機動転生ヴァルハリオン ~ 俺の体がロボだコレ!? パイロットはヒロイン ~

冬塚おんぜ

第3話 聖鉄であるという事


 いざ旅立つという時に、エールズ王女が問い掛ける。

「胸部装甲を開くことはできますか?」
「そんなことが――」

 いや、できるみたいだ。
 俺はメニュー画面みたいなのを開いて、ハッチオープンを選択。
 すると、コックピットの映像が表示される。
 なるほど、ここなら手の上よりずっと安全だ!

 ちょっと気持ち悪い感覚はあるけど。
 でも俺、ロボットだし。

 そうだよ。
 懸念しなきゃいけないのは、俺が全長25mの巨大ロボットである事じゃないか!

「揺れるかもしれないよ」
「大丈夫です。揺れを軽減する術式が組み込まれている筈です」
「魔法なら安心だ」

 気づいたんだけど、コックピットの中に嗅覚があるみたいだ。
 エールズのいいにおいが、コックピットに広がっていくのがわかった。
 誰が得するんだろうって思ったけど、異物混入とかを防ぐ為なのかな。
 とにかく、おかげで俺はエールズの香りを満喫できた。



 俺はエールズ王女を乗せて、平原を歩く。
 あてどなく、歩く。

「ネクロゴスというのは一体、何者なの?」
「彼らは巨大兵器レヴノイドを操り、この世界に厄災をもたらす存在です。
 その目的は不明ですが、彼らに数多くの国が滅ぼされました」

 どんな理由があったとしても、攻撃して荒らして回るのは良くない。
 弱いものいじめじゃないか。
 上手く言えないけど、そんなのって良くない。

「何としてでも、倒さないとね」
「わたしにも、戦う力があれば良いのですが……」

 そう言って、エールズ王女は苦笑する。
 下唇を噛んでいるのは、悔しさが入り交じっているのかな。
 どうにか、元気付けたい。

「王女が呼んでくれなきゃ、俺はこの世界に来る事は無かっただろう。君にだって、力はある」
「……そう言って下さると、助かります。それと、わたしの事はエールズとお呼び下さい」

 一国の姫を呼び捨てにする権利は俺には無いと思うけど……。
 でも、そのほうが彼女の気が楽になるというのなら、やぶさかではない。

「わかった。ところで、エールズは一人であの場所へ?」
「最初は大勢の従者が。でも皆、私を逃す為に……」
「そうだったのか」
「ですから、せめて一矢報いるべく、這ってでも儀式を成功させねばと思ったのです。
 父上の書斎で見付けた古い書物によれば、召喚の儀式には王族の血が必要でしたから。
 それで私は、彼らの監視をかいくぐって、あの場所へ」

 何という度胸。
 向こう見ずな所は、俺も人の事は言えない。
 でも、この人は無鉄砲どころじゃない。


 道中でエールズが、コックピットの中で干し肉をかじる。
 時間的に言えば確かに、今はお夕飯時なのかな。
 お姫様らしからぬ、質素な食事だけど。

 その様子を見てると、なんだか俺も、腹が減って……?
 あー、何か空腹とかの感覚が全く無い。
 もしかして俺、ごはんも食べられないんじゃ……。

「エールズ」
「なんでしょう?」
「聖鉄という種族は、何をエネルギーにしているんだろう」

 エールズの、きょとんとした表情。
 今まで、そんな発想が無かったようだ。

「何も補給しなくても生きていけるのかな」
「そうですね。そういった話は、聞いたことがありません。傷もヒールをかければ治りますし」
「睡眠は?」
「大気中の魔力を吸収しているので、致命的なダメージが無い限りはずっと活動できます。寿命の概念もありません」

 俺だって、あったかいご飯が食べたいし、ふかふかのお布団で寝たい。
 まさか前世で当たり前に思っていた事を、こうして鋼の身体で有り難がる事になるとは!



 やがて、砦が見えた。
 でもそこはもう、無残に崩れ去っていた。
 生命反応をスキャンする。
 何も、無い。

「平気かい? エールズ」
「……予想は、していました。それより敵討ちを――」

「ムホハハハハハァー!」

「ひっ!?」
「何だ!?」

 空に魔方陣が描かれ、人型の巨体が現れる。
 それは赤い帽子を被り、四つの鉄球を回転させながら浮遊していた。

「ああ、あのレヴノイドは……!」
「君の故郷を滅ぼした奴かい?」
「ええ! 他にもいましたが……そのうちの一つです!」

 俺は目を凝らす。
 すると視界の上下に黒い帯が現れ、レヴノイドの下に名前が表示された。

“狂気茶会・レッドハッター”

 なるほど、レッドハッターというのか。
 便利だけど何だかもやっとするなあ。
 いざこうして、人間離れした機能が付いていると。

 レッドハッターが、鉄球の回転を速める。

「カタストロフ万歳! カタストロフしようよ! カタストロフ!」

 まずいな。
 複数機のうち一つとはいえ、国を一つ滅ぼした奴である事には間違いない。
 鉄球が俺に降り掛かる。

「くっ!」

 ガツン、ガツン、ガツガツガツガツ……!

 連続で叩き付ける、強烈な鉄球の回転。
 でも!

「痛くない! あんまし痛くないぞ!」

 このファンタジックな合金製ボディには、傷一つ付いていない!

「あっれー? カタストロフしないのかお前! ゆるさん!」
「許されないのは、お前のほうだ! レッドハッター!」

 お前みたいな奴がわんさか沸いて出たせいで、俺が成仏し損ねた!
 きっと世界中の、沢山の人々が犠牲になった!
 これ以上、俺みたいな奴を増やさない為にも!
 諸悪の根源を、絶つ!

「茶会は今日限りだ! 食らえっ!」

 目からビーム。
 ところが、それは弾かれる。
 あの鉄球は、バリアを兼ねているようだ。

「ウヒャーハハハハハァ! ヒィーハハハハハァ! ビーム、カタストロフ!」

 牛肉料理みたいな事を叫ばないでよ!
 俺は腹を減らしたくても、減らないんだ!
 もう、肉を味わうことすらできないんだ!
 それもこれも、全部お前達がこの世界を荒らし回ったせいだ!

「怒りのロケットパぁあああンチ!」

 俺は両腕を飛ばして、鉄球の一つを掴む。
 何もパンチするだけがこの武器の使い道じゃない。
 生前、常々思ってきた。
 別に両腕を飛ばした後、それで掴んでもいいんじゃないかって。

 目論見は成功。
 掴まれた鉄球は、他の鉄球と激突して墜落していった。

「ごめん。砦に鉄球が」
「いえ、気に病む事はありません……どのみち、生存者は居ないようですし……」

 胸が痛む。
 でも、攻撃の手を緩めるわけには行かない。
 レッドハッターは、浮力を失って少しずつ降りてくる。
 俺はその真下に駆け寄って、バルムンクを構える。

「なら、せめて、奴がここの土を踏む前に!」

 そして俺は、バルムンクを真上に投げ付けた。
 バルムンクは奴の胸部を、グサリと貫く。

「アバガッ!」

 まばゆい光に包まれて、レッドハッターが爆発した。

『どうせみんな、無に還る……』

 という声と同時に、ウィンドウが表示される。

 “アーティファクトを取得”

 まただ。
 敵を倒すと、何か道具が手に入るのかな?

 俺は、落ちてきたバルムンクを背中で受け止める。
 バルムンクは、ガギンッと音を立てて背中に固定された。

 砦が“聖域”に覆われたので、俺達はひとまず休憩する事にした。




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