ヒーローライクヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その5・トラウマの先に

[クロノ]
レギオンが投げた屋根によって崩れた建物へ向かう途中、こちらに向かおうとしていたレオとすれ違った。
クロノ「レオ‼︎」
レオ「お兄ちゃん‼︎」
クロノ「フレアとブランは⁉︎」
レオ「えと…ブランを2人で説得してたらいきなり診療所が崩れて…それで…」
どうやらいい感じに診療所にぶち当たったらしい。
クロノ「診療所に当たったのか。」
レオ「こっち‼︎付いてきて‼︎」
レオを追いかける。

思い切り崩れた建物にたどり着く。
クロノ「これか診療所か…!フレア‼︎ブラン‼︎」
フレア「クロノか⁉︎中だ‼︎」
建物の中からフレアの声が聞こえてくる。
建物に入っていくとフレアがブランを抱えていた。
クロノ「大丈夫か⁉︎」
フレア「ギリギリな‼︎なんなんだ一体⁉︎あの野郎もう町の中まで入ってきたのかよ‼︎」
後ろを見る。
レギオンが顔を抑えながらも地面に向かって拳を振り回しているのが見える。
クロノ「あいつが家の屋根に引き剥がして適当にぶん投げた先がここだったんだ。」
フレア「マジかよ…運が悪いにも程があるぞ…みんなは無事か⁉︎姉さんは⁉︎」
アクアは…
クロノ「あれ、アクアは第2陣にはいなかったぞ…?」
フレア「第2陣?なんだそれ?」
クロノ「3つの陣に分けて分担してヤツの迎撃にあたってたんだ。浜辺の第1陣、町の第2陣、外の第3陣、ってな。俺らは第2陣だったんだが、アクアはおそらく…第1陣だ…。」
先制の遠距離射撃の場所から離れていなかったなら自然とそうなる。
フレア「第1陣はどうなったんだよ…⁉︎突破されたからそこにいんだろ⁉︎姉さんは⁉︎」
クロノ「分からない…。」
フレア「くそ‼︎どうすれば…‼︎どうすれば…‼︎」
安否を確認しに行くしかないだろう。
クロノ「フレア、レオを連れて浜辺に行ってこい。ブランは俺がなんとかする。」
フレア「だけど…あぁ、くそ!分かった!頼んだぞ‼︎」
レオと共に診療所を出て浜辺へと向かう。

クロノ「ブラン。」
ブラン「…………」
ガタガタと震え、両手で頭を抑えてしゃがみ込んでいる。
クロノ「大丈夫か?立てるか?」
ブラン「ヤダ…むり…!」
クロノ「あれにトラウマがあるんだろう。戦えとは言わん。だがここは危険だから早く逃げないと…」
ブラン「でも…でも…!あいつを倒さないといけないのに…‼︎村のみんなの…仇を取るって決めたのに…‼︎体が動かないの…‼︎」
やりたいのにできない、ってか。
クロノ「あいつはもうあんなとこまで来てるぞ。どうするんだ?」
ブランが自分の肩越しにレギオンを見つめ、すぐに顔を背ける。
ブラン「ひ、ひ…やだ……ダメ…‼︎みんな…死んじゃって……ダメだよ……‼︎」
誰もいない方向に向かって話しかける。
なんかあったのか…
仇を取るとか言っていたから誰かを殺されたということなんだろうが…
それのフラッシュバックをしているって感じか。
クロノ「目を覚ませ!今はアウストールの診療所だ!あんたが見ている方向には誰もいない!」
ブラン「…‼︎………は…はぁ…‼︎」
クロノ「どっちかしか決められんぞ?あいつと戦うか、逃げて次の機会を窺うか。」
ブラン「そんなことしたら!みんな死んじゃうよ‼︎」
クロノ「じゃあ戦うか?」
ブラン「そうしたいけど…‼︎そうしたいけど…戦いたくない…怖い…」
クロノ「どっちかを決めるんだ!この町に来た傭兵達は何人も逃げ出した。ヤツに恐怖を感じて耐え切れなかったんだ。ヤツから逃げるのを臆病だと言うつもりはない。だがいつまで経っても答えを出さないでウダウダ悩むのは許さんぞ。そうしている間に今町で戦ってる奴らが死んでいってしまうかもしれない。」
ブラン「やだ…‼︎でも…ダメ……ダメ……‼︎」
クロノ「早く決めてくれブラン…どっちなんだ…?」
ブランがまた自分の後ろにいるレギオンを見ようと、顔を上げる。
ブラン「危ない‼︎」
クロノ「へっ?」
後ろを見る。
一瞬だけ、ものすごい勢いで何かが飛んできているのが見えた。
デカイ瓦礫の塊か何かがこちらに向かってすごいスピードで目の前まで迫ってきている。
クロノ「うおお‼︎」
瓦礫が体にぶつかる。

