乖倚人 ~かいよじん~

巫夏希

第一章 十年前の話を

 西暦二一〇〇年。

 日本のどこかにある、かつて人間と助け合いながら、共存していった乖倚人の里。

 その――ある古い集落から、物語は始まる。

天劉てんりゅう。早く帰るよう毎日言っておるじゃろう!五時から倚力の特訓じゃと!」

「うるさいな!督糲かみらいじっちゃん!」

「止めてくれよ。兄ちゃん。毎日喧嘩なんか。」

「お前は真面目だな。淕至りくよし。」

「まあね。」

「そうだよな。お前はお兄ちゃんより真面目だもんな…。」

「?」


「ん?まぁ…いや、此方の話だ!」

天劉は笑っていた。

しかし、彼らは知らなかった。

彼らが背負う戦いの運命を…。

「皆のもの!集合じゃ!」

督糲がいきなり全員を呼びつけた。

「おほん。全員集まったようじゃな。」

「では、話に入ろう。」

ドクン。

ドクン。

「これより、勝ち抜き戦を行う。異国語で言うところの、トーナメントじゃな。」

「え?」

「なお、武器は乖霊のみ!敵の乖霊を喰らった方の勝ちとする!」

「勝った者は、今後100年、乖倚人の長となる!」

「ウォォォォォ!!!!」

「あ、そうそう。参加は自由じゃからな。皆は乖霊を無くした人間をよおく知ってるものな?ただし、」

「勝ち抜き戦に参加しない者はこの村にはいらぬ。何処かに出ていくがいい!」

「そんな!」

「当たり前じゃろう?戦闘種族でもある乖倚人が恐れをなして逃げる、それは死を意味するからなぁ。」

「…やろうじゃねぇか。」

「フフフ…。流石は村一番の猛者、グランヘルズ!!」

「やべぇ…。あいつだよ…。」

「あいつ、素手で岩を叩っきるんだろ?」

「やっぱ、この村から出てった方が得策なのかな…。」

「みんな、なにやってるんだよ!」

「天劉、淕至。」

「皆で頑張れば、」

「叶わない相手なんていない、そうだろ?」

「そうだな。」

「フフフ…。じゃぁ、全員参加ということでよろしいな?」

「あぁ!」




「トーナメント表はこれじゃ!」

バン!!

そこにはトーナメント表が貼られていた。

こんな風に…。


第一回戦

天劉VS氷戸ひょうど

炎山えんざんVS勇神ゆうじん

白雷はくらいVS太明たいめい

グランヘルズVS淕至

どうやら勝ち抜き式のトーナメントらしい。

「フフフ。では第一回戦、第一試合天劉VS氷戸!位置につけぃ。」

ザッ。

ザッ。

「では、勝負開始じゃ。」

「氷戸…。」

「戦うしかないようだぞ。天劉。」

「氷戸…。僕たちずっと仲良かったじゃないか。なんで…」

「友情、なんて無意味な事は捨てろ。」

「行かぬならこっちから行くぞ!」

ザッ!

「行け!火の乖霊『ゴーオン』!」

「くぅっ!!」

ズドォォォォォン!!

「終わったか。案外骨のない奴だったな。」

「ムムム…。」

「氷戸を第二回戦に進出、」

「ちょっと待って!」

「なんだ、淕至。もう試合は終わったのだぞ!」

「違う…。あれ、あれ。」

「?」

淕至が指差すその先には…?



「天劉!貴様…生きていられたのか!」

「あぁ。一応はな。」

スッ。

「これのおかげだよ。」

「それは、敵に位置を隠す闇の乖霊『ダカリア』!!」

「そーいう事。」

「では、改めて…勝負開始じゃ!」

「ぬぉぉぉぉぉ!!」


ガキィィン!!


「なるほど…流石はあのお方の…乖霊か…よ…。」


ドサッ。


「勝負ありだな。」


「ああ。」


「第一回戦、第一試合勝者!天劉!」


「ワァァァァァァ!!!!」

「ふぅ…。なんとか勝ったぞ…。」


「続いて第二回戦に移る!」


「炎山VS勇神の試合だ!」


「両者は位置につけ!」


ザッ。


ザッ。


「試合開始じゃ!」


「こっちから行くぜ!」


「先手はとらせん!」


ガァッ!!!!



