悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!
第二十九話 鮮度にこだわり抜いた倉庫(後編)
ホルン山脈と書かれた看板の先へ足を踏み入れた瞬間、景観が変わった。ゲームの画面越しに見たことのある、緩急の差が激しい岩肌の多い山道が目の前に。
そういえばこのダンジョン、最上階まで登るのに空を飛べるアイテムが必須だったんだよな。ショートカットして目の前にある崖を登る手段は今の私達にはない。
とりあえず、歩いていける範囲で素材の保管場所を探すことにした。
足場の悪いフィールドを歩いていくと、輝きを放つ岩場が見えてきた。素材の保管場所はあそこに違いない。
けれど、そこに行くのに顔の高さ程まである岩の段差を登らないと辿り着けない。大人なら難なく登れる高さなんだろうけど、まだ子供の私達には結構な高さだ。
「リオーネ、少しここで待っていてくれ。これを頼む」
素材の入った紙袋を私に預けると、リヴァイは先程来た道をかけ足で戻り始める。少しして、両手で抱えられるくらいの大きな岩を持って帰ってきた。
「これを足場にして登ろう。まずは危険がないか俺が登って確かめる」
「リヴァイ、それなら私がやります」
王子の身を危険にさらすなどあってはならない。もしリヴァイが誤って転倒でもして頭を打ったら一大事だ。
「案ずるな、これくらいどうってことない。俺だって身体は鍛えているからな。ルイスには負けぬぞ」
私から素材の紙袋を奪ったリヴァイは先にそれを岩の上に乗せると、跳躍をつけて軽々と登ってしまった。す、すごいジャンプ力だ。
「ほら、掴まれ」
アプリコット色の綺麗な髪をなびかせて、リヴァイは笑顔で手を差し出してくる。その姿が太陽のように眩しくみえた。
「ありがとうございます」
私はリヴァイのようにジャンプしては登れない。
差し出された手を掴んで岩に足をかけながら登ろうとするも、中々うまくいかない。魔法タイプのステータスで力が貧弱なせいか、もうあと一踏ん張りがきかない。
「俺が引っ張り上げるから、タイミングを合わせて」
「うぅ……すみません」
鈍くさい奴だって思われているに違いない。
「気にするな。ほら、せーので勢いつけていくぞ」
「はい」
「せーの!」
リヴァイの掛け声に合わせ、勢いよく足場を蹴り上げて引っ張り上げてもらう。落ちないようにしっかりと腰を抱きとめられ、無事岩を登ることに成功した。
「やったな、リオーネ!」
「はい、ありがとうございます!」
達成感からそのまま喜びを分かち合った。
しばらくして興奮が冷め、冷静になってきてあることに気付く。
なんかリヴァイの端正な顔が近い。それもそうだろう。馬乗りみたいにして彼の膝の上に乗っているのだから。どこうにも、腰をしっかりと抱かれているため動くに動けない。意識したら恥ずかしくて、顔に熱が集まるのを感じた。
「あの……リヴァイ。そろそろ、その……手を………」
遠慮がちに声をかけると、リヴァイは頬を真っ赤に染めた。
「す、すまない!」
「わ、私の方こそすみません! 重かったですよね!」
リヴァイが慌てて手を離してくれた所で、私も飛び退くように離れた。心臓がまだバクバクいってる。
「い、行くか」
「で、ですね」
お互い恥ずかしい気持ちを紛らわすよう早足で、光る岩場を目指す。目的地に着いた頃には大分平常心を取り戻した。
「先生は確か、ここに素材を置けばいいと言っていたな」
リヴァイが手に持っていた素材『大きな羽』を光る岩場に置くと、それは光に包まれ鳥の形を成した後、飛び立った。
「すごい! 鳥になって飛んでいきましたよ!」
「面白いな! じゃあ次はこれを……」
その後も、光る岩場に置いた素材はそれを落とすモンスターに形を変え、フィールドを彷徨い出した。どうやらモンスタードロップ素材のみ、ここに置くことでモンスターに姿を変えるらしい。
それらの素材の収納を終えた頃には、辺りはいつの間にかモンスターであふれかえっていた。
