転生したら美少女勇者になっていた?!
第十六話-師匠マジぱねぇっす①
ゾルフとの特訓が始まった。
所定の位置に移動し、俺が木の剣を構えてその隣にゾルフが立つ形で待機している。
「うし、じゃあ始めっか」
「よろしくお願いします」
礼儀正しく一礼。
ゾルフはわざとらしくウムと鷹揚に頷いた。
この場には俺とゾルフの二人のみ。
他は一切の邪魔が入らないよう広く空間を設けてある。
結構激しい動きでもするのだろう。
ちなみにエラメリアは荷物番兼”遠目からゾルフの監視”を行っている。
エラメリアが見ていない間にゾルフが変な事をしないか恐れたらしく、常に見張っているみたいだった。
俺が近くにいるんだからゾルフが何をしようとしてもすぐ止められると思うんだけど・・・。
一体何を危惧しているのやら。
話を戻そう。
さて、剣術の生業や初心者の立ち回りなどの基本的な事はエラメリアから聞いていたので、さっそく技の繰り出し方について教えてもらう。
だが初心者とはいえ、二人が俺に求めている動きは少しランクが高いものであるようだった。
ゾルフはその分難しいことを教えると言っていた。
キツそうだったらレベルを下げるとも。
もちろん、彼らの期待に応えるべく生半可なことは絶対しないつもりでいる。
気合と覚悟は充分整った。
聞き漏らしたりすることがないよう、気を引き締めていこう。
まずはゾルフがお手本を見せ、俺がそれを真似ていく流れで進行する。
反復練習をして体幹と効率的に技を繰り出せる筋肉を養うことが目的らしい。
あえて複雑で緻密な動きは練習せず、実用的かつ強力な型を身に着けることを第一目標とした。
そのためには激しい動きについて来られるような体を作り慣れさせることから始める。
そう簡単に事が運ぶだろうかと不安に思ったが、普通だったら数年単位で形成される肉体も、俺なら半年もあれば相応の肉体は出来上がると言っていたのでそのあたりの心配は大丈夫だろう。
なんでも、俺の肉体は進化速度が速いらしい。
数少ない利点だ、しっかり活かしてこう。
まずゾルフは、先ほどのエラメリアの動きを再現するしようとした。
これからやるもう一歩先の剣技と比較しやすくするためだ。
エラメリアは俺に技を教える際、水の像を作るなりして仮想的なシチュエーションを用意してくれていた。
ゾルフは一体どんな魔術を魅せてくれるのだろうか。
やっぱりレベルアップとかして実際に動く動物とかかな。
わくわくした気持ちで見守る。
・・・が、期待に反して特に仮の敵を作ったりすることなく、ゾルフは片手で剣の感覚を確かめていた。
いやまあいいんだけどさ。
俺がちゃんと見ているのを確認すると、ゾルフは右足を半歩前に踏み込みつつ剣を前方に突き出しながら口を挟む。
「さっきエラたんのが言ってた動きがこれ」
びゅっと風を切る音とともに放たれた剣は、確かな重みをもって空を切り裂く。
何もないはずの空間が、質量をもっているかのような音色を奏でた。
しかも突き抜いた剣はそのまま止まることを知らず、次の一撃へと流れを変化させる。
エラメリアのモーションとは多少違うものの、確かにスピードや身のこなしはなんとなく似ているでもない。
なめらかな踏み込みに見惚れる。
再び半歩踏み出すころには新たな斬りこみが放たれようとしていた。
先ほどよりもわずかに低い音を発する剣。
今度は肝が冷える思いを感じる。
しかしその間も彼の腕は待ってくれることは無い。
当然その斬りこみするらも次の一手へと繋がっている。
ひとつの動作を脳が理解したころには既に新たな斬りを放っている最中だった。
じっと目で追っているとだんだん頭が痛くなってくる。
斬る、流す、また新たに斬る、を繰り返しながらゾルフは淡々と歩を進めていった。
そしてじわじわと前進しながら、それでも一歩を踏み出す度に的確な一撃を加えていく。
一つ前の技の力を加算していくように、実際どんどん威力は高まっているように思う、重く速い追撃を繰り出す。
それら一連の流れにはまさに踊っているような、舞踏を見ているような気にさせられる。
思わず感嘆のうめき声が漏れてしまった。
実際正直な感想、エラメリアよりよほど洗練された動きをしている。
流石国に抜擢された剣士(?)だけはある。
ぼーっと見ている間にも彼は技を重ねていく。
