終喰活慟(しゅうしょくかつどう)~神奈川奪還編~

武沢孝二

第終活 典蜀(てんしょく)

視界が次第にハッキリとし、目は周りの景色を見せ始める。
「……こ……ここは……どこだ? 職安のはずだよな?」
そこはまるで廃墟の様だった。
突火区の職安だった場所は、端末だけを残し建物は倒壊している。
「なんなんだよ――これ!?」
「……とりあえずみんなを探しましょう!」
現状に理解出来ずにいる俺に、カルラは冷静になるように諭す。
一歩足を前に踏み出した。
辺りはかすみがかった様に視界を遮っている。
――すると瓦礫の山に人影が見えた。
「――誰だ!? 仲間か!? それとも……」
この状態、今の現状、かなり注意深くなる。
「私ですよ、私。もうお忘れですか? 支部長さん」
「御堂条!!」
現れたのは紛れもなく御堂条影時だった。
「みんなはどこだ!? この状況、どうなっているか教えろ!」
「なんです? その乱暴な言い方は。本社で何かありましたか?」
そう言いながら彼は、俺たちに歩み寄ってくる。
何か違和感があり、
「――ちょっとそこで止まれっ!!」
制止させ、彼の腕に注視する。
「? どうしました? 何をそんなに警戒しているのか分かりませんが」
「……右腕はどうした? なぜ元に戻っている!? ジュディスの脳力でも腕を再生する事は出来ないはずだ!!」
「……ふ~。戻って来た瞬間にれると思ったのですが……残念」
「な……んだと!?」
御堂条の言葉に驚きを隠せない。
「ねぇ――みんなはどこ!?」
カルラが語気を強めて聞く。
「あ~、皆さんならすぐ傍らに転がっているじゃありませんか」
「――!? どこに…………っ!!」
完全に靄が晴れ、視界が戻った時に分かる。
自分の周囲に仲間たちが倒れている事に。
「てめぇー、何しやがった!!」
「何って見れば分かるでしょう? 寝ているのか、はたまた死んでいるのか。確認してみては如何ですか?」
その言葉と同時にカルラが一番近い海道のもとに行く。
指先で首の脈を計る。
さらに彼の隣に横たえている美琴にも触れた。
俺は御堂条を警戒しつつも、カルラの方を注視する。
「…………」
彼女はうつむき首を横に振った。
「くそっ! お前何をした!?」
「何を――ですか……邪魔だからではダメですか?」
「邪魔って……同じ地球人だろうが!! 仲間じゃないのかよ!!」
「それは違いますね。間違っています。そもそも私は地球人ではない」
「!? そんな。今まで俺たちと一緒に闘ってきたじゃないか! それにセオの事とか俺たちの事とかも詳しく知っていたし。何よりあのセオが作り出した本社の空間に入れたじゃないか! 地球人じゃないのに何で入れたんだ!? 見た目だって――」
「ああ~もういいじゃないですか――面倒くさい人ですね支部長さん」
「なんだと!?」
「教えますよ。私が何故あの空間に入れ、全ての情報を知り、尚且つ皆さんの事が分かっていたかを」
俺は固唾を飲んで聞いた。
「私の正体はプロトポロス人です。脳力は擬人化――言わばあらゆる物にコピーする事が出来きる脳力です。ここまで言えば大体の察しはつくのじゃありませんか?」
「まさか……コピーしたのは――セオか!?」
「そうです。あの老人です。ですがあのままの姿でコピーしたら同じ人間が二人いる事を他の人間に気付かれてしまいますからね。外見だけ、彼が若かった時の年齢まで戻しました。あと、あなた達に付いて行ったのはただの観察ですよ。地球人がどのような行動をし、どのような戦い方をするのか――興味本位です。そもそも主任なんて役職はない」
「……なるほど――だから喋り方や雰囲気がセオに似ていて、尚且つ色々と情報を知っていたのか」
「そういう事です」
「だがお前ら種族の正体と脳力が分かったからには、次の会議で報告させてもらうぜ!」
「それは無理でしょう。……支部長さんと秘書さんにも、この場で死んでもらいますので」
「大した自身だな! カルラと俺の脳力を見ていただろう」
「ではあなた方も私の脳力をグリフォスで見ては如何ですか?」
そう言われ、俺は耳に付けている装置のボタンを押した。
「……グリフォス、サーチ!」
“ピピピッ…… ”
《ランクΩ 戦闘力A 戦闘脳力A》
「うそ――だろ……」
「どうしました? 先程の威勢は何処に行ったのやら――ふふふふっ」
「お前……何なんだよ!」
「ま、死に際に教えてあげてもいいでしょう。私が神奈川を支配している指揮官です」
「なっ!!」
あまりの事で、俺は胸にハンマーを叩き込まれたような衝撃を受けた。
「隙だらけだな~、支部長さんは――」
いつの間にか眼前に迫っていた御堂条の、強烈なボディーブローが俺の腹をえぐる。
「――がはっ!」
吐血と共に俺の体は膝から崩れ落ちた。
「くらえっ!」
瞬間カルラが俊敏な動きで御堂条に迫り脇差を振り下ろす。
それを指先一本で受け止められる。
だがなおも彼女は怯まず背後にまわり、首筋に延髄蹴りを放つ。
相手は瞬時に体を反転させ、彼女の足首を掴んで受け止めた。
「足癖が悪いですね~。秘書さん――」
そう言うと、彼女をそのままアスファルトに叩きつける。
“ダンッ ”
地面が揺れるほどの衝撃が波のように俺へと伝わってきた。

