ヒーローライクヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その4・入団試験最後の試練


[クロノ]
そろそろ森を抜ける。
最初はどうなることかと思ったが、案外弱い魔獣相手なら苦労はしなさそうだ。魔力強化様々である。
ハゼット「頭の中でこういう動きをしようと思っていても、体がちゃんと動いてくれるかどうかってのは別だ。お前はそれでも相手に的確に攻撃をすることができている。お前なら訓練したらかなり強くなれるだろうな。」
ハゼットはいったいどう考えているのだろうか。俺が異世界人、つまり部外者だから、ここで危険な目にあって命を落とすのはダメだと思っているのだと思ったが、今の発言は俺を一人前の戦士にしようと思っているかのような感じだ。
ハゼット「俺がいないときに魔獣に襲われてもなんとかなりそうだな。」
クロノ「いや…ザコしか相手にできませんよ…。」
まぁ、俺のことを心配してくれているのは本当のことだろう。

森を抜けた。
広い平原が目の前に広がる。後は街まで帰るだけだ。
ハゼット「………。」
ハゼットが森の方を見て黙っている。
クロノ「ハゼットさん?どうしたんすか?」
ハゼット「魔獣の気配がする…。大型か…?」
大型?なに?大型種とかいんの?そんなのもいんの?
森を見ていると、奥の方から大きな塊がこっちに突っ込んできた。
横に転がって回避する。これがゲームならおそらくQTEが出てただろう。
ハゼットは反対側に避けたようで、突っ込んできた塊を挟む形になった。
この塊…スライムか?余裕で家一軒以上のサイズ越えてんだが…?
こんなのが森の中にいたの?
クロノ「ハゼットさん‼︎こいつ‼︎」
ハゼット「多分、食事しすぎたスライムだ‼︎栄養の摂りすぎなんだよ‼︎」
栄養の摂りすぎって、ここまでデカくなんのかよ‼︎
スライムが自分の体を伸ばして攻撃してきた。体を捻って躱す。
スライムが次々と連続で攻撃してくるのをこちらも負けじと連続で躱す。
ハゼット「クロノ‼︎このデカブツは俺が相手する‼︎お前は先に帰還してろ‼︎」
森の方からミニゴブリンが3体出てきた。
ハゼットならミニゴブリン3体程度なんてことはないだろうが、あのスライムを相手にするのに目障りとなるだろう。
クロノ「このゴブリンどもは俺が相手します‼︎」
ハゼット「なにをふざけ…クソッ、無理はするな‼︎ヤバくなったらすぐにでも撤退しろ‼︎」
さーて、これがボス戦というやつかな?最初のダンジョンのボスとしてはなかなかいい相手だろう。

3体が並んで自分の前に立つ。どいつも目が血走っていて、こちらを目を見開きながら見ている。
剣を2本構える。いくら知能の低い魔獣だからといってノープランで行くのはマズイだろう。
かといって初心者がいい作戦を思いつくはずもない。仕方ない、作戦は臨機応変にということでいこう。
3体が順番に突撃してくる。真ん中、右、左。
魔力強化は動体視力も強化してくれる。
まずは真ん中のやつを左手の剣でいなし、右にいたやつは右手の剣でいなす。最後の左にいたやつは後ろを向きながら前屈の体制になり、足を後ろに蹴り上げる。
なんとか、相手の攻撃を全部避けることに成功したが、3体に囲まれる形になってしまった。
右と左両側から同時に突撃してくる。
剣を逆手持ちにしてゴブリンどもの攻撃を片手ずつで受け止める。ゴブリンの槍のような腕と自分の剣で鍔迫り合いでもしてる感じだ。
そこでもう一体が自分に正面から突っ込んでくる。
(マズイ‼︎)
このままでは腹を直接イかれるルートだ‼︎こいつの攻撃を耐えたとしても隙だらけになった俺を3体でリンチにするだろう。そんなのイヤだ。なんとかしなくては‼︎
体を横回転させながら上に飛び上がる。正面の攻撃を避けつつ、両側の攻撃を避ける。正面のやつが攻撃を外して転んだところに、両側の2体が倒れかかる。見事な自爆だ。
これはチャンスだ‼︎空中で体制を変える。持っている剣2本に魔力を込める。属性は氷。
ミニゴブリンどもはわちゃわちゃしていて、抜け出せていない。
俺が落下してくる。
やつらの顔が恐怖しているのが分かる。今になって命の危機が迫っていることに気づいたようだ。
容赦はしない。
氷の魔力を全力でやつらに叩きつける。氷の塊がミニゴブリンを包み込み、人の身長程度の大きさのオブジェができた。
もう一発、剣を1本背中に戻し、もう1本を両手で持つ。
そして剣にもう一度魔力を込める。そしてバッティングのポーズをとる。今の自分はスラッガーだ。
大きく力を貯めて、思いっきり振る。

