ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~
Extend4 ボス前に雑魚相手に無双って俺もうそのパターン飽きたんですけど!
ズバァアァァッ!
黄金に輝く鎖で薙ぎ払えば、強化ゴブリンはたちどころに吹き飛んでいった。
数も多いし普通のよりタフだが、やってやれない事も無い。
ただのパワー系だ。
知能がガイジ並だから脅威にはならない。
それより気になるのは、遠くで馬車が並んでいる事と、ダーティ・スーが高みの見物を決め込んでいる事。
それと“悪魔”が姿を見せていない事。
九呂苗が言うには茶髪のロン毛なヤンキーの姿を取っているらしいのだが、一体どこに隠れている?
ダーティ・スーの隣りにいる明らかに不健康で不健全そうな金髪の少女は、多分違うよな……。
「九呂苗ちゃん、悪魔が別のに擬態してる可能性は?」
「ステータスを見る限りでは、擬態は確認できませんでした」
「そう、か……」
まったく、あのマッチョハゲが早々に逃げ出したせいでフォルメーテさんの策も頓挫するし、碌なもんじゃないな。
といっても、突入前の最後のキャンプで言ってたのが『次善策は幾らでも用意してあります』という事だったから、問題ないのだろう。
このゴブリン達を退ければ、次はダーティ・スーが待っている。
……実際の所、ダーティ・スーは今までの誰よりも恐ろしい奴だ。
奴と、目が合う。
「――ッ!」
なんてプレッシャーだ……。
今こうして遠くから見られているだけで、まるでライオンと同じ檻に入れられてるような重圧さえ感じてくる。
冒険者の店で耳にした幾つもの噂(俺が気絶してた間も色々と飛び交ってたらしいが、俺はその内容までは知らない)でも、碌でもない話ばかりだった。
フォルメーテさん達の援護射撃がまるきり無力化された……それは、噂に真実味を持たせるには充分すぎる程の強さで。
勝てるのか?
恐怖で、足が崩れそうだ。
だが、だがよ!
この世界に来た直後、一番最初に戦った相手は誰だった?
村娘達を攫っていったドラゴンだ。
共和国の議会騎士団すら匙を投げたアレを、俺は一人で倒せたじゃないか!
帝国騎士団が束になっても殲滅してくる奴だからって……それがどうした!
所詮、あの野郎は弱い奴をいたぶって悦に浸っているだけじゃないか。
なぁーにが「お前さんの正義を検証してやる(笑)」だ。
そもそも。
ここで引いたら、誰が九呂苗に笑顔を取り戻してやれるんだ?
諦めたら、一真は誰が連れ戻してやれるんだ?
……俺が、やるしかないだろうが。
“世界よ止まれ”!
今のうちにドーピングアイテムを使おう。
亜空間に収納されたアイテムの一覧が整然と並べられ、俺が念じるだけでそれを使う事ができる。
飲むものも、かけるものも、消費されて使った事になる。
実際便利だが、食事はもちろんポーズしてまでやりたくない。
時間が惜しい時とか、毒入り飯を敢えて食べなきゃいけない時を除いては。
まぁそれは置いとくとして。
各種ドリンクで魔法攻撃力と魔法防御力、そして魔力自動回復(高級)の効果を付与!
ブッパでコンボかますときの定番バフセットだ。
そしてその間に、頭の中でマップを広げる。
作戦を少し修正したほうがいいな。
――そして時は動き出す!
「アマンダは俺の隣を走りつつ、戦端を切り開いて!」
「ああ!」
赤毛の少女は両手にロングソードを一本ずつ持って、俺の隣に。
つり目がちな眼差しが、俺に勇気をくれる。
「ベルは魔法で援護を! ドロテアは周囲の警戒、接近する敵を見つけたらトラップ魔法で迎撃!」
「「了解!」」
ベルの金髪のふわりとしたボブカットは、深緑色のローブがよく似合う。
か細い声を精一杯に張り上げる懸命さが、俺の背中を押してくれる。
ドロテアの落ち着いた声音、ダークブラウンの髪が、ミントグリーンの瞳が、俺に冷静さをくれる。
「ゲルダさんは、九呂苗ちゃんを護衛で!」
「応さ」
ゲルダさんの染み渡るアルトボイス。
そしてガッシリとした大盾は、俺を安心させてくれる。
「エウリアはフォルメーテさんの後ろをついていきながら、怪我人の治療を!」
「わかりました、クレフ様」
フォルメーテさんは眼鏡をクイッと上げて、キリッとした返事をくれた。
様付けはやめて欲しいのだが、今はそれについてツッコミを入れられない。
「エウリアは?」
青いボブカットの髪を風に揺らすエウリア。
けど、鈴の音のような声色は返って来ない。
アイスブルーの瞳をやや伏し目がちにしつつも、辺りを見回していて。
俺の言葉が届いていないようだった。
「エウリア、どうかしたの?」
フォルメーテさんが、心配そうにエウリアの肩を叩く。
すると、ようやくエウリアは振り向いた。
「……――あ、いえ、少し考え事をしておりました。申し訳ございません」
えー?
頼むよ……。
フォルメーテさんもため息混じりに、エウリアの肩をポンと叩いた。
「後で聞かせてね。でも、今は目の前の敵に集中して頂戴!」
両肩をビクッとさせてから、エウリアは錫杖を構えた。
「――っ、はい!」
腕を振り上げ殺到する、強化ゴブリンの軍勢。
「ギェギェー!!」
俺達はそれを切り開いてゆく。
「行っけぇぇッ!!」
少しずつ日は傾き。
空は赤みを増してゆく。
「熱鎖黄金樹――フル・スロットルぅぅぅうううッ!!」
ドッ、ドッ、ドッ、ブワサァァァァァ――!
大盤振る舞いだ!
この程度で俺達を阻めると思うなよ!
絶対に、絶対に決着を付けてやる!
と、ここでポーズだ。
まさか見破られるなんて事は無いよな?
見破れた所であいつが対策できる筈も無いとは思うが、用心はしておこう。
後は、賭けだ。
タネが割れるか、奴の心が折れるか。
……後者は、無いんだろうなぁ。
どう考えてもキチってるもんなぁ。
なんて悩み事はちっとも必要なかったんだが。
それを知るのは、この後わりとすぐ後だった。
え?
どっちの意味だって?
ご想像にお任せするよ……(白目)
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