機動転生ヴァルハリオン ~ 俺の体がロボだコレ!? パイロットはヒロイン ~

冬塚おんぜ

第11話 怠惰の権化! シンドイナー!

 ガシャドゥークとの戦いから、はや三週間。

 俺はエールズとレキリアをコックピットに乗せて、遠浅の海をひたすらに歩いていた。
 遠浅と言っても水深3メートルくらいは普通にあるから、ただの人間が渡るには船が必要。

「うう……ここ数日、眠気が……」

 なんて、エールズは寝ぼけ眼をこすりながらぼやく。
 いったい、どうしたんだろう?
 ずっと同じ景色だから、気分が悪くなってきちゃったのかな?

「うーん、どうしようかな……レキリアは大丈夫?」
「ウチも、なんか駄目になってきた……何これ……船……酔い……? ふわあぁ、あふぅ……」

 お、レキリアがすっごいあくびした。
 歯並びいいな、この子。

 ……じゃなくて。

 このままじゃまずい!!!
 俺はこの前手に入れたばかりのアーティファクト、ホバリングを起動する。

 敵に気付かれるリスクはあるけど、四の五の言っている場合じゃない。
 この場所で囲まれるよりは、ずっといい。




 小さな島が幾つも並ぶ場所に辿り着いた。
 西の都で得られた情報が正しければ、ここにネクロゴスに対抗するレジスタンスが集結しているらしいけど……。

「な、なんだ、この状況……」

 物資は乱雑に放置されているし、人々はみんな無気力に座り込んでいる。
 道端にはスライムのようなものがあちこちに散乱していて、異様な光景だ。
 誰もそれを気に留めない。
 何故か、エールズとレキリアも。

 すると、あのスライムが悪さしているわけじゃなさそうだ。
 じゃあ何が?

「そういえば俺も、なんだか疲れちゃったな……」

 ずっと歩いてたからね。
 ちょっと休憩するくらいは別にいいよね。
 横になろう。




 なんて、ぐだぐだしているうちにすっかり夜になってしまった。
 でも動く気力が無い。

 ……いや、おかしいでしょ!
 いくらなんでもこんなに無気力になるのは!

 絶対、何かが精神に影響を与えているに違いない。
 どこだ、どこにいる!?

 あ、いた!
 諸島の中心にそびえ立つ、緑色でガス状の……巨大な牛?

 “怠惰妖獣シンドイナー”

 ……また随分と安直な。
 しかも名は体を表すと言わんばかりに、俺の接近に対して身じろぎ一つしない。

「おーい」

 無反応。

「おーい?」

 またしても無反応。
 かと思えば、ゆっくりと顔をきちらに向けた。

「あー、しーんーどーいー……いーきーをーすーるーのーもーめーんーどーくーさーいー……」

 ああ、十中八九、こいつが原因でみんなが無気力になっているんだな。
 そちらから攻撃してこないなら、仕方ない。
 俺が仕掛けるしかない!

「問答無用! ロケットパンチ!」

 頭を狙って腕を放つ。
 だけど、ぬめっとした感触と共に腕がめり込んだ。

「うええ!? なんかヌルヌルする!?」
「ううん……勇者様……どうせ効かないなら、殴っても無駄、ですよ……」
「ちょっとぉおおおおッ!?」

 まずい……エールズが、このままじゃニートに!
 俺の元気の源を、こんなにして……許せないぞ、シンドイナー!

 でも、どうやって倒す?
 まずはエールズ達のやる気を取り戻すべきかな?

「こんな所で油を売っている余裕は無いよ、エールズ! 頑張ろう!?」
「うう~……でも、わたしが頑張った所で、今回の敵は無理ですよ~……」

 駄目だ、振り出しに戻ってしまった感がある。

「君がこんな所でへこたれるなんて、見損なったぞ! ネクロゴスを倒して、平和を取り戻すんじゃなかったのか!」
「……わたし、もう十分頑張りましたよ。何も、そんな言い方しなくたって……」

 うぐぐ!
 だ、駄目だ……今度は泣いて塞ぎこんでしまった。

 仕方がない。
 俺一人で戦おう。

「えいやあああああああ!」

 うなれ、百裂ロケットパンチ!
 なんだこれ、紙粘土を殴っているみたいだ!

 目からビーム!
 穴が空いたけど、すぐ元に戻ってしまう。




 テンタクル・ツール・デバイスだ!
 あちこちに工具を入れて、弱点がどこかにないか手当たり次第にまさぐってみる。

「あ~、いーきーかーえーるー……」

 マッサージじゃないんだけど。
 これも駄目と。

 それじゃあ、オービタル・アイアンボールだ!
 鉄球がガス状の身体にめり込む。

 のれんに手押し、ぬかに釘!
 ……あれ?
 万策尽きた?

「……むーだーだー」
「そうですよ、無視して他所に行きましょうよ~……」
「賛成ぃ~……」

 ええい、情けないぞ!
 かくなる上は……!

「こ、ここを突破すれば、水中耐用試験にも付き合っちゃうぞ~……」
「――!」

 お、反応した。
 じゃあエールズには、どうしようかな。

「この世界からネクロゴスを一掃したら、もしかしたら俺は人間の身体になれるかも……?」
「――!」

 よし、上々だ!

「……は! わたしは今まで何を……勇者様! ごめんなさい、わたし、ちょっとおかしくなっていたようです……」
「もう、大丈夫なんだね?」

 エールズは、座席で居住まいを正してガッツポーズを取る。

「はいっ! もう大丈夫です!」
「じゃあ、倒そう。いい加減、ダレてきたし」
「ではこんなのはどうですか? わたしを正気に戻したように、シンドイナーをそそのかしてみるとか」

 押しても駄目なら惹いて・・・みろ作戦だね。
 なるほど、レヴノイドに通用するかはわからないけど……やってみる価値はあるかもしれない!

「よーし、じゃあ」

 どうにもレヴノイドは悪霊に近いような性質があるみたいだし、ここはシンドイナーの性格をよく考えてみよう。

「ねえ、シンドイナー。成仏したら、ネクロゴスに無理やり働かされる事も無くなるよ」
「まーじーかー」
「マジ! 大マジ! ずっとゆっくりできる!」

 シンドイナーは、すうっと消えていった。

「え……?」

 嘘だろ。
 こんなに呆気無いなんて。
 しかも今回、捨て台詞すら無い。

 “アーティファクトを取得”

 ぽかんとする俺達をよそに、アナウンスが淡々と流れた。
 本当に面倒くさがりだなあ、今回のレヴノイドは。

「でもアレだね。ウチ的に、なんか三ヶ月ぶりに勝った感じ!」
「実際は三週間しか経ってないからね!?」

 ……ホントだよ?



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