転生したら美少女勇者になっていた?!
第二十七話-武器屋
*****
武器屋はあっという間に見つかった。
というのも、ありがたいことにどの店も看板は絵柄で表しているところが多かったためである。
その店は剣と盾が重なった絵を掲げており、一目でここが武器屋だとわかったのだ。
ただ、たまに文字表記の看板を見つけたのだが、残念ながら俺には解読不能な文字だった。
昔教科書か何かで見た楔形文字に似た形をしている。
言葉が通じるからもしやと思って期待していたのだが、世の中そう甘くはなかった。
覚えるのも面倒だしエラやゾルフも居てくれるからほっとこうかな、と一瞬考えてしまったが、すぐさまそれをかなぐり捨てる。
本来ここへ来た目的は図書館で調べものをすることだった。それに、今後文字を書く機会も少なからずあると思う。
そこは任せっぱなしにはできないし、やはり自分でもそういった事が一人で出来るようにはなりたいのだ。
いつまでも二人と一緒にいられるわけじゃないからな。
なので、またエラメリアに教えてもらおう。
世話になるぜ。すいません。
なにはともあれ、武器屋だ。
意気揚々とドアを開けると、鈴の音がチリンと鳴り響いた。
その音を聞きつけた店員らしき人が大股で近寄ってくる。
なんと女性だ。
「らっしゃい! アタシはここ”フレシャワ”の店主、ツナだよ。見ない顔だけど、冒険者さんかい?」
ツナと名乗るその人は、頭にバンダナを巻いた元気そうなお姉さんだった。
エラメリアに負けず劣らず高身長で、体つきはとんでもなくムチムチしててちょっと焼けている。
露出の高い服を纏っており、胸を見せつけるかのように立つその姿は凛々しく完璧だった。
腰に様々な道具を詰め込んだポーチを付けている点がまたポイント高い。
うん、タマラン。
うっかり鼻の下を伸ばしている俺を差し置き、エラメリアは簡潔に今の状況を伝える。
ツナさんはふんふんと頷きながら聞いていて、そのたびに大きな胸が揺れていた。
至福~。
「ふ~ん、なるほどねェ」
不躾にも零れ出る谷間をガン見していたところに、話を終えたツらしいナさんがくいっと顔を寄せてくる。
迂闊にも意識が半分飛んでいたため、眼前にその整った顔が近づくまで全く気が付かなかった。
反射的にうちに体が仰け反り、半歩ほど後退する。
しかし無理な体勢からの急な行動だったため、思いっきり足を捻ってしまった。
「~~~っ?!?!」
咄嗟にうずくまる俺。
涙目でくるぶしを摩っていると、頭上からいかにも楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「あっはっはっは! なんだい、そんなにアタシの胸に興味がおありかい? 安心しな、アンタだって大きくなればきっとイイ女になるから。その時は自分で好きなだけ揉めばいいさ」
そう言って自分の乳房を下からたゆゆん!と揺らして弄ぶツナさん。
それを見てるだけであっという間に痛みは引いていき、気が付いたらまたその大きな山に目が吸い寄せられていた。
やべえアタシもたゆゆん!ってやりたい。
どうやら意識を持ってかれたのは俺だけではないようで、横からもブブッと変な音を立てている者がいる。
言うまでもなくゾルフだ。
見れば、ゾルフは目を真っ赤にさせてツナさんの豊かな胸に魅入っていた。
手で口元を覆い、今にも鼻血が噴き出んばかりの顔をしている。
おう、今ならお前とも分かり合えそうだぜ、ゾルフ。
馬鹿なことをしていると、背後から怒ったようなわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
そして手を伸ばして俺たちの肩を掴み、優しく引っ張って後ろに下がらせ――
「だあああ痛い痛い痛い! 捥げる! 腕捥げりゅううう!」
