ヒーローライクヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その3・結託

[クロノ]
拷問室の中で鎖に拘束されたままボーッとしていると、モニカが入ってきた。
そういえば後でモニカが来るって言ってたね。
モニカ「どう?様子は。」
ステラ「現在までのところ、問題は発生しておりません。」
モニカ「そ。ご苦労様。」
モニカがこちらを見つめる。
クロノ「えっと…?」
モニカ「ただの人間とそんな変わらないのに、異世界とはね…」
クロノ「あ、聞いたんだ。」
モニカ「えぇ。」
クロノ「じゃあついでにさ、この拘束解いてくんない?」
モニカ「バカ言わないで。なんで人間にそんなことしなきゃいけないの?」
クロノ「え〜。」
モニカ「あなたも拘束されてるわりにはそんなに辛そうじゃないじゃない。」
クロノ「辛くねぇわけねえだろ?ホント嫌になるっての…」
モニカ「自業自得よ、人間。」
クロノ「自業自得ね…。そう言われたらなにも言い返せんわな…。」
モニカ「まったく…人間はいつも問題を連れてくる…」
モニカが近くのイスに座る。
クロノ「いつもっても、俺はここに来たのは初めてなんですけど?」
モニカ「あなたの問題じゃないわ。人間の問題よ。」
クロノ「そこに俺は関係ないでしょ?俺は異世界の人間なんだし、あんたらと人間に何があったなんか知らないし。俺までそんな悪者扱いしないで欲しいね。」
悪役みたいなヒーローになると宣言しておいてなんだけど。
モニカ「人間なんてみんな考えることは同じよ。自分と違うものを見つけたらすぐに迫害する。その結果がこの魔界なんだもの。」
クロノ「だからそれに俺は関係ないでしょって。俺はその時代にいなかったんだから。」
モニカ「私の代でも7人は私を倒そうと人間が訪れたわ。人々を脅かす魔王を倒して平和を手に入れるって言ってね。」
クロノ「う〜わ。こっちの人間も十分気持ち悪いことになってんな。」
モニカ「私は何もしてないのにね。魔王が統治してる間の魔界は平和よ?所々で強姦やら殺しやら盗みやらはあるけど、そんなの人間界でも変わらないわ。魔王が死んだら次の魔王を決めなきゃいけない。」
クロノ「そういうのってどうやって決めんの?」
モニカ「簡単よ。魔王候補で殺し合い。生き残った者が正式に魔王として認められるの。その間は魔界はまさに無法地帯よ。」
クロノ「で、あんたはそれに生き残ったわけだ。」
モニカ「えぇ。魔王になるまでは私が魔界を平和にしてやるって頑張ってたんだけどね。実際魔王になってみると、そんなの夢でしかないってすぐに思い知らされたわ。魔王がいるということである程度の秩序は保たれてるけど、みんなで手を取り合って生きていきましょう!なんて言っても誰も聞かないもの。人間界から人間が現れてはここに来て私を殺しに来る。私はそんな平和を求めてないのに。」
クロノ「なんつーか…」
モニカ「なによ。」
クロノ「俺がこの世界に来て出会った中で一番マトモな人に思えてきた。」
モニカ「ふん。」
魔界も人間界も変わらんなぁ。
クロノ「そういえば名前…スティフィール…だっけ。どっかで聞いたな…」
モニカ「門のすぐ横で屋敷を構えてる姉の事かしら?」
クロノ「やっぱり関係あったか。ってかアレの妹さんか。」
モニカ「アレに会ったことあるの?」
クロノ「まぁ、ちょくちょく会うかな。」
モニカ「へぇ、珍しい。何回か会うほど気に入られてるのに生きてるなんて。」
クロノ「なにそれ。」
モニカ「サキュバスがどういう種族か知ってるでしょ?サキュバスに気に入られたら死ぬまで吸い尽くされるの。あの人は自分の気に入った人としか会おうとしないから、何回も会えるってことは相当気に入られてるわよ。」
うわぁ、なんか悪寒がしてきた。
モニカ「さて、雑談はここまでにして…」
クロノ「そういや、なんの用で来たの?」
モニカ「あなたの見張りよ。実はね、あの例の魔王、キュリーに魔王の座を取られちゃってね。」
クロノ「そんな簡単に取られるものなの?」
モニカ「力があるものが魔王になれる。ただそれだけよ。力があったから、再び魔王になれたの。」
クロノ「ふ〜ん。」
モニカ「…あなたに協力してほしいことがあるの。」
クロノ「協力?」
モニカ「人間に頼みごとをするなんて反吐が出るけど、なりふり構ってらんないの。キュリーはね、魔界で軍を作って人間界に乗り込んで荒らしに行くつもりよ。」
クロノ「はぁ⁉︎」
モニカ「私にそう言ったの。今のお前では魔界の繁栄はならないってね。でもそんなのダメだわ。人間だって愚かだけど、弱くない。本気で戦争すれば、被害は甚大なんてものじゃ済まないわ。」
クロノ「戦争ってのはどこ行ってもそんなもんだろうな。しかも関係ないとこにまで無駄に火が広がる。」
モニカ「分かってるじゃない。それでね、キュリーはあなたから異世界の情報を聞き出して、異世界に行く方法を見つけるつもりよ。」
クロノ「俺の世界に…」
モニカ「あなたの世界では魔法が無いのでしょう?魔王じゃなくても、最悪スライム1匹送り込んだだけで町一個制圧されるわよ?」
クロノ「なんてこったい…」
モニカ「人間界に攻めに行くのは奪われた魔族の領域を取り返すため。それは建前で、どさくさに紛れて異世界に行って向こうの世界で何かをするつもりよ。何をするは知らないけど、あなたにとって嬉しくないことでしょうね。」
クロノ「なるほど、あまり奴に異世界のことを話すなと?」
モニカ「そう。いつかは方法が判明されてしまうかもしれないけど、遅らせることくらいはできるはず。私はその間奴を倒すための準備をするわ。最低でもそれが終わるまでは何とかして耐えてほしいの。」
クロノ「準備って、何すんの?」
モニカ「奴の封印よ。200年程前に人間界から現れた人間がキュリーを封印してそれだけして帰っていったの。それと同じことをする。まぁ、正直その人間には感謝するわ。その時のキュリーも、今みたいに人間界に攻め入ろうとしてたからね。それで、受けてくれるかしら?」
クロノ「こんな大事なこと受けられないわけないじゃん。」
俺の判断であっちの世界がどうなるか変わってしまうということだ。
あっちの世界…
そういえばもう半年以上はこっちにいるのか…
あまりにも濃すぎる半年だなおい。
高坂さんは何してんだろ。
突然隣人が行方不明になったんだし、かなりめんどくさいことになってそうだな…
クロノ「やってやんよ。」
モニカ「それじゃあ頼んだわよ。」
モニカが出て行く。

