ヒーローライクヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その3・教会

[クロノ]
2人組の男と店を出て教会へと向かう。

途中、人だかりができているのが見えた。
その中心で男が泣いているようだ。
エリー「何があったんでしょう…?」
男B「さぁ…。あ、おいムズ!」
2人組の片方が人だかりの中から出てきた1人の女性を呼び止める。
女「ん?どうしたの?」
男B「あれって何の人だかりよ?」
女「あぁ、あそこの店の娘さんが生贄になってたらしくてね…。」
男B「なんだって…?今回はあそこだったのか…。」
女「あたしはあそこの主人とも娘さんとも関わりはないけど、やっぱやるせない気持ちにはなるね。あんたは何してんの?」
男B「俺はこの人達を教会に連れてってるのさ。」
女「ふ〜ん…。旅人さん?」
男B「そんなところ。それじゃ、ありがとな。」

女性と別れ、再び歩く。
クロノ「生贄…か…。」
男A「悪魔め…!」
男B「キュリー様が何とかしてくださる。今は御力を溜めているんだ。そのうち、悪魔を完全に消し去ってくださる。」
男A「キュリー様…あの者の心にせめて安らぎをお与えください…」
(なんてゆーか…)
確かに人が死んでいるのだから笑い事ではないのだが…
どーも、茶番を見ている気分になる。

男A「ここが教会です。この町のここにしかありません。」
(これがキュリー教という宗教の教会か。)
とても大きな建物、大きな扉。
扉の上には、こちらの宗教でいう十字架に当たるようなモニュメントが飾られている。
斜めの棒の中心にリボンをかけたような形だ。

扉を開け中に入ると、修道士が話しかけてきた。
修道士「申し訳ありませんが、武器等の危険物の持ち込みは規則により、禁止されておりまして…」
背中に背負っていた剣を2本とも修道士に渡す。
渡したくはなかったが、そうでもしないと入れないのだから仕方ない。

中も広く、厳かな雰囲気が漂っていた、
エリー「すごい…」
男A「キュリー様への感謝の気持ちを込め、大工ではなく、町の人間が作り上げた教会なのです。もちろん、大工の助言などをもらいながらなので、建物の安全性も十分です。」
クロノ「はぁ〜…」
確かにすごいけど…なんていうか、何だろう…
エリー「クロノさん、どうかされました?」
クロノ「少し頭痛が…」
入ってきてから、何かが頭に響くような痛みに襲われている。
酷く痛んでいるわけではないが、なんなのかが全く分からない。
エリー「実は、私も少し頭痛がするんです…」
エリーさんも頭痛を…?
男B「椅子に座ったらどうだ?立っているよりはいいだろう。」
近くにあった椅子に座る。
エリーが横に座り、頭を強く抑える。
先ほどより頭痛が酷くなってきた。
座ったからではなく、単に悪化しただけなのだろうが。
(いや、頭痛とはまた違うな…頭の中で何かが聞こえてくるような…)
暗号のような、何かの文のようなものを女性が読み上げているような声が聞こえてくる。
聞こえてくる声が大きくなってきているわけではないのに、頭の中で大きさではなく、声そのものが大きくなっていく感覚だ。
(落ち着け…落ち着け…イカれた事態なんてこの世界じゃあ今更だろ…)
体調が悪いとかそういうものではない。
もっと違う何かだ。
(えーと、どう違う何かだ…?この世界の今更は違いが…じゃない、頭痛の…あれ?待て待て…)
少し待て。頭の中の声が大きくなりすぎて、他のことが考えられなくなってくる。
(椅子に座ったのが頭痛で…えっと…あぁ、えーと…この町に来たのはキュリー様に土下座するからで…違う違う…)
何かヤバい。
何がヤバいかが分からないが何かがヤバい。
なんでヤバいんだっけ?
(あれ、頭痛がなんだっけ?ん?頭痛?そんなものしたっけ?)
いや違う。頭痛は関係ない。
頭痛というか、頭の中の声が大きいから痛く感じただけだ。
(クソッ、ダメだ‼︎何か…何か…おかしい事態にはおかしいことを…)
そうだ‼︎高校生の頃に意味わからんほどハマってたアニメの歌があったはず‼︎
カラオケで唯一90点を超えた歌だ。歌詞はまだ覚えてる。

(『ゆーめのー』…えっと…『つづき』だっけ…『おわり』だっけ…)
1番の歌詞は『ゆめのおわり』で合ってたはずだ。
歌詞を思い出していくうちに、頭の中にだんだんとメロディが浮かんでくる。
1度、歌詞を全て出し切り、メロディを思い出すと、今度はまた始めから頭の中で歌い直す。

何回歌っただろうか、いつの間にか頭の中の声は消え失せていた。
もう大丈夫だろうか、
(ここに来た目的は、ギルドの人手が足りないからで、人を集めるついでに、この町の宗教に関する情報を集めること。そんで、いかにも怪しい雰囲気の宗教だと思ったら割とマトモなことをやっていた…)
うん、ちゃんと思い出せる。
(そして教会に入ったら頭痛に襲われて、でも頭痛は実は頭の中で声が響いていただけで…。)
もう大丈夫だな。
しかし、なんというか…
頭の中で響いていた声は無くなっていたが、余韻のような、残響というのか、少し声が残っている気がする。
(洗脳されそうだったなぁまったく…。洗脳といえば、あのアニソンも洗脳ソングとか言われてたっけ。)
洗脳…うん、洗脳か…

太ももの辺りに何かが載っている感触がしたので下を向くと、エリーが頭を抑えたまま倒れていた。
膝枕をしている形だ。
クロノ「エリーさん?大丈夫ですか?」
エリー「うぅ…うぅぅ…」
うなされているようだ。
男A「あまりひどいようなら修道士を…」
クロノ「あぁ、いえ。大丈夫です。あぁ〜、とりあえず今日は一旦宿に帰ります。」
男A「そうですか?修道士に事情を話せば教会に泊めさせてもらえると思いますが…」
クロノ「いえ、大丈夫です。」

エリーを抱き抱え、宿に戻る。
自分たちの部屋に入ったあたりで、エリーが目を覚ました。
エリー「うぅん…」
クロノ「エリーさん、大丈夫ですか?」
エリー「あれ?えーと、ここは…」
クロノ「宿です。倒れちゃったんで、一旦帰って来たんですよ。」
エリー「そうだったんですか…」
エリーをベッドに座らせる。
クロノ「頭痛はもう大丈夫ですか?」
エリー「えっ?頭痛?」
ん?
クロノ「頭抑えてたじゃないですか俺にも頭痛がするって言ってたし。」
エリー「私、そんなこと言ってないはずですが…」
話が噛み合わないぞ?
エリー「そんなことよりも、クロノさんは見えました⁉︎」
エリーが突然子どものようなテンションで話しかけてくる。
クロノ「見えたって何がです?」
エリー「キュリー様の姿がですよ‼︎もう少しで見えるってところで、目が覚めてしまったんですよね…。クロノさんは見えました?」

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