「ひょぉーっ。流石は村でトップを争う二人。強いことですね~。」


「うむ。やつらは二人とも今大会の優勝候補じゃからの。」


ガキン!!


ガキン!!


「どうやらあの二人は乖霊を伴わずに闘うみたいじゃな。」


ガキィィィン!!


「負けてたまっかぁぁ!」


「こっちだって!」


「ぬぬぬぬぬ…。」


「くくくくく…。」


パァァァァァァン!!


闘技場が一面煙に覆われた。


「ゴホッ。ゴホッ。勝者は!?」


「俺だ」


スッ。


誰かが指を挙げる。


「勝者!炎山!」


「ワァァァァァァ!!」


──ふーん。あいつと俺が戦うのか。





「次は白雷VS太明じゃ!対戦者は位置につけ!」


ザッ!!


ザッ!!


「勝負開始じゃ!」


ドゴォォォン!!!!


「ハイレベルだぜ…。俺達倒せんのかな?」


「うーん?」


「雷の乖霊『サンダフェース』!!」


「効くかぁ!」


「地の乖霊『グランドフェース』!!!」


ヒュッ!!


「瞬間移動だと!!」


「右か…左か…いや、」


ドゴン!!


「な………。」


「勝負、あったな。」


「勝者!白雷!」


ウォォォォ!!!!


「次はグランヘルズVS淕至じゃ!!」


「大丈夫かよ…。淕至。体格差半端ねぇぞ。」


(うむ…。こやつが厄介じゃな。いくら子供とはいえ大失敗かの。初戦が村一番の猛者というのは。)


「勝負開始じゃ!」


「おい!長老!いくらなんでも自らの孫が殺されるのをみすみす見るのは辛かろう?目を瞑っててもいいぜ!」


「な…。」


「ウォォォォォ!!」


ヒョイ。


グランヘルズは淕至を持ち上げた。


「離せ!」


「じゃ、離してやるよ。ほーら、よっと!」


ヒュウウウ…。


ズドォォォン!!


「淕至!特訓を思い出すんだ!」


「特訓を…思い出す…。」


「あ~。ガキと遊ぶのも飽きたな。さてと、これで終りだ。」


ヒュッ!!


ドゴォォォォン!!!!


「…終わったな」


「いや、空を!」


「え!?」


キィィィィン!!


「な、何だと!!」


ドゴォォォン!!!!


「覚醒したようだな」


「ヤツの力が…。」


「わしの一族の乖霊が入っとるんじゃ」


「絶対に負けるわけなかろう!!」


「な…んだ…と…。」


ドゴォォォォン!!


「勝負ありのようじゃな。」


「勝者!淕至!」


ワァァァァァァ!!!


「サァ、これで第一回戦は終了!次は第二回戦だ!!」


「第二回戦第一試合、天劉VS炎山!対戦者は位置につけ!」


ザッ!!


ザッ!!


「勝負開始じゃ!」


「火の乖霊『ゴーオン』!!」


「地の乖霊『グランドフェース』!!」


「お互いに乖霊を使ったか!!」


ドゴォォォォォン!!!


「煙に紛れたか!流石は長老の孫だ!」


「出てこい!そこにいるのは…分かっている!!」


サシャーン!!


「居ない!?」


「フフフ…。目が悪いね!炎山!」


「……どういう事だ。」


(どこにいる…。どこにいる…。天劉!)


炎山は気を探っていた。


「どこだ…。どこにいる…。天劉!」


「ここだ。」


「な!!上にいるだと!?」


「てぇーい!」


ドゴム。



「ま…負けた…。」


ドサッ。


「勝者!天劉!」


「続いて第二試合!白雷VS淕至!対戦者は位置につけ!」


ザッ!!


ザッ!!


「白雷さんとも、戦わないならないなんて…。」


「知り合いとはいえ、容赦はせんぞ!!」


ヒュッ!!


ガキィィン!!


「ひいっ!」


「フハハハハ!!なんだ!さっきの強さは何処へ行った!」


「う」


「ウォォォォ!!!!」


「そうだ!そこまでやらねばやる気が出ぬではないか!」


ズドォォォォォン!!!!