俺はとっくに目で追うのを諦めていた。
そして数回その動きを連ねると、キリのいいところで剣を収めた。
そこまでが一つの作法であるかのような立ち振る舞いだ。
恐らく彼にしてみれば、適当に技を繋げただけに過ぎないのだろうが。
一息ついてクルッとこちらに振り向くと、「だけどこれじゃあ遅い」とコメントする。
「いや”遅い”って・・・この上ないスピードだったじゃないか。ぶっちゃけ、俺にそれより凄いのを求めてるなら半年やそこらじゃ絶対無理だ。今のゾルフの動きを再現することだって不可能だと思う」
「うんにゃ、それはステフが自分の力を知らないだけだ。ステフには確かにそれが可能な力が存在しているはずだぜ。今はまだ眠ってるけどな。でもいずれ、開花する」
ゾルフの物言いには強い確信が込められていた。
神業とまで言える剣技を披露した彼に褒められたこと自体は嬉しいのだが、流石にここまでの言われは無いだろう事は自分でもわかる。
さっきエラメリアに見せた時のように、スピード云々かんぬん以前に俺は力のいなし方をよくわかっていない。
それもそのはず、生まれてこの方剣といった類のものを振り回したことが無いのだ。
瞬間ごとに体を移動する重心を、制御以前に認知することすら難しい相談であった。
むしろゾルフの発言は俺を適当にほめ褒めまくってやる気を出させようとしているようにしか思えない。
そんな子供だましに引っかかるほど俺も馬鹿ではない。
「エラといいゾルフといい期待値が高すぎるって。いくら筋肉の発達が良くても、型がなってないから前提として難しいだろ。どっかの流派とかから学んだ方が絶対早い気がする・・・」
「他のじゃかえって邪魔になる。ステフの体の成長速度はかなり特殊だ。それは木登りをしている間にも薄々気付いていたんじゃないか? いつ頃から始めたのかは知らないが、あんなにするする登れるようになったのもすぐのことだったろうよ」
言われて思い出す。
そういえば、最初に木に登り始めてから五日と経たぬうちに俺は完全に会得してしまっていた。
だがアレはただ単に効率的な登り方、例えば足のかけ方なんかを覚えただけの様な気もする。
そう思ってゾルフに打ち明けてみる。
しかし依然として彼は考えを改めることは無かった。
むしろ裏付けを取ったと言わんばかりの顔で説明を重ねる。
「それもステフ自身の学習能力が高いからだともうぜ。確かにそのくらいの年なら木登り程度ならちゃちゃっと出来るようになるかもしれん。だがステフの場合、もっと極端に、筋肉の動かし方から無駄を省いて行っている。最低限の力で木に登る方法を知らず知らずの内に学んでいたんだろうな」
なんだかそう言われると俺がかなり凄い奴のように思えてしまう・・・。
うーん、でも確かに無意識のうちに楽々木登りは出来るようになっていた。
もしかして俺って運動神経良かったのかしらん。
・・・あーでもゾルフの言い方からするとこの身体のお陰なのか。
ちと複雑だな。
ちょっと混乱して反応が鈍ってしまったのを肯定と捉えたのか、ゾルフは次の動きの説明へと移っていく。
「まあその辺は考えたって仕方ねえよ。とりあえず言われた通りやってみな。それで出来るかどうかもっかい自分で認識するんだ。なんでも手を付けない事には始まんねえだろ?」
「うん、そうだな。じゃあやってみるか。ゾルフ、例の俺が出来るようにならなきゃいけないやつを教えてくれ」
「よし来た。その意気だ」
ゾルフはニヤリと笑ってそういうと、俺が見やすいように位置や角度を変えつつ剣を構える。
丁度斜め前からゾルフを見ることが出来る立ち位置だ。
心を落ち着けるべく、ゾルフは静かに瞳を閉じている。
そして数度深呼吸をすると、ゾルフは目をしっかりと見開いた。
瞬間、彼の体からは闘気とも呼べるような、視認できない圧に見舞われる。
事実これは比喩では無く、俺の頬が強い風に当てられたような震えをみせた。
彼の未だ見たことが無い本気の気迫に圧倒される。
うっかり声が上擦ってしまった。
ゾルフは剣の重みを確かめるように、柄の部分をコロコロ手で弄びながら俺に声を掛ける。
「まあまあ疲れるし一回しかやらんからな。ちゃんと見とけよ」
「あ、ああ」
「よし、じゃあ行くぜ・・・ラァッ!」
この日、俺は初めてゾルフという剣士の本気を見た。
