引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
文字通りのお姫様抱っこ
ーーなんて幸せなんだろう。
シュンの胸に顔を埋めながら、セレスティアは深い感慨に浸っていた。
これで迷いは吹っ切れた。
王都を選ぶか。
それともシュロン国を選ぶか。
正直なところ、心の片隅では以前より決断できていた。けれどそれを行動に移せなかった。皇女という立場上、私の言動にはそれなりの影響力がある。
安易にシュロン国に籍を移せば、それだけで王都は大騒ぎになるのだ。そこが皇族の不便なところといえよう。
だが、もう迷うことはあるまい。
私は知ってしまった。
シュンという人間の素晴らしさを。
彼はただ強いだけじゃない。なにも考えていないように見えて、かなりの思慮深さを持っている。大国を束ねるエルノス国王と互角の交渉をしたのがその証だ。
それでいて優しく、崇高な目標も携えている。
まさに指導者としてふさわしい器といえよう。父王ーーエルノスとはもはや比べ物にならない。
父は私を見捨てた。たとえ今回、無事に帰還できたとしても、おそらくまた命を狙ってくるに違いあるまい。
また、エルノスはシュロン国をも敵視している。彼の存在はすなわち、シュンやシュロン国の危機に直結する。せっかく人間とモンスターが手を取り合えるところなのに、エルノスという存在がそれをすべて邪魔するのだ。
私の父。
そして同時に、私の最大の敵。
もう私は逃げない。皇女セレスティアとして、世界をあるべき姿に導いていくのだ。その道を阻む者は、たとえ肉親であろうとも容赦しない。
「ねえ、シュン」
彼の胸に顔を埋めながら、セレスティアは小さく言った。
「もし……人類みんなが国民になったら、あなたは嫌かしら?」
「げっ、本気で言ってんのか」
「だって。あんなエルノス王に、国を任せられると思った?」
「……いいのかよ。あいつはおまえの父親だろ?」
セレスティアは深く頷くと、続けて言葉を発した。
「私は決めた。これからはあなたについていく。お父様ーーいえ、父と敵対することになっても、一向に構わない」
「……そうか。まあ、俺ゃ将来引きこもればなんでもいいんだが」
シュンはセレスティアの両肩を掴むと、その瞳を凛と見据えた。
「なら、ついてきてくれ、セレスティア」
「……はい」
セレスティアは小さく、しかし力強く頷いた。
「でも、どうしよう。エルノスの座を奪還するのはいいけど、そもそも、ここから帰れないわ」
「うーん、そこなんだよなぁ」
シュンはぼさぼさと後頭部を掻くと、空を指差した。
「ちょっくら、上から覗いてくるわ」
「……へ?」
呆気に取られるセレスティアをまったく意に介さず、シュンは大きく屈み込むと。
「せいっ」
かけ声ともに、上空へと跳躍した。アグネ湿地帯の木々は王城にも劣らぬ高さを誇っているが、彼はそれ以上の高度にまで飛び上がっている。
ーーうっそ……
毎度毎度、本当に驚かせてくれる男だ。レベルも999になると、あんなこともできるようになるのか。
などと、すこしでも感動したのが馬鹿だった。
「あでっ」
バコッ、と。
シュンは無数の木の枝に頭をぶつけ、そのままひゅうと落下してきた。そのまま葉っぱのベッドへ、頭からダイナミックに着地する。ずどーんという音ともに、シュンは腰から上を地面に埋もれさせた。
「なにしてんのよ、もう」
シュンの身体をはたきながら、セレスティアは頬を膨らませる。
「その、心配しちゃうから、やめてよ……危ないことは」
「……うるせぇな。上からアグネ湿地帯の規模を見ようとだな……」
「それはわかってますぅ」
だからといって、考えもなしにいきなり大ジャンプをかますとは。空を見上げれば、木の枝が張り巡らされていることはわかるだろうに。
