ヒーローライクヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その2・How to use

[クロノ]
何十メートルとある巨大な体は黒い鱗で覆われている。
門の方を見る。
(向こう側にはこんなヤバいのがいるのかよ⁉︎)
いきなり頭上から強烈な光が一瞬だけ照らされる。
(目くらまし⁉︎よそ見してて助かった‼︎)
後ろを見るとマレーとエルが黒龍を見上げ、動かなくなっていた。
黒龍が口を開ける。口の奥から、黒色だが、火のようなものがちらっと見える。
あの2人の状況ではおそらく逃げることはできないだろう。
2人の前に立ち、銃を上に挙げる。
黒龍の口から黒色の炎が吐き出される。
銃から魔力を発射する。
魔力が銃口から出たところで板状に広がり、簡易的なバリアを作る。
黒炎が強力だが、それ以上の魔力を使い、防ぎきる。
マレー「あんた…」
クロノ「ぼーっとしてないでさっさと逃げろって!今は撤退だ!」
しかしそれでも動こうとしない。
エル「やつの発した光を見たものは体が動かなくなる魔法にかかるのだ…。」
クロノ「動けなくさせられてるってこと⁉︎厄介だなオイ‼︎」
黒炎が収まる。
2人が動けないというので、仕方なく2人を両肩に担ぐ。
エル「んな⁉︎おい⁉︎」
マレー「ちょと⁉︎何をして…⁉︎」
クロノ「うっさい‼︎黙って背負われてろ‼︎」
エルはそんなに重くはなかったが、マレーは尻尾の方に体重があってかなり重たい。きっと筋肉がすごいことになっているに違いない。
黒龍からなるべく距離をとって準備ができてから対処を考えよう。
50メートルほど離れて一旦後ろを見る。
黒龍が尻尾を振り上げている。その尻尾の先がゴツゴツしており、尖っている。
(なんで尻尾を上げてるんだ?振り下ろすにしても距離がある。意味なく上げてるとか?)
すると黒龍は尻尾を素早く振り下ろす。尻尾の先から尖った鱗の破片が飛んでくる。
(マズイ!!)
担いでいた2人を自分の背中に投げ下ろす。
その2人の前に立ち、鱗の破片を受け止める。
受け止めるというよりは攻撃を受けるのを代行しただけだ。
反射はろくにできず、魔力強化だけで耐える。
体のあちこちにラグビボールほどの大きさの破片が刺さる。
両腕で顔だけは隠したので、ヘッドショットだけは免れた。
一個ささっただけでも十分致命傷だが、そこは魔力強化。案外耐え切れるものだ。
膝を地面につけて休みたい気分だが、今はそんな隙を見せている場合ではない。
マレー「あんた…なんで…」
クロノ「なにがだよ…?」
マレー「なんであたしたちを助けてんのさ?魔族だよ?」
クロノ「だからなにさ…。」
なぜだろう、満身創痍だというのに体中に力が湧いてくる。
クロノ「魔族だとか人間だとか、そんなくだらん区別で人助けやめてたら、誰も助けられなくなっちまうだろうがよ。目の前で、ヤバいのがいて、襲われてる人がいたら、誰だろうと助ける。誰だろうとな。俺はそういう人間なんだ。そこにいちいちめんどくさい分別いれてもめんどくさいだけだろ。ウダウダあれはダメこれはダメって言うよりあいつも守るこいつも守るみんな守るってした方が迷わずに済むし気分も明るくなるさ。魔族が人間に嫌われてようと人間が魔族に嫌われてようと関係ねぇよ。俺がそうしたいからそうするんだ。」
足元にいつの間にか魔法陣が出現している。
エル「だが、私たちはお前を奴隷に…」
クロノ「そこはもうどうでもいいんだよ。現在何してるかだ。死にたかったならこれの後で勝手に死んでくれ。それに、今の状況でまだ俺を奴隷にしようだとか思ってねぇだろ?仮に思っててもその時はとりあえず後でやり返すさ。やってこないなら俺は何もしないってだけだ。種族も敵か味方かも関係ない。俺が守りたいって思ってるから守ってるんだ。ただの自己中のわがままだよ。でもそのわがままで助けられる命があるってんなら…」
魔法陣の光が強くなる。
(そうか、今のが詠唱呪文で…)
クロノ「助ければいいじゃんかよ。」
(これが詠唱魔法ってやつだな。)
体中に魔力が広がる。
今まで感じたことのないほどの魔力だ。
黒龍が目の前まで近づいてくる。
尻尾が高く上がる。今度は直接こちらを狙うようだ。
どうやって対処しようかと思ったが、すでにどういう行動をとるべきか分かっている気がする。
尻尾が振り下ろされる。
落ちてきた尻尾を右腕で受け止め、投げ捨てる。
黒龍の胴体まで走り寄り剣で一発、上段から斬りつける。
1…
黒龍の体が後ろに押し出される。
その後を追って
両手の剣で横に薙ぎはらう。
2…3…
左手の剣で斬り上げ、もう一度右手で斬りおろす。
4…5…
左手の剣を逆手に持ち、斬り上げ、黒龍の胴体を宙に浮かばせる。
6…
剣を片方しまい、1本の剣を右手で逆手に持つ。残っている魔力を全て集め、剣に集中し、後ろに引く。
黒龍の体が落ちてくる。
だんだん近づいてくる胴体に向かって剣を思い切り叩きつける。
黒龍の重さに負けないよう、持っている魔力を全てパワーに変える。
これが俺の詠唱呪文というやつか。
技の名前は…
クロノ「命名!‼︎『七閃疾る斬撃セブンスタッド』‼︎!」
黒龍の体重をほとんど感じず、一瞬で黒龍の体をかちあげる。

