レディ・ヴィランの微笑み

ノベルバユーザー91028

–––––苦痛と恐怖に満ちたあの瞬間を、わたしは生涯忘れることなどできないだろう。
ジュリア=オーウェル著「若りしあの頃」より



いつもと同じ日常、いつもと同じ毎日。変わらないものだとずっと思っていた。繰り返される日々にほんの少しだけ退屈していたのは本当。けれどだからって、いくらなんでも「死んでしまう」ことなんて、望んじゃいなかった……。



わたしの人生なんて、ろくなものじゃなかった。
父親はわたしを「失敗作」と罵り、母と姉は「気持ち悪い」「何を考えているのかわからない」と忌避する。わたしを見つめる瞳には、憎悪さえ宿っていたように思う。
学校でもイジメられ、友達など1人もできずじまい。みんな、みんな、わたしに近づくことさえなかった。小中高大と独りぼっちのまま社会へと放り出された。……結局、最後まで家族に理解されることなく。
地元の小さな会社に就職できたはいいけれど、同僚にはセクハラされ放題で仕事の内容もお茶くみやコピー取りばかり。所詮女に仕事なんてできる訳ないと蔑まれ、向けられる視線には嘲りがはっきりと現れている。
誰にも好かれなかった。わたしの意思を尊重されることもなかった。
こんな環境に生まれてしまったから?
それとも、努力が足りなかったんだろうか。
もう、何も、分かりたくもない。
生きることも厭になっていた。それでも死ぬのが怖かったから、人形みたいに生きていた。
–––––唯一、わたしがわたしでいられたのは好きなゲームをプレイしている間だけだった。
アニメに漫画、ゲームや小説、映画。
つらい現実から逃れるためにそれらに耽溺するようになり、わたしはますます世俗から離れていく。人と関わらなくていい、それは何よりも甘美なことだったから。
けれどとことん、わたしはカミサマとやらに嫌われていたみたいだ。
あれは、そう、忘れもしないクリスマスイブの日。キラキラ輝くイルミネーションと夜空を舞う粉雪を今も覚えてる。
あるイベントに出席した帰り道、わたしは自動車に撥ねられた。相手の信号無視によるものだった。ちゃんと歩道を歩いていたのに。
悪いことなんて、何もしてないのに。知らない誰かのミスに巻き込まれた。


カミサマ、カミサマ。
願い事なんてちっとも叶えてくれない神様。
わたし、生まれてきた意味ありますか。
わたしのことがそんなに嫌いですか?
もしもこの人生を試練などと呼ぼうものなら、真っ先にあなたを殺しましょう。
……もしも、生まれ変われるのなら。
誰より悪くなってやる。この世界に悪意をばら撒き、みんなみんな不幸にしてやる。


死の瞬間、世界を人を全てを呪った。
そして、わたしは、榎本樹里亜えのもとじゅりあはこの世界から消えた。



わたしは死んで、生まれ変わる。
かつてプレイしていたゲーム「dream・lovers」の世界に悪役ヴィランとして。



–––––これは、不幸なまま人生を終えた哀れな女が2度目の生をやり直すお話。

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