パリーーーン‼︎‼︎

氷のオブジェは気持ちよく粉々に砕ける。

1人でミニゴブリン3体を相手にすることができた。
(ハゼットはどうなっただろうか。)
ハゼットの方を見る。
スライムが魔法陣にの中にいた。何度もハゼットの方に体当たりをしているが、見えない壁に阻まれているようだ。
ハゼットが右手でグーを作り前に出す。そして人差し指と中指を伸ばし、手のひらを上に向ける。そして、
ハゼット「フレイムストーム」
2本の指をクン‼︎と上に上げる。
魔法陣から炎の渦が昇っていく。距離は離れているはずなのに、かなりの熱気と衝撃を感じる。
(これがハゼットさんの戦闘かよ‼︎)
っていうかさっきのフレイムストームってなんすか。技名すか⁉︎言っちゃうのアリなんすか⁉︎俺も次から言ってみよ。
ハゼットが右手を握りしめる。炎の渦が一瞬で収まった。例の巨大スライムは消え去ったようだ。
ハゼット「ハァ…ハァ…」
見た感じ結構余裕そうな動きでしたけど、そんなに疲れたんすか。ヤバイ敵だったってことかよ。

クロノ「ハゼットさん‼︎大丈夫ですか⁉︎」
ハゼット「あぁ、大丈夫だ。魔力を使いすぎただけ…。」
あんなすげぇ魔法しといて軽い息切れ程度かよ。
ハゼット「よくやった、と言いたいところだが、なぜ戻らなかった?」
クロノ「ハゼットさん1人でも勝てたでしょうけど、少しお手伝いをして負担を和らげようかと。」
ハゼット「まぁ、お前がやってくれなかったら俺も簡単には仕留められなったし、助かったよ。お前は実力はあるが、経験が浅い。」
クロノ「あぁ、はい…分かってます…。ミニゴブリン3体程度なら行けるかなと思いまして。」
ハゼット「まぁ、余裕かまして油断してたわけではないから別にいいが。さぁ、戻るぞ‼︎今日はもう疲れた‼︎」
僕も疲れました。
ハゼット「酒飲みに行くぞ‼︎酒‼︎」
クロノ「酒って俺は未成年だから飲めませんよ?」
ハゼット「なに⁉︎あぁ、ハルカもそんなこと言ってたな…二十歳未満はダメなんだったか。」
クロノ「俺は19ですからね。飲めないです。」
ハゼット「あと1年じゃないか‼︎そんなもん誤差だ誤差‼︎」
宴会のおっさんか。
クロノ「いーえ、ダメです。守るところは守ります。俺はあっちの世界の人間なんであっちのルールを守ります。」
ハゼット「ちっ、まぁあそこは酒以外もあるし、それでもいいか。」

