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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~

冬塚おんぜ

Task1 ステイン教授と接触せよ


 ごきげんよう、俺だ。
 今回は巨大マフィアに雇われて、貨物列車で逃避行。
 貨物車両のコンテナは前後にドアが付いていて、そこを開ければ連結部から景色が一望できる。
 とはいえ、さっきから山とトンネルばかりで面白みがない。

 協力者はバイクに乗った暴走族。
 まさしく末法の世を体現した、地獄の追いかけっこだ。


 挙句一番後ろの車両には、さっきのスパイ野郎はバイクから飛び乗ってきやがったらしい。
 俺が依頼人から請け負った仕事は、奴の妨害だ。
 だから一両ずつ列車を切り離す。

 依頼主も無茶な作戦を考えてくれるぜ。
 物資と一緒に大統領も運ぼうなんて。

 別々にやったほうが、上手く回ると思うんだがね。
 下請けの組織じゃ、ここまでが限界なのかもしれん。


 まあ、この世界だと煙の槍といった魔法は使えないらしい。
 その中で新しいおもちゃを使わせてくれるのは、実にありがたい話さ。
 例によって、とびきりおかしな奴だったが。
 確か三日前だったか……。



 *  *  *



 ドーム状の、だだっ広い部屋だ。
 見渡す限り真っ白な壁に、器具まで真っ白という目が痛くなりそうな空間でもあった。

 ……依頼主の組織、イルリヒトは幾つかアジトを持っている。
 ここはそのうちの一つで、俺は構成員による案内をバックレて、この部屋に忍び込んでいたのさ。
 ちなみに、ロナが上手く誤魔化してくれている。

 どうせこの手の組織は、雇われ者には大して情報も与えず、好き勝手に使い潰してくれるつもりに違いない。
(そう、いつぞやのクソッタレの王様みたいに!)


 部屋の中心には、透明なドームが怪しげな機械と一緒に置いてあった。
 そのドームの中で、青白い光の塊が時折スパークを放ちながら浮いている。
 普通の人間ならばずっと見ていれば目を悪くするに違いない。

「――美しいとは思いませんかね?」

 少しばかり歳のいった男の声が、無機質な空間に響く。
 背後からかけられた声に、俺は振り向かなかった。

「ああ。だからこそ、こんな宝石箱に入れておくのは勿体無い。
 貴婦人の手に持たせれば、よりいっそうサマになるだろうよ」

 背を向けたまま、応えた。
 敵意は微塵も感じなかったし、何よりこの施設も依頼主の懐だ。
 安くはないだろう金を、ここでドブに捨てるのもおかしな話だからな。
 だが、挨拶代わりに銃を向けてみるのも作法としては悪くないだろう。

「で? お前さん、誰だ」

 肩越しに振り向いてみれば、声の主は奇妙な出で立ちだった。
 長い銀髪、巌のようにいかついツラ、白衣がはちきれそうな程のマッチョな肉体(推定190cm)。
 極めつけは、両目に付いている丸いゴーグルだ。
 カメラのレンズのようなそれは時々発光して、ピントを合わせようとしているような動きを見せている。

 そんな奇怪な見た目の胡散臭いおっさんが、顎の突き出たツラに目一杯の笑みを浮かべて、恭しく一礼する。

「ワタシはフランキー・ステイン! この研究所の所長です! ファーハハハハ! よくぞお越しいただいた!」

 両腕を大きく広げて馬鹿笑いをするゴーグル野郎。
 何が嬉しいんだか知らんが、ハグはしてやらん。
 発明家ってのは、正気をミキサーにかけなきゃいけない取り決めでもあるのかね。
 だいたい、その名前もどうかと思うぜ。

「フランキー・ステインねえ。フランケン・シュタインみたいな名前してやがる」

「ンンいけませェエエエエエんッ!! ワタシはフランキー・ステイン! 間違えないで頂きたいッ!!」

「ワァオ。ご立腹かよ、大人げない。で? ステイン教授、この美しいものは一体なんだ?」

 俺が指差すのは、ドームの中の輝く光球。
 ステインだかシュタインだかより、気になるのはそっちだ。
 この手の技術はどうせプラズマとかだろうが、敢えてうんちくを垂れさせてやってもいいだろう。
 俺の慈悲深さに感謝してくれ。

「これはワタシが設計・開発した、指向性プラズマビーム誘導装置。攻撃、防御、それぞれに作用するのです。既に試作品は、このワタシが絶賛★装備中ッ!!
 試しに、お手元の武器でワタシを撃ってみなさい!」

「おいおい、冗談だろ? 豆鉄砲とはワケが違うんだぜ」

「ええ、既に動作試験済みですからねぇ! 安全性は保証されているのですよ、フフフフ!」

「じゃあお言葉に甘えて」

 ズドン!
 放たれた銃弾は、ステインを貫かなかった。
 青白い壁に阻まれて、弾が溶けたからだ。

「すごいじゃないか。まるで……」

「まるで、魔法のようだと。ええ、ええ、そうでしょうとも! ワタシこそがこの現代を生きる大魔導師! 素敵! 快適! 刺激的ッ!!」

「そう、その通り。いや、大魔王じゃないか。これが世に出回れば、お前さんの名はあっという間に広がっていく」

 なんて持ち上げちまったもんだから、もう大変だ。
 ステインの野郎、まるでブロードウェイのミュージカルスターが演説をかますみたいに朗々とくっちゃべり始めた。

「かの有名なCIAをご存知でしょう? あれは既に、その情報を掴んでいる。
 何せ、こちらからお披露目してさし上げたのですから! ご想像いただきたいのが彼らがそれを目の当たりにした時の表情! ドローンから送信された映像を見ただけでも背筋がゾクゾクしたのですからそりゃあもう直に見たらそれだけで絶頂すること請け合いであり更に申し上げるならばこれらプラズマ兵器が既存の煙たいばかりの原始的な銃器を駆逐した時地球は初めて大宇宙の戦いへと次元の高みを登るのでありまして今すぐにでも世界はプラズマの猛威にひれ伏すべきなのです! ハハハ、ファアーハハハハッ!」

 よく息が続くもんだぜ。
 途中から聞き流したが、熱意は紛れも無い本物だ。
 この野郎のオツムん中は、狂気しか無いらしい。

「じゃ、こいつに装填する弾を作ってくれよ。できるだろ?」

 俺は気まぐれに、バスタード・マグナムを見せながらそんな事を頼んでみた。
 本気にする程には狂っちゃいないだろうと高をくくって。



 ……まさか二日で完成させてくれるとは思わなかった。
 いわく、構想自体はあったらしい。
 だが、既存の銃だとどうしても口径が合わないんだそうだ。

 その点で言えば、バスタード・マグナムは適任だった。
 装填できる弾の口径はネジさえ調節すれば何でもござれ。
 その上、リボルバー拳銃だから新しく部品をこさえるのも早い。

 いやあ、3Dプリンターって奴はべらぼうに便利だ!
 他の世界で、どうにかして電源を確保して使えないもんかね?



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