機動転生ヴァルハリオン ~ 俺の体がロボだコレ!? パイロットはヒロイン ~

冬塚おんぜ

第1話 死は万物の序章なり



 気が付けば、真っ暗で冷たい空間。
 俺は、その中に漂っている。

 理由は知っている。
 死んでしまったのだ。
 この俺、或破理恩あるは りおんという一人のフリーターは。


『――目覚めてくれたか』

 俺に話し掛ける、厳かな男の声。
 一体、誰だろう? 姿が見えない。

『私は、ある協力者と共に、君を呼び寄せた者だ』

 そうなの?
 確か俺、死んだ筈だよね?
 俺が住んでたアパートで、逃げ遅れた人達を助けようとして。

『そう。君は死んでしまった。瓦礫の下敷きになってね』

 やっぱり、あんなの即死に決まってる。
 頭からコンクリートを被ったし。
 ……それで、助かったのかな。俺が助けようとした人達は。

『私が観測する限りでは、全員無事だったよ。
 君は、消防車が到着するまでの僅かな時間で、十数人の命を守ったんだ』

 なら良かった。
 俺の安っぽい命を引き替えにした甲斐があった。
 何をやっても上手く行かない俺だけど、最期だけは誰かの役に立てたんだね。

 結局、火元がどこかも知らないままだけど。
 俺じゃないのは確かなんだけど……どこなんだろう。

 それで、俺はこれから天国にでも行くのかな? 成仏するのかな?
 そうすると、あなたは神様?

『そんな大それたものではないよ。そして残念ながら、ここも天国ではない』

 視界が徐々に明るくなっていく。
 草原、風車。夕焼けの空。

『ここは、オルグレム。人々と聖鉄……君達が言うところの巨大ロボットが共存する世界だ』

 え、まさかこのオルグレムとかいう世界で、俺は人生をやりなおすの?

『敢えて言えば、君の勇敢さを活かして欲しいんだ』

 くぐもった音が少しずつ大きく、クリアになっていく。


 ――!

「――いです、――下さい!」

 知らない女性の声が聞こえてくる。

「お願いです、目覚めて下さい! 貴方しかいないのです!」

 その悲痛な叫びが、俺の心に火を付ける。
 動かなきゃ。何とかしなきゃ。

 俺は、ゆっくりと身を起こす。


 妙に身体が重たい。
 それに何だか周りが小さい?

 巨大ロボットと言ったけど。
 もしかして、俺はそのパイロットじゃなくて。


『君が巨大ロボットだ』

 俺が、巨大ロボットなのか!

 なんで人間が乗り込む方式じゃなかったんだろう。
 どうせなら人間が良かったよ……。

 いや、まあどんな姿であっても、一度死んでしまったからワガママは言えないか。
 人の姿に未練が無いとは言わないけど、仕方ない。
 だって俺、死んじゃったし。

『すまない。割り切ってくれると助かる。何分、魂は自動的に選定されるのでね』

 そういうシステムがあるんだ?
 とりあえず、そんな事よりまずはあの子を守りたい。
 どうしたらいい?

『使いたい武器をイメージしてみてくれ。
 複数でもいい。それが今後、君の武器になる』

 こうかな?

 俺は、一つ一つイメージしていく。
 まずは、身の丈ほどの大きさはある、巨大な剣だ。
 ロボットといえば白兵戦。
 有名なパースを効かせたカットインもある。
 基本中の基本だ。

 飛び道具は、目からビームだ。
 空を飛び回る素早い奴を、薙ぎ払う。
 銃だと構えて狙うタイムラグもあるから、それを考えると狙ってすぐに撃てるほうがいい。

『いいだろう。後は何がいい?』

 ロケットパンチ。
 ちゃんと戻って来るのがいい。

『飛ばした両手は自在に操れるようにした』

 よし!
 大体この辺までかな、俺が思い付くのは。

『それと、自分の身体を思い浮かべてみてほしい。そうすると、何か浮かんでくるだろう?』

 試しにやってみると、視界の端に何か四角い枠に囲まれた、ロボットの全体像が浮かんでくる。

 緑色に光っている両目。
 のっぺりしていながらも、角張ったマスク。
 額に付いた、幅が違う二つのV字を重ねたような角。
 大きく出っ張った両肩。
 頭より大きい両手。
 そして両足のスネは、角張っていて太い。
 細かい所はどことなく西洋甲冑に似てるけど、シルエットは完全にヒーローロボットだ。

 スペック表記はものすごく大雑把だ。
 全長25mで、本体重量30tらしい。

 もしかして、これが、俺……?

『そうだ。武器の一覧もある』

 武神剣バルムンクというのが、一番上にあった。
 バルムンクといえば、北欧神話でよく見掛ける武器の名前だ。
 さっきイメージした大剣が、これなのかな。

『私のお下がりだ。性能は保証する』

 大事に使わせて貰うよ。

『ありがとう。さて、そろそろ私は行かねばならない』

 行くって、どこへ。

『次の世界だ』

 ちょっと待ってくれ。次の世界って!
 マニュアルとか、チュートリアルは!

『……幸運を祈る』

 丸投げですか!
 俺一人で、どうしろというのか!



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