目の前を横切るモンスターに冷や汗が流れるも、それらのモンスターがこちらを攻撃してくることはなかった。だから、比較的安全なのか。
「次は何の反応もしなかった素材だな。どこに置く?」
採取素材の『メノウ石』を手にしながらリヴァイが尋ねてくる。採取素材は地面に置くことで景色と同化するらしい。「好きな場所に置いてかまいませんよ」と先生には言われたけれど……素材を取りに来た時のことを考えると、ある程度素材ごとにまとめて分かりやすい所に置いた方がいいだろう。
モンスターにあたらないように気をつけながら、めぼしい場所に移動する。
「メノウ石はこの辺にしましょう」
「ああ、分かった」
リヴァイがそっと『メノウ石』を地面に置くと、その場所が小さな洞窟になって採掘エリアへと早変わりした。分かりやすいように等間隔に採取素材を置いて、このダンジョンの素材収納は完了だ。
「では、次のダンジョンに行くか」
「はい、行きましょう」
「出口は……あっちだな」
「よく、一目で分かりますね?」
「同じように見える景色でも、規則性を見つけて端から順に見ていけば綻びが分かる。たとえば……」
目の前の景色で具体的に例をあげながら、出口の見つけ方のコツをリヴァイが教えてくれた。彼は中々聡明な眼を持っているらしい。変装した私とルイスを見分ける事も出来たし、流石は直国王となられる御方だ。
次のフィールドで、教わったことを実戦すると驚くほど簡単に出口を見付けることができた。
苦手を克服させてくれたリヴァイに多大な感謝をしつつ、素材収納の旅は幕を閉じた。
ちなみにセシル先生曰く、モンスターになった素材を使いたい時は倒したらいいそうだ。
「レベル1の弱いモンスターだから大丈夫ですよ」
と笑顔で言われたものの、毎回倉庫で狩りをしてからの錬金術って結構なサバイバル感があると思う。
しかも、モンスターのレベルは必要に応じて変えることが出来るらしく、レベル上げしたい時はわざと強くして訓練することも可能らしい。倒し終わった後、素材さえまたモンスター化させたら永遠と訓練が出来る。
家に居てもレベル上げに勤しむ事が出来るとは、何とも画期的だ!
素材の鮮度にこだわり抜いた素晴らしい倉庫は、訓練場としても使え予想以上にハイスペックな出来だった。
そういえばこのダンジョン、最上階まで登るのに空を飛べるアイテムが必須だったんだよな。ショートカットして目の前にある崖を登る手段は今の私達にはない。
とりあえず、歩いていける範囲で素材の保管場所を探すことにした。
足場の悪いフィールドを歩いていくと、輝きを放つ岩場が見えてきた。素材の保管場所はあそこに違いない。
けれど、そこに行くのに顔の高さ程まである岩の段差を登らないと辿り着けない。大人なら難なく登れる高さなんだろうけど、まだ子供の私達には結構な高さだ。
「リオーネ、少しここで待っていてくれ。これを頼む」
素材の入った紙袋を私に預けると、リヴァイは先程来た道をかけ足で戻り始める。少しして、両手で抱えられるくらいの大きな岩を持って帰ってきた。
「これを足場にして登ろう。まずは危険がないか俺が登って確かめる」
「リヴァイ、それなら私がやります」
王子の身を危険にさらすなどあってはならない。もしリヴァイが誤って転倒でもして頭を打ったら一大事だ。
「案ずるな、これくらいどうってことない。俺だって身体は鍛えているからな。ルイスには負けぬぞ」
私から素材の紙袋を奪ったリヴァイは先にそれを岩の上に乗せると、跳躍をつけて軽々と登ってしまった。す、すごいジャンプ力だ。
「ほら、掴まれ」
アプリコット色の綺麗な髪をなびかせて、リヴァイは笑顔で手を差し出してくる。その姿が太陽のように眩しくみえた。
「ありがとうございます」
私はリヴァイのようにジャンプしては登れない。
差し出された手を掴んで岩に足をかけながら登ろうとするも、中々うまくいかない。魔法タイプのステータスで力が貧弱なせいか、もうあと一踏ん張りがきかない。
「俺が引っ張り上げるから、タイミングを合わせて」
「うぅ……すみません」
