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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~

冬塚おんぜ

Extend12 ちくしょう、あのアバズレめ!


 ……クソが!

 クソが、クソが、クソが!!
 あたしの正気SAN値をごっそり削りやがってあのパチモン!!
【↑どうして偽者パチモンだと? 平行世界のあんただとは思わないわけ? 少しは頭を使いなよ】

 どれもこれも、ゆぅいの仕業だ。
 あいつじゃなけりゃ、ここまで悪意に満ちた話にはならない!

「あたしに! 何の恨みがあるっていうんだ! 舐めやがって、畜生!」

 すでに荒れた部屋だけど、手当たり次第に叩き壊した。
 背中からはワケの分からない半透明の腕みたいなのが二つも生えてるし、これが結構なパワーを出せるものだから、あちこちの家具が粉微塵だ。
 おまけに霊体みたいなものらしく、木屑とかは刺さらないし、痛覚も無い。
 殴った感触だけが伝わってくる。

「クソが! あぁぁぁぁああッ!!」

『やっぱり駄目ね。世界を加工したら概念汚染での“変異”は防げるかなと期待してたんだけど』

 はい?
 世界を加工って、さらっととんでもない事を言ってませんかね。
 ちょっと冷静になった。

 それに、概念汚染っていうとクラサスさんが言っていたような……。
 いや、それはとりあえず置いとこう。

『……もしかして、こうなる事は予測済みだったりします?』

『あなたの概念汚染はね。後で鏡でも見てごらんなさい。面白いものが見れるわよ』

『やだよ、めんどくさい……』

 他人様には見せられない顔になっちゃったんでしょ。
 だいたい解りますよ。

『大体、概念汚染の条件ってなんです? まさか、本来なら蘇れないところを裏技で蘇らせたから、その副作用とか?』

『……本当は黙っておこうと思ったけど、見事ね。大正解だわ。どうしてやろうかしら。秘密を知られたからには、できれば手放したくないのよね』

『できれば放っといてほしいです』

 こんな、駄目な快楽主義者のお手本みたいな奴に目を付けられたら……。
【↑今まで一緒にいた男だって同じだろ】

 いいや、違う。
 スーと同じ匂いはするけれど、軸になる部分は一緒でも、ある一点だけが決定的に違う。

 男と女の違い?
 ……な訳がない。
 多分だけど、スーが女でもあたしは股を開いていた。
【↑気持ち悪い】

 なんだろう。
 上手く言葉にできない。

『まあ、面白そうだから、この世界で死ぬ・・までは、依頼は続行という事にしておこうかしら。
 これで貸しが一つよ、ロナ……忘れないでね? あなたって本当に、運がいいんだから。ウフフ……フフフ……』

 意味がわからない。
 運って……何のこと?

 いや、訊かないでおこう。
 直感的に、それを訊くのはマズい気がする。
 そこに踏み込んだら、いよいよ終わりな気がする。

 訊きたい……訊きたい。
 我慢しなきゃ。
 他の質問……何か、何か、何か。

 ――アレは、どうかな。

『あたしのどこが幸運だって? あのドッペルゲンガー、めっちゃ迷惑なんですけど。何とかできません?
 近寄るだけで過去の記憶がフラッシュバックしちゃって、ちっとも身動き出来ないんですよね』

 あたしは話をすり替えた。
 痛むかかとを、靴への恨み言で誤魔化すように。

『興味深いわね。詳しく聞かせてもらおうかしら』

『あたしの偽者、どうせあんたが用意したんでしょ。あれはビヨンド?
 この前みたいに、変装能力のある奴を呼んできたんじゃないんですか?』

『……また誰かが邪魔しに来たみたいね。筋書き通りに行かないのは、本当に面倒だわ』

 苛立たしげな声。
 でも、微かな違和感もある。
 初めから、この反応を用意してあったかのような……。

『邪魔しに来たって、誰が何を?』

『情報が無いと何とも言えないわ』

『いや……』

 何見てきたんだよ、あんた。
 感覚を共有していたなら、フラッシュバックの幻覚も……。

 ……?

