聖なる夜と三年物のオナホ

とびらの

聖なる夜と三年物のオナホ

 今年もクリスマスがやってくる。

 日本で、若人がもっとも多く結合している日でもある。

 人類はせっかく男と女という、二種類の生命に分かれて生まれたのに、なぜにこうも結合したがるのか。
 艱難辛苦を乗り越えて合体するくらいなら、初めからみんな雌雄同体で生まれてこればいいはずだ。
 なんの意味も無い行為。

 しかし女子どもは、このクソ寒い中、生ケツ生モモのミニスカートにニーハイソックスという謎防寒着、男子らは首回りチクチクするのをこらえてアホほど長いマフラーを巻いて、両者がウェイウェイ言いながらハチ公前をグルグル回りバターとなって溶け合って、なんやかんやあって十月五日くらいに出産をするのである。

 ……いや、わかってるよ。そんなの都市伝説だって。

 少なくとも俺――柴田明弘二十歳、ご当人には、そのようなウェイウェイな日々は来ていない。
 過去十九回、そんなクリスマスが来たためしがない。
 きっとこれからも無いだろう。

 十二月二十四日、深夜。

 俺はがさごそと音を立て、自室のデスクを漁っていた。
 一番下の引きだし内部一角に、隠し扉の仕掛けがある。何の変哲もない板張りの、小さな穴にペンを差し込んで、テコの要領で持ち上げる。
 するとそこに、筒型をしたモノがあった。

「ふふ――」

 俺は笑った。

 プラスチック製、全長約15センチの物体だ。基本は円柱だが、ヒョウタンのように軽くクビレがある。
 右手でしっかり握りこむと、男子の平均的手のひらに、しっくりなじむ太さになっている。

 俺の指が当たるところの着色が摩耗でハゲて、握力により何度となく押されてきたためか、購入した時より若干形を変えたその道具――

 男性用マスターベーション補助器――通称オナホ!

「ふふふ――くはははははっ!」

 ああ、なんて可愛いんだっ!

 赤いフォルムに、白のライン。図らずともサンタクロースカラーではないか。俺のためにクリスマスコスプレしてくれたのかい? 980円の使い捨てオナホのくせに気が利いているじゃあないか!

 俺はケーキを目の前にした幼児のごとき純真な目で、円柱状のソレに、『ぬるぬるっ ほんのりホットゼリーローション』をブチュウウと注入した。

「さあ、可愛いサンタさん。今夜は俺がおまえのなかに、たっぷりとミルクをプレゼントしてやるぜ。クリスマスイブだ。たっぷり可愛がってやるからな、マイスイートハニー」

 甘い言葉をささやいて、俺は厳かにパンツを下した。

 と。

 すわ、結合しようとした断面が、突然強い光を放った。まぶしさに目を細めた眼前、オナホの穴から、にゅるるるんと何かが飛び出した!

「ハッピィィイイイイイ――メッリィイイイイクリスマァァアァアアアアアアース!!!」
「うぎゃっ!!」

 何者かに体当たりを食らい、俺は仰向けにひっくり返った。下半身まるだしにした腹の上に、ドンとそいつがまたがってくる。

「えっ、うぉっ! び、美少女っ!? なんだぁっ?」
「妖怪でえぇぇぇすこんばんはぁああああああっ!」

 俺の上で、元気よく手を挙げる謎の美少女。年のころは十五、六。黒髪黒目、日本人然とした面差しに、古めかしい和服の姿である。
 なるほどわかりやすく日本妖怪のいでたちだ。しかしテンションの高ぇなおい。

