自殺の楽園

巫夏希

005

 情報を得たクザンとシキガワは、警察署には戻らずにシキガワの家へと向かった。
 一組の男女が一つの家へ向かう――文面からすれば仲睦まじい男女なのかと錯覚する可能性すら浮上するが、断じてそんなわけではなく、無味乾燥としている。

「……パソコンは二階のやつを使ってくれ。警察署にあるやつと比べれば性能は落ちるかもしれないが、少なくとも解析くらいは役に立ってくれるだろう。何かあったら直接声をかけるか内線でもいいからかけてくれ。すぐに対応はするつもりだ」
「了解。シキガワさんは?」
「私は下でこのファイルの内容を見ておくよ。ただ、何も隠していなかったから、もしかしたら犯人に内容を改竄された可能性もあるがね」
「それは言えていますね、まあ、それはこちらもですけれど。とにかく、お互い健闘を祈りましょう」
「ああ、そうだな」

 そして二人はお互いに健闘を祈り合い、作業を開始した。



 ◇◇◇



 ファイルには書類が挟まっていた。
 そのどれもが自殺ウイルスに関わることで、そこからいろいろな情報を得ることが出来た。

「自殺ウイルスの感染経路サイトをまとめた表、か……。けっこう、すごいことをしていたのだな、あのサイトの管理人は」

 表にまとめられていたのはURL、サイト名、サイト内容、一日のページビューとユニークアクセス、そしてそこから推察される感染可能性者であった。
 ユニークアクセスとサイト内ページビューは、どれもバラバラで、多いところは数百万単位だが、少ないところは数十人しか見ることもないサイトまで、様々だった。

「ページビューから法則を導くことは不可能、か」

 呟いて、別の項目を見る。
 次に着目したのはサイト内容だ。サイトの内容はバラバラだったが、ある程度の内容でまとめられていた。

「警視庁・警察批判が殆どを占めているな……」

 二〇二九年現在、犯罪は増加傾向にある。
 犯罪者も姑息に逃げ回る為、そう簡単に捕まえることは出来ない。だから、検挙率も年々低下傾向にあった。
 それを批判する声も少なくは無かった。

「警察が批判されて立場が危うくなる者、ということか……?」

 警察批判で立場が危うくなる、といえば――。
 直後、彼女は一つの仮説を立てた。

「自殺ウイルスをばら撒いているのは……警察関係者……ってことか?」
「シキガワさん! 大変です!」

 同時にクザンが階上から降りてきた。

「何だ、騒々しい」
「パソコンのデータにはロックがかかっています! これがないと確認することも、データを削除することも出来なかったそうです。俺は無意識にデータコピーをしましたが……おそらくパソコン外部にデータのオリジナルを移動させることもパスワードなしでは不可能でしょうね」
「……成る程」

 だが、裏を返せば。
 そのデータさえあれば自殺ウイルスの犯人に大きく近づくかもしれない。

「おそらく、それが肝だ。それさえ閲覧出来れば……自殺ウイルスに大きく近づく。だが、まあ安心しろ。こちらも大きく近づいたところだ。恐らくだが、犯人は警察関係者だと考えられる」
「どういうことですか、それって?」
「自殺ウイルス感染サイトの一覧だ」

 そう言って、彼女は表を差し出した。
 クザンはそれを見つめる。

「その、内容と書かれたところを見てみろ。一つの共通点が浮かび上がってくるはずだ」
「えーと……あ、殆どが警察を批判した内容……?」
「そういうことだ。警察批判により、それがターゲットにされた。まあ、これで確定したわけではないが、そういう可能性は十二分に考えられる」
「成る程。でもパスワードが解らなければ……」

 彼女の携帯電話が着信メロディを鳴らしたのは、その時だった。何種類かの電子音を組み合わせた、非常に無機質なものだった。

「失礼、電話だ」

 そう断ってクザンから少し離れた位置に立ち、電話に出た。

「はい、こちらシキガワ」
『シキガワくん』声の主はヨミシマだった。『事件だ。すぐに現場に向かってくれたまえ』
「場所は?」

 ヨミシマが言った場所は、先ほど二人が訪れたマンションだった。
 シキガワはそれに頷く。

「了解。すぐに向かいます」

 彼女は車のキーを取り、外へと向かう。

「どこへ?」
「とんぼ返りだよ、クザン」日光防止のサングラスをかけて彼女は言った。「このまま事件がどう展開するかは解らないが、一応追いついたということになるね」

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