「カ、カルラ……」
“ドクンッ ”
全身に力が込み上がる。
(寿命を気にしている場合じゃない!!)
「こい! 五刀!!」
五振りの刀が自分の周囲を回転している。
「くらえっ!!」
刀は一刀ずつ御堂条めがけ飛んでいく。
すると彼はニタリ顔で、
「私はあなた達の闘いを間近で見てきた。今更そんな物効くわけがないでしょう」

“バキンッ! バキンッ! ”
折れた切っ先が地面に突き刺さる。
「そ、それは……」
彼の腕には間藤のトンファーが握られていた。
「これは戦利品ですよ。さらに強化脳力もコピーさせて頂きました」
“シュン、シュン、シュン、シュン ”
自在にトンファーを振り回しながら近づいてくる。
「さぁ、どうしますか!? 支部長さん」
(くそっ!! コイツが指揮官なら――せめて相打ちでも)
セオに内緒で俺はLCを一粒だけ隠し持っていた。
それを強く握り締める。
「ほう、相打ちでも狙っての行動ですか!? それならやめた方がいい」
「あ!? 今になってビビったか!?」
「いえいえ――そうじゃありません。私も忙しいのですよ。なにせ関東地域の統括者でもありますから」
「統括者!?」
「そうです――関東全域を指揮しているのは私です。なのでこのような場所でのんびりもしていられないのですよ」
そう告げたあと御堂条は指を鳴らす。
“パチンッ ”
すると彼の背後から人影が姿を現した。
その影がハッキリと分かった時、俺の戦意は空を彷徨う。
「……トモ……ミ!?」
俺の彼女が白目を剥いて立っている。
「もしかして……か……彼女……さん!? そんな――」
カルラが渾身の力を籠めながら起き上がった。
「トモミ……俺だよ――孝、分かるだろ?」
「…………」
返事はない。
「ゴメン!! 助け出すのが遅くなって――」
“!! ”
何かが俺の頬をかすめ、血が滴り落ちる。
トモミの方を見ると指先がこちらへと向けられていた。
「――孝……彼女さんは……もう」
「うるせぇー!! ……そんなこと……そんなことあるわけ……」
“スパッ ”
なおも外傷は増えたが、最早痛みは心へと移り悲傷に打ち沈む。
「では私はここら辺で――あとは頼みましたよ。ト・モ・ミ・さん」

