悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!
第五十一話 屋敷の皆に心配されていた……
「うわぁ……今日も大量だね」
それは、おやつを食べに来たルイスがアトリエに入ってきた時の第一声だった。
今日も私のアトリエは、ダークマターで埋もれていた。
「このダークマターが1個2万リルで売れる事だけが、今の私の救いだよ……」
まぁ、材料費でほぼ全部飛んじゃうんだけどね。売却費で得た利益から材料費を引くと、残るのはおよそ500リル。
依頼をこなしてコツコツ資金は貯めているけど、初級だから納品するアイテムが簡単な分報酬も雀の涙ほどしかない。
錬金術ってお金かかる!
先生が最近はよく外に素材集めに連れてってくれるから、その時は無料で作れるのはありがたい。
「ほら、手伝うから片付けてしまおう。足の踏み場もないよ」
先生は散らかってても「後でいいですよ」ってあまり気にしないけど、ルイスはやたらと片付けたがる。何故だろう。
「リィ、手が止まってるよ」
「はーい」
「僕思うんだけど、最初から隣に袋用意してたらいいんじゃないの? いっぱいになったら次の袋に交換すれば済むし。こうして片付ける手間、省けるよ」
確かにそれも一理ある。
しかし私には、そうしたくない理由があった。
「ルイス……私はね、次こそは成功する! って決意をみなぎらせながら、一回一回に魂を込めてるの。だから最初から失敗用の袋を準備しとくなんて、縁起が悪すぎる!」
「ぷっ、あははは!」
ぐっと握り拳を作って力説したら、爆笑されてしまった。
「な、何でいきなり笑いだすの!」
「いや、真剣な顔して何を言い出すかと思えば、可愛いなと思っただけだよ。だってこれ全部、リィが頑張った証でしょ?」
「うん、私の偉大なる失敗作!」
「何度失敗しても前向きに頑張り続けるリィは可愛いよ。僕はその可愛いリィが偉大なる失敗作に足を引っかけて転んで怪我するかもしれないと思うと、心が痛むんだ」
ルイスはそう言って、心配そうにエメラルドグリーンの瞳を揺らす。
「確かに、散らかしてると危ないね」
心配をかけてしまっていることに、少し反省。
「そうなんだ。だからダークマターボックスでも作って、決まった場所に設置しておくのはどう? あくまでも収納する場所としてね。ほら、ちょうど良さそうなボックスをついでに持ってきたんだ」
ちょっと待て、ちょうどよくボックスなんて持ち歩かないよ、普通。事前に絶対用意してたな、これ……
「わーありがとう!」
とりあえずボックスを笑顔で受け取った。
私を見て、何故かルイスはほっと胸を撫で下ろす。
「それでお兄様」
ボックスを横において、逃げないようにルイスの肩に手を置いた。
「な、なんだい、リィ」
狼狽えるお兄様の目はかなり泳いでいる。
「誰の差し金かな?」
「いやだな、何を言っているんだい」
「私達、双子だよ。気付かないとでも思ってるー?」
意地でも視線を合わせようとしないルイスの視線の先にわざと移動してやること数回、どうやら観念したらしい。
「リチャードに、言われたんだ」
「何て?」
「リィがこのままでは、『汚嬢様』になってしまうと……」
「汚嬢様!? そ、それはどう言うこと!?」
「先生が帰っちゃった後のアトリエが、ゴミ屋敷にならないか心配してるみたいでね……」
「え、そんな風に思われてたの!?」
「だって先生が居ない日は、晩御飯食べるのも忘れて没頭してるでしょ? このダークマターに埋もれてご飯も食べずに眠ってる姿を見たら、流石に心配にもなるかと……」
ぬっと現れたリチャードが「お嬢様、そろそろ夕食の時間です」と呼びに来てくれるわね、そう言えば……
散らかるダークマターと、錬金術に使う素材の数々。
私にとっては偉大なる失敗作や大事な素材でも、端から見れば部屋の中で岩や変な物、それこそゴミに埋もれる変な少女にしか見えない……のかもしれない。
ゴミに埋もれる令嬢、通称『汚嬢様』なんて悪評が広まったら大変だ! 今度から床に転がすのは止めよう。
「片付けます……ちゃんと……」
「うん、そうしてくれると皆も安心すると思う。心配してたのはリチャードだけじゃないからね」
「え、そうなの!?」
「メアリーもアンも、ここへ君を呼びに来た事のある侍女達もだし。料理長に至っては、リィがきちんと食べに来てくれる美味しい夕食のメニュー開発に勤しんでるみたい」
「私、知らないうちにそんなに皆に心配かけてたの!?」
「そう。お父様とお母様も心配していたからね。好きなことに没頭するのはいいけど、『汚嬢様』化が進むのはちょっと……って、難色を示してたから。錬金術出来なくなるのは可哀想だと思って、何とか阻止しようと思って……」
「ありがとう、ルイス。貴方は私の命の恩人よ! 散らかさない、こまめに片付ける!」
「うん、そうしてくれると皆も安心すると思う」
その後、帰宅された先生に「今日はアトリエが綺麗ですね。リオーネ、具合でも悪いのですか?」と、別の意味で心配されて何か複雑な気分になった。
「綺麗に片付いていると、何だか落ち着きませんね」
そう仰る先生に、『汚うじさま』の素質があるなと親近感が湧いたけど、口にしたら不敬罪になるので流石に黙っておいた。
それは、おやつを食べに来たルイスがアトリエに入ってきた時の第一声だった。
今日も私のアトリエは、ダークマターで埋もれていた。
「このダークマターが1個2万リルで売れる事だけが、今の私の救いだよ……」
まぁ、材料費でほぼ全部飛んじゃうんだけどね。売却費で得た利益から材料費を引くと、残るのはおよそ500リル。
依頼をこなしてコツコツ資金は貯めているけど、初級だから納品するアイテムが簡単な分報酬も雀の涙ほどしかない。
錬金術ってお金かかる!
