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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~

冬塚おんぜ

Extend1 この幕間にティータイムは無かった


「おねーさん、何やってんの?」

「――い゛っ、いえ、なんでもっ!」

 荒涼とした友愛村で幾度目とも付かぬ夕日が、私を照らす頃。
 私は不意に背後から掛けられた声に驚いて、胸元にスケッチブックを抱え込む。
 後ろから覗き込んできたのは、字見あざみ君……だったか。
 日課の筋トレはもう終わったのだろうか。
 私とロナちゃんがこの世界に来た時には、もう始めていたようだけど。


 正直、私のこっ恥ずかしい落描きを見られるのはちょっと。
 スー先生の似顔絵だからね。
 先生に惚れてるのが丸わかり。

「あー、ごめん。秘密にしときたかった系のやつだったね」

「いえ、そんな事は……急に見られて、少々びっくりしただけですわ」

 この言い方じゃあ私、見せるの確定じゃないか。
 まったく、らしくない。
 らしくないなあ、私。

「……てゆーか、話変わるけどさ、俺の相方が最近、過保護なんだけど」

 話をあからさまに軌道修正したな、この子。
 もしかして私、気を遣われた?
 まあ、それでもいいか。

「相方さんといいますと、剣崎さん?」

「そーそ。俺だって、ただ帰宅部やってたわけじゃないしさ、こう見えてちょっとは鍛えてんのにさ」

 実に微笑ましい。
 まるで弟が出来たかのよう。

 でもね、字見君。
 君の恋人である剣崎君は、見知らぬ世界に迷い込んで、奇妙な力を手にしてしまった今の状況が不安で仕方がないのだろう。
 身を挺して庇いたいくらい、君を大切に想っているのだろう。
 だから、解ってあげて欲しいね。

 そもそも、君は最初すごくおどおどしていたような気がするけど……?
 ここは本人の尊厳という奴を守ってあげるとしよう。

「守りたいなら守らせて差し上げましょう。
 殿方というものは、往々にして、まるで騎士が姫君を守るかの如く振る舞いをする事で承認欲求を満たしたいものですわ」

 私にしては、些か諧謔的で衒学的に過ぎる言い回し。
 ああ、早々に私の不器用ぶりが露呈してしまった。
 何たる恥辱。
 持ち直さねば。

「……それとも、姫君の立場に甘んじる事を快く思いませんの?」

 なればこそ、ここは一つサディスティックに攻めましょう。
 これにて威厳回復。

「思わない。全然。ぶっちゃけ、違うじゃん。
 あいつ頑張り屋で、生真面目で……あー、俺、会ってそんなしない人に何言ってるんだろ」

 気持ちは解らないでもない。
 私はスー先生を尊敬しているけれど、気軽に恋バナできるかというと、それは多分ムリだ。
 色々とそういう部分を超越しているというか、目線を合わせられないというか。
 例えるなら……会社のすごく上の重役、それも尊敬している人(生前では終ぞそんな人とは巡り会えなかったけど)を相手にする時と同じ気持ちなのだ。

「なんつーかさ、俺、パートナーとは対等でありたいワケ」

 眩しいなあ。
 そう、その価値観があったら良かった。
 あの会社をして、女は奴隷でしかなかったから。

 同僚の続ヶ丘がシナリオライターのチーフになる前は、別の人がその椅子にいた。
 矢冴さん、今はどこで働いているのだろう。
 あの人が戦ってくれたから『レジェンド☆るきな』のシナリオは“マネージャーによる魔法少女育成ゲーム”というような、前作を踏みにじる作風にならずに済んだ。
 るきなは、プレイヤーとイコールの立場であるべきだ。

「……あ、あの? 俺、何かマズい事言っちゃったかな?」

「――だったらそのチャラい喋り方、どうにかしてくれませんかね? ぶっちゃけ・・・・・超うぜー・・・・ッス!」

「――ッ!?」

 ああ、ロナちゃん、そんなに強く尻を蹴飛ばしてはいけないよ。
 男の子は女の子より尻の肉が薄いのだから……!

「つーか、うちのスーさんハーレムメンバーに何口説いてるんですかね」

 誤解だよ。
 ほら、字見君も焦って首と手をブンブンしている。

「く、口説いてねーし! 単なる恋バナだし! ……つーか、ハーレムってヤバくね? 他にも女の子を囲っちゃってるワケ?」

 こらこら、誤解を解こうと苦慮するあまり新しい火種を放り込むんじゃありません。
 ハーレムとか、何を!
 デートもえっちもしたけど、あれは一夜限りだ。

「ふーん。チャラそうな割に、ハーレムって言葉には嫌な顔をするんですねえ? 男の子の夢じゃないんですかね?」

「いや、俺の喋り方は、そうしないとナメられっからそうしてきたら、癖になっちゃっただけだし」

「とにかく、あたし達はスーさんのモノだから、手出し厳禁ですからね」

 彼が不良になった理由を、さらっと流した!?
 意外と重要な気がしないでもないけれど、今ここで訊くのは空気が読めていない対応だろうか。

「は、はあ……いうて、俺は別に、女の子は恋愛対象じゃないからね?
 ていうか、おねーさん達も歪んでるの、気付いてる? 普通、自分達をモノとか言っちゃう?」

 歪んでいる……?
 え、それ、私も含まれるの?
 やっぱりスー先生のハーレムに含まれる以上、まともじゃないの確定?

