勇敢なるオカケン
親友との再会
暗闇にはもう慣れていた。そのはずだった。
しかし、昼間の騒がしさ。子供たちの笑う声。
『あはっはははは』 『キャッキャッ待ってよ』
それが二度と訪れないと理解した瞬間に彼女は狂ってしまった。
1人きりで誰とも接点を持つ事が許されない存在として生まれた彼女は、外から聞こえてくる声のみが外界と自分を繋げる唯一のものだったのだ。
彼女は神だ。この限りなく狭い世界という条件付きであるが、彼女はまぎれもなく神であった。
その存在を認識され、あらん限りの畏怖という信仰を集めて降臨していた。
それが、もうない。
信仰を失った神は狂い。その存在を変貌させていく。
それは新たな概念の誕生と消滅である。
夏に相応しい強めの日差し。
日焼け止めが必須アイテムとして活躍してくれる。
蝉たちの合唱を風流と言う人もいるけれど……私はダメ。
どう聞いても綺麗な音色とは聞こえないし、単純に五月蠅いと感じてしまう。
ひょっとしたら、それは夏の暑さでイライラしているのが原因なのかもしれないけれども……
どうせだったら、鈴虫のようなに鳴いてくれればいいのに。
それなら暑さのイライラも抑えられる……かもしれない。
私は、そんな事を考えながら駅の外で迎えを待っていた。
ここは無人駅。切符を誰に渡せばいいのか悩むような場面に遭遇したけれど、電車から降りてきた車掌さんが走って、切符の確認に来たのは驚いた。
夏休みを利用して、お母さんの実家に泊まる事になっていた。
お母さんもお父さんも一緒に来る予定だったけど、急な仕事が入ってしまい、私だけが先に来ることになってしまった。
お母さんの家―——つまりは、お祖母ちゃんの家。
私の知らない所で、お母さんとお祖母ちゃんは喧嘩をして、長い間疎遠になっていた。
理由は知らない。結局、互いに和解する事もなく……お祖母ちゃんは他界した。
それは2か月前の話。
月日で言えば5月の事。クラス替えにも慣れ、新しい友人も増えた頃に、届いた急な知らせ。
身内のお葬式は初めてで、何をやればいいのか分からないまま、始まって、気がつけば終わっていた。
他には身よりもなく、持ち主を失った家の管理―———なにより、財産の整理などが目的で私たち一家は、お祖母ちゃんの家に泊まる予定になっていたのだ。
「……ちゃん。あやちゃん!久しぶり!」
私を呼ぶ声。それは懐かしい親友の声。
パタパタと駆け寄ってくる彼女のかわいらしい姿に、思わず頬が緩み切ってしまう。
彼女の名前は阿倉さくら。
子供の頃からの友達。祖母の家に行かなくなって、疎遠気味になっていたけど……
最近はS N Sを利用して、ほぼ毎日、互いの近況を話合っている仲……いや、親友と呼んでも過言ではない!
