引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
記憶の奥底から
――一体どうなっちまったんだ――
目の前で起こっている奇妙な光景を、トルフィンはただ棒立ちで見つめるしかなった。
叫んでいる。
勇者アルスが。
さっきまで余裕をかましていたあの男が。
両腕で頭を抱え、言葉にならない叫び声を発し続ける。かと思うと、いきなり膝を落とし、勢いよく地面を叩きはじめる。ガンガンと、乾いた音が闘技場に響きわたる。
これには誰もが予想外だった。
シュンもセレスティアも、試合の観客たちも、ぽかんと口を開けたまま動かない。
「駄目だ……」
数秒後、アルスはぽつりと呟いた。
「貴様ら家族に関わっているとロクなことにならない……。貴様らさえ……貴様らさえいなければ……!」
瞬間。
アルスは絶叫を引きながら、一心不乱に斬りかかってきた。
ガキン! という鋭い金属音。
慌ててトルフィンが剣を抜かなければ、彼の首はとうに飛んでいた。それだけ常軌を逸したスピードだった。
「うおおおああっああああっあ!」
解読不能な叫声とともに、アルスが連続で剣を打ち込んでいく。
――早すぎる……!
身も凍る恐怖を感じながらも、トルフィンはギリギリで受け止める。
錯乱した者に襲われるだけでも充分恐ろしいのに、アルスはおそらく現在、本気で殺しにかかってきている。
やはりさっきまでは力を温存していたのだ。
かつでない速度で突き出される閃光のごとき剣捌きに、トルフィンはついていくのがやっとだった。
「死ね死ね死ねェ! 貴様ら親子はみな死んでしまえ!」
「うおっ……」
だが、ついていけないこともない。
取り乱しているぶん、アルスの動きは先読みしやすい。目線のままに剣を振るってしまっている。こちらが落ち着いて対処さえできれば、切り抜けられなくもない。
命をかけた剣の応酬。
トルフィンにとって、それは数年にも感じられる、地獄のごとき時間だった。
★
いつからだろう。
世界を救いたかった――
たったそれだけの純粋な気持ちが、極端にこじれてしまったのは。
本当はわかっていた。
モンスターだって生きている。
殺し合いなどせずとも、平和に共存できるのであれば、それに越したことはないはずなのだ。
現に、現在の魔王ロニンはうまく部下を統治している。シュロン国もいまのところ穏便に運営できている。
ただ悔しかっただけだ。
シュンという、規格外の男が。
それと同時に慢心していたのだ。
勇者など、他人から言われ始めたものでしかない。実際にそんなステータスがあるわけではない。
なのに、勝手に自分が魔王を倒すべき男だと勘違いして。シュンに先を越されて勝手に怒って。
――挙げ句の果てに、かつてのモンスターのように、村を滅ぼしちまうなんて。
俺はなんて馬鹿な男なんだ。
それに気づくまで、いったい何年かかってんだよ……
★
いつの間にか、トルフィンの視界の縁が黄色く染まっていた。
レイア先生に教わったことがある。これは危険信号だ。HPが残り三割を切ると、こんな表示が現れるらしい。トルフィンも初めて見た。つまり現在、トルフィンの命は残り三割もない。
気づけば全身傷だらけだった。決定打にはならないまでも、アルスの攻撃が少しずつ当たっていたのだ。トルフィンの剣もときどき奴に命中したが、相手のHPまではわからない。
ゼェゼェと息切れしつつ、トルフィンは額の汗を拭った。
「どうだ勇者さんよ、気は済んだか」
「わからん……俺は……俺はいったいどうなっちまったのか……」
いまのやり合いで、アルスはだいぶ目が冷めたらしい。幾分かまともな会話ができるようになった。それだけでなく、特有のニヤニヤ笑いも浮かべなくなっている。
「だが思い出したよ……俺の本当の必殺技をな」
「ほう?」
「ユグドラシル・デュアル。先生に何度も修行してもらったのに忘れるとは……どうかしていたよ」
やはり記憶を封じられていたか。その割にはすぐに思い出せたようだが……
「トルフィンよ」
アルスは真っ直ぐにこちらを見据えて言った。
「次で最後にしよう。俺は全力で、ユグドラシル・デュアルを貴様にぶつける」
目の前で起こっている奇妙な光景を、トルフィンはただ棒立ちで見つめるしかなった。
叫んでいる。
勇者アルスが。
さっきまで余裕をかましていたあの男が。
両腕で頭を抱え、言葉にならない叫び声を発し続ける。かと思うと、いきなり膝を落とし、勢いよく地面を叩きはじめる。ガンガンと、乾いた音が闘技場に響きわたる。
これには誰もが予想外だった。
シュンもセレスティアも、試合の観客たちも、ぽかんと口を開けたまま動かない。
「駄目だ……」
数秒後、アルスはぽつりと呟いた。
「貴様ら家族に関わっているとロクなことにならない……。貴様らさえ……貴様らさえいなければ……!」
瞬間。
アルスは絶叫を引きながら、一心不乱に斬りかかってきた。
ガキン! という鋭い金属音。
慌ててトルフィンが剣を抜かなければ、彼の首はとうに飛んでいた。それだけ常軌を逸したスピードだった。
「うおおおああっああああっあ!」
解読不能な叫声とともに、アルスが連続で剣を打ち込んでいく。
――早すぎる……!
