引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
エッチな悪戯をしている場合じゃないのだ
どうにも奴の素性が掴めない。
見事に予選を突破したトルフィンだが、心にはモヤモヤが残っていた。あのアルスとかいう男が、どうにも引っかかる。
「トルフィンくん……どうしたの?」
「いや。なんでもねえ。気にするな」
夜。
二万人もの予選試合は、まるまる一日を費やした。本戦は明日の午後からである。今日は王女セレスティアが用意した宿に宿泊することになる。
今朝の熱狂はどこへやら、ホール会場にはほとんど人が残っていなかった。試合に敗退した選手たちは、ほとんどがその時点で帰途に着いたからだ。
会場に残ったのは純粋に試合を見たいという、無類の戦闘好きのみ。すべての予選試合が終了したいま、残っている人間はごく少数でしかない。
ちなみに現在、勇者アルスの姿はない。颯爽と対戦者を気絶させたあと、どこかへと消えてしまった。
「お、こんなところにいたか!」
ふいに聞き覚えのある声が響き、トルフィンとリュアが同時に振り向いた。
いつもの銀の鎧に、兜だけを外したゴルムが、満面の笑みで歩み寄ってきていた。
「二人とも、本戦出場おめでとう! トルフィン王子もリュアも、まさか本当に予選通過するとは思っていなかったですよ」
「ほんと、すごいよね。二万人のなかから選ばれたんでしょ?」
ゴルムの隣には魔王ロニンもいた。もちろんシュンも一緒である。
「ま、こんくらいやってもらわねーと、修行した甲斐がねえもんな。せっかくだし優勝しちまえよ」
いっせいに賛辞の言葉をかけられ、リュアは「えへへ……」と照れている。そんなところも実に可愛い。こんな状況でなければ、ちょっとエッチな悪戯でもしたくなる。
そんなトルフィンのようすを見抜いたのか、ロニンが顔を覗き込んできた。
「どうしたの? さすがに疲れちゃった?」
「いや……それは大丈夫……なんだが……」
一瞬迷ったが、どうせ明日にはアルスの姿が全国民に晒し出されることになる。思い切って両親に聞いてみることにした。
「教えてほしい。勇者アルスって奴を……知ってるか?」
勇者アルス。その名前を出したとき、両親は丸い目を見合わせた。
「ああ知ってるさ。それがどうした」
「そいつが試合にいてな。さらっと予選通過してたんだが……なにやら父上に会いたがっていたぞ」
「俺に? なんで」
「知らねえよ。逆に俺が聞きたいくらいだ」
「とは言われてもな。正直、あいつには嫌われてると思うし。いまさら会いたいなんて、ちょっと不自然だぞ?」
その言葉に、ロニンもこくこくと頷いていた。
――やはりそうなのだ。
シュンとロニンは、過去、なんらかの形でアルスと関わりがある。しかし当のシュンにも、アルスが再会を望んでいる理由がわからないという。
そんなトルフィンの懸念をよそに、シュンは明るい表情をしていた。
「しかし勇者アルスか。懐かしいじゃねえか。あいつがいれば、きっと大きな力になるぜ」
「……父上。恐らくだが、アルスの性格は昔とだいぶ異なっている」
そしてトルフィンは、勇者の残虐性と、転生者の件を伝えた。
さすがに衝撃的な内容だったのか、両親はともに表情を引き締めた。事情を知らないゴルムとリュアだけが、ぽかんと口を開けている。
「あの……どういうことですかな? 転生者とか、勇者とか……」
ゴルムの言葉に、シュンはしばらく黙考したあと、真剣な表情で答えた。
「そうだな。騎士長のおまえにも話しておきたい。とりあえず、宿に向かおうぜ」
見事に予選を突破したトルフィンだが、心にはモヤモヤが残っていた。あのアルスとかいう男が、どうにも引っかかる。
「トルフィンくん……どうしたの?」
「いや。なんでもねえ。気にするな」
夜。
二万人もの予選試合は、まるまる一日を費やした。本戦は明日の午後からである。今日は王女セレスティアが用意した宿に宿泊することになる。
今朝の熱狂はどこへやら、ホール会場にはほとんど人が残っていなかった。試合に敗退した選手たちは、ほとんどがその時点で帰途に着いたからだ。
会場に残ったのは純粋に試合を見たいという、無類の戦闘好きのみ。すべての予選試合が終了したいま、残っている人間はごく少数でしかない。
ちなみに現在、勇者アルスの姿はない。颯爽と対戦者を気絶させたあと、どこかへと消えてしまった。
「お、こんなところにいたか!」
ふいに聞き覚えのある声が響き、トルフィンとリュアが同時に振り向いた。
いつもの銀の鎧に、兜だけを外したゴルムが、満面の笑みで歩み寄ってきていた。
「二人とも、本戦出場おめでとう! トルフィン王子もリュアも、まさか本当に予選通過するとは思っていなかったですよ」
「ほんと、すごいよね。二万人のなかから選ばれたんでしょ?」
ゴルムの隣には魔王ロニンもいた。もちろんシュンも一緒である。
「ま、こんくらいやってもらわねーと、修行した甲斐がねえもんな。せっかくだし優勝しちまえよ」
いっせいに賛辞の言葉をかけられ、リュアは「えへへ……」と照れている。そんなところも実に可愛い。こんな状況でなければ、ちょっとエッチな悪戯でもしたくなる。
そんなトルフィンのようすを見抜いたのか、ロニンが顔を覗き込んできた。
「どうしたの? さすがに疲れちゃった?」
「いや……それは大丈夫……なんだが……」
一瞬迷ったが、どうせ明日にはアルスの姿が全国民に晒し出されることになる。思い切って両親に聞いてみることにした。
「教えてほしい。勇者アルスって奴を……知ってるか?」
勇者アルス。その名前を出したとき、両親は丸い目を見合わせた。
「ああ知ってるさ。それがどうした」
「そいつが試合にいてな。さらっと予選通過してたんだが……なにやら父上に会いたがっていたぞ」
「俺に? なんで」
「知らねえよ。逆に俺が聞きたいくらいだ」
「とは言われてもな。正直、あいつには嫌われてると思うし。いまさら会いたいなんて、ちょっと不自然だぞ?」
その言葉に、ロニンもこくこくと頷いていた。
――やはりそうなのだ。
シュンとロニンは、過去、なんらかの形でアルスと関わりがある。しかし当のシュンにも、アルスが再会を望んでいる理由がわからないという。
そんなトルフィンの懸念をよそに、シュンは明るい表情をしていた。
「しかし勇者アルスか。懐かしいじゃねえか。あいつがいれば、きっと大きな力になるぜ」
「……父上。恐らくだが、アルスの性格は昔とだいぶ異なっている」
そしてトルフィンは、勇者の残虐性と、転生者の件を伝えた。
さすがに衝撃的な内容だったのか、両親はともに表情を引き締めた。事情を知らないゴルムとリュアだけが、ぽかんと口を開けている。
「あの……どういうことですかな? 転生者とか、勇者とか……」
ゴルムの言葉に、シュンはしばらく黙考したあと、真剣な表情で答えた。
「そうだな。騎士長のおまえにも話しておきたい。とりあえず、宿に向かおうぜ」
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