「くくく…終わったな。」


ヒュン!!!


「なにぃっ!?」


シュッ!!


「ま…さか…俺が…やられる…なん…て…。」


ドサッ!!


「勝者!淕至!」


ワァァァァァッ!!!!


「と、いうことは…兄弟同士でやりあうのか…。」


「いくらなんでも、それはやり過ぎだぜ…。」


とギャラリー。



「それでは、決勝戦に入ろう!天劉VS淕至!」


「…。」


「どうした。両者位置につけ。」


「僕は…」


「俺は…」


「兄さんを殺すことなんてできない!!」


「弟を殺すことなんてできない!!」


「淕至。お前はここに残れ。俺がこの村から出ていくよ。」


「兄さん!?」


「お前はまだ幼いし、無限の可能性に満ち溢れている。だからだ。」


「い、嫌だよぉ。兄ちゃんと一緒に…」


「暮らしたいよぉ…。」


「甘ったるいこといってんじゃねぇ!!」




ビクッ!!


「俺なんか…いいんだ。自分や村の人の為に生きていけ。」


「そ、そんな…。」


「じゃあな!!」


タッ!!


「兄さん!!」


「にいさぁぁぁん!!!!」


「…というわけで淕至の不戦勝という事でよろしいかな?」


ウォォォォォォォ!!!!

(本当はヤツに長老になってもらいたかったんじゃが…まぁ、仕方ない。)


督糲は心の中でそう考えていた。


「…仕方ないことか」

督糲はぼそりと呟いた。


「う…。」


「ウグァァァァ!!!!」


太明がいきなり唸り声を上げた。


「大丈夫か!?」


炎山が近寄る。


「モウ…ヤツハサッテシマッタカ…。」


「え?」


「シカタガナイ…。マズハコノムラヲイッソウシテカラダ!!!!」


[ギャォォォォォ!!!!]

太明は龍に変身した。


「太明!貴様何をする!」


「フハハハハ…。ワタシハタイメイデハナイ!!」

「何だと!」

口調がいきなり戻り、すっきりとした声になった。

[覚えているかな?昔々闇の乖霊を手に入れた乖倚人を…。]


「きさま…もしやぁ!!」


[フフフ…。その通り、我が名は厳崎げんざき!!世界をもう一度闇に埋没させる男だ!!]


「厳崎…。まだ生きておるとはな!!」


[おや、そこにいるのは…。ほほう、さてはお主昔から住んでおるな?…200年近く。]


「フン。さすがは闇の乖霊を用いた男。勘も鋭いようじゃな!!」


[乖倚人さえ皆殺しにしてしまえば、世界を闇で覆うなんぞ赤子の首を捻るぐらい簡単だ。]


[先ずは長老となったお主から殺してやろう!!]

淕至に炎の渦が襲いかかる!

「淕至!!避けろ!!」


「あ……あ……。」



ガッ!!



「………」


「………?」


「督糲じっちゃん!」


「無事か…?淕至。」


「う…うん…。でも、じっちゃんが…。」


「お前が無事なら大丈夫じゃ。」


[今はちょいと外したが今度は外しはせんぞ!!]


「淕至…。逃げろ、逃げるんだ…。」


「で、でもっ」


「いいから早く逃げろ!!」


ビクッ!!


「わしらは死ぬかもしれん。でも、お前だけでも生きて、」


「平和に暮らせ!」


「じぃちゃぁぁぁん!!!!」


「念の乖霊『エスパル』!!」


フワッ。


「何を…?」


「その念の乖霊『エスパル』ならお前を安全な所に運んでくれるはずじゃ。」


「そんな!僕も…。」


「良いから逃げろっ!!」


ヒュンッ!!!!


[貴様ァ!!一人なら良いとしても二人までも逃がすかァ!!!!]


「そうだ。これで気にかけず戦えられるからな。」


[ククク…。では、くらうがいい!!]


ボォォォォォ!!!!




そして、現在。


砂漠の道を誰かが歩いてくる。


「ここにも…ないか…。」


「探さねば…ならぬ…。安堵の…人類の…安堵の…地を…。」


ドサッ。




第一章 完

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