ヒーローライクヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その4・ギルドに来ました

[クロノ]
ハゼット「ついてこい。」
と言うのでついていく。
ハゼット「もうなんとなく気づいてはいると思うが…」
お?なに?なんか言うんすか?
ハゼット「ここはお前から見たところの異世界というやつだ。」
うん、なんとなくそうだろうなとは思ってるよ。ってかあんたから先に言うのかよ。
ハゼット「異世界だから言語が違うというのもあるんだがな。さっきお前の耳と喉に魔力を流した。それによって言語が違うはずの俺たちも会話ができるんだ。」
さらっと言うけどかなりのことだよね。魔力流すとかヤバイんじゃないの?
クロノ「それってどういう原理で会話できるのさ…」
ハゼット「言葉ってのは力を持っている。言葉が持つ力は、話し手の感情や性格を正確に表す。お前の耳には、聞こえてくる言葉が持つ力を分析して、お前の脳の中にある情報と見比べて同じ意味を持ったものをチョイスしてお前の言語に直してるのさ。例えば…俺が『A』という言葉を発したとしよう。だがお前には俺がなんと言ってるか分からない。だが耳にセットした魔力を通してお前の脳から『A』と同じ意味の単語を探し出して、お前の脳に俺が『A』という発言をしたと教えるのさ。」
うん、分かるようで分からんような。この人たとえ話苦手なのかな?
ハゼット「喉の方にも似たようなものをセットしてる。」
でもそれって、相手の言語の事も知ってないとダメだよな…
…一つ疑問が…
クロノ「俺の前に…俺みたいに異世界から来たみたいなやつがいたんですか?」
俺が初めての異世界人だとしたら、ハゼットの俺に対する扱いが慣れすぎている。そもそも俺がここに来た原因を話しても信じはしないはずだ。それに、翻訳をするってんなら向こうの言葉を分かってる必要があるだろう。俺の前に来たその人に言葉を教えてもらったに違いない。
つまり、俺は2人目以降のこの世界への来訪者なはずだ。
ハゼット「…あぁ、2年ほど前に、1人…おそらくお前と同じ世界から来たであろう人間が来た…。」
ハゼットが苦い顔を隠しきれずに言った。
なんでそんな表情すんのさ…。
クロノ「…その人は帰れたんですか…?」
ハゼット「…あぁ、帰れたさ…」
またもや苦い顔。ってか苦みが増した。どんなに鈍いやつでも分かるくらいに増してる。絶対帰れてないよな…その人…。
ハゼットなりに俺を心配させないようにしているのだろう。俺は分かってないフリをしておこう。
つまり、その人は今俺の世界で行方不明になってるわけだよな。戻れてないんだし。戻れてないは俺がそう判断しただけだけど。まぁ、俺は行方不明になったところで心配してくれる人はいないだろうからどうでもいい。
ん?行方不明…?
そういやテレビで行方不明事件がどうのこうのってやってたな…。
確か何年か前に行方不明になった女性がいたけど犯人も何も分かってないって言ってた…。
その人の名前は確か…
クロノ「その2年前の人って、山根やまねはるかって名前ですか?」
ハゼット「…⁉︎」
めっちゃ驚いてる。当たりですわ、これは。つまりあの事件の被害者がここに飛ばされてきてなんか色々あって戻ってきていないと。
ハゼット「知り合いなのか…?」
クロノ「いえ、別に知り合いってわけじゃないです。こっちの世界でなんかそれっぽい人の話を聞いたんで。今その人が何してるかは知りませんが。」
後半はもちろんウソだ。だがバレないように本当に知らなさそうな感じのトーンの話し方をする。こういうのは得意だ。
ハゼット「ああ、そうそう。お前が異世界から来たことは誰にも言うなよ。」
クロノ「え、なんで?」
ハゼット「お前でここに来たのは2人目だが、1人目の存在が公に知られているわけではない。知ってるのは俺と俺の友人数名だ。異世界から来たなんてことが分かったら大パニックになるからな。そいつらにも他言しないように言ってある。」
確かにウチの世界でも宇宙人が現れたというニュースで世界中が盛り上がってたな。似たようなもんだろ。宇宙人も異世界人も。そうなると確かにロクなことにはならんだろうな…。

しばらく歩くと、とある建物の前で立ち止まった。
ハゼット「ここが『ラフ』だ。お前の世界の言葉で、微笑みを表す言葉の1つに『laugh』ってのがあるんだろう?そこからとった。」
なるほどね。確かに縁起の良さそうな名前ではある。
入るぞ、と言ってドアを開ける。ちょっと待って心の準備が

ガチャ、ギィ…

以外と素早く開けるんですね。こういうのはもっとゆっくり開けるもんとちゃいますか?