所定の位置に移動し、俺が木の剣を構えてその隣にゾルフが立つ形で待機している。
「うし、じゃあ始めっか」
「よろしくお願いします」
礼儀正しく一礼。
ゾルフはわざとらしくウムと鷹揚に頷いた。
この場には俺とゾルフの二人のみ。
他は一切の邪魔が入らないよう広く空間を設けてある。
結構激しい動きでもするのだろう。
ちなみにエラメリアは荷物番兼”遠目からゾルフの監視”を行っている。
エラメリアが見ていない間にゾルフが変な事をしないか恐れたらしく、常に見張っているみたいだった。
俺が近くにいるんだからゾルフが何をしようとしてもすぐ止められると思うんだけど・・・。
一体何を危惧しているのやら。
話を戻そう。
さて、剣術の生業や初心者の立ち回りなどの基本的な事はエラメリアから聞いていたので、さっそく技の繰り出し方について教えてもらう。
だが初心者とはいえ、二人が俺に求めている動きは少しランクが高いものであるようだった。
ゾルフはその分難しいことを教えると言っていた。
キツそうだったらレベルを下げるとも。
もちろん、彼らの期待に応えるべく生半可なことは絶対しないつもりでいる。
気合と覚悟は充分整った。
聞き漏らしたりすることがないよう、気を引き締めていこう。
まずはゾルフがお手本を見せ、俺がそれを真似ていく流れで進行する。
反復練習をして体幹と効率的に技を繰り出せる筋肉を養うことが目的らしい。
あえて複雑で緻密な動きは練習せず、実用的かつ強力な型を身に着けることを第一目標とした。
そのためには激しい動きについて来られるような体を作り慣れさせることから始める。
そう簡単に事が運ぶだろうかと不安に思ったが、普通だったら数年単位で形成される肉体も、俺なら半年もあれば相応の肉体は出来上がると言っていたのでそのあたりの心配は大丈夫だろう。
なんでも、俺の肉体は進化速度が速いらしい。
数少ない利点だ、しっかり活かしてこう。
まずゾルフは、先ほどのエラメリアの動きを再現するしようとした。
これからやるもう一歩先の剣技と比較しやすくするためだ。
エラメリアは俺に技を教える際、水の像を作るなりして仮想的なシチュエーションを用意してくれていた。
ゾルフは一体どんな魔術を魅せてくれるのだろうか。
やっぱりレベルアップとかして実際に動く動物とかかな。
わくわくした気持ちで見守る。
・・・が、期待に反して特に仮の敵を作ったりすることなく、ゾルフは片手で剣の感覚を確かめていた。
いやまあいいんだけどさ。
俺がちゃんと見ているのを確認すると、ゾルフは右足を半歩前に踏み込みつつ剣を前方に突き出しながら口を挟む。
「さっきエラたんのが言ってた動きがこれ」
びゅっと風を切る音とともに放たれた剣は、確かな重みをもって空を切り裂く。
何もないはずの空間が、質量をもっているかのような音色を奏でた。
しかも突き抜いた剣はそのまま止まることを知らず、次の一撃へと流れを変化させる。
エラメリアのモーションとは多少違うものの、確かにスピードや身のこなしはなんとなく似ているでもない。
なめらかな踏み込みに見惚れる。
再び半歩踏み出すころには新たな斬りこみが放たれようとしていた。
先ほどよりもわずかに低い音を発する剣。
今度は肝が冷える思いを感じる。
しかしその間も彼の腕は待ってくれることは無い。
当然その斬りこみするらも次の一手へと繋がっている。
ひとつの動作を脳が理解したころには既に新たな斬りを放っている最中だった。
じっと目で追っているとだんだん頭が痛くなってくる。
斬る、流す、また新たに斬る、を繰り返しながらゾルフは淡々と歩を進めていった。
そしてじわじわと前進しながら、それでも一歩を踏み出す度に的確な一撃を加えていく。
一つ前の技の力を加算していくように、実際どんどん威力は高まっているように思う、重く速い追撃を繰り出す。
それら一連の流れにはまさに踊っているような、舞踏を見ているような気にさせられる。
思わず感嘆のうめき声が漏れてしまった。
実際正直な感想、エラメリアよりよほど洗練された動きをしている。
流石国に抜擢された剣士(?)だけはある。
ぼーっと見ている間にも彼は技を重ねていく。
俺はとっくに目で追うのを諦めていた。
そして数回その動きを連ねると、キリのいいところで剣を収めた。
