乖倚人 ~かいよじん~

巫夏希

第二章 安らぎの揺り籠

あれから10年。



世界は…荒地と化していた!!!!



ヒュウウウウ…。



砂漠の中を、一人さ迷う。



彼の名は天劉。



10年前、乖倚人の村の長老を決める闘いで逃げ出した者だ。



彼はあるヤツを探している。



名は厳崎。



遠い昔、悪の乖霊を手に世界を滅ぼし、更に10年前、乖倚人の村を滅ぼした張本人である。



何故天劉はその事を知っているのか?



話は10年前に遡る…。




~10年前~




天劉は弟、淕至と戦うのを避けるため、その場から去った。



15分後。



何かが気にかかった天劉が戻ってみると…。



龍と長老、督糲が闘っていた。



そして、龍はこう言った。



[フフフ…。その通り、我が名は厳崎!!世界をもう一度闇に埋没させる男だ!!]



天劉は気付かれぬよう、走り去った。



淕至は居たが、彼も犠牲になる。



彼を…救うには力が足りなかった…。



厳崎。



その名を心に刻み込む。



「いつか、いつか倒してやる。」



心に誓って。




「あ、あれは…?」


ぼんやりと町がみえる。

「…………」

天劉は何かを念じた。

すると、


ボコッ。


ボコボコッ。


天劉の周りの砂の地面が固まり、上に上昇したのだ。


それから、さっき見えた町を眺める。


「あった…」










その日の夕方。天劉は街にたどり着いた。


「…ここは…一体どこなんだ?オアシスにしては緑が少ないしな」


「ここは、オアシス、トンファですよ」

側にいた女性が答えた。

「オアシス…トンファ?本当に?」


「ええ…」


「分かった。ありがとう。で、宿屋はどこにあるかな?」


「最初の角を左に曲がった突き当たりてす」


「そうか。分かった。ありがとう。」



「ここか…」

天劉は小さな石造りの家にたどり着いた。ここが宿屋のようだ。

「…着いた」


ガチャ


「いらっしゃい。お泊まりですか?」

優しげな声が聞こえてくる。カウンターにいた女性、だ。

麻の服を纏い、年は天劉とおなじくらいだろう。

「…寝床はあいているか?」

そんなことはどうでも良かった。天劉はとにかく暖かい寝床でぐっすりと寝たい、その気持でいっぱいだったのだから。

「はい…。ついて来てください」

天劉がついて行くと、床を拭く男…多分奴隷だろうか、がいた。

最初は奴隷らしい、と貶してみていたが、その男の顔を見たあと、すぐに表情が変わった。

見覚えがある…。

それは天劉の弟、淕至だった。



「…淕至か?」






天劉は思わずその『気になったこと』を声に出した。






その『淕至』と思われる少年は一度は天劉を見たものの、直ぐに作業にうつった。





「…何かありましたか?」






「…あの者は」





天劉は淕至を指差し、言った。




「…あぁ。あの者は、『淕』といって七年前、行き倒れていた者をそのまま我が俊家の奴隷とした者です…どうかいたしましたか?」




「…いえ、部屋に案内してもらって宜しいですか」




女は微笑み、了承した。




〔部屋〕



「…結構、広い部屋だな。」



「ええ。ここ一番の部屋となっております」



「…お食事は何時頃に…」



チラリと時計を見ると午後五時を回っていた。



「七時過ぎに…お願いしてもらおうか」



「それと、先程の『淕』とやらを連れてきてもらえるかな」

天劉の手には一枚の紙が握られていた。

女は紙を受け取る。

何かを悟ったかのように外に出る。





15分後。

「連れてまいりました。どうぞごゆっくり」

「淕、と申したな」


コクリ


淕は頷く。

「…いや、淕至、か」

天劉は『淕』の本名を言った。


コクリ


淕は少し躊躇って再び頷く。

「天劉…この名に聞き覚えがあるか?」


コクリ


またも頷く。

「…淕至。僕が天劉だ。」

「!!」

さすがの淕、いや淕至もこれを聞いて冷静でいられる訳はなかった。

「…兄さん」

「…淕至」

「何があった…というのは俺も知っている。村が崩壊した元凶は『厳崎』という乖倚人であることを。」

「…」

「およそ10年もの間調べ尽くした。そしてようやくあの厳崎の目的にまでたどり着いた。」

「?」

「やつは『安らぎのゆりかご』とやらを作ろうとしている。ということを。」




「安らぎの…ゆりかご?」

淕至が言った。

「あぁ。俺もそれしか分からないのだが、」

天劉は言った。

「俺は消し墨になってしまった村に戻った。その時唯一俺の家だけ残っていた。」

「俺はそこに入ってみた。そのとき、地下室を見つけた」

「地下室に入ると一冊の書物があった。」

天劉はカバンから一冊の古い本を取り出す。

「読むぞ」

「『天劉、淕至。お前たちがこの本を読んでいるということは私はもうこの世にはいないのだろう。私はある重要な事を教えようと思い、筆をとった。厳崎という闇の乖霊を手にした者が近くこの村を襲うだろう。彼がここに来るのは私が『安らぎのゆりかご』について知ってしまったからだろう。『安らぎのゆりかご』とは強大な乖霊を護る為の力のシールド、である。ということを。』」

「…力のシールド…強大な乖霊…か」

「…行こう。兄さん」

「あぁ」

「乖霊を倒すために…」

次の日、天劉は淕至とともに旅に出た。

「さぁ、行くぞ」

「厳崎…倒してやる」





第二章 完

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コメント

  • ノベルバユーザー601496

    改めて有名作品の美しさや素晴らしさを感じさせて頂いてます。
    これからもずっと楽しみにしております。

    0
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