 激しくVサインを連発しながら、突然現れた美少女妖怪はにこにこ笑う。

「どぉもっ! ワタシは主にとっても大事にされた物体がココロを持ち、やがて妖怪化し実体となった存在です! いわゆるアレです、付喪神!」

「へ? は、はい、あっはい。え? ナニの?」

「もちろんあなたがいま手に持っておられるオナニー・ホール! ワタシはオナホの付喪神ィ!」

「ええええええっ!?」

 俺は仰天し、手に持ったものを見降ろした。

「な、なんだそりゃ!? オナホの付喪神だなんてそんなのありか。昔話だともっとこう……普通、傘とか下駄とか、なんかそういうものにつくんじゃねえのか付喪神って」

「あら、べつに物がナニでも関係ありませんよぉ」

「何百年も使い続けたらってことじゃなかったっけ。俺がこのオナホを買ったのは、せいぜい三年かそこら前――」

「使い捨て用オナホを三年間、千回も使ってれば、有難がって化けもします。こんなに大切に使ってくれてありがとう」

「なんかいい話風にしないでくれる? すいませんケチでスケベでコキ使っちゃっててすいません。やだうまいこといっちゃった」

 頭を下げる美少女付喪神に、俺は慌てて土下座した。

 いやほんとすいません。そういうことするなってパッケージにも書いてあるけども、なにぶん俺の小遣いが月に三千円だもんで。


 しかし……オナホの付喪神、か。
 神だか妖怪だかよくわからんが、やっぱ、あれかな。美少女の姿で現れたってことは、やっぱ、そういうことかな。

 俺は改めて、オナホ神(略した)の全身を視姦した。

 白い肌に、ふっくらとしたバラ色の頬。艶のある黒髪に、庇護欲をそそる丸い瞳。
 着物が朱と白の格子柄なのは、一応、原型のカラーを踏襲しているのだろう。

 百七十五の俺よりも頭一つ半は背が低く、胸や尻もなだらかなもんである。

 無邪気に笑う、甲高い声。

 ……好みのタイプより、ちょっとロリ路線に寄ってはいるが……
 もちろん全然、許容範囲であった。

 オナホ神は微笑んだ。

「明弘さま。こうしてワタシが付喪神として生まれられたのは、明弘さまのおかげです」

「お、おう。毎日シコってただけだけどな」

「ワタシはあなたに、お礼をしなくてはいけません。……使い捨てオナホを千回も使うような、ケチでスケベでコキ魔で、妙にメンテナンスだけマメな童貞の明弘さまに――」

「もうちょっとオブラートお願い」

「ワタシに出来ることを、させてくださいませ」

 そう言って、オナホ神は頬を赤らめ、俯いた。
 ゴクリと喉を鳴らす俺。だってコレ……あれだろ。どう見てもアレだろ。

 ――キタコレっていうやつだよな!?

 俺は汗ばんだ両手をワキワキさせて、オナホ神に歩み寄った。抱きしめようとした腕が空振りする。
 床にしゃがみこんだオナホ神は、転がっていた彼女の本体――オナニーホールそのものを、俺の前に差し出して。


「このオナホの性能をグッとレベルアップしておきました!!」


 ………………は?

「とりあえず使い捨てじゃなく、洗浄により繰り返し使用OKに!」

「ええと君が、彼女になってくれるとかそういう」

「中のジェルローションがホット機能で体感人肌温度をキープ! さらに途中で乾いて粘っこくなったり擦れて痛くなるといった難を完全クリア、いつでもぬるぬるしっとり感!」

「いやじゃなくて本物」

「その他お客様から寄せられた、あんなもの欲しい、こんなものあったらいいなにお答え! 寂しいシングルセルフひとりぼっちマスターベーションライフを一生涯ご支援いたします!!」

「おまえデイリーオナニスト馬鹿にしてねえか童貞見下してねえかっ!?」

「だって丸三年間毎日オナホ使ってるとかキモい。しかも使い捨てを超大事にしてるとかまじキモい」

「自分の存在全否定してまで主をディスる」

「あとワタシ、不細工はちょっと」

「オブラァァアァアーーーートに包めぇええええあああああああ!!!」


 きっぱり言い切るオナホ神に、俺はとうとう襲い掛かった。床に押し倒し着物を引っぺがそうとした、瞬間、少女の姿が掻き消える。

 腕が空振り、べちゃりと床に突っ伏す。
 静寂に包まれた自室には、俺一人だけが残された。

 かすかに残る、おしろいの香り。

 そして朱白色の塗装が剥げかけた、オナニーホールが転がっていた。


 クリスマスは今年もやってくる。
 

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