身も凍る恐怖を感じながらも、トルフィンはギリギリで受け止める。
錯乱した者に襲われるだけでも充分恐ろしいのに、アルスはおそらく現在、本気で殺しにかかってきている。
やはりさっきまでは力を温存していたのだ。
かつでない速度で突き出される閃光のごとき剣捌きに、トルフィンはついていくのがやっとだった。
「死ね死ね死ねェ! 貴様ら親子はみな死んでしまえ!」
「うおっ……」
だが、ついていけないこともない。
取り乱しているぶん、アルスの動きは先読みしやすい。目線のままに剣を振るってしまっている。こちらが落ち着いて対処さえできれば、切り抜けられなくもない。
命をかけた剣の応酬。
トルフィンにとって、それは数年にも感じられる、地獄のごとき時間だった。
★
いつからだろう。
世界を救いたかった――
たったそれだけの純粋な気持ちが、極端にこじれてしまったのは。
本当はわかっていた。
モンスターだって生きている。
殺し合いなどせずとも、平和に共存できるのであれば、それに越したことはないはずなのだ。
現に、現在の魔王ロニンはうまく部下を統治している。シュロン国もいまのところ穏便に運営できている。
ただ悔しかっただけだ。
シュンという、規格外の男が。
それと同時に慢心していたのだ。
勇者など、他人から言われ始めたものでしかない。実際にそんなステータスがあるわけではない。
なのに、勝手に自分が魔王を倒すべき男だと勘違いして。シュンに先を越されて勝手に怒って。
――挙げ句の果てに、かつてのモンスターのように、村を滅ぼしちまうなんて。
俺はなんて馬鹿な男なんだ。
それに気づくまで、いったい何年かかってんだよ……
★
いつの間にか、トルフィンの視界の縁が黄色く染まっていた。
レイア先生に教わったことがある。これは危険信号だ。HPが残り三割を切ると、こんな表示が現れるらしい。トルフィンも初めて見た。つまり現在、トルフィンの命は残り三割もない。
気づけば全身傷だらけだった。決定打にはならないまでも、アルスの攻撃が少しずつ当たっていたのだ。トルフィンの剣もときどき奴に命中したが、相手のHPまではわからない。
ゼェゼェと息切れしつつ、トルフィンは額の汗を拭った。
「どうだ勇者さんよ、気は済んだか」
「わからん……俺は……俺はいったいどうなっちまったのか……」
いまのやり合いで、アルスはだいぶ目が冷めたらしい。幾分かまともな会話ができるようになった。それだけでなく、特有のニヤニヤ笑いも浮かべなくなっている。
「だが思い出したよ……俺の本当の必殺技をな」
「ほう?」
「ユグドラシル・デュアル。先生に何度も修行してもらったのに忘れるとは……どうかしていたよ」
やはり記憶を封じられていたか。その割にはすぐに思い出せたようだが……
「トルフィンよ」
アルスは真っ直ぐにこちらを見据えて言った。
「次で最後にしよう。俺は全力で、ユグドラシル・デュアルを貴様にぶつける」
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