないかと疑っているのを否定せず口に出してまで教えてくれるがこちらは気が気でない。

まるでわざと生かされている感じがしてスゴく気持ちが悪くなってくる。
実際、彼女の実力なら俺一人くらい殺すのは簡単だと思うが、彼女はあえてそれはしないと断言している。

それも単純に気絶した彼女をダンジョンから無事連れ出した程度の礼があるからだという。
今すぐにでもダンジョンへと帰りたい気持ちは強くなってきたがこのまま直ぐにでも帰ろうとすればサクラにも他の冒険者にも感づかれるだろう。

今以上に危険というのはわかっている。
彼女がなにを考えこちらに味方をするような真似をするのか真意も意味もわからない。
だが、このまましばらく彼女の手の上で踊り利用されるしかないことに気付くと段々と吐きそうになってくる。

「えーっと、大丈夫?顔色悪いよ?」

また考え込んでしまっていたらしく先程と違い本当に心配した様子でこちらを覗き込んでくるサクラ。

「あ、あぁ…ちょっと旅で疲れてるだけだ。」

「そっか。じゃあ今日はこのまま上の部屋で休んだ方がいいよ、お金の方もボクが出しといてあげる。」

彼女の行動や雰囲気からこちらを心配する姿は嘘だと思えない。
彼女がなにをしたいのかわからず混乱する頭を一旦落ち着かせサクラの言葉に頷けば彼女は席から離れ宿部屋の鍵を取ってきてくれた。

結局、彼女はこれからすることがあるらしく多少のお金を渡され今日は別れることになったが今は他に考える事が出来てしまいそれどころではない。
部屋についた俺はそのまま考えている内、気がつくと意識を失ってしまっていた。……

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