 ……あぁ、そっか。

『なるほど、視界自体に異常はなかったと言いたいわけですね』

『そういう事。突然吐き出したから何事かと思ったけど、アハハ。物騒なものが来ちゃったわね』

 ――。
 まただ。
 この、胃に来る感覚は何だろう……。
 考えている余裕は、無い。

【↑諦めたら? どうせ足りない頭で考えても辿り着けないだろうし、アハハ】

 クソが。
 なんかウザい声が追加されて、余計に気が散る!
 ……とにかく!

「追いかけないと」

 正気を失ってたけれど、確か衛兵の奴は大型モンスターがどうとかって言っていたのは聞こえた。
 その情報がブラフでなければ、あいつらの思惑通りにはさせない為にもさっさと暴挙を止めなきゃいけない。


 もう足は笑ってない。
 歩いていける。

 渡り廊下の壁をブチ抜いて、そのまま飛び降りた。
 着地の衝撃は、一対の翼手を両方とも地面につけて吸収すればいい。

「――っ」

 大きくて歪な手形が、中庭に出来上がった。
 もう、高いところから飛び降りる事にも抵抗感が無い。
 慣れた事を嘆きたくはない。


 あたしは路地裏や置き去りの荷車なんかに隠れながら進んだ。
 整然と、衛兵の指示に従って避難する市民達。
 不安げな表情はどうやっても消えないけれど、不信感は皆無だった。

 ……馬鹿だな。
 素直に従った所で何割かは、遠くにいるあの化け物から逃げられないと思うよ。

 そう、この“何割か”というのが問題だ。
 あたしがあの女なら、領主に不信感を持つ奴らをまとめて一箇所に誘導する。
 然るべきタイミングで安全地帯の噂話でも流しておけば、不信心者はそっちに向かう。
 で、他の不都合な奴らもその近辺に誘導しておけば不信心者の暴走によって巻き込まれて死んだというていにできる。

 実行犯には帰参者連合に不当な扱いを受けたと主張する“沸かし”の者達にでもやらせればいい。
 ターゲットボールでマーキングされた沸かし達は、よもや自分達が怪物をおびき寄せているとは想像するまい。

 ……うん、ゆぅいならそれくらいは普通にやるね。
 間違いない。
 ほぼほぼ確定的な証拠も掴んであるし。


 ひとまず北壁に辿り着く前にやればいいんだね。
 行くか……ホントは人助けなんて、ガラじゃないけど。
 まぁ、今更かな。

 道すがら、周囲をじっくりと観察した。
 ゆぅいの事だし、二重、三重の策を巡らせている筈だ。
 もしかしたら、クラーラに化けていた時のあたしの妨害工作も、対策されているかもしれない。

 例えば、一部のルートの建物は、他より脆くて崩れやすくなっている。
 巨大モンスターを通しやすくする為だ。
 だからあたしは魔法が使える冒険者を捕まえて、その場で調査の依頼を出した。
 別口で修理も。
 財源は税金。
 国民に還元していると言えなくもない。

 問題は、それまでのクラーラの印象だ。
 お陰で『意外でした。まさか税金でブランドバッグを買うと公言するクラーラさんが……』などと言われてしまったっけ。
 マジで、あいつ何やらかしたの?
 もう死体だから確かめようがないのが悔やまれる。

 ……まぁそういう系統の事を三日ほどやってきたけれど、できる事には限界があるわけで。
 向こうが勘付いて何かしらの代替案を実行していたら、あたしのやってきた何もかもが無駄になる。
 それは、勘弁して欲しいなぁ。

 直接叩きのめすにしたって、段階というものは必要だ。
 と、ここで聞き覚えのある声が通りに響いていた。

「――どこにいらっしゃいますのー!?」

 やっぱり近くに来てるんだね、紀絵さん。
 一体誰をお探しで?

「早くしないと、スー先生を取ってしまいますわよー!」

 ――……。
 まさか、性懲りもなくあたしを探してる?
 あのさ……あたしら、ビヨンドだよ!?
 別にここで死んでも、拠点ではいつでも一緒にいられるんだよ!?