「――御堂条――――――――――っ!!」
憤怒の怒号はすでにいない人物へと放たれた。

「トモミ……目を覚ませ……たのむ」
俺の言葉が聞こえたのか、彼女の体がピクリと動く。
すると片方の白目がくるりと反転し、黒目が覗いた。
『孝……孝ちゃんナノ? ワタシはどうしてシマッタ…………ワカラナイ』
「!! トモミ……しゃべれるのか!? 強化人間との会話――兄ちゃんの時と一緒だ」
「――ねぇ孝! もしだけど……言葉が話せるレベルっていうことは……お兄さんと同レベルなんじゃ」
いつの間にか背後にカルラがいた。
「カルラ、大丈夫か!?」
息も絶え絶えのカルラを心配しての言葉だ。
「私より彼女さんの方でしょ!? どうするの!?」
「どうするもなにも…………彼女に敵意があるのか――」
「あるでしょ!! 現に孝は傷だらけだよ……敵意がなかったら……そんな事はしないでしょ!!」
俺はカルラが放つ言葉の語気に気圧されそうになった。
「救う方法は――ないのか……」
「……」
二人の間に沈黙が流れる。
その間もトモミは体をカクカクと小刻みに揺らしながら、片方の黒目で俺らを見ていた。
“ガタっ ”
突然の物音に否が応にも体が音の方向へと反応する。
「あ……あんちゃん――カルラちゃん」
《!! 剛田さん!!》
二人の声が重なった。
「生きていたのね……よかった」
その言葉と同時にカルラの目からは涙が流れ、走りながら軌跡となって落ちていく。
「大丈夫!?」
「ははっ……大丈夫に見えるかい?」
剛田のオヤジは頭から血を流し、かなりの重傷だと容易に分かった。

そして剛田のオヤジはカルラに肩を抱えられ、なんとか瓦礫の中から救出される。
「あいたたたたたっ!」
「大丈夫――致命傷になる傷は無いわ」
「そりゃよかったわい」
「でもなぜ御堂条さん――っ、御堂条に殺されなかったの!?」
「へへっ、ワシの脳力は透明化だよ」
「透明化!?」
「そうなんだ。情けねぇ~話だが、みんなが殺されていた時に防衛反応か何かで無意識に発現したらしい。姿を透明に出来るから気付かれなかったんだろうよ。アイツも何も出来ないワシの存在など忘れていたんだ」
「いい脳力ね」
「カルラちゃんに言われると何だかうれしいね~」

そんな二人の様子を気にしながらも、俺はトモミから目を離さなかつた。
(兄ちゃんの時と同じならある程度は会話が出来るはず)
「トモミ、一体何をされた!?」
『……』
カクカクとした動きは止めず、目の焦点は合っていない。
「……だめ――か」
そう言った時、不規則な小刻みが止んだ。
『孝ちゃん……ナンデ……たすけ……てクレナカッタの?』
「そ……それ――は」
『ずっと……ずっと待ってイタのに』
「ごめん! ホントにごめん!!」
『……でも会えたカラ……もうじゅうぶん』
「え!?」
「――あ~~~~っ!!」
突然剛田のオヤジが大声をあげる。
「何!? どうしたの!? 剛田さん」
カルラはビックリして尻もちをつきながら言った。
「肝心なことを忘れてた!! 敵はもう一人いるっ!!」
その言葉と同時にトモミの後方から鋭利な物が飛んでくる。
「あぶない!!」
俺はトモミに抱きつくと倒れながらそれを避けた。

