ヒーローライクヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その8・夜

[フレア]
捜査を開始して1日目の夜は被害者は出なかった。
ただ、それまでも被害者が出た日出ない日がバラバラではあったので、活動を抑えたのかたまたま犯人が獲物に会えなかったのか判断はできない。
クロノが予想したあの場所も警戒して来ない可能性があるし、また来るかもしれない。
捜査を続けていくしかないだろう。
医者には、クロノの状態は安定しているが、まだ目を覚ましていないので、面会はまだできないと言われた。

(今日はどこに行って捜査をしようか…)
いや、行くべきところはある。
ただこの町で出来た友人の身内が犯人だと疑いたくないだけだ。
だが可能性がある以上、行かなければならない。
ゲンダイにソウスケが営んでいるという砥石屋の場所まで案内してもらう。
ゲンダイ「この砥石屋も昔は世話になったんだがのぉ…。」
中に入る。
ソウスケ「いらっしゃい…あぁ、ホウジョウさんでしたか。それと…アリアンテのギルドの…」
フレア「フレア・ローレンスです。」
ソウスケ「君がフレアか。弟から話は聞いてる。それで、今日はいったい何の用で?」
ゲンダイ「用があるのはわしじゃなくて、フレアなんじゃ。」
ソウスケ「君が?」
フレア「ちょっと聞きたいことがあって…。例の通り魔事件のことです。」
ソウスケ「あぁ、あれか。残念だが、俺は何も知らん。俺が知ってたら他の住人も知っているだろう。」
フレア「何か…噂とかでもないですか?」
ソウスケ「噂なんて確実性のないものを聞いてどうする?」
フレア「少しでも情報が欲しいんです。別に100%信じるわけじゃありません。参考にでもなったら運がいいな程度です。」
ソウスケ「…。悪いが知らないな。」
フレア「そうですか…。」
まぁ、だとは思ったけど。
ソウスケ「話は終わりか?急いでるわけではないが、刀の整備は静かに行いたいのでな。用が終わったなら帰ってくれると嬉しいのだが。」
フレア「その腕…店の準備をしてる時に怪我したんでしたっけ。」
ソウスケ「これか?あぁ。そこの棚に置いてある砥石を取ろうとして、足元の壺に躓いてな。そのままこけてしまったのだが、そこの床に研ごうと思って置いておいた刀の上に左腕を落としたんだ。我ながら情けない。」
まぁ、ありえない話ではないか…。
ソウスケ「…弟が言っていたな。通り魔に一太刀与えたと。犯人はそれによって左腕を怪我したんだとか。」
フレア「…えぇ。」
ソウスケ「疑う気持ちも分からなくはないが、俺は夜中に君と出会ってはいない。刃も交えていないし、そもそも夜に外に出てもいない。」
真っ直ぐこちらの目を見て否定してくる。
フレア「そうですか…。疑ってしまってすみません。」
ソウスケ「別にいいさ。同じ腕を怪我していて疑われるのは当然だからな。根拠が成り立っていないような理由で疑われるのなら別だが。」
棚の近くの壁にかけられているお面に目がいく。
色々な種類のお面がある中で、狐のお面を見つける。
…あの夜見たものと似ている。
ソウスケ「そのお面がどうかしたか?」
フレア「弟さんが言ってましたけど、子どもの頃に作ったんだそうですね。」
ソウスケ「ふん、余計なことを…。そうだ。」
フレア「子どもなのにすごく上手いですね…。お面作りの才能ってやつですか?」
ソウスケ「あぁ、才能ならあった。今はその才能も失せてしまったがな。」
フレア「俺は特に才能もないから羨ましいですよ。俺も昔はお面作ってたんですけど、なかなか上手く作れなくて…。」
ソウスケ「才能がない者は努力しても無意味だ。才能がない者が努力しても才能がある者には勝てない。」
フレア「分かりませんよ。才能がなくても」
ソウスケ「いいや、勝てない。この世の摂理だ。努力ばかりで才能のない者は壁にぶつかった時、迂回路を探そうとする。だが才能のある者は迂回路を探さなくてもその壁を突破できる。これが努力と才能の差だ。世間話をしに来たのなら帰ってくれないか?」
砥石屋を出て、橋の前で次はどうしようかを考える。
ゲンダイ「ソウスケは昔と変わらん。いや、昔よりひどくなったかのぉ。」
クロウも言っていたが、やはり昔より才能を重視するようになっているのか。
ゲンダイ「にしても努力しても無意味とは…。実に不愉快じゃ。それで、次はどうする?」
フレア「本部に帰ります。」
ゲンダイ「なに?他の場所で調査は…」
フレア「次にどこに犯人が出るか分かった気がするんです。」
ゲンダイ「なんじゃと?」

本部に帰ると、調査に出ていたシーラとアクアも既に本部に帰っていた。
フレア「どしたの?」
シーラ「クロノさん、意識が戻ったそうなんです!それで医者の方が、面会に来てもいいと!」
フレア「なんだって⁉︎」
医者の診療所に向かう。