「でも、ちらっとは見えたぜ。だいぶ見晴らしが良かったんだが……こりゃあ、苦労するぞ。広いってもんじゃねえ」
「そう……」
最後の土埃を落としつつ、セレスティアは呟いた。
アグネ湿地帯。
それは人類が長らく踏み込めなかった場所。
それだけに広大で、抜けるのは一筋縄ではいかない。
セレスティアが黙りこくっていると、シュンがなにかに気づいたかのようにひとりごちた。
「だいぶ見晴らしがよかった……もしかして……」
「どうしたの?」
「な、なあセレスティア。今度は二人で飛んでみないか?」
「えっ?」
きょとんと目を丸くするセレスティア。
「い、嫌よ! 第一、私じゃあそこまで飛べないし!」
「そこは大丈夫さ。俺がお姫様抱っこしてやる」
「お、お姫……って、あんっ」
ぼうっと頬を赤らめている間に、シュンはひょっこりセレスティアを持ち上げた。
ーーえ、え、え。
わけもわからず思考停止になるセレスティアに、シュンは乾いた笑みを浮かべた。
「さ、いくぞ」
「え、ちょっと、なんでーー!」
セレスティアが止める間もなく。
シュンはまたしても激しく飛び上がり、セレスティアはかつてない高度まで持ち上げられた。このままさらに上昇すれば、またしても木の枝に手荒く出迎えられーー
……あれ?
そこでセレスティアは気づいた。
紫の瘴気が、ない。
地上には嫌というほどはこびっていた嫌な空気が、天空に近寄れば近寄るほど、次第になくなっていくのだ。
ーーそうか。
さっきシュンは、偶然にもこれを見たのだ……
「やっぱりな。これなら行けるぜ。セレスティア、しっかり捕まってな!」
「は……はい!」
ぎゅっと彼の首に手を回す。
そう。紫の瘴気さえなくなれば、シュンの魔法が使うことができる。
「ワープ!」
シュンのかけ声と同時に、二人は幾何学模様に包まれーーそして、その姿を消した。
シュンの胸に顔を埋めながら、セレスティアは深い感慨に浸っていた。
これで迷いは吹っ切れた。
王都を選ぶか。
それともシュロン国を選ぶか。
正直なところ、心の片隅では以前より決断できていた。けれどそれを行動に移せなかった。皇女という立場上、私の言動にはそれなりの影響力がある。
安易にシュロン国に籍を移せば、それだけで王都は大騒ぎになるのだ。そこが皇族の不便なところといえよう。
だが、もう迷うことはあるまい。
私は知ってしまった。
シュンという人間の素晴らしさを。
彼はただ強いだけじゃない。なにも考えていないように見えて、かなりの思慮深さを持っている。大国を束ねるエルノス国王と互角の交渉をしたのがその証だ。
それでいて優しく、崇高な目標も携えている。
まさに指導者としてふさわしい器といえよう。父王ーーエルノスとはもはや比べ物にならない。
父は私を見捨てた。たとえ今回、無事に帰還できたとしても、おそらくまた命を狙ってくるに違いあるまい。
また、エルノスはシュロン国をも敵視している。彼の存在はすなわち、シュンやシュロン国の危機に直結する。せっかく人間とモンスターが手を取り合えるところなのに、エルノスという存在がそれをすべて邪魔するのだ。
私の父。
そして同時に、私の最大の敵。
もう私は逃げない。皇女セレスティアとして、世界をあるべき姿に導いていくのだ。その道を阻む者は、たとえ肉親であろうとも容赦しない。
「ねえ、シュン」
彼の胸に顔を埋めながら、セレスティアは小さく言った。
「もし……人類みんなが国民になったら、あなたは嫌かしら?」
「げっ、本気で言ってんのか」
「だって。あんなエルノス王に、国を任せられると思った?」
「……いいのかよ。あいつはおまえの父親だろ?」
セレスティアは深く頷くと、続けて言葉を発した。
