悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!
第四十一話 忘れるはずもないその音色
朝食を済ませた後、メアリーが綺麗に身支度をしてくれた。
先に家を出た両親を見送って、リヴァイが迎えに来てくれるのを待つ。お父様もお母様もやる気に満ち溢れた様子だったけど、建国記念式典って何が行われるのだろう?
そんな事を考えながら部屋でうとうとしていると、リチャードが呼びに来てくれた。
「お嬢様、リヴァイド殿下がお越しです」
くっ、今ごろになって睡魔が来るなんて。
「おはよう! リオーネ!」と、元気いっぱいのリヴァイにエスコートされて、馬車に乗り込んだ。
「ぼーっとしてどうした?」
「はっ、すみません。昨夜あまり眠れなかったので」
「無理をさせてすまない」
申し訳なさそうにリヴァイが言った。
「いえ、リヴァイのせいではありませんよ。お迎えまで来てくださって、ありがとうございます」
「今日の式典はほぼ大人しか参加しないからな。俺の婚約者でなければ、リオーネも参加せずにすんだはずだ」
珍しくルイスはお留守番なのよね。そういえば。
「建国記念式典って、具体的に何をするのですか?」
「座って大人の演奏聞いてれば終わる」
「え、それだけですか?」
「しかも退屈な事に、演奏されるのは国歌だけ。うんざりするほど、暇なんだ」
そう言って、リヴァイは軽くため息を漏らした。
「そうなんですね」
どうしよう、寝不足には辛い式典だ。流石に居眠りは出来ない。
「眠いのだろう? 俺の肩を枕にして少し休むといい」
リヴァイは促すように、自身の肩を軽くトントンと叩く。
「え……で、ですが……」
「膝枕をしてやってもいいぞ?」
「い、いえ! さすがにそれは……」
「さぁ、どっちがいい?」
選択肢は二つだけ!?
「えっと、それじゃあ……肩をお借りしても、いいですか?」
「ああ、もちろんだ」
とは言ったものの、恥ずかしい。
肩を借りるって、電車とかでウトウトして極限の睡魔に抗えなかった人がやるものじゃないのだろうか。意識ある状態で人の肩にもたれ掛かる勇気なんてないよ!
そう戸惑っていたら、「ほら、おいで」とリヴァイが私の肩に手を回した。そして強制的にぽすっと頭がリヴァイの肩に乗せられる。
「なんなら子守唄も歌ってやろうか?」
「だ、大丈夫です!」
「着いたら起こすから、ゆっくり休むといい」
「はい、ありがとうございます」
あたたかい。それに何故か、懐かしい感じがした。揺れの少ない馬車の振動が妙に心地よくて、瞳を閉じたら眠りに落ちるのは早かった。
「……ネ、リオーネ、着いたぞ」
微睡む意識の中で私の名を呼ぶ声が聞こえる。ついた……ついた……着いた!
「はっ! すみません、私ったらすっかり眠ってしまって!」
「気にするな、おかげで可愛い寝顔を堪能できたからな」
笑顔でそんな事を言われて、言葉の意味を理解したら恥ずかしさが込み上げた。
「ね、がお!?」
よだれとか垂らしてないよね!?
「ほら、掴まれ」
「あ、ありがとうございます」
先に馬車を降りたリヴァイが手を貸してくれた。
「開始まで時間あるし、少し休憩しよう」
そのままエスコートされて王族専用のプライベートサロンへ案内された。
立派なグランドピアノが置かれいる。触るな、危険。うっかり触れて壊れてしまったら困るから、無意識にグランドピアノから距離を取った。
「ああ、そうか。少しでも触れると壊れるのか?」
「はい。壊れます……」
ソファーに座るよう促されて、席に着いた。
「リオーネ、音楽を聴くのは好きか?」
「はい、大好きです! 特にピアノの音色が大好きで……あ、ルイスが弾くヴァイオリンも勿論大好きですよ?」
「そうか。一番にピアノをあげたってことは、ピアノの方が好きなんだな?」
何故か嬉しそうな顔でリヴァイが尋ねてくる。
「えっと、その……はい」
翼の弾いてくれるピアノが大好きだった。
楽しそうに演奏する姿も、美しい音色もよく覚えている。
「俺でよければ、何か弾こうか?」
「え、良いのですか?!」
誕生日パーティーの時、結局リヴァイの演奏聞けなくて残念だったんだよね。
「ああ、もちろん。何かリクエストはあるか? 即興でも何でもいいが」
「即興でも弾けるのですか?」
「その日の気分で、適当に弾くこともある。一度だけしか聞けないレア演奏だ」
「だったら即興でお願いしたいです!」
「分かった。リオーネのためだけに、弾いてやろう」
すごい、贅沢!