医者に案内され、クロノがいる病室に入る。
体を布でグルグルにされているクロノが布団で横たわっていた。
フレア「クロノ‼︎」
クロノ「やっほー。」
右腕の肘から先だけを立ててゆっくり手を振る。
クロノ「まったく、大怪我ってのはめんどくさいな。声も出しづらいし、体動かそうとすると、傷の部分が痛いし。」
フレア「お前、無茶しやがってなぁ。」
クロノ「無茶する前にやられたんだ。仕方ないだろ?それに、あの状況で優先すべきはシーラだったでしょ?ってかあそこにいたのシーラだったんだね。びっくりだよ。」
シーラ「クロノさん、ありがとうございます!あと、すみませんでした。私のせいで…」
クロノ「別にシーラのせいじゃないよ。俺が出てって俺がやられたんだから、油断した俺が悪いの。それに死ななかったんだし、別にいいよ。」
アクア「あんたねぇ…。帰れなくなっても知らないよ?」
クロノ「目の前の人が守れないくらいなら帰らない方がマシだよ。それで?捜査中なんだって?どんくらい進んだの?」
フレア「まだ確定したわけじゃないけど、犯人だって思う奴はいた。そんで次に被害者が出るだろう場所も分かった。」
アクア「ほんとかい?」
シーラ「誰なんです⁉︎」
フレア「前の夜…クロノがやられた場所と同じところだ。」
クロノ「同じ場所?あそこで俺が襲われたんだから別の場所なんじゃ?」
フレア「死んだわけじゃないだろ?ならもう一度現れる。今まで生きて帰ったやつがいなかったのに、お前は生き残った。なら、あそこで死者が出るまで出るはずだ。」
アクア「犯人はそんな頑固なやつかねぇ?ってか、いったい誰なのさ?」

その日の夜、前と同じ場所で犯人を待ち構える。
しかし今度は屋上ではなく、自分は路上に立つ。屋上にはアクアとゲンダイがいる。
夜も遅くなってきたというところで、向こうから誰かが歩いてくる。
狐のお面に刀。例の犯人だ。
大剣を逆手に持って構える。
狐面の男は構えずに動かない。
(後手を狙ってるのか?なら、先に動くべきだろうか。)
すると狐面の男が話しかけてくる。
狐男「フレア・ローレンスだったか?この傷の仇くらいは取らせてもらおう。死を以って…だ。」
小さな声。
フレア「あんた…やっぱり…」
狐面「その『やっぱり』で合ってるだろう。…来い」
大剣を持ち、ゆっくりと近づく。
いつ斬りかかられてもいいように、油断はしない。
距離約3メートルというところまで近づく。
数秒間睨み合う。
先手を打ち、大剣を下から上に振り上げる。
左に避けられ、そこから斬りかかってくるのを、防ぐ。
剣を振り回し、相手の隙を探して攻撃するが、どれも防がれてしまう。
時々、攻める側が変わりながらも斬り合いをするが、自分が一生懸命剣を振り回しているのに対して、男は落ち着いて最小限の動きで防いでいる。やはり向こうの方が上手だ。
大剣を横に薙いだ一瞬、刀で防ぐのではなくしゃがんで避けられた。
(マズイ‼︎)
足を斬られるかもしれない。
バランスを崩しながらも必死に跳んで回避する。
予想通りといえば予想通りだが、太ももを軽く斬られた。
フレア「くっそ‼︎」
斬られながらも体を空中で回し、斬られてない方の足で、狐男の顔面に蹴りを入れる。顔を蹴られた狐男は仰け反り、距離を取る。
お面に大きなヒビが入る。
(ヒビ入っただけか…。)
そこで狐男の後ろから銃声がする。
狐男は瞬時に後ろに振り返り、刀で防ぐ。
(誰が撃ったんだ?)
いや、だいたい想像はつく。というより、あいつの銃は普通の魔力銃と違って、ゴツいというか、いかにも金属というような感じの音がする。
撃ったのはクロノだ。
(安静にしてなきゃいけない身なのに…。無茶しやがって!)
次々と銃を撃つ。
それを防いでる隙を狙って、男に向かって走る。大剣を男めがけて横向きに振り抜くが、足で防がれ、上から抑えられてしまう。
だが、ここまでは計算済みだ。
上からゲンダイが刀を抜き男めがけて飛び降りる。
男が銃を防ぎながら、上を向く。
ゲンダイ「覚悟しろ狐男‼︎」
男がゲンダイが飛び降りた屋上と向かいの家の屋上も見る。アクアが弓を構えて立っている。
(この状況ならどうしようもないだろ‼︎)
だが、男は剣を踏み台に飛び上がる。
男を狙って放たれた3本の矢を2本斬り捨て1本を掴み、ゲンダイの腹に刺す。
そのまま刀を抜き、腹を斬り裂く。
ゲンダイ「がぁ⁉︎」
フレア「ゲンダイさん⁉︎」
受け身を取れず、ゲンダイは肩から地面に叩きつけられる。
大量の返り血を浴びて降りてきた狐男はクロノに撃たれながらも、それを防ぎつつ逃げていった。
フレア「ゲンダイさん‼︎」
ゲンダイ「奴を早く追わんか‼︎」
アクアが屋上から降りてくる。
アクア「あたしが見ておくから奴を早く追いかけな‼︎」
ゲンダイに何かしたかったが、アクアに任せて狐男が逃げた先に走っていく。

[砥石屋]
夜中に砥石屋の作業場でクロウが店の準備をしている。
クロウ「うし、これで兄貴もすぐに作業始められるだろ。完全に目が覚めちまったなぁ…。何しようか…」
すると扉が思い切り開かれる。
血まみれのソウスケが入ってくる。
クロウ「兄貴⁉︎その血…」
ソウスケ「俺の血ではない。返り血だ。」
クロウ「返り血って…いったい何してきたんだよ⁉︎」
ソウスケ「お前には関係ない。」
クロウ「そのお面…。兄貴あんたまさか…」
ソウスケ「ちっ…」
舌打ちをして、店から飛び出る。
クロウ「あ、おい‼︎兄貴‼︎」
刀を持って、血まみれの兄を追いかける。

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