『チッ! 役立たずの爺さんが一匹いないと思ったが……、まさかその爺さんにいい所を邪魔されるとは。それにこの使えない機械人形』
「誰だテメェーは!!」
『オレか? オレは――あ~……御堂条だっけか!? 今のアイツの名前は。とりあえずそいつと同種族のプロトポロス人だ』
そう言いながら歩み寄ってきた敵を見た時、ある事に気づいた。
「お前は――天童子!!」
ドレッドヘアーが特徴の仲間だった男だ。
「でも……最初の山人市の職安で死んだはずじゃ――っ!! そうか!! 擬人化、コピー脳力か」
『ご名答』
そう言いながら拍手をする敵を目の前に、怒りが湧いてくる。
「――っざっけんな!!」
一刀を相手めがけ放つ。
だがその一刀は相手に当たる瞬間軌道を変え、はるか彼方へと消えて行った。
「なっ!!」
『ふははははっ! 残念だったな。コイツの脳力は念動力だ』
「念動力!?」
その言葉にカルラが反応する。
「念動力は物体を自在に操る力。だから孝の刀も自在に操れる……」
「なんだそりゃ!! じゃー俺の具現化した刀はヤツに通じないのか!?」
『心中察するよ』
ケタケタとあざ笑う敵に憤りがこみ上げてくる。
「二刀は御堂条に折られ、一刀は消えた……。残りは手に握っている二振りのみ。投げつけは通じない――なら」
状況を瞬時に判断し、相手へ向かい俺は走った。
『ふっ、投てきは通じないからと玉砕覚悟で向かってくるか!』
敵も大鎌を掌から具現化する。
「――ソフォスの大鎌か」
お互いが攻撃範囲内に入った瞬間、激しい火花が散った。
二刀流で攻撃する俺に対し、大鎌で応戦する敵。
接戦かと思われた鍔迫り合いも、なんとも呆気なく終わりを告げる。
“グサッ ”
鎌の切っ先が俺の左肩を貫いた。
「ぐわーーーー!!」
絶叫が荒廃した地に響き渡る。
『これで幕切れですか――なんともつまらない』
激痛で転がる俺を見下しながら放つ冷徹な言葉が心をも突き刺す。
「あんちゃ~~~~ん!!」
嬉しくもないオヤジの言葉が今はやけに愛おしく感じる。
その時、敵の頭上に人影が現れた。
――カルラだ。
「くらえっ!!」
歪みを帯びた脇差が相手の耳を剥ぎ取る。
『くっ!! 小娘いつの間に――』
なおも切っ先は目にも止まらぬ速さで敵の四肢を切り裂く。
『なんなのだ……この力は』
(――何かおかしい)
俺はカルラの体の違和感に気付いた。
彼女の体は赤みを帯び、周囲には歪みが出来ている。
(もしかして!!)
すぐさま自分のリクルーツの内ポケットを手探りで弄った。
(ない!! 一錠だけあった――LCが……)
やられた! と思った。
いつ取られたかさえ分からない。
命と引き換えの一錠。
それを彼女に持っていかれていた。
つまり今、彼女は自分の命を賭して戦っている。
「こんな……こんなの望んじゃいない!!」

『――いいかげんにしろっ!!』
敵の左拳がカルラの鳩尾に深く食い込む。
「ぶはっ!!」
相当量の吐血が乾いたアスファルトに滴る。
さらに敵は倒れそうなカルラの髪の毛を鷲掴みにした。
『このクソ小娘がっ!! よくもオレ様の体にキズを付けてくれたな』
大鎌は形状を剣に変え、カルラの首筋に突き立てる。
『貴様から殺してくれるわ!』
「待て!! やるなら俺を先にやれっ!!」
左肩を手で押さえながら俺は立ち上がる。
『……殺す順番はオレ様が決める。一番目はこの小娘――次にオマエだ』
言い終わると剣を構えていた腕に力が入り、カルラの首からは血が流れ落ちた。
その時である。

――それは刹那の出来事。

天童子、いや――プロトポロス人の剣を構えていた手首が千切れ飛ぶ。
さらにカルラを鷲掴みにしていた手首も切断された。
なにが起きたのか把握できない。
カルラは宙を浮いているかのように敵から遠ざかっていく。
そして地に体が着くのと同時に剛田のオヤジが現れた。
「剛田さん!!」
だがそれで終わりではなかった。
剛田のオヤジは俺の顔を見ようともせず、ただじっと何かに耐えるかのように、目を閉じ俯いていた。
「――孝ちゃん」
(!?)誰かが俺を呼んだようなそんな気がし、声のした方を見る。
そこにはプロトポロス人にしがみつくトモミがいた。
『なんの真似だ!? この機械人形――』
「――バイバイ」
声となっては聞こえなかったが、唇の動きでそう言っているのが確かに分かった。
「な……何を……やめ――」

猛烈な爆風が目の前で発生し、猛烈な火柱が上がる。
近くにいた俺はなんとかリクルーツと咄嗟の防御反応でダメージを防げた。


目を開けると土煙と残り火で眼前に何が起きたのか把握できない。
その時、ゆっくりと人影がこちらに向かって歩いて来るのが分かった。
剛田のオヤジだ。
「あんちゃん――ごめんよ。ワシは反対したんだ。彼女さんが自爆するのを」
「――!? 自爆!? 何を言っているんですか!?」
「カルラちゃんが戦っている時に、ワシの元へ彼女さんが来たんだ。そしてこう言った《私の体には自爆用の爆弾が仕込まれています。強化人間は所詮アイツらの捨て駒――だからそれをアイツに返す。……孝ちゃんの事、よろしくお願いしますね》と。そこでワシが透明化の脳力を使った。透明化はワシに接触している物も対象に出来るんだ。だからワシと彼女さんで近くまで行き――あとは見ていた通りだよ」
「……そっか……トモミは完全に元の自分を取り返していたんだな」
そう言いながら俺の右目からは一筋の涙が流れた。