ると感じていたのは俺だけのようで、隣からは断末魔の叫び声が聞こえてきた。
おい、うるさいぞゾルフ。
だが彼のお陰で意識も元に戻り、おっぱ・・・ツナさんとの距離も開いたので、ちゃんと相手の顔を見て話せるようになった。
というわけで早速話に交じらせていただく。
「実は俺、武器屋に来たのは初めてで、色々教えて欲しいんです」
「アタシは別に構わないけど・・・戦う道具が好きなのかい?」
「はい、超好きです! 巨大な化け物を狩るゲームも好きだし、人と人との勝負も面白いし!」
「ほぉ、女の子なのに珍しい趣味だねえ。たまにいるんだよ、アンタみたいな変な子が」
そう言いながらいくつかのの剣が置かれている棚に近付いて行く。
その中から一つを選び持ち上げると、自分の頭の上へと放った。
くるくる数回転させた後に、後ろ手でパシッと背面キャッチ。
そして唐突に始まったパフォーマンスに唖然としている俺達を前に、サムズアップして言い放つ。
「かく言う私も大の戦闘好きでねェ。あんたとは馬が合いそうだ!」
大きな目でバチコーン!と音が聞こえてきそうなほどのウインクをして見せた。
それから俺は、ツナさんに様々な武器を紹介してもらった。
知っている形の物から見たこともない形状の物まで、取り揃えは多種多様でまったく飽きることが無い。
一つ一つの道具を我が子のように自慢げに語るツナさんの姿は、まるで少年のように輝いており、キラキラとした瞳は子供目にみても純粋無垢で心臓の高鳴りを抑えることが難しかった。
たまに見られていることに気が付くと頬を真っ赤に染て押し黙ってしまうのだが、さらに的確に俺のくすぐったい所を突いてきて転げまわりたくなった。
何なのこのひと可愛すぎでしょ。
マジストライクだわ。
どうでもいい俺の心境はさておき、実際彼女の話は興味深く非常に参考になるものばかりだった。
大体の武器が昔ハマっていたゲーム”モ〇ハン”に出てくるようなものだったためか、強い親近感が湧く。
金属ごとの切れ味や加工技術などといった少々脱線した内容も、元来からの戦闘好きな部分がしっかりと聞いてくれていた。
ゾルフは次から次へと飛び出す話題に、遅れるわけにはいかないと必死に耳を傾けている。
対して、俺は少しも頭を使うことなくすんなりとツナさんの言葉を吸収していく。
好きこそものの上手なれ、じゃないけど、やっぱり自分の得意な話題になると嫌でも難しい話にもホイホイついていけてしまう。
凄い勢いで自分の知識欲が満たされていくのを心の底で感じ取っていた。
粗方彼女の話を聞いて終わる頃にはすっかり日も暮れ、エラメリアの「そろそろ時間が・・・」の声で初めて俺たちは我に返った。
「悪いなあ。自分の好きな話になると時間なんて忘れちゃってなァ」
自分の話で時間を取らせたことに、頭を掻いて謝るツナさんをなんとか押しとどめる。
代わりに貴重な財産であろう店の技術を惜しげもなく教えてくれる彼女に、深い感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「こちらこそ、お店の邪魔しちゃってごめんなさい。でもツナさんの話は本当に面白くて夢中になりました」
そう言うとツナさんは嬉しそうにハニカミながら右手を差し出してきた。
その手をしっかりと握り返す。
俺たちは別れ際、固い握手で挨拶を交わした。
腕を揺らしながらツナさんは答える。
「いーのいーの。ここいらはまだ安全地帯だからね、ウチはまったく繁盛してなくていつも困ってんのさ。暇してたらまたおいで、歓迎するよ!」
「ありがとうございます。はい、また来ます!」
ツナさんは最後まで元気に、威勢よく手を振って見送ってくれている。
こちらも負けじと、姿が見えなくなるまで手を振り返しながら宿屋への道を辿っていく。