「私は決めた。これからはあなたについていく。お父様ーーいえ、父と敵対することになっても、一向に構わない」
「……そうか。まあ、俺ゃ将来引きこもればなんでもいいんだが」
シュンはセレスティアの両肩を掴むと、その瞳を凛と見据えた。
「なら、ついてきてくれ、セレスティア」
「……はい」
セレスティアは小さく、しかし力強く頷いた。
「でも、どうしよう。エルノスの座を奪還するのはいいけど、そもそも、ここから帰れないわ」
「うーん、そこなんだよなぁ」
シュンはぼさぼさと後頭部を掻くと、空を指差した。
「ちょっくら、上から覗いてくるわ」
「……へ?」
呆気に取られるセレスティアをまったく意に介さず、シュンは大きく屈み込むと。
「せいっ」
かけ声ともに、上空へと跳躍した。アグネ湿地帯の木々は王城にも劣らぬ高さを誇っているが、彼はそれ以上の高度にまで飛び上がっている。
ーーうっそ……
毎度毎度、本当に驚かせてくれる男だ。レベルも999になると、あんなこともできるようになるのか。
などと、すこしでも感動したのが馬鹿だった。
「あでっ」
バコッ、と。
シュンは無数の木の枝に頭をぶつけ、そのままひゅうと落下してきた。そのまま葉っぱのベッドへ、頭からダイナミックに着地する。ずどーんという音ともに、シュンは腰から上を地面に埋もれさせた。
「なにしてんのよ、もう」
シュンの身体をはたきながら、セレスティアは頬を膨らませる。
「その、心配しちゃうから、やめてよ……危ないことは」
「……うるせぇな。上からアグネ湿地帯の規模を見ようとだな……」
「それはわかってますぅ」
だからといって、考えもなしにいきなり大ジャンプをかますとは。空を見上げれば、木の枝が張り巡らされていることはわかるだろうに。
「でも、ちらっとは見えたぜ。だいぶ見晴らしが良かったんだが……こりゃあ、苦労するぞ。広いってもんじゃねえ」
「そう……」
最後の土埃を落としつつ、セレスティアは呟いた。
アグネ湿地帯。
それは人類が長らく踏み込めなかった場所。
それだけに広大で、抜けるのは一筋縄ではいかない。
セレスティアが黙りこくっていると、シュンがなにかに気づいたかのようにひとりごちた。
「だいぶ見晴らしがよかった……もしかして……」
「どうしたの?」
「な、なあセレスティア。今度は二人で飛んでみないか?」
「えっ?」
きょとんと目を丸くするセレスティア。
「い、嫌よ! 第一、私じゃあそこまで飛べないし!」
「そこは大丈夫さ。俺がお姫様抱っこしてやる」
「お、お姫……って、あんっ」
ぼうっと頬を赤らめている間に、シュンはひょっこりセレスティアを持ち上げた。
ーーえ、え、え。
わけもわからず思考停止になるセレスティアに、シュンは乾いた笑みを浮かべた。
「さ、いくぞ」
「え、ちょっと、なんでーー!」
セレスティアが止める間もなく。
シュンはまたしても激しく飛び上がり、セレスティアはかつてない高度まで持ち上げられた。このままさらに上昇すれば、またしても木の枝に手荒く出迎えられーー
……あれ?
そこでセレスティアは気づいた。
紫の瘴気が、ない。
地上には嫌というほどはこびっていた嫌な空気が、天空に近寄れば近寄るほど、次第になくなっていくのだ。
ーーそうか。
さっきシュンは、偶然にもこれを見たのだ……
「やっぱりな。これなら行けるぜ。セレスティア、しっかり捕まってな!」
「は……はい!」
ぎゅっと彼の首に手を回す。
そう。紫の瘴気さえなくなれば、シュンの魔法が使うことができる。
「ワープ!」
シュンのかけ声と同時に、二人は幾何学模様に包まれーーそして、その姿を消した。
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