「さくらちゃん さくらちゃん さくらちゃん」
思わず、駆け寄ってくる彼女を素早く抱きしめて捕縛してしまった。
その小さな体は小動物を想像させ、愛でたくなる。
体は小さいのに、出る所は出やがって!って嫉妬が含めてあるのは秘密だ。
「あやちゃん!キツイってばぁ!」
私の腕の中でパタパタと暴れるさくらちゃん。
「はぁ~ これは癒し効果ね」
暫しの抱擁で英気を養う。あぁ、心が洗われていくわ。
穢れた身体的な嫉妬心が薄れていく。
彼女の体力が減少していくのを感じて、慌てて彼女の体を手離した。
「もぁ、酷いよ」
彼女から抗議を受けて、平謝り。
私たちは声を揃えて笑った。 これが私たちの間柄。
「相変わらず静かで綺麗な街ね」
「ん~そうかなぁ?住んでる側だと、よくわからないけど?」
 
私たち2人は、駅を後にして歩き始めていた。
街とは言ったけれども、ここは村と言った方が正確。
けれども『村』なんて単語を日常生活で使う機会なんて、滅多にない。
だから、自然と街なんて言葉が出た。
視線を水平に保てば山々。下へ視線を動かせば、水の張った田んぼ。
多くの道はアスファルトで舗装されていない。土を中心にして、左右は草花が生えそろっている。
「田舎だよね」
「うん、街じゃないね」
そんな会話を楽しみながら、祖母の家へ向かう。
その途中―——
「あれ?」
私は足を止める。
「どうしたの?あやちゃん?」
「……もうやってないんだね」
「……うん」
私が指差した先は学校。小学校の分校……だった場所。
そして、私たちが出会った場所。
でも、その場所は、私の思い出から乖離していた。
鉄の門は錆びついて、片側は、閉じ閉めするためにある地面のレールから外れたまま、放置されている。当然、門の役目は果たせない。
中を覗くと、そこは校庭。長い間、雨風にさらされたグランドには凹凸が遠くからでもわかる。
地面には無造作に生えた草々が部分部分に覆い茂っていたりする。
校舎の窓は割られていて、建物としての機能が死んでいるみたいだった。
それでも私は思い出す。私たちの思い出。
出会いを―——
確か、あの日も夏。
私がこの街……いえ、この村にいたという事は大型連休の夏休みという事。
そう……あれは、夏休みの出来事。
私は家出した。理由は覚えていない。
たしか、私の我儘が母を怒らせたような気がする。
外は闇だった。
街灯も少ない。家々から溢れる光がポツポツと見える。
頼りの月明かりも雲に隠れて、光は消え去っていく。
まるで未知の世界に迷い込んでしまったような感覚だった。
気がつけば泣いていた。気がつけば震えていた。
気がつけば、この場所で―——
この分校の隅で震えながら泣いていた。
そこに現れたのが阿倉さくらだった。
彼女は泣きじゃくる私の手を取って、家まで送ってくれた。
「大丈夫だよ。きっと、あやちゃんのお母さんも許してくれるよ」
その時の彼女の笑顔を忘れる事はない。……きっと、絶対にない。
しかし、昼間の騒がしさ。子供たちの笑う声。
『あはっはははは』 『キャッキャッ待ってよ』
それが二度と訪れないと理解した瞬間に彼女は狂ってしまった。
1人きりで誰とも接点を持つ事が許されない存在として生まれた彼女は、外から聞こえてくる声のみが外界と自分を繋げる唯一のものだったのだ。
彼女は神だ。この限りなく狭い世界という条件付きであるが、彼女はまぎれもなく神であった。
その存在を認識され、あらん限りの畏怖という信仰を集めて降臨していた。
それが、もうない。
信仰を失った神は狂い。その存在を変貌させていく。
それは新たな概念の誕生と消滅である。
夏に相応しい強めの日差し。
日焼け止めが必須アイテムとして活躍してくれる。
蝉たちの合唱を風流と言う人もいるけれど……私はダメ。
どう聞いても綺麗な音色とは聞こえないし、単純に五月蠅いと感じてしまう。
ひょっとしたら、それは夏の暑さでイライラしているのが原因なのかもしれないけれども……
どうせだったら、鈴虫のようなに鳴いてくれればいいのに。
それなら暑さのイライラも抑えられる……かもしれない。
私は、そんな事を考えながら駅の外で迎えを待っていた。
ここは無人駅。切符を誰に渡せばいいのか悩むような場面に遭遇したけれど、電車から降りてきた車掌さんが走って、切符の確認に来たのは驚いた。
夏休みを利用して、お母さんの実家に泊まる事になっていた。
お母さんもお父さんも一緒に来る予定だったけど、急な仕事が入ってしまい、私だけが先に来ることになってしまった。
お母さんの家―——つまりは、お祖母ちゃんの家。
私の知らない所で、お母さんとお祖母ちゃんは喧嘩をして、長い間疎遠になっていた。
理由は知らない。結局、互いに和解する事もなく……お祖母ちゃんは他界した。
それは2か月前の話。
月日で言えば5月の事。クラス替えにも慣れ、新しい友人も増えた頃に、届いた急な知らせ。
身内のお葬式は初めてで、何をやればいいのか分からないまま、始まって、気がつけば終わっていた。
他には身よりもなく、持ち主を失った家の管理―———なにより、財産の整理などが目的で私たち一家は、お祖母ちゃんの家に泊まる予定になっていたのだ。
「……ちゃん。あやちゃん!久しぶり!」
私を呼ぶ声。それは懐かしい親友の声。
パタパタと駆け寄ってくる彼女のかわいらしい姿に、思わず頬が緩み切ってしまう。
彼女の名前は阿倉さくら。
子供の頃からの友達。祖母の家に行かなくなって、疎遠気味になっていたけど……
最近はS N Sを利用して、ほぼ毎日、互いの近況を話合っている仲……いや、親友と呼んでも過言ではない!