黒龍は10秒間程宙を舞い、地面に激突した。
もう体には何の力も残っていない。
今もう一戦やれと言われたら速攻降参する自信がある。
マレーとエルの方を見る。
クロノ「おい、あんたら…怪我はないか…?」
マレー「え、あ、あぁ…なんともないさ…」
クロノ「そうか…良かった…。」
これで怪我でもしてたら俺は何のために戦ってたんだという話になる。
エル「なぜ私たちを…」
クロノ「さっき言わなかった?襲われてたから助けた。それだけだよ。」
マレー「あんたは魔族のことを嫌ってないのかい?」
クロノ「だって、俺は魔族に何もされてないもん。あんたらは俺を売りさばこうとしてたが、魔族にさらわれかけたんじゃなくて、奴隷商人に売ろうとしたやつにさらわれただけだよ。過去に戦争をやったらしいけど、俺はその時代にいなかったから関係ないの。その頃の因縁なんざどうでもいい。そんなことより仲良くなろうと持ちかける方が、嫌い合うよりよっぽど建設的だと思うぜ?効率厨じゃなくてもさ。嫌い合うなんざ、クラスに1人はいる無駄に暗い性格のなんでもかんでも否定的なことばっかいう陰湿なやつよりタチ悪いね。」
マレーとエルが目を丸くする。
エル「お人好しというべきかバカというべきか…。」
マレー「いいや、間違いなくバカだな。」
クロノ「だったらこの世の人間全員でバカになった方が賢いと思うね。さて、俺はどうやって街に帰ろ」
立ち上がろうとすると、近くで倒れていたドラゴンが立ち上がる。
クロノ「うそ、まだ生きてるの?」
ドラゴンはこちらを見る。完全に怒りの目だ。
黒炎を吐こうと口を開ける。
クロノ「逃げろ‼︎さすがにもうキツいぞ‼︎」
???「あら、別に逃げなくても大丈夫よ。」
後ろから女性の声がする。
どこぞの貴族のような、しかし露出度が無駄にある服を着た妖艶な女性が立っていた。声もいかにも大人の女性という雰囲気だ。背中には紫色の羽が生えている。
(まさか、この辺に住んでる魔族ってこの人のことか?)
女性が手を地面にかざす。
女性「ブランブルバインド。」
そういって指の先から魔力が地面に向けて発射され、地面を伝わってドラゴンの足元に着く。
するとそこから地面から茨が生え、ドラゴンの体を締め上げ、口を縛り黒炎を出させないようにする。
今度はドラゴンの胸の辺りに手をかざす。
何かを掴むように手を握りしめていく。
すると、ドラゴンがだんだんと苦しみ始める。
女性「ハートブレイク。」
手を完全に握りしめると、ドラゴンはやがて苦しむのをやめ、地面に倒れる。今度こそ本当に動かなくなった。そこから巨大な命がなくなっていって感覚が伝わってくる。
エル「お、お前は…⁉︎」
女性「全く、こんなものを魔界から連れてくるだなんて…。お仕置きが必要かしら?ねぇ、あなたたち。」
女性がエルとマレーの方を見る。
マレー「ひっ…‼︎」
2人揃って逃げ出すが、ドラゴンと同じように茨が伸びてきて彼女たちを縛る。
マレー「ひぃ‼︎」
エル「うぐぐ…‼︎」
女性が2人に近寄る。
マレー「違う!これはわざとではなくて、事故なんだ‼︎そんなつもりはなかったんだよ‼︎」
女性「安心して、そんなことは分かってるわ。別に殺そうってわけじゃないの。ちょっとお仕置きをするってだけよ。」
自分には関係ないはずだが、笑顔の奥に相手を怯えさせる何かがあるのが分かる。
女性がこちらの方に来る。
女性「それで、あなたがあいつを弱らせてくれたのかしら?」
なんだろう、この人の目を直視してはいけないと直感が告げる。かといって、目を見ないで話すのは無礼でもある。この人は命の恩人なわけだし…。とりあえず目ではなく、顔を見ることにしよう。
クロノ「そう…ですけど、あなたは?」
女性「自分から名乗るのが普通ではなくて?」
クロノ「あ、あぁ…。俺はカミヅキ・クロノと言います…。」
女性「私はミランダ・ル・スティフィール。サキュバスよ。」
やっぱりガイアさん達が言ってた、この辺に住んでるサキュバスだ。間違いない。

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