先生が最近はよく外に素材集めに連れてってくれるから、その時は無料で作れるのはありがたい。
「ほら、手伝うから片付けてしまおう。足の踏み場もないよ」
先生は散らかってても「後でいいですよ」ってあまり気にしないけど、ルイスはやたらと片付けたがる。何故だろう。
「リィ、手が止まってるよ」
「はーい」
「僕思うんだけど、最初から隣に袋用意してたらいいんじゃないの? いっぱいになったら次の袋に交換すれば済むし。こうして片付ける手間、省けるよ」
確かにそれも一理ある。
しかし私には、そうしたくない理由があった。
「ルイス……私はね、次こそは成功する! って決意をみなぎらせながら、一回一回に魂を込めてるの。だから最初から失敗用の袋を準備しとくなんて、縁起が悪すぎる!」
「ぷっ、あははは!」
ぐっと握り拳を作って力説したら、爆笑されてしまった。
「な、何でいきなり笑いだすの!」
「いや、真剣な顔して何を言い出すかと思えば、可愛いなと思っただけだよ。だってこれ全部、リィが頑張った証でしょ?」
「うん、私の偉大なる失敗作!」
「何度失敗しても前向きに頑張り続けるリィは可愛いよ。僕はその可愛いリィが偉大なる失敗作に足を引っかけて転んで怪我するかもしれないと思うと、心が痛むんだ」
ルイスはそう言って、心配そうにエメラルドグリーンの瞳を揺らす。
「確かに、散らかしてると危ないね」
心配をかけてしまっていることに、少し反省。
「そうなんだ。だからダークマターボックスでも作って、決まった場所に設置しておくのはどう? あくまでも収納する場所としてね。ほら、ちょうど良さそうなボックスをついでに持ってきたんだ」
ちょっと待て、ちょうどよくボックスなんて持ち歩かないよ、普通。事前に絶対用意してたな、これ……
「わーありがとう!」
とりあえずボックスを笑顔で受け取った。
私を見て、何故かルイスはほっと胸を撫で下ろす。
「それでお兄様」
ボックスを横において、逃げないようにルイスの肩に手を置いた。
「な、なんだい、リィ」
狼狽えるお兄様の目はかなり泳いでいる。
「誰の差し金かな?」
「いやだな、何を言っているんだい」
「私達、双子だよ。気付かないとでも思ってるー?」
意地でも視線を合わせようとしないルイスの視線の先にわざと移動してやること数回、どうやら観念したらしい。
「リチャードに、言われたんだ」
「何て?」
「リィがこのままでは、『汚嬢様』になってしまうと……」
「汚嬢様!? そ、それはどう言うこと!?」
「先生が帰っちゃった後のアトリエが、ゴミ屋敷にならないか心配してるみたいでね……」
「え、そんな風に思われてたの!?」
「だって先生が居ない日は、晩御飯食べるのも忘れて没頭してるでしょ? このダークマターに埋もれてご飯も食べずに眠ってる姿を見たら、流石に心配にもなるかと……」
ぬっと現れたリチャードが「お嬢様、そろそろ夕食の時間です」と呼びに来てくれるわね、そう言えば……
散らかるダークマターと、錬金術に使う素材の数々。
私にとっては偉大なる失敗作や大事な素材でも、端から見れば部屋の中で岩や変な物、それこそゴミに埋もれる変な少女にしか見えない……のかもしれない。
ゴミに埋もれる令嬢、通称『汚嬢様』なんて悪評が広まったら大変だ! 今度から床に転がすのは止めよう。
「片付けます……ちゃんと……」
「うん、そうしてくれると皆も安心すると思う。心配してたのはリチャードだけじゃないからね」
「え、そうなの!?」
「メアリーもアンも、ここへ君を呼びに来た事のある侍女達もだし。料理長に至っては、リィがきちんと食べに来てくれる美味しい夕食のメニュー開発に勤しんでるみたい」
「私、知らないうちにそんなに皆に心配かけてたの!?」
「そう。お父様とお母様も心配していたからね。好きなことに没頭するのはいいけど、『汚嬢様』化が進むのはちょっと……って、難色を示してたから。錬金術出来なくなるのは可哀想だと思って、何とか阻止しようと思って……」
「ありがとう、ルイス。貴方は私の命の恩人よ! 散らかさない、こまめに片付ける!」
「うん、そうしてくれると皆も安心すると思う」
その後、帰宅された先生に「今日はアトリエが綺麗ですね。リオーネ、具合でも悪いのですか?」と、別の意味で心配されて何か複雑な気分になった。
「綺麗に片付いていると、何だか落ち着きませんね」
そう仰る先生に、『汚うじさま』の素質があるなと親近感が湧いたけど、口にしたら不敬罪になるので流石に黙っておいた。
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