「さくらちゃん さくらちゃん さくらちゃん」
思わず、駆け寄ってくる彼女を素早く抱きしめて捕縛してしまった。
その小さな体は小動物を想像させ、愛でたくなる。
体は小さいのに、出る所は出やがって!って嫉妬が含めてあるのは秘密だ。
「あやちゃん!キツイってばぁ!」
私の腕の中でパタパタと暴れるさくらちゃん。
「はぁ~ これは癒し効果ね」
暫しの抱擁で英気を養う。あぁ、心が洗われていくわ。
穢れた身体的な嫉妬心が薄れていく。
彼女の体力が減少していくのを感じて、慌てて彼女の体を手離した。
「もぁ、酷いよ」
彼女から抗議を受けて、平謝り。
私たちは声を揃えて笑った。 これが私たちの間柄。
「相変わらず静かで綺麗な街ね」
「ん~そうかなぁ?住んでる側だと、よくわからないけど?」
 
私たち2人は、駅を後にして歩き始めていた。
街とは言ったけれども、ここは村と言った方が正確。
けれども『村』なんて単語を日常生活で使う機会なんて、滅多にない。
だから、自然と街なんて言葉が出た。
視線を水平に保てば山々。下へ視線を動かせば、水の張った田んぼ。
多くの道はアスファルトで舗装されていない。土を中心にして、左右は草花が生えそろっている。
「田舎だよね」
「うん、街じゃないね」
そんな会話を楽しみながら、祖母の家へ向かう。
その途中―——
「あれ?」
私は足を止める。
「どうしたの?あやちゃん?」
「……もうやってないんだね」
「……うん」
私が指差した先は学校。小学校の分校……だった場所。
そして、私たちが出会った場所。
でも、その場所は、私の思い出から乖離していた。
鉄の門は錆びついて、片側は、閉じ閉めするためにある地面のレールから外れたまま、放置されている。当然、門の役目は果たせない。
中を覗くと、そこは校庭。長い間、雨風にさらされたグランドには凹凸が遠くからでもわかる。
地面には無造作に生えた草々が部分部分に覆い茂っていたりする。
校舎の窓は割られていて、建物としての機能が死んでいるみたいだった。
それでも私は思い出す。私たちの思い出。
出会いを―——
確か、あの日も夏。
私がこの街……いえ、この村にいたという事は大型連休の夏休みという事。
そう……あれは、夏休みの出来事。
私は家出した。理由は覚えていない。
たしか、私の我儘が母を怒らせたような気がする。
外は闇だった。
街灯も少ない。家々から溢れる光がポツポツと見える。
頼りの月明かりも雲に隠れて、光は消え去っていく。
まるで未知の世界に迷い込んでしまったような感覚だった。
気がつけば泣いていた。気がつけば震えていた。
気がつけば、この場所で―——
この分校の隅で震えながら泣いていた。
そこに現れたのが阿倉さくらだった。
彼女は泣きじゃくる私の手を取って、家まで送ってくれた。
「大丈夫だよ。きっと、あやちゃんのお母さんも許してくれるよ」
その時の彼女の笑顔を忘れる事はない。……きっと、絶対にない。
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