そこまでが一つの作法であるかのような立ち振る舞いだ。
恐らく彼にしてみれば、適当に技を繋げただけに過ぎないのだろうが。
一息ついてクルッとこちらに振り向くと、「だけどこれじゃあ遅い」とコメントする。
「いや”遅い”って・・・この上ないスピードだったじゃないか。ぶっちゃけ、俺にそれより凄いのを求めてるなら半年やそこらじゃ絶対無理だ。今のゾルフの動きを再現することだって不可能だと思う」
「うんにゃ、それはステフが自分の力を知らないだけだ。ステフには確かにそれが可能な力が存在しているはずだぜ。今はまだ眠ってるけどな。でもいずれ、開花する」
ゾルフの物言いには強い確信が込められていた。
神業とまで言える剣技を披露した彼に褒められたこと自体は嬉しいのだが、流石にここまでの言われは無いだろう事は自分でもわかる。
さっきエラメリアに見せた時のように、スピード云々かんぬん以前に俺は力のいなし方をよくわかっていない。
それもそのはず、生まれてこの方剣といった類のものを振り回したことが無いのだ。
瞬間ごとに体を移動する重心を、制御以前に認知することすら難しい相談であった。
むしろゾルフの発言は俺を適当にほめ褒めまくってやる気を出させようとしているようにしか思えない。
そんな子供だましに引っかかるほど俺も馬鹿ではない。
「エラといいゾルフといい期待値が高すぎるって。いくら筋肉の発達が良くても、型がなってないから前提として難しいだろ。どっかの流派とかから学んだ方が絶対早い気がする・・・」
「他のじゃかえって邪魔になる。ステフの体の成長速度はかなり特殊だ。それは木登りをしている間にも薄々気付いていたんじゃないか? いつ頃から始めたのかは知らないが、あんなにするする登れるようになったのもすぐのことだったろうよ」
言われて思い出す。
そういえば、最初に木に登り始めてから五日と経たぬうちに俺は完全に会得してしまっていた。
だがアレはただ単に効率的な登り方、例えば足のかけ方なんかを覚えただけの様な気もする。
そう思ってゾルフに打ち明けてみる。
しかし依然として彼は考えを改めることは無かった。
むしろ裏付けを取ったと言わんばかりの顔で説明を重ねる。
「それもステフ自身の学習能力が高いからだともうぜ。確かにそのくらいの年なら木登り程度ならちゃちゃっと出来るようになるかもしれん。だがステフの場合、もっと極端に、筋肉の動かし方から無駄を省いて行っている。最低限の力で木に登る方法を知らず知らずの内に学んでいたんだろうな」
なんだかそう言われると俺がかなり凄い奴のように思えてしまう・・・。
うーん、でも確かに無意識のうちに楽々木登りは出来るようになっていた。
もしかして俺って運動神経良かったのかしらん。
・・・あーでもゾルフの言い方からするとこの身体のお陰なのか。
ちと複雑だな。
ちょっと混乱して反応が鈍ってしまったのを肯定と捉えたのか、ゾルフは次の動きの説明へと移っていく。
「まあその辺は考えたって仕方ねえよ。とりあえず言われた通りやってみな。それで出来るかどうかもっかい自分で認識するんだ。なんでも手を付けない事には始まんねえだろ?」
「うん、そうだな。じゃあやってみるか。ゾルフ、例の俺が出来るようにならなきゃいけないやつを教えてくれ」
「よし来た。その意気だ」
ゾルフはニヤリと笑ってそういうと、俺が見やすいように位置や角度を変えつつ剣を構える。
丁度斜め前からゾルフを見ることが出来る立ち位置だ。
心を落ち着けるべく、ゾルフは静かに瞳を閉じている。
そして数度深呼吸をすると、ゾルフは目をしっかりと見開いた。
瞬間、彼の体からは闘気とも呼べるような、視認できない圧に見舞われる。
事実これは比喩では無く、俺の頬が強い風に当てられたような震えをみせた。
彼の未だ見たことが無い本気の気迫に圧倒される。
うっかり声が上擦ってしまった。
ゾルフは剣の重みを確かめるように、柄の部分をコロコロ手で弄びながら俺に声を掛ける。
「まあまあ疲れるし一回しかやらんからな。ちゃんと見とけよ」
「あ、ああ」
「よし、じゃあ行くぜ・・・ラァッ!」
この日、俺は初めてゾルフという剣士の本気を見た。
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