街に着く。まずはギルドに自分の荷物を置きにいくと、厳かな鎧に身を包む見慣れない渋い男がいた。
この鎧はこの街を警備している軍で支給されている鎧だ。
街といっても国レベルの自治はしている。
ハゼット「ガイアじゃないか、どうした急に。」
ハゼットの知り合いだったのか。
男「町長からお前に頼みがあるらしくてな。お前と面識があるのが俺くらいだから手紙を渡してくるよう頼まれたのだ。」
話し方もところどころ砕けた言い方はするが、声のトーンがいかにも真面目な男という感じだ。
町長とはいうが、この街が国みたいなものなので、町長も一国の王という感じである。ハゼット曰く、そうでない街の方が少ないのだそうだ。
ハゼット「あの町長が直々にねぇ…。」
男「直接の依頼は町長からではない。北の方の『エリエテ』の町長だ。…どうも、『闇』が発生したらしい。」
ハゼット「なるほど、『闇』ね…。それは行かんといかんな…。」
『エリエテ』はアクアから聞いた。ここから北に少し行ったところにある街で、この『アリアンテの街』と仲がいい。
『闇』ってのはなんだ?
男「そいつは?新入りか?」
ハゼット「いろいろあって保護してる異世界人。元の世界に戻る手がかり探しついでにここで働きたいというから入団試験をしてきたところなんだよ。」
男「入団試験を終わらせてきたのか?怪我一つせず?ほう…」
クロノ「あ、えっと…カミヅキ・クロノと言います。ここでお世話になってます。」
ガイアの鋭い目つきにビビりながらもなんとか自己紹介をする。
男「私はアリアンテ国軍第一遊撃隊隊長、ガイア・フォレスト大佐だ。」
さすが軍。ものすごく礼儀正しい挨拶だ。
ガイア「それじゃあ、明日町長のところに行って詳しい話を聞いてきてくれ。俺はこれで。」
と言ってツカツカと早歩きで出て行った。
クロノ「ハゼットさん、あの人は?」
ハゼット「ガイア・フォレスト。あいつが10歳の頃からの仲だ。ジョークは通じるが、根っからの生真面目野郎だよ。」
クロノ「10歳から…」
ハゼット「あいつにはブラコンの妹がいる。」
なんだって?その話を詳しく聞かせてもらおう、と思ったが先に聞いておくべきことがある。
クロノ「あと、さっき言ってた『闇』ってなんですか?」
ハゼット「『闇』は心の中にある不満、迷い、後悔、葛藤、その他喜怒哀楽好き嫌いなど、あらゆる感情が魔力によって暴走したものだ。例えば、どうしても好きな人がいて、でもその人に告白をする勇気がなくて、でもやっぱりその人と一緒になりたくて、そんな迷いがある女の子がいたとしよう。それがあまり深刻なものでなければ、ただの悩める乙女ってことで済むんだが、本人にとって命に関わるのと同じぐらいの深刻な悩みだったりすると、感情が魔力を持ってしまう。その魔力を持った感情が『闇』だ。」
うわお。悩める乙女は闇が深いのか。
クロノ「『闇』を抱えるとどうヤバイんですか?」
ハゼット「簡単に言うと、自分に正直になる。」
クロノ「それはいいことなのでは?」
ハゼット「じゃあこれならどうだ?その女の子は束縛する女の子で、好きな男を鎖で縛ることに快感を覚えるタイプの人間だった。今までそんなことをして嫌われたくないから我慢してたが、闇を抱えてしまうと、どうなるか。」
クロノ「あっ…。」
ハゼット「あるいは、大好きなあの人が以外はこの世には必要ないと考えるタイプだったら。この子はどうすると思う?」
クロノ「…大量殺戮?」
ハゼット「まぁ、みんながみんなそうなるとは言わんが、だいたいそうなる。もちろん、良い方向に働く『闇』もある。今まで目の前で命に危機さらされている人を助けたいと思いつつも勇気が出なくて助けられなかった青年がどうしても助けたいという『闇』を抱えると、どういう状況であっても人助けをする聖人のようなやつになる。」
なるほど、心の中で思ったガチの悩みや思いが魔力を持てばどんな悩みでも『闇』になると。
ハゼット「『闇』の困るところは、1度『闇』に取り込まれてしまった人間は2度と戻らないということだ。」
2度と?
ハゼット「『闇』に取り込まれた後に改心するという事例があるのかはまだ知らない。したやつを見たことがないからな。だが、今まで何百人と見てきた中では1人いなかった。」
そんな恐ろしいものが…。インフルよりタチわりぃ。
ハゼット「こういうのは特殊な立場だったり事情だったりを抱えたりしてるやつがかかりやすい。お前も『闇』を抱えないように気をつけろよ。そんなことになったら……俺は周囲の安全を優先する。」
遠まわしの見捨てる宣言ありがとうございます。
でもまぁ、かからなきゃいいんだろ?
自分は今も昔もあまり感情が変わりやすい人間ではなかった。泣ける映画とやらを見に行っても泣いたことはないくらい。

しかし、この世界かなり恐ろしい世界のようだ。

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