と思っていたが、何ともない。
目を開ける。
ブランが片手を突き出して立っていた。
埃が舞い上がり、辺りには小さく砕かれた瓦礫が転がっている。
ブラン「はぁ…‼︎はぁ…‼︎」
クロノ「助けてくれたのか…」
ブラン「大丈夫⁉︎クロノ‼︎」
クロノ「あぁ、俺は大丈夫だ…。」
ブラン「良かった…‼︎」
クロノ「……ちゃんと動けるんじゃん。」
ブラン「えっ?」
クロノ「怖くて動けないとか言ってた割には、すごい速さだったじゃん。」
ブラン「それは…‼︎クロノが危なかったから…‼︎」
クロノ「目の前に危険が迫ってる人がいれば恐怖も全部捨てて立ち向えられるってことだろ?」
ブラン「…昔みたいに…目の前で人が死んじゃうの見たくないだけで…」
クロノ「なら、今自分がどうすればいいか分かるか?逃げるか、奴に立ち向かうか。」
ブラン「私は…戦う‼︎怖いなんて言ってらんない‼︎今は怯えて動かないなんて場合じゃない‼︎」
その脚は震えているが、少しでも心は前進したようだ。
クロノ「フレアに勇気付けられた方がブランにも良かったかもしれんが」
ブラン「フ、フレアはか、関係ないでしょ⁉︎」
図星か。
クロノ「あいつはアクアの安否を確認しに行った。レオが付いていってる。俺らはレギオンの方に向かうぞ。」
ブラン「うん…フレアがちゃんと帰れる為にも、勝たなきゃ‼︎」


レギオンと戦っていた場所に戻る。
自分がレギオンと戦っていた時と場所は全く変わっていないが、人数が少なくなっている。
2桁いるかいないかだ。
近くで傭兵が壁に背中をつけ、膝を立てて座っていた。
身体中血まみれになっている。
弓兵「おお、勇者君じゃん…。人助けは済ませたのかい…?」
クロノ「あんたあの弓使いか‼︎大丈夫か⁉︎」
弓兵「全然…。体ん中メタメタ…。」
クロノ「なんでこんなに人少なくなってんだよ…」
弓兵「誰も逃げちゃいねぇよ…?みーんな、どっかに吹っ飛ばされたか、奴に食われたか、だ…。安心しろ、アンタの仲間はみんな生きてるさ…」
クロノ「クソッ‼︎」
カンザー「ぬおおおおおおお‼︎」
カンザーがどこからか吹き飛ばされてきた。
カンザー「ぐはぁ‼︎」
壁に叩きつけられたカンザーはそのまま地面に崩れ落ちる。
ブラン「師匠‼︎」
カンザー「くぅ…ブランか……もう大丈夫なのか…?」
ブラン「師匠…‼︎」
カンザー「むぅ…腕が折れたか…これはマズいな…」
クロノ「大丈夫かよ⁉︎おい‼︎」
カンザー「レギオン…多少知恵があるようじゃ…わしらを1人ずつ順番に、確実に仕留めて戦力を無くしていこうとしておる…」
クロノ「少しずつ確実に減らしていくってか⁉︎ちくしょうが‼︎」
カンザーが飛んできた方を見る。
弓兵「あれは…」
剣を持った女傭兵が1人、剣を杖代わりにして足を引きずりながら歩いている。
後ろではレギオンが辺りを見回している。
(まさか、探してるとかか…⁉︎)
レギオンの目が女傭兵を捉える。
クロノ「逃げろぉ‼︎」
銃を構え、女傭兵を助けに行こうとするが間に合わない。
レギオンの手の平が女傭兵を掴もうと迫る。
???「マグナムサルボー‼︎」
突如、轟音が鳴り響く。
何かがレギオンの腕に当たり、それによってずらされた腕は女傭兵を捕まえられない。
黒いマントを羽織った男が女傭兵に近くに降り立ち、抱き抱えて自分達の目の前に再び降り立つ。
マント男「全く…レギオンが現れたっつーから来てみたが、やっぱり苦戦してんじゃねーか。え?クロノ。無理矢理にでも連れ戻してくれても良かったんだぜ?ほら、立てるか?」
女傭兵を降ろす。
クロノ「その声、あんたまさか…」
マント男「それじゃあ、名乗り口上だ‼︎」
マントの内側から銃を二丁取り出し、レギオンに向かって撃つ。
先ほどよりは少し小さいが、似たような轟音が鳴る。
マント男「窮地のヒーロー‼︎人は俺をラピッドイーグルと呼ぶ‼︎俺の名は‼︎」
ジェス「ジェスティー・ロック様だ‼︎」
銃を更に撃ち続ける。
ジェス「野郎の目から血が出まくってるってことは、目が弱点ってことでいいんだな?」
クロノ「お前、人探しは⁉︎」
ジェス「ばーか、んなもん後回しだよ。あんたらどうせこいつらに苦戦するだろうから手助けに来てやったのさ。ちょっと遅れちまったがな。」
クロノ「ホント大遅刻しやがって…」
ジェス「埋め合わせはするさ。」
ブラン「あたしも戦う‼︎みんなを守ってみせる‼︎」
ジェス「おっしゃ‼︎行くぞ‼︎」
ジェスとブランがレギオンに向かって走る。
レギオンの足元で、エリーが鎌を持って立ち向かっていた。
レーニャとターニアも集まってきた。
クロノ「よし、俺も行ってくるとしますか。」
剣を構え、レギオンに向かって走る。