ステラ「クロノ様。」
クロノ「ん‼︎ん⁉︎えーと?」
いきなりメイドに様付けされてビックリしてしまった。
ステラ「魔王様は人間に対してあのように少し厳しい態度を取っておりますが…どうか嫌いにはならないでください。」
クロノ「厳しい…ねぇ。」
ステラ「クロノ様が悪くないとは、魔王様も分かってはおります。ですが、先ほどもおっしゃられたように、魔王となってから何人もの人間が魔王様を殺しに来ているので、人間嫌いになってしまったのです。人間嫌いではあっても、人間を全て滅ぼしてやりたいという程嫌ってるわけではありません。むしろ、人間との仲を良くしたいとおっしゃっておりました。」
クロノ「へぇ〜。」
ステラ「クロノ様がおっしゃった通り、クロノ様はこの世界とは関係のない人間です。だからこそ、クロノ様は魔王様と人間をつなぐことができる架け橋となる存在なのです。どうか魔王様を、モニカ様を嫌いにならないでください。モニカ様のメイドとして、200年以上お供してきた私からの願いです。」
深々と頭を下げる。
クロノ「いや別にそんなこと言われなくても、俺は別にあいつのことは嫌いじゃないよ?」
ステラ「ありがとうございます…」
頭を上げる。
ステラ「クロノ様に少しでも不快な思いをさせないよう、ご奉仕させて頂きます。」
ご奉仕…と聞いてすぐに変なことを思い浮かぶあたり
ステラ「変なことを考えておられますか?」
クロノ「いいえ⁉︎」
ステラ「そうですか。」
いつの間にか手に持っていたハサミを机の上に置いた。

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