悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!

花宵

第三十八話 持つべきものは、優しいお兄様!

 先生と一緒に叫び声のした方へ駆けつけると、そこには蹲っている庭師のトム爺と、心配そうに寄り添うメイドのアンナの姿があった。

「トム爺、大丈夫?!」
「お騒がせしまってすみません、お嬢様。腰をやってしまったようで、少し休めば治りますからご安心下さい」
「よければこちらを使われて下さい。痛みを緩和する事が出来ます」

 先生は腰の鞄からとある黄色いポーションを取り出してトム爺に差し出した。しかしトム爺はそれを受け取ろうとしない。

「このような高級ポーション、爺には勿体のうございます」
「ご安心下さい。こちらは私が作った物で、簡単に集まる材料ですぐに作れるものですから」
「ですが爺のような老いぼれには……」
「この庭園がいつも綺麗でいられるのは、トム爺のおかげなの。私もルイスもこの庭が大好きだよ。だから勿体ないなんて言わないで。トム爺は大切な家族の一員なんだから!」
「お嬢様……ありがとうございます。そのように仰って頂けて爺は嬉しゅうございます」
「さぁ、どうぞ」
「先生も、ありがとうございます」

 トム爺は、先生から受けとった黄色いポーションを飲んだ。

「こ、これは! 痛みが無くなりました。力まで漲ってきますぞ!」
「先生の作るアイテムの効果は抜群だからね!」
「でも無理をしてはなりません。今日はもう大事を取って休まれて下さいね」
「ですが、まだ水やりの途中でして」
「任せて、トム爺! 私がやっておくわ!」
「お嬢様、それこそなりません!」
「だって私の花壇の水やりもしてくれるじゃない。たまにはお返ししたってバチは当たらないわ! アンナ、トム爺を宿舎までお願い」
「かしこまりました、お嬢様!」

 よし、早速水やりするぞ!

「私も手伝いますよ」
「先生、ありがとうございます!」

 先生と一緒に、じょうろに水を汲んで残りの花達に水をあげていく。それにしても、この広い庭園をじょうろで全て水をやるのに、トム爺は一体何往復しているのだろうか。

「やっぱり、ホースを作りたいなぁ……」

 作業をもう少し楽にしてあげたい。そうすればトム爺の腰の負担も減るだろうし。

「それでしたら、作ってみるといいですよ」

 心の声が漏れていたようで、先生がにっこり笑っている。

「以前話してくれたアイテムでしょう? リオーネの錬金術師としてのレベルも上がりましたし、そろそろオリジナルアイテムの錬金術に挑戦してみますか?」
「えっ、良いのですか?!」
「はい、勿論です。そこまで出来れば、もう一人前の錬金術師ですよ」
「一人前の錬金術師!」

 俄然、やる気出てきた!

「先生、急いで水やりしてアトリエに戻りましょう!」
「ええ、そうですね」




 先生からオリジナルアイテム錬金術の講義を受けた翌日、私はアトリエで頭を悩ませていた。ちなみに今日はお休みの日だから、先生はフライングボードに乗ってお出かけされている。

『オリジナルアイテムを作るには、まずはイメージしなければなりません』

 どのような能力を持っているか。
 どのような形をしているのか。
 どのような素材が適しているのか。

 先生の話だと、まずはこの三点をイメージする事から始まるそうだ。

 私が作りたいのは、水量の調節が出来るホースリールのようなもの。
 ただ、庭園全体を届かせるにはかなり長くないといけない。正直、長いホースだと使った後に片付けるのも面倒なんだよな。何回もグルグルと手動で回すのも大変し、ホースがよじれて均等に巻けない事もある。
 試しに前世のホースリールのイメージイラストを書いてみたけど、何だかしっくりこない。確かにじょうろで何往復もするよりは遥かに便利だけと、折角ならもっと気軽に簡単に使えるものがいい。

「リィ、難しい顔してどーしたの?」
「ルイス、稽古終わったんだね」
「うん。りんごのケーキ食べに来たよ」
「いつもありがとう」

 私が大量に作ったりんごのケーキを消費してくれるありがたいお兄様。毎日おやつがこれになってすごく申し訳ないけど、ルイスは文句も言わずに食べに来てくれる。持つべきものは、優しいお兄様ね!

 鮮度にこだわりぬいた倉庫から持ってきてテーブルに並べる。ついでに、最近作れるようになった『はちみつサイダー』も一緒に。

「さぁ、召し上がれ」
「あ、新しい飲み物だ!」
「MP回復効果のある飲み物だよ」
「甘くてシュワシュワして美味しい!」
「喜んでもらえてよかった」
「そのイラストは、次に作るアイテム?」
「オリジナルアイテムの錬金術に挑戦中なんだけど、中々しっくりこなくて」
「どんなアイテムを作りたいの?」
「トム爺の水やり作業を少しでも楽にしてあげたいなーと思ってるの」
「なるほど、確かに庭園の水やりは大変だもんね」
「そうなの! じょうろと蛇口を何往復もして、それを毎日ってすごく大変だと思うから」

 温室の水やりでさえ大変だと思うのに、庭園はその比ではない。

「この絵のアイテムはどうやって使うの?」
「蛇口にこの長い管の片方をつけて、もう片方のノズルを持って水を巻くんだよ。水を通す管がここに巻かれているから、引っ張ると伸びるよ」
「この管が届くところまで水をやれるってすごく便利だね」
「じょうろで何往復もするよりは便利だと思うけど、これだと使った後の片付けが大変なんだよね。長い管を、このペダルをグルグル回して収納するんだけど、巻くのも結構大変でしょ?」
「そうだね。つまりリィは、水を持ち運ぶのを便利にしたいって事だよね?」
「そうなの」
「ミニマムリングで水を小さくしてから持ち運んだらどう?」
「ミニマムリングで水を小さく……そうか、その手があった!」

 ホースリールにこだわる事なかったんだ。一回の水やりで必要な水の量を持ち歩ければそれでいい。つまりミニマムリングと合体させてたくさん水を貯えられる容器と、水の量を調節しながら取り出せるノズル効果のあるものを組み合わせれば、いける!

 ミニマムリングは、通したものを一度だけ小さくするアイテム。

 水だけをミニマムリングで小さくすれば、容器にたくさんの水を貯めれる。錬金釜を洗っていた時のように、容器から水を出す時は元の量に戻りながら出るからたくさん水をまけるはずだ。

 これなら軽くて持ち運びも便利だし、ホースリールよりいいかも!

「良い考えが浮かんだようだね」
「うん! ルイスのおかげだよ、ありがとう!」
「リィの役に立てたなら僕も嬉しいよ」

 ルイスが帰った後、私は早速オリジナルアイテムのイメージ作りに励んだ。どうせなら、見た目にもこだわりたい。だってこれが、私が作る初アイテムになるんだから!

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