月物語

石原レノ

華ノ章〜出会い〜

「、、、、」
夏場の蒸し暑さが俺の額にしずくを滴らせ、俺の意識は覚醒する。もう何度目だろうか、この夢を見るのは、、、姿も景色も何も見えない。声が聞こえるだけのその夢はいつもここで終りを遂げ、そして俺は目覚める。
「ふぅ、、、またか」
夢のことなど気に止めることも無く俺はベッドから体を起こし支度を済ませる。あと数十日で夏休みとなる中、学校というものは試験というものを出してくる。だが、それも終わり今日から終業式までは何も無い。
俺としては早く夏休みに入って欲しいのだが、俺の願望だけではどうにもならない。
「おはよう。母さん」
「おはよう!みかど!早くご飯食べちゃいな!」
朝から蒸し暑いとも構わず、うちの母は元気が有り余っている。
母子家庭のうちは母が沢山頑張ってくれているおかげでなんとかここまで生活できてい
る。俺自体反抗期もなくここまで成長したらしく、育てることで困ることは無かったようだ。
俺の住む大海家は父親を俺が幼い時になくし、それから母親と俺の二人暮らしで生活している。さっきも言ったように、俺自体そんなに問題を起こすこともなくここまでやってきた。最近はバイトをして手助けもしている。親孝行はするべきだと思った。
「ごちそうさま。じゃあ行ってくるよ」
「お!行ってらっしゃい!頑張ってこいよ!」
出された朝食を素早く食べ終わり早歩きで玄関へと向かう。いつもの光景に俺は動じる様子もなく早々と学校へ向かった。

「おはよう帝!今日も暑いよな!」
教室につくと早速クラスメイトが挨拶をしてきた。
「おはよう。確かにそうだよな。暑くて汗かいてたしよ」
俺が学校について時計を調べるとあと数分でチャイムがなる時間になっていた。このあとは別に用事もないので俺は席につき窓から外の風景を眺めていた。
別段何かあるわけでもない普通の田舎にあるこの学校は、生徒数も少なく、クラスの数も二つしかない。俺はそんなこの田舎が好きだった。小さい頃から遊び回ったこの畑道や山が俺は懐かしく、時々寄ったりもしている。
案外俺は幼いのかもしれない。この田舎をただずーっと好きでいられる。それが今の俺には幼いことだと思えてきた。
「皆おはよう。さてホームルームを始めるぞ」
懐かしい思い出に浸っていると担任教師が入ってきた。目線を窓から黒板の方へと向ける。なんとなく教師の顔がいつもと違うことに気がついた。
総務の号令で礼をすると教師が口を開いた。
「今日はこのクラスに新しく転入してきた人がいます」
そう言うとクラス中がざわつき始める。そんな生徒達を見ながら教師は扉の方へ行き外で待っていたであろう転入生を引き連れてきた。
「………………………………」
ざわついていたクラスの音が止む。時間が止まったような光景に誰もが絶句した。
長く伸びた黒髪に凛とした黒眼。肌は白くその美貌が明らかになっていた。
一言で言うと綺麗。それだけでこの少女のイメージを表現するには十分すぎた。
「竹中輝夜といいます。最近両親を病気でなくしてしまい、祖父母に預かってもらうことになり、ここに転校してきました。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
輝夜と名乗った少女の声は落ち込んだような声で理由を聞いた途端クラス中はまたざわつき始めた。
「はいはい!あんまりざわつくなよ!皆今日から転校引越ししてきたばかりなんだから、道案内なり学校案内なりしておいてくれ!それと、竹中の席はあそこだから」
教師がした席に転校生が着席したのを確認すると、いつものように朝のホームルームが始まった。

「みろよ。あれが噂の転校生だぜ」
「可愛くない?めっちゃ可愛いじゃん」
転校生の噂はすぐに学校中に広まった。あの容姿だ、無理もない。
「帝はどう思う?」
ふと後ろの席から声がしたので振り返るとニヤニヤしながらこっちを見てくる男子生徒が1人。
伊部有希太いべあきた。ここにいるということはもちろん俺のクラスメイトで俺とよくつるむ友達である。小学校からの中で高校3年となった今までずっと同じクラスである。
「いや、どう思うと言われてもな、、さすがに今日初めて会ったわけだし」
「真面目かお前は、、、可愛いか可愛くないかを聞いてんだよ」
俺の真面目すぎる答えに有希太は顔をしかめる。仕方が無いのだ。俺はこういう性格なのだから。
でも、、、
「可愛い、、、かな」
と、言ってしまうほど彼女は綺麗だった。
「お!いつもは口をつぐむ帝が今回は答えた!こ、これは、、、」
わざとオーバーなリアクションをとる有希太にヘッドロックをかましてやる。すると俺のバックから1冊の本が落ちた。
俺のヘッドロックから開放された有希太がその本を拾い目を見開く。
「お、お前宇宙飛行士になるの?」
俺はそう言われると顔を赤く染めてしまう。
「いや、宇宙飛行士になるというか、月に行きたいというか、月が好きってだけで」
「へぇー帝がね」
「もういいだろ!返せよ!」
そしてまた俺達のじゃれ合いが始まる。これがいつもの光景であり日課だった。
ただ違ったのは、転校生が俺達の様子をじっと、見ていたくらいである。

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