逆光で見えにくかったが、先ほどのように笑顔であろうことは容易に想像できた。
時刻はもう夜。
見上げれば、星一つ見当たらない真っ暗な世界が広がっている。
それでも暗いと感じないのは、街が全体的に光の魔術で包まれているからであろう。
星が見えないのはその光が原因だろうか。
涼しい夜風を肌で感じつつ、本日何度目かと知れぬ心地よい感情の余韻に浸りながら二人のの後を追う。
俺はこの気持ちを誰かと共有したく思い、ゾルフに声を掛けてみた。
「やーツナさんって凄くいい人だったな」
「ああ、そうだな」
「ゾルフもそうおもうだろ? また行きたいなぁ、あの武器屋」
「ああ、そうだな」
「・・・ん? どうした? なんか元気ないぞ」
「いや、なんでもねえ。なんでも・・・そうだ。あんなに若くて綺麗な人が、既婚者だったなんて、ありえ、ねえ・・・・・・っ」
「あ、はい。そうですか」
「あああ羨ましい、ハスバンドぶっ殺してえぐらい羨ましい!」
謎の戦慄に体を震わせるゾルフ。
あまりに残念すぎる上に気色悪いので、完全無視の方向で話を進める。
何が悲しくてお前のストライクゾーンを知らねばならぬ。
「エラはどうだった?」
「わ、私ですか? ・・・そうですね、人柄はいい人、だったと思います」
「だよな! じゃあまた明日も行ってみようか」
「あー・・・いえ、それは遠慮しておきます」
「ええ、なんで」
「ちょっとその・・・私の専門は魔術ですし・・・・・・」
それとこれとに何の関係が?
よくわからなかったので首を傾げて応じる。
すると、エラメリアは少し恥ずかしそうに顔を背けながら言った。
「・・・話が難しくてついていけなかったので」
「あー・・・」
なるほど理解した。
思えば、俺とゾルフは一生懸命話を聞いていたが(ツナさんの家庭の話になった途端ゾルフは消沈)エラメリアは一人だけ素知らぬ顔で店内を見回っていた。
話が理解できなかったので、せめてものプライドで店内を探している風を装っていたのだろう。
ツナさんの話に集中していなかったため全く気が付かなかったが、ちょっと配慮が足りてなかったな。
仕方がない、明日は一人で行くか。
エラメリアを元気づけるべく、俺は彼女の専門としている話題に転換することにした。
「じゃあ次は魔法具みたいなものが置いてある店に行こう。エラも色々教えてくれよ」
するとみるみるエラメリアの顔が活気付いて行く。
そして嬉しそうに「はい!」と答えてくれた。
「ですが今日は遅いので、また今度ですね」
「わかった。じゃあその時はよろしくね」
「わかりました。では宿の方へ行きますか」
「うん」
元気に返事をする。
エラメリアが微笑んでこちらに顔を向ける。
一名ドス黒いオーラを纏っている者がいるが、和やかな雰囲気がパーティの間を流れていた。
こうして和気藹々と道を進んでいくと、すぐにその宿屋らしきものがが見えてくる。
正面に見据える建物は、周りの建物とは少し違った造りをしていて、横に広くいくつか部屋が設けられている比較的大きな体積を誇っていた。
二階建てで、一回には食事を摂れるスペースが広がっている。
日本の宿とは結構違っているものの、一目見てここが宿屋であろうことは俺にも分かった。
「エラ、ここがその」
「ええ、当初から予定していた宿”魚の家”です」
聞けば、エラメリアが昔この街に来た時、色々とお世話になった店でもあるらしい。
顔なじみで毎度良くしてくれるので、今回もここを利用しようとする計画だ。
エラメリアお墨付きの宿屋か・・・。
店名は少し変だけど(失礼)、これは期待値が上がるぞ。
入口には暖簾が掛かっていて、中の様子がちょっとしか見えない。
それでも聞こえてくる男たちの歓声や、美味そうな料理の香りが漂ってくる。