 永遠にお別れって訳じゃないんだから、依頼に集中すりゃいいんだよ!
(もっとも、あたしがクビになったら永遠にお別れかもしれないけどさ)

 けど……そうだね。
 ……ああやって探し回っているのは、そもそも。
 あたしが原因じゃないか。

 紀絵さんはしょんぼりと両肩を落とし、

「ったく。これ以上、心配掛けさせないで欲しいなー……」

 などと言って、両手を後ろに組みながら道端の小石を蹴る。
 そんな仕草を見せられたら、いくらあたしだって流石に胸が苦しいよ……。

 紀絵さんがここに来てるなら、スーも一緒に来るだろう。
 だったら一瞬でケリが付く。
 その間に、あたしは別方面からあの女ゆぅいを探そう。

 できれば全ての企みが潰える瞬間を見届けさせてから殺したいけど、放っておくと外堀を埋められて、いずれあたしの暗躍がバレる。
 せめて目視で確認しておきたい。
 いざとなったら、あいつのお気に入りの親衛隊とでも成り代わってやろう。

 ――だから。

『すみませんね。もうちょっとで終わりますんで、北壁のデカブツは任せますよ』

「え? あれ……今のは?」

 まずは謝罪と生存報告だ。

『今、どこにいますの!? とりあえず“もうちょっと”なんて曖昧な表現ではなく、明確に納期を伝えて頂けませんこと!? ねえ、ロナさん!』

 ごめんね、紀絵さん。
 結局こうやって、あたしの憂さ晴らし・・・・・に巻き込んでしまった。
 拗れに拗れたあたしの精神たましいは“みんなの影に隠れる”という形で、みんなに依存してしまった。

 不幸の背丈は比べられない。
 だから……この胸の痛みは、あたし固有だけのものだ……。


『あら。あなた、泣いてるの!? 視界が滲んでいるって事は、つまりそういう事よね!?』

 うるせーよ。
 なんでそんなに嬉しそうなんだよ。

『新情報が無いなら、見つかるまでそっとしといて欲しいんですが……まぁ、あたしも大人なんで切り替えますよ』

『大人、ねぇ……辛い時でも泣いちゃいけないのが、あなたの故郷では大人の条件なのかしら? 随分と冷めた国なのね?』

『失礼な。家族の葬式の時くらいは泣かせてくれますよ。自分を哀れんで泣く事が許されていないだけで』

『じゃあやっぱり、シケた国よ。泣くも笑うも“回れ右して前へ倣え”だなんて』

『同感。男が泣いたら“情けない”だし、女が泣いたら“同情を買っている”ですもん……あー……やめません? この話』

『じゃ、景気のいい話でもしようかしら。ゆぅいを見つけたわ。行くんでしょ? 送ってくわよ』

『ありがたいお申し出ですが……でもどうやって?』

 ……。

 …………。

 ブォォォン、ガラララララッ、ガシャッ。

 背後に、この世界には不釣り合いな重低音が鳴り響き、不釣り合いなガソリン臭が鼻を突く。
 ……ガソリン臭?

 あたしは振り向く。
 まさか――、

「……さ、どうぞ」

 車!?
 角ばった古臭いパトカーみたいな車!?
 ……窓を開けて、ジェーンが身を乗り出してきた。

「うーわマジかよ何考えてんだよこの女ホント馬鹿じゃねーの……」

 世界観ガン無視もいいところだよ……。

「あら。馬鹿とは心外ね? 1974年式ダッジ・モナコ、手に入れるのに苦労したんだから」

「……で? 乗り心地どうです?」

「ま、古い車だから、そこは察してちょうだい。ダッシュボードに飴ちゃんあるからそれで我慢ね」

「あのさ……やっぱり馬鹿でしょ」

 まぁ乗るけどさ。

 翼手は、何とか背中に仕舞い込んだ。
 鼻をすするみたいな行動を、背中でやるような感じ。
 ……おぇッ。
 想像するだけで気分悪い。
 窓から顔出しとこ……。

「ところで、行き先は?」

「白いゾウさんと戦闘中のド真ん中よ」

 オーケー。
 突貫かましてやろうじゃん……。
 くれぐれも不慮の事故でくたばってくれるなよ、あのアバズレめ!!



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