少女「おかえり、お父さん!」
開けるといきなり魔法少女みたいな服の小さな女の子がハゼットの前にきておかえりと言った。この男、子持ちだったか。
ハゼット「あぁ、ただいま。」
少女「その人は?」
ハゼット「来る途中で拾った…旅人だ。宿がないらしくてな。しばらく泊めようかと思う。」
少女「へぇ~…。いらっしゃい、『ラフ』へ‼︎」
眩しい笑顔で語りかけてくる。かわいい女の子だ…。
だがなんだろうこの違和感…
なぜかは知らんが俺の中に語りかけてくる何かがある。俺はそれに気づいてはいけない気がするし、気付くべきだとも感じる。
いや、まさか違うだろう、と否定したくても自分の心の中ですら否定できない。
ハゼットに聞いてみた。
クロノ「ねぇ…ハゼットさん…。この子…もしかして……」
ハゼット「おそらく、お前のその疑問は当たっていると思うが、とりあえず言ってみろ。」
言うよ?言っちゃうよ?
クロノ「…この子……男の子?」
ハゼット「ああ。」
ああ、の2文字で正解と言われてしまった。マジかよ、いやどう見ても女の子だぞ⁉︎これ‼︎
ハゼット「嫌いか?」
クロノ「全然⁉︎」
オタク特有の上げてしまったテンションが抑えられない喋り方である。俺は男の娘は案外好きですよ?
青色の髪の女「なんだいなんだい、騒がしいねぇ…。ん、誰だい、その人。」
海賊風の衣装の女が来た。
橙色の髪の男「なんすか?新入りかなんかっすか?」
次はオールバックか。
黒色の髪の女「あら、ハゼットさんおかえりなさい。」
今度はボサボサのロングの…眼にクマがあるし、話し方のせいでどことなく病んでる雰囲気の人が。
科学者風の女「さっき拾ってきたって言ってたろう。新入りではないさ。」
あれ、アンタその白衣完全にウチの世界のモノと酷似してますけどもしかして、あんたが1人目?
科学者女「ん?この服が気になるか?森を歩いていたら落ちててな。確かに見慣れない服ではあるが生地が良くて、元の持ち主も分からんから自分のものにしたんだ。お前のだったか?」
なんだ、ここの人だったか。
クロノ「いえ…」
自分の世界ではそういうのは科学者みんな着てます、と言おうとしたが、そういう関連の話はNGだったな…
クロノ「珍しいな、と思って…。」
科学者女「そうだろう?いつかはこれを量産してやろうと思ってるが、今は別の研究で忙しくてな。そっちを終わらせてからにしようと思う。」
一瞬マッドサイエンティストの表情がチラリと見えた。間違いない。
ハゼット「とりあえず、改めて自己紹介させてもらおうか。俺はハゼット・ローウェル。このギルドのギルドマスターだ。」
青髪「あたしはアクア・ローレンス。そっちの役立たずオールバックはあたしの弟だ。」
役立たず…
橙髪「フレア・ローレンス。グータラアクアの真面目な弟。」
アクア「ほぅ…言ってくれるじゃないか…!」
フレア「姉さんこそねぇ…!」
なんだこの姉弟。
黒髪「エリー・ローウェルです。このギルドではナンバーツーですね。」
やはりこの病んでる感。
ってかローウェル?
クロノ「ハゼットさんの…姉か妹かですか?」
ハゼット「いや、俺の恋人だ。」
なんの臆面もなくさらっと言いやがった。この男、やりおる。
エリー「恋人だなんて…♡」
顔を赤くして、両手で手を覆う。
見せつけてくれやがる。
男の娘「僕はレオ・ローウェル。よろしくね!」
手を差し出す。握手?こっちでもその文化はあんのかな?それなら握手すべきだろう。手を握り返す。
クロノ「あぁ、よろしく。」
柔らかい…
はっ‼︎なにを変なこと考えてんだ俺は‼︎
レオ「お兄さん、僕のこと平気なの?」
この世界では男の娘をよく思ってないやつが多いってことか?
クロノ「いや、全然?かわいいよ。」
レオが顔を下に向ける。怒らせたかな…。
科学者「私はクサバ・マキノ。クサバが姓でマキノが名だ。」
お?日本人みたいな感じだな?
マキノ「私は東国の出身だからな。」
なるほど、こっちの世界では日本みたいな名前のノリがある国があると。
フレア「そんで、君は?」
俺の番か。
クロノ「俺の名前はカミヅキ・クロノです。」
フレア「ようこそ、クロノ!」
優しそうな人たちばかりだ。
うん、どうやら大丈夫そうだな。

魔獣とかいう危険生命体がいるけど、まぁ変な問題には巻き込まれないだろう。




1話、完

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