乖倚人 ~かいよじん~

巫夏希

第三章 乖霊殺し

「やっと砂漠を抜けた…」

「うん」

二人は歩きつづけ、漸く砂漠を抜ける事に成功した。

「ここは…トリャネル城、か」

「ここも昔は多くの人が住んでいた筈なのに…」

「あの戦い、がな…」

十年前、厳崎は乖霊を使って世界を核の戦火に陥れた。

そののち、乖倚人の滅亡を人類が計画、殺戮していった。

乖倚人はもはや一握りしかいなくなってしまった…。

「ねぇ。兄さん。あれ…」

「?」

「精葉、じゃない?」

精葉しょうようとは天劉と淕至の幼なじみだ。

淕至と同様戦いに巻き込まれて死んだと思っていたのだが…。

「あ!天劉!」

精葉は天劉に気づき、大声を出した。

精葉は手錠を掛けられているようだ。

手錠を掛けている男が「なんだ!?貴様ら!」と言ってこちらに向かってきた。

「仕方ねぇな…アルダン!実体化!」

[わかりました]


バシィィィィッ


電撃とともに武器が錬成される。

「さぁ、勝負の始まりだ」



「乖倚人か…。今日はいい人材(売り物)がそろってんな!」


バチィィィィッ


男も電撃とともに武器を錬成した。

「さぁ!行くぜ!」

その声とともに二人は素早い、とても見えない、動きで戦闘をはじめた。


カカカカカ…


ただお互いの乖霊が実体化したものがぶつかる音、この音のみが聞こえていた。


カカカカカカ…


(くっ…結構手強いな)

「ハハハ!!お前はこの俺の乖霊『シール』に適わない!」

「何!?」

「…いけ、『インティメート』!!」


パシュウウウウ…


まぶしい光に包まれる二人。

「…な、なんだ…」


パアアアアッ…


「な…なんだ…?」

気づくと天劉の乖霊『アルダン』は消えていた。

「『アルダン』実体化を認める!」

[…]

「アルダン!」

「クハハハ…俺の乖霊はいわば『乖霊封じ』!!俺が『シール』の実体化を解くまで乖霊を出現させることは出来ない!」

「なに?」

「さぁ、もう終りだ。おとなしく捕まるがいい…」



ポチャン


ポチャン


滴り落ちる水の音が谺する。

「…いてて…」

天劉は全身に感じた痛みで目を覚ました。

「あれ?」

天劉は起き上がる。

近くに洗面器があり水が入っていたが、泥臭くなっていたので、とても飲めるような状態でなかった。

「あれ?淕至…精葉は?」

天劉は立ち上がった。

案外この、独房と呼べそうな空間、は広かった。

「淕至!!精葉!!何処にいるんだ!?」

天劉は力一杯叫んだ。

しかし、その声はただ虚しく谺するだけだった。

「ここから抜け出さねーとな。」


ボコッ


「!?」

突然、穴が開いた。

「フウウー」

「淕至!」

「シーッ」

淕至は天劉の口を塞いだ。

「静かにしてくれよ。バレたらどうするんだよ」

小声で言った。

「…そうだな。すまない」

「さぁ、行くよ」

「まて、精葉は?」

「精葉はどこにいるか分からないんだ…さっきより警備を厳重にしたのかもしれない。」

「…とりあえず、帰ろう。兄さん」



天劉と淕至は近くの宿にたどり着いた。

作戦を練り、精葉を取り戻すのは明後日に行われるオークション、その会場ということにした。

人が多いのは、ネックだが部屋を探すよりは手間が省けてよい、という結論に至ったからだ。

そして、その日。

「さぁ、行くか」

「『乖霊封じ』はどうするの?」

淕至が聴いた。

「大丈夫。ちゃんと作戦は練ってあるさ。」

天劉は頭を右の人差し指でつつきながらニヤリと笑った。

〔オークション会場〕


ワァァァァァァァ


会場は声援に包まれていた。

「…十年前に、誰がこんな世の中を予想しただろうか」

「そうだね」

天劉と淕至が言った。

『みなさん。お集まり下さい。まもなくオークションが始まります』

アナウンスが会場に響く。

「行くか」

「うん」

天劉と淕至は会場に入った。



『さぁ、寄ってらっしゃい。見てらっしゃい。色んな物が手に入る?オークションの始まりだよぅ』

会場に入ってしばらくすると男の声が聞こえてきた。

「あいつだな。精葉をさらった男、というのは」

段の方を指差す。

「とりあえず、精葉が出てくるまで、どこかに座ってようよ」

淕至が座るよう促した。

「…そうだな」

その通り天劉も座った。

しばらくして。

『さぁ、本日の目玉商品。なんと"人間"だよ!!』

「行こう、淕至」

「うん」


ガラガラ


荷台に載せられてきたのは紛れもなく精葉だった。

「『オルダン』、実体化!」

[ハッ]


