月物語

石原レノ

蝶の章〜気づいた思い〜

「さぁ皆!とうとう本番の日だよ!今まで通りやって行けば大丈夫!演劇の人達は接客の私達がサポートしよう!」
「「「おー!」」」
文化祭当日。この日のために練習してきた演劇組は少々緊張気味である。その中に有希太も含まれていた。俺も心配になり、
「大丈夫か?」
と声をかけるがどうも緊張とはまた違うような気がした。何かを決断したような顔をしている。
「帝、ちょっといいか?」
「いいけど、、、どうかしたのか?」
いつにも増して真剣な表情をしている有希太に少々不審感を覚えるも有希太について行った。
「ここならいいかな、、、」
「どうしたんだよこんな所に呼び出して」
俺がそういうと有希太は真面目な顔をした後深呼吸をして俺の目をまっすぐに見つめる。
「、、、お前、、竹中さんのこと好きだろ」
「っ!?」
突然の問いかけに思わず耳を疑ってしまう。いや、この時有希太に言われてまず俺は口籠もってしまう
「、、、、、、」
俺は気づいていたのかもしれない。ただ今までに体験したことがなくてそれを無意識に別の感情だと思い込んでいたのかもしれない。
有希太に今こうして言われ、やっと学んだこの感情は新鮮で、同時に心の中がもどかしくなった。
俺が言葉を失い黙り込んでいると有希太は深いため息をついた。
「やっぱりそうなんだな、、、全く、、、」
今の今まで真面目な顔をしていた有希太が一変していつもの明るい表情をあらわにする。
「お前、俺と役変われ」
「、、、は?」
有希太の唐突に発せられた提案に思わず情けない声が出てしまう。
「お前がそういうことなら俺はお前を助ける。俺だって嫌だしな。好きな人が演劇とはいえ他の男と恋に落ちるなんてよ」
「で、でもお前、、、あんなに喜んでたじゃないか、、、そんな、、俺のために」
「ばーか。そういう事じゃないんだよ、、、ただ俺は、、、」
今俺が見ているのは、、、いつもの有希太の満面の笑み。否、いつもよりも深い最高の笑った顔だった。少し、無理をしているような、、。
「竹中さんに幸せになって欲しいからさ!」
あぁ、そうだったんだ、、。
俺は目から涙が出てきそうになってきた。自分の親友のために好きな人を諦め応援してくれようとしている。この男は、、、
「でも、、有希太、、」
「うるせぇな!早く行けよ!」
「っ、、」
声を荒らぎ上げ怒りをあらわにする有希太に言葉を失ってしまう。有希太は深呼吸をした後悲しい顔をしながらこっちを見つめる。
「俺は竹中さんが好きだった。でも、、竹中さんはお前が好きだった。それだけだ。竹中さん、演劇の練習してる時いつもお前のこと心配してたんだぜ?極めつけはこの前の放課後だよ。そこで確信した。お前達は両思いだ。俺は両思いの男女を荒らすような悪趣味は持ってない」
「まてよ、、、それじゃあ俺は」
「いい加減にしろよ。これ以上俺の決断を馬鹿にするな、、、、、良いんだよ、、、お前は、、、あの子を幸せにする資格があるんだ、、、だから、、、」
この時俺は有希太にどんな顔をしていただろうか、、、きっと涙が滴っていただろう。情けない顔をしていただろう。有希太だってそうだ。涙を浮かべ強がるあいつの顔は本気の怒りと同時に本当に応援してくれているのだろうと実感出来る顔をしていた。無理に笑い顔を作り、俺に有希太はこう言った。
「野暮な真似するんじゃねぇぞ」

「え?有希太君体調崩しちゃったの?」
「ごめん、、、朝飲んだ牛乳が当たったみたいで、、、帝代わり頼む、、。」
心が痛む、、、だが、親友の必死のサポート、決意を無駄にはできないと今の俺はそう思っていた。有希太には本当に感謝している。俺の感情に気が付かせてくれたこと。俺の恋を応援してくれること。有希太がいたから今の俺はこう言えるんだ、、、
「おう、まかしとけ!」

いつからだろう、、、この子といて楽しいと思ったのは、、、

「御門様、私はもう行かなくてはなりません」

いつからだろう、、、この子のことを考えると胸が締め付けられるように感じたのは、、、

「輝夜!待ってくれ!私はまだ」

いつからだろう、、、この子が好きになったのは、、、

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