スパイシーな匂いに釣られて腹が鳴った。
いつもならとっくに晩飯なんて済んでる時間だ。
そりゃ腹も減るさ。
涎を垂らしながら店の前で突っ立っていると、先にエラメリアが入店する。
俺もそれに倣い、わくわくした気持ちで暖簾をくぐろうとした。
しかしふと思い立って数歩後ろに下がる。
自分でもなぜその行動をとったのかはわからない。
だけど、何となくもう一度外観を見ておきたかったのだ。
見上げれば、先ほどと何ら変わらぬ店がそこにはある。
だが心境は違った。
全く気にせず店に入ろうとしていたが、思えばこの世界に来て初めてのしっかりとした住処である。
誤解なきよう言っておくが、別に土の床や焚き木の暖炉に不満があったわけではない。
キャンプ慣れしてない俺は憧れていたクチでもあるからな。
それでも、何か大きなものを獲得したような、ほっとした感覚が背中を撫でてくれる。
凝り固まっていたものが溶けていく思いだった。
こんな時に限って、いやこんな時だからか、現世で家ごとハブられていた記憶がスッと頭をよぎる。
浮かんだのは家族との生活。
思い起こす度に数々の思いが脳を蝕んでいく。
それはほんの数瞬の事だったであろう。
「どうした? 入らないのか?」
ゾルフに急かされてはっと気が付く。
焦点の合った視界は、何故かぼんやりと歪んでいた。
すっきりとしていたはずの心も少し燻んでいる。
なんだコレ。
「おい、大丈夫か」
返事をしないでいると、もう一度ゾルフが気遣って声を掛けてきた。
いかんいかん。
これからまた新しい生活が始まるというのに、こんな心持ちでは楽しめるものも楽しめない。
切り替えていこう。
俺は頭を振って雑念を払うと、心配すんなという意味を込めて笑顔を向けた。
それは多少引きつっていたかもしれない。
だが、ゾルフは何も気が付くことなく「そうか」と一言述べて、暖簾の奥へ消えていった。
ふう。
もう大丈夫。
視界明瞭、思考はギンギンだ。
我に返ればすぐさま目の前のことで一杯になる。
さっきまでの怪しげな感覚はもう無い。
そんな自分の単純すぎる脳の造りに、今この時ばかりは感謝しつつ。
運び屋を利用した時とはまた違った高揚感に胸を高鳴らせながら、俺は暖簾を押し上げて体を滑り込ませる。
「いらっしゃい!」
すぐさま小気味よい挨拶が聞こえてきた。
武器屋はあっという間に見つかった。
というのも、ありがたいことにどの店も看板は絵柄で表しているところが多かったためである。
その店は剣と盾が重なった絵を掲げており、一目でここが武器屋だとわかったのだ。
ただ、たまに文字表記の看板を見つけたのだが、残念ながら俺には解読不能な文字だった。
昔教科書か何かで見た楔形文字に似た形をしている。
言葉が通じるからもしやと思って期待していたのだが、世の中そう甘くはなかった。
覚えるのも面倒だしエラやゾルフも居てくれるからほっとこうかな、と一瞬考えてしまったが、すぐさまそれをかなぐり捨てる。
本来ここへ来た目的は図書館で調べものをすることだった。それに、今後文字を書く機会も少なからずあると思う。
そこは任せっぱなしにはできないし、やはり自分でもそういった事が一人で出来るようにはなりたいのだ。
いつまでも二人と一緒にいられるわけじゃないからな。
なので、またエラメリアに教えてもらおう。
世話になるぜ。すいません。
なにはともあれ、武器屋だ。
意気揚々とドアを開けると、鈴の音がチリンと鳴り響いた。
その音を聞きつけた店員らしき人が大股で近寄ってくる。
なんと女性だ。
「らっしゃい! アタシはここ”フレシャワ”の店主、ツナだよ。見ない顔だけど、冒険者さんかい?」
ツナと名乗るその人は、頭にバンダナを巻いた元気そうなお姉さんだった。