ウィィィィィン


天劉の腕が剣と化した。

そして、


ダッ


走った。走った。走った。


ズドン


瞬く間もなくステージに登りつめ、鉄で作られた手錠を壊した。

「じゃ、僕も…」

[わかりました]


グウウン


淕至のまわりに渦が生まれる。


ウウウン…


風は竜巻と化し、人々を寄せ付けない。

「逃げるよ、兄さん!」

「オウ!」

天劉は精葉を抱き抱え、逃げた。


「おっと、ここから先は行かさねぇぜ」

そこにいたのは先程の男、いつの間にか天劉達の目の前に来ていた。

「ちっ、『オルダン』実体化解除!」

[ハッ]


シュウウウン


天劉の手が、普通に戻った。

「良いのか?乖霊を戻したりして、」


ニヤリ


天劉は不敵な笑みを溢す。

「『インティメート』!!」

天劉を緑のオーラが包む。

「無駄だ!倚力が通じる…訳がない!」


シュルルルル…


「ハハハ!!死ぬがいい!」


キィィィィン


しかしその緑のオーラが、触手を防いだ。

「なにっ!?」

「…やはりな。あのとき俺は乖霊と同時に倚力を強めに作動させた。」

「なに…そんなことが、出来るはずは…」

「あぁ、ないはずだ。」

「普通の乖倚人ならな!」

「…で、したら案の定、乖霊にひびが入った。まぁ、そういう事だ」

「…バカな。"あのお方"は…私に言ったはず…」

「これは"最強の乖霊"だと…」


ガッ


天劉は首を掴んだ。

「オイ…貴様…"あのお方"ってのは…まさか」

「厳崎のことか?」

「そ、そうだ……!! 我らが主、厳崎様……!」
 
男は、怯えながらもはっきりとその名を言った。
 
「どこだ……!! 厳崎はどこにいる……!!」
 
天劉は、『オルダン』を実体化させた剣を男の喉先にかまえていた。
 
「……言うのはよくないねェ」
 
突然、後ろから、声が聞こえた。
 
その声は、氷のように冷たかった。
 
「……どうやら、ぼくを追ってるみたいだね?」
 
「おお…… 厳崎様……!!」
 
男はひょこひょこと、腰を抜かしたまま、その男――厳崎のもとへ向かった。
 
「……貴様が厳崎か」
 
天劉は振り返る。一緒に淕至、精葉も。
 
そこにいたのは、周りにいるきらびやかな衣装を着た貴族部類の連中とは異なる、一風変わったオーラを出していた。
 
ところどころ破れた白衣、ホルスターを腰につけ、胸には星のバッジをつけている。
 
「西部劇のガンマンにでもなったつもりか? あぁ!?」
 
天劉はガシィッ!! と地面をける。
 
しかし、厳崎はその余裕の表情を崩さず、
 
「くくく……!! 君たちも御苦労さまだねェ? このぼくのわずかな情報を頼りに砂漠を越えてトリャネルまで来てくれたんでしょ? うれしいねェ……!!」
 
厳崎はまるで子供のような無垢な笑顔を見せ、
 
そして、一瞬で表情を変えた。
 
「まあ、“ここで全員死ぬんだけどね”?」

『何をしている』
 
空の上から、“何者かの”言葉が聞こえたのは、その緊迫した状況の時だった。
 
「……くっ。“トライデイン”か!! なぜ私を止める!! 彼らを倒せば『あれ』は完成するではないか!!」
 
厳崎は、空に向かって吠えた。
 
『静かにせよ。“ガリアダスト”。おぬしのせいで計画が失敗したらそうするのだ?』
 
「……ぐむ」
 
厳崎は黙ってしまった。
 
「“ガリアダスト”? “トライデイン”?」
 
その会話を横から聞いていた天劉と淕至、精葉は同時に言った。三人の頭の中には疑問符がいっぱいのことだろう。
 
「……ふん。ここは去ってやるとしよう」
 
「!? 厳崎様。それはどういう……!?」
 
厳崎のその言葉に男は驚いたことだろう。
 
「……うるさい!! 上からの命令だ!!」
 
「……残念だねェ。君たちと戦いたいけど、今は“目的”があるみたいだ」
 
「ククッ……。まあ、せいぜいぼくと“1分”張り合えるくらいには成長してよね。じゃなかったら」
 
「つまらないよね」
 
厳崎はそれを言って、ヒュン!! と空気を吸いこみ、消えていった。
 
先ほどの男たちは主を失っておろおろしていた。
 
「とりあえず……これで解決、ってところか」
 
天劉は一言、言った。
 
 
 
 
第三章 完

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