ワクワクしながらリヴァイの演奏が始まるのを待った。
椅子に座ったリヴァイは、鍵盤に手を添えて構える。何故かその姿に、私は既視感を覚えた。
演奏が始まって、私は驚きが隠せなかった。
高い演奏技術に、奏でられる美しい旋律。即興で奏でられているとは思わないくらい、曲の変わり目も自然で見事だった。
でも私が驚いたのはそれだけではなくて、演奏の癖や表現の仕方がとてもよく似ていた。
舞いを見てるかのような鍵盤の指さばきやトリルのかけ方、強弱の緩急のつけ方。心の底から楽しんで演奏しているその姿さえも。
まるで目の前で翼が演奏していると錯覚しそうになるくらい、本当によく似ていたのだ。
こんな偶然があるのだろうか。
まさかリヴァイは、翼の生まれ変わり?!
いやいや、そんな都合のよい事があるわけないよね。
力強いアップテンポの曲調から、しっとりとしたローテンポのバラードへと変化する。
この世界にきて、また聞けるなんて思いもしていなかった。リヴァイの演奏を聴きながら、自然と感動で涙がこぼれ落ちる。目元にハンカチを当てながら、一度しか聞けないその美しい音色を、奇跡のようなその演奏を、深く心に刻み込んだ。
「どうだった……って、泣いてるのか!?」
「素晴らしくてっ、とても感動しました……!」
「楽しんでもらえたなら、よかった。お望みなら、またいつでも弾いてやるよ」
「嬉しい! 是非、お願いします!」
「ああ、勿論だ」
その後開かれた建国記念式典は、リヴァイが言っていたように退屈な試練の時間だった。
建国記念だから国歌を大切にするのは分かる。分かるけど、同じ曲を楽器を変えるとはいえ、何度もループしてただ聞くだけっていうのは確かに辛かった。
最初のうちはまだよかった。表現の仕方が皆違って色んな音色を楽しめた。でもそれが二時間、三時間、四時間となっていくと話は別だ。
耳が馬鹿になってしまって、同じにしか聞こえなくなった。この式典に子供が参加しない理由がよく分かった。これだけ長時間じっと座って聞くだけって、普通の子供には無理だ!
でも大人達にとってとはとても大事な式典のようで、今年の『ベストオブ愛国心演奏者』っていう名誉な称号を得るために血の滲む努力をしてきたらしい。
ゲームの中では知り得なかったウィルハーモーニー王国の闇を見た気分になったのは、何故だろう。
ちなみに、第一王子のエルンスト様は見事に爆睡されていた。リヴァイに途中何度も起こされてたけど、睡魔に抗えない気持ちはよく分かる。馬車の中で寝てなかったら、私もきっと抗えなかっただろう。そう考えると、リヴァイはやっぱりすごいな。
先に家を出た両親を見送って、リヴァイが迎えに来てくれるのを待つ。お父様もお母様もやる気に満ち溢れた様子だったけど、建国記念式典って何が行われるのだろう?
そんな事を考えながら部屋でうとうとしていると、リチャードが呼びに来てくれた。
「お嬢様、リヴァイド殿下がお越しです」
くっ、今ごろになって睡魔が来るなんて。
「おはよう! リオーネ!」と、元気いっぱいのリヴァイにエスコートされて、馬車に乗り込んだ。
「ぼーっとしてどうした?」
「はっ、すみません。昨夜あまり眠れなかったので」
「無理をさせてすまない」
申し訳なさそうにリヴァイが言った。
「いえ、リヴァイのせいではありませんよ。お迎えまで来てくださって、ありがとうございます」
「今日の式典はほぼ大人しか参加しないからな。俺の婚約者でなければ、リオーネも参加せずにすんだはずだ」
珍しくルイスはお留守番なのよね。そういえば。
「建国記念式典って、具体的に何をするのですか?」
「座って大人の演奏聞いてれば終わる」
「え、それだけですか?」
「しかも退屈な事に、演奏されるのは国歌だけ。うんざりするほど、暇なんだ」
そう言って、リヴァイは軽くため息を漏らした。
「そうなんですね」
どうしよう、寝不足には辛い式典だ。流石に居眠りは出来ない。
「眠いのだろう? 俺の肩を枕にして少し休むといい」
リヴァイは促すように、自身の肩を軽くトントンと叩く。
「え……で、ですが……」
「膝枕をしてやってもいいぞ?」
「い、いえ! さすがにそれは……」
「さぁ、どっちがいい?」
選択肢は二つだけ!?
「えっと、それじゃあ……肩をお借りしても、いいですか?」
「ああ、もちろんだ」
とは言ったものの、恥ずかしい。
肩を借りるって、電車とかでウトウトして極限の睡魔に抗えなかった人がやるものじゃないのだろうか。意識ある状態で人の肩にもたれ掛かる勇気なんてないよ!
そう戸惑っていたら、「ほら、おいで」とリヴァイが私の肩に手を回した。そして強制的にぽすっと頭がリヴァイの肩に乗せられる。
「なんなら子守唄も歌ってやろうか?」
「だ、大丈夫です!」
「着いたら起こすから、ゆっくり休むといい」
「はい、ありがとうございます」
あたたかい。それに何故か、懐かしい感じがした。揺れの少ない馬車の振動が妙に心地よくて、瞳を閉じたら眠りに落ちるのは早かった。
「……ネ、リオーネ、着いたぞ」
微睡む意識の中で私の名を呼ぶ声が聞こえる。ついた……ついた……着いた!