エラメリアに負けず劣らず高身長で、体つきはとんでもなくムチムチしててちょっと焼けている。
露出の高い服を纏っており、胸を見せつけるかのように立つその姿は凛々しく完璧だった。
腰に様々な道具を詰め込んだポーチを付けている点がまたポイント高い。
うん、タマラン。
うっかり鼻の下を伸ばしている俺を差し置き、エラメリアは簡潔に今の状況を伝える。
ツナさんはふんふんと頷きながら聞いていて、そのたびに大きな胸が揺れていた。
至福~。
「ふ~ん、なるほどねェ」
不躾にも零れ出る谷間をガン見していたところに、話を終えたツらしいナさんがくいっと顔を寄せてくる。
迂闊にも意識が半分飛んでいたため、眼前にその整った顔が近づくまで全く気が付かなかった。
反射的にうちに体が仰け反り、半歩ほど後退する。
しかし無理な体勢からの急な行動だったため、思いっきり足を捻ってしまった。
「~~~っ?!?!」
咄嗟にうずくまる俺。
涙目でくるぶしを摩っていると、頭上からいかにも楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「あっはっはっは! なんだい、そんなにアタシの胸に興味がおありかい? 安心しな、アンタだって大きくなればきっとイイ女になるから。その時は自分で好きなだけ揉めばいいさ」
そう言って自分の乳房を下からたゆゆん!と揺らして弄ぶツナさん。
それを見てるだけであっという間に痛みは引いていき、気が付いたらまたその大きな山に目が吸い寄せられていた。
やべえアタシもたゆゆん!ってやりたい。
どうやら意識を持ってかれたのは俺だけではないようで、横からもブブッと変な音を立てている者がいる。
言うまでもなくゾルフだ。
見れば、ゾルフは目を真っ赤にさせてツナさんの豊かな胸に魅入っていた。
手で口元を覆い、今にも鼻血が噴き出んばかりの顔をしている。
おう、今ならお前とも分かり合えそうだぜ、ゾルフ。
馬鹿なことをしていると、背後から怒ったようなわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
そして手を伸ばして俺たちの肩を掴み、優しく引っ張って後ろに下がらせ――
「だあああ痛い痛い痛い! 捥げる! 腕捥げりゅううう!」
ると感じていたのは俺だけのようで、隣からは断末魔の叫び声が聞こえてきた。
おい、うるさいぞゾルフ。
だが彼のお陰で意識も元に戻り、おっぱ・・・ツナさんとの距離も開いたので、ちゃんと相手の顔を見て話せるようになった。
というわけで早速話に交じらせていただく。
「実は俺、武器屋に来たのは初めてで、色々教えて欲しいんです」
「アタシは別に構わないけど・・・戦う道具が好きなのかい?」
「はい、超好きです! 巨大な化け物を狩るゲームも好きだし、人と人との勝負も面白いし!」
「ほぉ、女の子なのに珍しい趣味だねえ。たまにいるんだよ、アンタみたいな変な子が」
そう言いながらいくつかのの剣が置かれている棚に近付いて行く。
その中から一つを選び持ち上げると、自分の頭の上へと放った。
くるくる数回転させた後に、後ろ手でパシッと背面キャッチ。
そして唐突に始まったパフォーマンスに唖然としている俺達を前に、サムズアップして言い放つ。
「かく言う私も大の戦闘好きでねェ。あんたとは馬が合いそうだ!」
大きな目でバチコーン!と音が聞こえてきそうなほどのウインクをして見せた。
それから俺は、ツナさんに様々な武器を紹介してもらった。
知っている形の物から見たこともない形状の物まで、取り揃えは多種多様でまったく飽きることが無い。
一つ一つの道具を我が子のように自慢げに語るツナさんの姿は、まるで少年のように輝いており、キラキラとした瞳は子供目にみても純粋無垢で心臓の高鳴りを抑えることが難しかった。