 ……けれども、悪い気はしない。
 私も謂わば、はぐれ物。
 それは揺るぎない事実。
 なればこそ、悪逆を尊ぶべし。
 ふ、ふふ……あ、アハハ。

「オーッホッホッホッホ!」

「うわ、なになになに!? どうした!? どこでツボったの!?」

「わたくし達が歪んでいる? 大変結構でしてよ。
 ええ、そうですとも。愛を否定しながらも、一対一を是とする愛とは大きく乖離した、爛れた関係など。
 きっと、真実の愛を嘯く浅学非才なる凡愚の方々には理解できませんわねェ? ウフフフフ……」

 あ。
 これ、楽しい。
 発狂ごっこ楽しい。
 何故なら「いい年こいて何やってる」とか言われなくて済む。

「おい、ロン毛。紀絵さんに変なスイッチが入っちゃったじゃないですか」

 そして字見君の尻に、ロナちゃんの蹴りがヒットする。

「痛いって、ケツ痛い!」

 ごめんね、ロナちゃん。
 半分は正気だから、この前みたいに完全に狂っているわけではないから……。

「ていうか、ハーレムだからってヤるのが必須条件ってわけじゃないですからね?」

 こら!
 ガールズトークならまだしも、知り合って間もない男の子に下ネタを振るんじゃありません!

「いや、知らねーし!?」

「とりあえず、ここまでのやり取りで安全確認はバッチリですね」

「どんだけ警戒してんだよ、ぶっちゃけチョー凹むんですけど……」

「基本、身内以外は誰も信用しないと決めているんです。そう、誰が相手でも・・・・・・
 たとえ、その、恋人持ちであろうと、女が範囲外と公言していようと、確認は徹底しておかないと。
 まぁ百歩譲って? チャラ男に碌な思い出が無いのは認めますけど? オフ会に来たチャラ男と一悶着あった話、します?」

「い、いや、ケッコーです……」

 話を振るなら、ここらが潮時かな?
 ううん、でもどう出ようか。
 あまりぐいぐいと聞きに行って、スー先生がやきもちを焼いたりしてしまわないだろうか。

 否……冷静に考えろ、私。
 スー先生は常人に非ず。
 とにかく狭量な人ではないことだけは間違いないから、他の男と話をした程度で動じるわけないか。

「あ、一つお伺いしてもよろしくて?」

「いいけど、何を?」

「字見さんが不良になった理由について――」

「――ズドゥルァーストヴィーチェ!」

 少しハスキーでよく通る女性の声が、村中に木霊する。
 と、同時に。

「げぇ、この声は!」

 ロナちゃんがにわかに顔を青くした。
 そういえばロナちゃんから、ロシアかぶれのおかしなエルフの話を聞いた記憶がある。
 もしかすると、ついにご対面?

 無骨な屋根付き馬車が何台もやってくる。
 その先頭の馬を御していたのは、銀髪をボブカットに揃えて……付け髭をしたエルフ?

「お久しぶりですな、同志! あれ、同志ダーティ・スーはどちらに?
 ほむ……この近辺にいると、サイアンが匂いを辿ったのですがな……」

「あのアバズレは犬か何かですか」

「同志の忠犬には違いありませんな? 我輩はよく手を噛まれますがな」

 大笑いをする、付け髭のエルフさん。
 ロナちゃんは無視して、私に向き直るや親指で彼女を指し示した。

「紀絵さん、こいつが例の胡散臭いハラショーエルフです」

「へー……あ、申し遅れました、わたくし臥龍寺紀絵と申しますわ。
 こちらの国に倣ってノリエ・ガリョージと名乗るべきでして?」

 挨拶は大事だ。
 スカートを軽く摘んで、淑女の如く一礼する。

「ほむ! 新しいビヨンドの方ですな!? これはご丁寧にどうも! スパシーバ、スパシーバ!
 我輩、ナターリヤ・ミザロヴァと申しますですぞ! ほむ、ほむ……ううむ、流石は同志が引き抜いただけあって、なかなかに風情のあるお嬢様ですな!
 些かブルジョワジー的意匠が強すぎるきらいはありますが、そこはそこで、戦いの中でドレスが汚れ行くさまを想像するだけで、そそられますぞ」

 うっ……このエルフさん、想像以上に危ない人だった……!
 あまり迫られると、その、目が回るというか!
 おてて、硬いですね!

「……ところでノリエ殿、錬金術に興味はお有りですかな?」

「ま、間に合って、おりますわ……」

「はいはい、残念でしたっと」

 ロナちゃんが間に入って、両手で押し広げてくれたお陰で何とか離れられた。

「あ、ちょうどいいや。ちょっと銃弾を作って欲しいんですがね、できます?」

「ここでの滞在は短めの予定ですが、その期間内で作れるならば」

「じゃ、この銃に使える非殺傷の弾薬を。嫌がらせ特化型で」

 指輪の収納から取り出したのは、映画とかでよく見かける長い銃だ。
 ボンッしてガチャッとやるアレは、何と呼べばいいのだろう?

 シュワちゃんがよく使っていそうな銃を、ナターリヤさんはあちこちから眺める。
 流石にファンタジー世界のエルフでも銃口が危ないのを知っているのか、そこは覗き込まなかった。

「ほむ……対価は?」

「あたしらのボスに会わせてあげますよ。ついでに、あのパンツ姫を穴兄弟ならぬ竿姉妹にしてあげても――」

「――商談成立ですぞ!」

 早ッ!?
 そういうの、勝手に進めて良いものなのだろうか。



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