「はっ! すみません、私ったらすっかり眠ってしまって!」
「気にするな、おかげで可愛い寝顔を堪能できたからな」
笑顔でそんな事を言われて、言葉の意味を理解したら恥ずかしさが込み上げた。
「ね、がお!?」
よだれとか垂らしてないよね!?
「ほら、掴まれ」
「あ、ありがとうございます」
先に馬車を降りたリヴァイが手を貸してくれた。
「開始まで時間あるし、少し休憩しよう」
そのままエスコートされて王族専用のプライベートサロンへ案内された。
立派なグランドピアノが置かれいる。触るな、危険。うっかり触れて壊れてしまったら困るから、無意識にグランドピアノから距離を取った。
「ああ、そうか。少しでも触れると壊れるのか?」
「はい。壊れます……」
ソファーに座るよう促されて、席に着いた。
「リオーネ、音楽を聴くのは好きか?」
「はい、大好きです! 特にピアノの音色が大好きで……あ、ルイスが弾くヴァイオリンも勿論大好きですよ?」
「そうか。一番にピアノをあげたってことは、ピアノの方が好きなんだな?」
何故か嬉しそうな顔でリヴァイが尋ねてくる。
「えっと、その……はい」
翼の弾いてくれるピアノが大好きだった。
楽しそうに演奏する姿も、美しい音色もよく覚えている。
「俺でよければ、何か弾こうか?」
「え、良いのですか?!」
誕生日パーティーの時、結局リヴァイの演奏聞けなくて残念だったんだよね。
「ああ、もちろん。何かリクエストはあるか? 即興でも何でもいいが」
「即興でも弾けるのですか?」
「その日の気分で、適当に弾くこともある。一度だけしか聞けないレア演奏だ」
「だったら即興でお願いしたいです!」
「分かった。リオーネのためだけに、弾いてやろう」
すごい、贅沢!
ワクワクしながらリヴァイの演奏が始まるのを待った。
椅子に座ったリヴァイは、鍵盤に手を添えて構える。何故かその姿に、私は既視感を覚えた。
演奏が始まって、私は驚きが隠せなかった。
高い演奏技術に、奏でられる美しい旋律。即興で奏でられているとは思わないくらい、曲の変わり目も自然で見事だった。
でも私が驚いたのはそれだけではなくて、演奏の癖や表現の仕方がとてもよく似ていた。
舞いを見てるかのような鍵盤の指さばきやトリルのかけ方、強弱の緩急のつけ方。心の底から楽しんで演奏しているその姿さえも。
まるで目の前で翼が演奏していると錯覚しそうになるくらい、本当によく似ていたのだ。
こんな偶然があるのだろうか。
まさかリヴァイは、翼の生まれ変わり?!
いやいや、そんな都合のよい事があるわけないよね。
力強いアップテンポの曲調から、しっとりとしたローテンポのバラードへと変化する。
この世界にきて、また聞けるなんて思いもしていなかった。リヴァイの演奏を聴きながら、自然と感動で涙がこぼれ落ちる。目元にハンカチを当てながら、一度しか聞けないその美しい音色を、奇跡のようなその演奏を、深く心に刻み込んだ。
「どうだった……って、泣いてるのか!?」
「素晴らしくてっ、とても感動しました……!」
「楽しんでもらえたなら、よかった。お望みなら、またいつでも弾いてやるよ」
「嬉しい! 是非、お願いします!」
「ああ、勿論だ」
その後開かれた建国記念式典は、リヴァイが言っていたように退屈な試練の時間だった。
建国記念だから国歌を大切にするのは分かる。分かるけど、同じ曲を楽器を変えるとはいえ、何度もループしてただ聞くだけっていうのは確かに辛かった。
最初のうちはまだよかった。表現の仕方が皆違って色んな音色を楽しめた。でもそれが二時間、三時間、四時間となっていくと話は別だ。
耳が馬鹿になってしまって、同じにしか聞こえなくなった。この式典に子供が参加しない理由がよく分かった。これだけ長時間じっと座って聞くだけって、普通の子供には無理だ!
でも大人達にとってとはとても大事な式典のようで、今年の『ベストオブ愛国心演奏者』っていう名誉な称号を得るために血の滲む努力をしてきたらしい。
ゲームの中では知り得なかったウィルハーモーニー王国の闇を見た気分になったのは、何故だろう。
ちなみに、第一王子のエルンスト様は見事に爆睡されていた。リヴァイに途中何度も起こされてたけど、睡魔に抗えない気持ちはよく分かる。馬車の中で寝てなかったら、私もきっと抗えなかっただろう。そう考えると、リヴァイはやっぱりすごいな。
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