たまに見られていることに気が付くと頬を真っ赤に染て押し黙ってしまうのだが、さらに的確に俺のくすぐったい所を突いてきて転げまわりたくなった。
何なのこのひと可愛すぎでしょ。
マジストライクだわ。
どうでもいい俺の心境はさておき、実際彼女の話は興味深く非常に参考になるものばかりだった。
大体の武器が昔ハマっていたゲーム”モ〇ハン”に出てくるようなものだったためか、強い親近感が湧く。
金属ごとの切れ味や加工技術などといった少々脱線した内容も、元来からの戦闘好きな部分がしっかりと聞いてくれていた。
ゾルフは次から次へと飛び出す話題に、遅れるわけにはいかないと必死に耳を傾けている。
対して、俺は少しも頭を使うことなくすんなりとツナさんの言葉を吸収していく。
好きこそものの上手なれ、じゃないけど、やっぱり自分の得意な話題になると嫌でも難しい話にもホイホイついていけてしまう。
凄い勢いで自分の知識欲が満たされていくのを心の底で感じ取っていた。
粗方彼女の話を聞いて終わる頃にはすっかり日も暮れ、エラメリアの「そろそろ時間が・・・」の声で初めて俺たちは我に返った。
「悪いなあ。自分の好きな話になると時間なんて忘れちゃってなァ」
自分の話で時間を取らせたことに、頭を掻いて謝るツナさんをなんとか押しとどめる。
代わりに貴重な財産であろう店の技術を惜しげもなく教えてくれる彼女に、深い感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「こちらこそ、お店の邪魔しちゃってごめんなさい。でもツナさんの話は本当に面白くて夢中になりました」
そう言うとツナさんは嬉しそうにハニカミながら右手を差し出してきた。
その手をしっかりと握り返す。
俺たちは別れ際、固い握手で挨拶を交わした。
腕を揺らしながらツナさんは答える。
「いーのいーの。ここいらはまだ安全地帯だからね、ウチはまったく繁盛してなくていつも困ってんのさ。暇してたらまたおいで、歓迎するよ!」
「ありがとうございます。はい、また来ます!」
ツナさんは最後まで元気に、威勢よく手を振って見送ってくれている。
こちらも負けじと、姿が見えなくなるまで手を振り返しながら宿屋への道を辿っていく。
逆光で見えにくかったが、先ほどのように笑顔であろうことは容易に想像できた。
時刻はもう夜。
見上げれば、星一つ見当たらない真っ暗な世界が広がっている。
それでも暗いと感じないのは、街が全体的に光の魔術で包まれているからであろう。
星が見えないのはその光が原因だろうか。
涼しい夜風を肌で感じつつ、本日何度目かと知れぬ心地よい感情の余韻に浸りながら二人のの後を追う。
俺はこの気持ちを誰かと共有したく思い、ゾルフに声を掛けてみた。
「やーツナさんって凄くいい人だったな」
「ああ、そうだな」
「ゾルフもそうおもうだろ? また行きたいなぁ、あの武器屋」
「ああ、そうだな」
「・・・ん? どうした? なんか元気ないぞ」
「いや、なんでもねえ。なんでも・・・そうだ。あんなに若くて綺麗な人が、既婚者だったなんて、ありえ、ねえ・・・・・・っ」
「あ、はい。そうですか」
「あああ羨ましい、ハスバンドぶっ殺してえぐらい羨ましい!」
謎の戦慄に体を震わせるゾルフ。
あまりに残念すぎる上に気色悪いので、完全無視の方向で話を進める。
何が悲しくてお前のストライクゾーンを知らねばならぬ。
「エラはどうだった?」
「わ、私ですか? ・・・そうですね、人柄はいい人、だったと思います」
「だよな! じゃあまた明日も行ってみようか」
「あー・・・いえ、それは遠慮しておきます」
「ええ、なんで」
「ちょっとその・・・私の専門は魔術ですし・・・・・・」
それとこれとに何の関係が?
