悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!

花宵

第五十二話 感謝の心を忘れてはいけない

 『汚嬢様』事件の翌日。

「リオーネ、今日はミニマムリングの素材の厳選をしに行きましょう」

 先生がそう言って近場のダンジョンに連れて行ってくれた。

 錬金術に使う素材にはランクがあって、品質と特性効果が大事になってくる。それらは採取した時点で決まるため、良いものが欲しいなら厳選する必要がある。

 厳選のやり方は至ってシンプル。
 ひたすらダンジョンで採取したりモンスターを倒しまくって、欲しい品質と特性効果のついたものを探して集めるしかない。

 たとえば先生の持つテレポートブック。これに『記憶力ばつぐん』効果を掛け合わせる事で記録できる箇所が増えたりと、この特性効果をうまく組み込んでいく事でより便利なアイテムを作れる。

 ちなみに素材の品質は、なるべく良いもの同士を掛け合わせた方が高品質になりやすい。

 ただしどんなに錬金術レベルが高くて、アイテム作成の熟練度を上げても、掛け合わせた素材の持つ品質値の平均+10までしか錬金出来ないようだ。

 品質値
 80~100が最高級
 60~79が高級
 40~59が普通
 20~39が粗悪
 0~19が不良

 つまり良いアイテムを作るには

 『品質の高い素材+優れた特性効果+必要錬金術レベル+アイテム作成の熟練度』

 この4つの条件を満たすほど、最高級品かつ効果の良いアイテムが出来やすくなるというわけだ。

 オリジナル錬金術で作ったアイテムは、一度作ってしまえばレシピが確立されるようで格段に作りやすくなるらしい。だからセシル先生の教えの通り、高品質で良い特性効果を持つ素材は大事に残してある。

 ミニマムリングに使う素材は『ゴブタのしっぽ』、『リトル鉱石』、『のびーるつる』の三種類。

 『ゴブタの尻尾』は、比較的どこのダンジョンにも出てくる初級モンスター『ゴブタ』が落とす。

 『リトル鉱石』は岩場や鉱山や洞窟なんかのゴツゴツした所。
 『のびーるつる』は平原や森など草が生えてる所。

 広く分布しているから、ゴブタを狩るついでに採掘や採取していくのが効率がいい。

「ふご! ふご!」

 まず最初にやってきたのは、ウィルハーモニー王国の西側にあるミーム平原。

 ピンク色のつやつやしたボディのゴブタを早速発見した。見た目は二足歩行のブタ。腰には原始人みたいな腰蓑を巻いている。

「サンダーランス!」

 雷の矢を放つと、一撃で倒せた。ゴブタの身体が灰になって消えた。ポトッと地面に落ちたゴブタの尻尾を回収する。

「先生、どうしてモンスターは倒すと灰になって消えるんですか?」
「彼等は特殊な生命体ですからね。いろんな説がありますが、我々人間や普通の野生動物は神が創った存在だと言われています。逆にモンスターは、悪魔が創った存在だと言われています。死んだ際に辿り着く場所が違うから、灰となって消えたように見えるそうです。このドロップ品は、そのモンスターがこの世界に生を受けて生きた証です」
「先生、何かモンスターを倒すのが可哀想になってきました……」
「そうですね、彼等も生きています。ですがモンスターの繁殖する速度は、我々と比べて桁違いに早いのです。誰も倒さずにこのまま増え続ければ、我々人間はあっという間に滅ぼされてしまうでしょう」

 確かにゲームの中でもモンスターの討伐依頼も結構あった。きちんと整備されている街にモンスターは入ってこないけど、辺境の村なんかはイベントの中でモンスターの被害に遭っていた。

「錬金術は、色々な生命体から命をもらってやってるんですね」
「ええ、そうです。ですから、常に敬意を払う気持ちを忘れてはいけません。もしそれを忘れてしまったら、人は時に取り返しのつかない恐ろしい事を考えてしまいます」

 先生が悲しそうに目を伏せた。
 親友のジルベールさんの事を思い出させてしまったのかもしれない。

「先生。私に足りなかったのは、感謝なのかもしれません。一つ一つの素材に敬意を払い、その命を譲り受けた事に対する感謝が不足していたと思うんです」

 当たり前のようにモンスターを倒して素材をゲットしてそれを錬金術に使う。ゲームの画面越しではそれが当たり前で、何の疑問を持つこともなかった。だって、そういうゲームだから。

 でも現実的に考えると、モンスターの命をもらい受けて、別の命に作り変えてるのと一緒だ。

 命を軽々しく扱うのは良くない。

 普通の人間がそんな神様みたいな事をしているんだから、敬意と感謝の気持ちは絶対に忘れてはいけないと思った。

「そうですね。常に感謝の心を持つ事はとても大切な事です。感謝しながら、狩りましょう」
「はい、先生!」

 何か言ってる事と、やってる事が多少矛盾してそうな気がしないでもない。けれど、私はどうしてもウォーターガンを作りたい。

 ゴブタには申し訳ないけれど、『大切に使うから尻尾を下さい!』と心の中で念じながら狩りを続けた。

 ルイスにもらった天使のブーツで大幅にLUXが上がっているおかげか、大量の素材をゲットできた。

 岩場では『リトル鉱石』を採掘し、草原では『のびーるつる』も採取した。

 帰宅する頃にはもう辺りは暗くなっていた。一旦集めた素材をアトリエに運んで、冒険の汗をお風呂で流して夕食をとった。

 アトリエで素材の片付けをしていたら、先生も手伝いに来てくれた。
 アナライズして良い品質や特性効果のものを仕分けする。残りは全部ミニマムリングにして、とりあえずチェストに収納。机に置きっぱなしだと『汚嬢様』って言われちゃうからね。

「さぁ、リオーネ。夜も更けてきたので今日はこの辺にしておきましょう」
「先生、最後に一回だけ! 今日のチャレンジしてもいいですか?」
「ええ。ただし一回だけですよ」
「はい、ありがとうございます!」

 錬金釜に五属性の魔法水を作って、三つの素材を入れて丁寧に魔力を注ぐ。

 命をくれた素材達に深い感謝を込める。

 必ずその尊い命を、人々の役に立つアイテムに変えてみせる。

 人々に深く感謝されて、生まれてきてよかったと思える新しいアイテムを必ず作ってみせる。

 だからどうか、貴方達の全てを私に下さい!

 今までとは違う、虹色の輝きを放つ球体が浮かび上がる。壊れ物に触れるように、そっと両手をその球体の下に添えた。

 サラサラと金色の砂がこぼれ落ちて姿を現したのは、私がイメージした通りの『ウォーターガン』だった。

「おめでとうございます、リオーネ。ついに出来ましたね!」
「やった! やっと完成した! ありがとうございます、先生!」

 この日初めて、私は『ウォーターガン』の作成に成功した。

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