勇敢なるオカケン

チョーカー

お買い物~♪

 祖母の家についた。
 母から預かった鍵で扉を開く。
 祖母が生きていた頃と変わらないはず……。

 「ちょっと待ってて」

 私はさくらちゃんを入口で待たすと、家の中に入る。
 祖母のお葬式で訪れたのが2か月近く前。その間、人の出入りが途絶えた家は、窓に覆われた分厚いカーテンによって光は遮断。暗闇に包まれていた。 
 持ち主を失った家は、まるで主人を追って死んでしまったような寂しさを感じさせる。
 私は、家中のカーテンを開いて回る。

 「う~ん だめだ」

 光が室内を照らすと、床の埃が目立つ。……それと変な臭い。
 1日目は掃除に追われそうな予感。

 
 人間の平均歩行速度は、およそ5キロ。
 要するに、普通の人が歩く速さは、時速5キロ前後らしい。
 つまり5キロの距離は1時間もかかるという事になる。
 ちなみに現在の時刻は6時。夕方の18時。
 この村にある唯一の個人商店は、閉店の時間らしい。
 当然ながら、祖母の家に食糧は残っていなかった。 
 近場のコンビニに向かわなければ、夕飯を食べれない。
 それに掃除用品も買わないと……
 しかし、そのコンビニまでの距離が往復5キロだと言う。

 「……買い物に行くのに1時間も歩かないといけないのね」
 「じ、自転車があると、そこまで苦にならないよ」

 私とさくらちゃんは夕飯を買いにコンビニに向かって歩き始めた。

 「コンビニ……」
 「ん?あやちゃん?コンビニがどうかしたの?」
 「コンビニってコンビニエンスストアの略じゃなかったかしら?」
 「ん~ そうなの?」
 「ええ、日本でが何故か、便利なお店って意味になるらしいの」
 「……全然、便利じゃないね」

 1人だったら、コンビニで買い物をするのに1時間かけるなんて耐えられない。
 でも、不思議とさくらちゃんと2人なら、楽しくてたまらない気持ちになってしまう。
 やっぱり、可愛いな。さくらちゃん。

 「ところで、この付近はお年寄りも多いはずだけど、買い物はどうしてるのかしら?……ネットでポチッと?」
 「いや、流石に日常品を通販で購入してないよ。週に1回、移動販売のトラックが来るの!」
 「え?移動販売のトラック?」
 「荷台のカバーを開くと、お店の棚みたいになってて商品が並んでるの」
 「なるほど」

 コンビニに到着。

 「必要な物は……と」 

 手荷物で来たので、大抵の生活必需品は現地調達。
 帰宅後、万が一にも買い忘れが発覚してしまったら、1時間ワンモア!
 掃除用品、シャンプー&リンス、洗顔用品。

 「……着替えは手荷物で持ってきたから良いとして」

 割りばしと紙コップも必要かしら?
 そこで気がついた。 
 2か月間、あの家は放置されていたわけで……
 電気は止めてないけれども、放置されていた電気製品が機能しているのか確かめていなかった。
 記憶を手繰り、昔見た祖母の冷蔵庫を思い出す。

 「まだ、止まってないよね。う、うん」

 そう自分でも言い聞かせながらも、常温でも大丈夫な食糧を確保していった。
 コンビニのかごは、サイズが小さい。日常品と食べ物を入れると1つじゃ足りなくなる。
 それでも何とか、レジまで持って行く。
 普段、利用した時のコンビニでは、まずお目にかかれない金額が表示された。
 母から預かっていた、虎の子の封筒から一枚の紙を取り出し、お会計を済ませた。

 「お待たせ」
 「うわぁ、凄いね」

 両手に大型のビニール袋を装備した私にさくらちゃんはシンプルな感想を送ってくれた。

 「1つ持とうかな?」

 そう言って手を差し出してくれたさくらちゃんにお礼と断わりの言葉をする。

 「……でも、重そうだよ」
 「さくらちゃんは、私にとってお客さん。心配はご無用だね!」

 見栄を張ってみた。
 見栄を張ってしまった手前、「やっぱり、お願いできる?」とは言えない。
 私とて矜持があるのだ。さくらちゃんに情けない姿を見せられない。情けない言葉を発せられない。
 30分、平常心とNO疲労感を演技し続けて帰宅する。
 そんな離れ業のミッションを達成せねばならない!
 頑張れ私!負けるな私! がんばれ!がんばれ!

 女優は、熱量のある照明を長時間、身に受けても汗を流さないという。
 もしかしたら、汗は精神力でコントロールができるのかもしれない。
 ……すごいね 人体!
 そんな帰り道。私たちは、再び分校の前を通った。
 そう言えば、私たちが出会った時間帯は……

 「ねぇさくらちゃん」
 「ん?なぁに?」
 「夕飯を一緒に食べたら、ここに来ない?」
 「ここに?」

 さくらちゃんはスマホを取り出した。どうやら時間を確認しているみたいだ。
 そりゃ、そうよね。今の時間は7時くらいかしら?
 女の子が簡単に出歩いていい時間帯ではなくなってきてる。
 それでも返事は意外にも―——

 「うん、大丈夫だよ」

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