よくわからなかったので首を傾げて応じる。
すると、エラメリアは少し恥ずかしそうに顔を背けながら言った。
「・・・話が難しくてついていけなかったので」
「あー・・・」
なるほど理解した。
思えば、俺とゾルフは一生懸命話を聞いていたが(ツナさんの家庭の話になった途端ゾルフは消沈)エラメリアは一人だけ素知らぬ顔で店内を見回っていた。
話が理解できなかったので、せめてものプライドで店内を探している風を装っていたのだろう。
ツナさんの話に集中していなかったため全く気が付かなかったが、ちょっと配慮が足りてなかったな。
仕方がない、明日は一人で行くか。
エラメリアを元気づけるべく、俺は彼女の専門としている話題に転換することにした。
「じゃあ次は魔法具みたいなものが置いてある店に行こう。エラも色々教えてくれよ」
するとみるみるエラメリアの顔が活気付いて行く。
そして嬉しそうに「はい!」と答えてくれた。
「ですが今日は遅いので、また今度ですね」
「わかった。じゃあその時はよろしくね」
「わかりました。では宿の方へ行きますか」
「うん」
元気に返事をする。
エラメリアが微笑んでこちらに顔を向ける。
一名ドス黒いオーラを纏っている者がいるが、和やかな雰囲気がパーティの間を流れていた。
こうして和気藹々と道を進んでいくと、すぐにその宿屋らしきものがが見えてくる。
正面に見据える建物は、周りの建物とは少し違った造りをしていて、横に広くいくつか部屋が設けられている比較的大きな体積を誇っていた。
二階建てで、一回には食事を摂れるスペースが広がっている。
日本の宿とは結構違っているものの、一目見てここが宿屋であろうことは俺にも分かった。
「エラ、ここがその」
「ええ、当初から予定していた宿”魚の家”です」
聞けば、エラメリアが昔この街に来た時、色々とお世話になった店でもあるらしい。
顔なじみで毎度良くしてくれるので、今回もここを利用しようとする計画だ。
エラメリアお墨付きの宿屋か・・・。
店名は少し変だけど(失礼)、これは期待値が上がるぞ。
入口には暖簾が掛かっていて、中の様子がちょっとしか見えない。
それでも聞こえてくる男たちの歓声や、美味そうな料理の香りが漂ってくる。
スパイシーな匂いに釣られて腹が鳴った。
いつもならとっくに晩飯なんて済んでる時間だ。
そりゃ腹も減るさ。
涎を垂らしながら店の前で突っ立っていると、先にエラメリアが入店する。
俺もそれに倣い、わくわくした気持ちで暖簾をくぐろうとした。
しかしふと思い立って数歩後ろに下がる。
自分でもなぜその行動をとったのかはわからない。
だけど、何となくもう一度外観を見ておきたかったのだ。
見上げれば、先ほどと何ら変わらぬ店がそこにはある。
だが心境は違った。
全く気にせず店に入ろうとしていたが、思えばこの世界に来て初めてのしっかりとした住処である。
誤解なきよう言っておくが、別に土の床や焚き木の暖炉に不満があったわけではない。
キャンプ慣れしてない俺は憧れていたクチでもあるからな。
それでも、何か大きなものを獲得したような、ほっとした感覚が背中を撫でてくれる。
凝り固まっていたものが溶けていく思いだった。
こんな時に限って、いやこんな時だからか、現世で家ごとハブられていた記憶がスッと頭をよぎる。
浮かんだのは家族との生活。
思い起こす度に数々の思いが脳を蝕んでいく。
それはほんの数瞬の事だったであろう。
「どうした? 入らないのか?」
ゾルフに急かされてはっと気が付く。
焦点の合った視界は、何故かぼんやりと歪んでいた。
すっきりとしていたはずの心も少し燻んでいる。
なんだコレ。
「おい、大丈夫か」
返事をしないでいると、もう一度ゾルフが気遣って声を掛けてきた。
いかんいかん。
これからまた新しい生活が始まるというのに、こんな心持ちでは楽しめるものも楽しめない。
切り替えていこう。
俺は頭を振って雑念を払うと、心配すんなという意味を込めて笑顔を向けた。
それは多少引きつっていたかもしれない。
だが、ゾルフは何も気が付くことなく「そうか」と一言述べて、暖簾の奥へ消えていった。
ふう。
もう大丈夫。
視界明瞭、思考はギンギンだ。
我に返ればすぐさま目の前のことで一杯になる。
さっきまでの怪しげな感覚はもう無い。
そんな自分の単純すぎる脳の造りに、今この時ばかりは感謝しつつ。
運び屋を利用した時とはまた違った高揚感に胸を高鳴らせながら、俺は暖簾を押し上げて体を滑り込ませる。
「いらっしゃい!」
すぐさま小気味よい挨拶が聞こえてきた。
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