鈍くさい奴だって思われているに違いない。
「気にするな。ほら、せーので勢いつけていくぞ」
「はい」
「せーの!」
リヴァイの掛け声に合わせ、勢いよく足場を蹴り上げて引っ張り上げてもらう。落ちないようにしっかりと腰を抱きとめられ、無事岩を登ることに成功した。
「やったな、リオーネ!」
「はい、ありがとうございます!」
達成感からそのまま喜びを分かち合った。
しばらくして興奮が冷め、冷静になってきてあることに気付く。
なんかリヴァイの端正な顔が近い。それもそうだろう。馬乗りみたいにして彼の膝の上に乗っているのだから。どこうにも、腰をしっかりと抱かれているため動くに動けない。意識したら恥ずかしくて、顔に熱が集まるのを感じた。
「あの……リヴァイ。そろそろ、その……手を………」
遠慮がちに声をかけると、リヴァイは頬を真っ赤に染めた。
「す、すまない!」
「わ、私の方こそすみません! 重かったですよね!」
リヴァイが慌てて手を離してくれた所で、私も飛び退くように離れた。心臓がまだバクバクいってる。
「い、行くか」
「で、ですね」
お互い恥ずかしい気持ちを紛らわすよう早足で、光る岩場を目指す。目的地に着いた頃には大分平常心を取り戻した。
「先生は確か、ここに素材を置けばいいと言っていたな」
リヴァイが手に持っていた素材『大きな羽』を光る岩場に置くと、それは光に包まれ鳥の形を成した後、飛び立った。
「すごい! 鳥になって飛んでいきましたよ!」
「面白いな! じゃあ次はこれを……」
その後も、光る岩場に置いた素材はそれを落とすモンスターに形を変え、フィールドを彷徨い出した。どうやらモンスタードロップ素材のみ、ここに置くことでモンスターに姿を変えるらしい。
それらの素材の収納を終えた頃には、辺りはいつの間にかモンスターであふれかえっていた。
目の前を横切るモンスターに冷や汗が流れるも、それらのモンスターがこちらを攻撃してくることはなかった。だから、比較的安全なのか。
「次は何の反応もしなかった素材だな。どこに置く?」
採取素材の『メノウ石』を手にしながらリヴァイが尋ねてくる。採取素材は地面に置くことで景色と同化するらしい。「好きな場所に置いてかまいませんよ」と先生には言われたけれど……素材を取りに来た時のことを考えると、ある程度素材ごとにまとめて分かりやすい所に置いた方がいいだろう。
モンスターにあたらないように気をつけながら、めぼしい場所に移動する。
「メノウ石はこの辺にしましょう」
「ああ、分かった」
リヴァイがそっと『メノウ石』を地面に置くと、その場所が小さな洞窟になって採掘エリアへと早変わりした。分かりやすいように等間隔に採取素材を置いて、このダンジョンの素材収納は完了だ。
「では、次のダンジョンに行くか」
「はい、行きましょう」
「出口は……あっちだな」
「よく、一目で分かりますね?」
「同じように見える景色でも、規則性を見つけて端から順に見ていけば綻びが分かる。たとえば……」
目の前の景色で具体的に例をあげながら、出口の見つけ方のコツをリヴァイが教えてくれた。彼は中々聡明な眼を持っているらしい。変装した私とルイスを見分ける事も出来たし、流石は直国王となられる御方だ。
次のフィールドで、教わったことを実戦すると驚くほど簡単に出口を見付けることができた。
苦手を克服させてくれたリヴァイに多大な感謝をしつつ、素材収納の旅は幕を閉じた。
ちなみにセシル先生曰く、モンスターになった素材を使いたい時は倒したらいいそうだ。
「レベル1の弱いモンスターだから大丈夫ですよ」
と笑顔で言われたものの、毎回倉庫で狩りをしてからの錬金術って結構なサバイバル感があると思う。
しかも、モンスターのレベルは必要に応じて変えることが出来るらしく、レベル上げしたい時はわざと強くして訓練することも可能らしい。倒し終わった後、素材さえまたモンスター化させたら永遠と訓練が出来る。
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