「そうだ!! カルラは!?」
「カルラちゃんなら大丈夫だよ。気を失っているけど――」
剛田のオヤジが言いかけた時、急な突風が吹いた。
それは土埃などで見づらかった周囲の景色を一気に見せる。
「あっ…………」
剛田のオヤジの顎がガクガクと震えている。
「どうしました!?」
俺は目線の先をたどった。
『く……くそっ……なんでオレ様がこんな……ことに』
生きている。
そして天童子の姿を保てなかったのか、プロトポロス人の本来の姿であろう銀色の裸体が露わになっている。
筋骨隆々のたくましい巨躯、よほどこちらの方が強いであろうかと思うほどだ。
『機械人形ごときに……こうなるのだったら早めに自爆させればよかった……』
「あわわわわっ!! あんちゃん……アイツまだ生きて……」
『ん!? まだいたか……クソ人間どもめ……待っていろ、今殺してやる』
「……トモミの命を」
『機械人形の事か!? 無駄死にだったな――ははははっ』
「無駄死に!? いや、そうじゃない。……お前――もう死んでるぞ」
『……バカなことを。気でも触れたか!?』
俺は人差し指を敵に向けた。
『なんの真似だ!?』
その指をくいっと折り曲げると、
“キンッキンッキンッキンッ ”
遠くから金切り音が聞こえてくる。
『なんの音だ!? これは!?』
「お前の元に死神がやってくる音だよ」
それはこの天童子に化けた敵が、俺の武器を弾き飛ばした一振りの刀。
それを俺は内に秘めた自分の念動力を使い、呼び戻している。
『なんだ!? どこからだ!?』
敵は狼狽えている。
それもそうだろう、トモミが命を賭した一撃は土埃と炎を生み出した。
一瞬の突風で飛ばされはしたが、それでも視界はまだ周囲10メートルほどだ。
刀が姿を現し、俺の元へ戻るのはほんの一瞬。
その延線上に敵はいる。
トモミの死は無駄ではない。
そう思い知らしめてやりたかった。

“スパンッ ”
敵の胴体は肩から真っ二つ、袈裟切りに引き裂かれる。
『グガッ!!』
その上半身からは、か細い叫び声が聞こえた。
そして呼び戻した刀を俺は強く握り締める。

「お……終わった……」
小さく囁くと具現化した刀はスッと消えた。

『ふっ……まさかこのオレ様が……貴様らにやられるとは……ハロスめ……』
「ハロス? 名前……。――御堂条の事か!?」
『そうだ……アイツが選んだ人間をコピーしたが……わざと弱いヤツを…………でなければオマエらなんぞに負けは……しなかった』
「お前も御堂条に騙された――と言いたいのか!?」
『……』
問いた相手は、最早言葉を話す事のない躯と化していた。
「……御堂条――ハロス……か」
新たな目的が増えたと、俺はその名前を深く心に刻んだ。


その後カルラは意識を取り戻し、気絶している間の出来事を事細かく俺は説明した。
剛田のオヤジは横で何故か泣きじゃくっている。
恐らくトモミの事だろう――そう思った。
つられてか、カルラも同様に泣き出す。
俺はこれからコイツらのお守りをやらなきゃいけないのかと、少しだけ口角を上げた。

――それから数日、月一の全体会議のため三人は横浜の職安にいた。
そして俺とカルラは職安の端末に手をかざす。
振り返るとまた剛田のオヤジが涙を浮かべている。
「剛田さん、すぐ戻りますから」
「うんうん。あんちゃん、カルラちゃん、待っとるよ」
俺とカルラは笑みで応えた。
――瞬間、光が二人を包む。


三人は分かっている。
これから待つ壮絶な戦いが待っている事を……。

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