ジェスが目の当たりを狙って銃で撃ち続ける。
ジェス「くそ、ガード硬えなぁ‼︎」
クロノ「だったら開ければいいんだろ⁉︎」
目の当たりに飛びかかり、拳で殴り上げ、瞼を無理やり開ける。
開けた目に剣を刺して瞼が落ちないようにする。
下の瞼も同じように開け、刀で瞼が閉じないようにする。
当然レギオンは苦しみ、刀を抜こうとするが、それよりも早く、ブランが飛びかかってくる。
ブラン「雷破‼︎」
目の中に拳を叩き込む。
ブラン「はあああああああああああ‼︎」
空いている左手を握る。
両手に紋章が浮かぶ。
ブラン「百戦連華ひゃくせんれんが‼︎」
右手を抜き、左手を目に突っ込む。
ブラン「逃げたらダメだから…逃げたらダメだから‼︎あたしは‼︎怖くても‼︎足が竦んで、動かなくなりそうでも‼︎頑張って耐えてる人を‼︎助けられたがってる人を‼︎みんなを‼︎助けたいから‼︎怖くても‼︎前を向いて‼︎走る‼︎」
レギオンの体の中で爆発のような音がするのが聞こえる。
1回や2回ではなく、何十回と。
今度は左手を抜き、右手を突っ込む。
またもや爆発がする。
手を抜く度に、レギオンの中で何度も爆発の音がし続ける。
ブラン「あああああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎」
次第に殴る速度は速くなり、爆発音が途絶えなくなる。
ブラン「せぇああああああああ‼︎」
右手で殴り抜く。
今までで1番大きな爆発音が鳴る。
ブランが顔から降りる。
レギオンは腕をダランと下げる。
ジェス「ダメ押しだ…受け取りな、化け物。」
銃を1発、目の中に撃つ。
レギオンの姿勢がどんどん傾いていき、遂に倒れる。

クロノ「やったか…?」
フラグはごめんだからな。
ジェス「確認するのが1番だろ。」
撃ったばかりの目に向かって銃を何発か撃つ。
ジェス「多分、死んでる。」
ブラン「ってことは…?」
クロノ「勝利…だな。」
町の外の方から大量に人が押し寄せる。
「おい、どうなってるんだ⁉︎」
「レギオンが倒れてるぞ‼︎倒したのか‼︎」
「怪我人だ‼︎怪我人の救助を優先しろ‼︎」
「うおおおおおおおおおおお‼︎」
クロノ「こっちは疲れすぎて騒ぐ余裕もないんだけど…」
ジェス「だらしねぇな〜?カッコいい男ってのはいつでも余裕なんだぜ?」
クロノ「カッコいい男はいつでも全力なんだよ。」
ジェス「そりゃ違いない。」

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