悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!
第十八話 波乱の誕生パーティ②
「あ、ルイス様よ!」
「本当だ! リオーネ様はいらっしゃらないわね? 今がチャンスよ!」
物騒な会話が聞こえて思わずそちらに視線を向けると、令嬢達がスカートの裾を掴みながら物凄い早さで歩み寄ってきた。赤髪と緑髪の令嬢2人を先頭に、ゾロゾロと取り巻きの令嬢を数人ずつ引き連れて。それはまるで猪の群れが突進してきたかのような恐怖だった。
ひぃぃ。
あまりの迫力に動けなくなっているとあっという間に囲まれてしまった。
「ルイス様! さっきの演奏素晴らしかったです!」
「私は感動でまだ心が震えています!」
双方向から声をかけられ誰にどう返事をしたら良いのか分からない。
「あ、ありがとうございます」
とりあえずお礼を言ってその場を離れようとしたら右腕と左腕を赤髪と緑髪の令嬢にがっちり掴まれてしまった。
そう言えば、「夢色セレナーデ」の中でリオーネの後ろにいつも付いていた取り巻きの令嬢達……確か赤髪と緑髪だったような。まさか、リオーネはこの子達を従え先頭に立ちいつも主人公を待ち伏せしていたのだろうか。
「あちらで私達と一緒にお話しましょう!」
「いいえ、私達とよ!」
痛い。痛いよ。
とりあえず私の腕を引っ張るのをやめて欲しい。
「なによ、私達が先に誘ったのよ! その汚い手を放しなさい!」
「貴女こそ、馴れ馴れしすぎるわよ!」
気の強そうな令嬢達が目の前で喧嘩を始めてしまった。
ど、どうしよう……下手にお話してボロが出てしまったら大変だ。普通、初対面なら自己紹介をするのがマナーだと授業で習った。
少なくとも、彼女たちはルイスと初対面ではないのだろう。名前も分からないから呼びかけることさえ出来ない。困っていたその時……
「ルイス、ここに居たのか」
後ろから声をかけられ、振り返ると本日の主役、リヴァイド王子が立っていた。
「少し話がある。すまないが、借りていっても良いか?」
「も、勿論です! リヴァイド様」
「ルイス様、また今度ゆっくりお話しましょうね!」
た、助かった。令嬢達に別れを告げて、リヴァイド王子の後を歩きながらほっと安堵の息を漏らす。
「らしくないな、ルイス。どうした?」
ホールを出て少し歩いた所で声をかけられる。
安心している場合じゃなかった。一番警戒すべきはルイスと一番仲の良いリヴァイド王子じゃないか!
「え……いや、何でもない。助かったよ、ありがとう」
「いつもお前に助けられているからな。これくらいどうってことない。それより……」
急に立ち止まったリヴァイド王子は、こちらをじっと観察するように眺めている。
「僕の顔、何か付いてる?」
「いや……」
短くそう呟くと、王子は再び歩き出す。おくれを取らないように私も足を進めるものの、人の少ない方向へ進むにつれ、何だか嫌な予感がしてくる。
王子は一体どこへ向かっているのだろう。このまま2人で居たら必ず何かボロが出る。何とかして逃げなければ……
「リヴァイ、そろそろ妹の演奏が始まるから会場に戻ろうと思うんだけど……」
「……大丈夫だ。それまでには戻る。約束していた楽譜が出来上がったから渡しておきたい。楽しみにしていただろう?」
なるほど、王子は楽譜を渡したいからルイスを探していたのか。さっさと楽譜を受け取ったら退散しよう。そのために、今は適当に話を合わせておこう。
「本当かい? 嬉しいな、ありがとう!」
「今度、それで二重奏をやろう」
「ああ、もちろんだよ」
王子の控え室の前まで来て、中へ入るよう促されて足を運ぶ。扉の番をしていた兵士さん達に一言話した後、王子も部屋の中へ入ってきたが、何故か閉められた扉の前で立ち止まる。
──カチャリ
その時、鍵を閉める音が聞こえた。背筋を氷柱で撫でられたような悪寒が走り、全身に鳥肌が立つ感覚がした。ゆっくりと顔を上げた王子はたんたんとした口調で静かに問いかけてくる。
「どうしてお前が、ルイスの格好をしている?」
「な、何をおかしな事を言ってるんだ、リヴァイ」
「俺の目が、誤魔化せると思っているのか?」
必死に取り繕うも、王子の眼光が鋭くなるだけだった。やばい、何とかしないと……
「誤魔化すも何も、僕はルイスだよ」
「ルイスが楽しみにしていた楽譜は先日、すでに渡してあるはずだが? リオーネ嬢、お前は一体何をもらいにここまで来たのだ?」
しまった……どうやらあの言葉自体が罠だったようだ。
「本当だ! リオーネ様はいらっしゃらないわね? 今がチャンスよ!」
物騒な会話が聞こえて思わずそちらに視線を向けると、令嬢達がスカートの裾を掴みながら物凄い早さで歩み寄ってきた。赤髪と緑髪の令嬢2人を先頭に、ゾロゾロと取り巻きの令嬢を数人ずつ引き連れて。それはまるで猪の群れが突進してきたかのような恐怖だった。
ひぃぃ。
あまりの迫力に動けなくなっているとあっという間に囲まれてしまった。
「ルイス様! さっきの演奏素晴らしかったです!」
「私は感動でまだ心が震えています!」
双方向から声をかけられ誰にどう返事をしたら良いのか分からない。
「あ、ありがとうございます」
とりあえずお礼を言ってその場を離れようとしたら右腕と左腕を赤髪と緑髪の令嬢にがっちり掴まれてしまった。
そう言えば、「夢色セレナーデ」の中でリオーネの後ろにいつも付いていた取り巻きの令嬢達……確か赤髪と緑髪だったような。まさか、リオーネはこの子達を従え先頭に立ちいつも主人公を待ち伏せしていたのだろうか。
「あちらで私達と一緒にお話しましょう!」
「いいえ、私達とよ!」
痛い。痛いよ。
とりあえず私の腕を引っ張るのをやめて欲しい。
「なによ、私達が先に誘ったのよ! その汚い手を放しなさい!」
「貴女こそ、馴れ馴れしすぎるわよ!」
気の強そうな令嬢達が目の前で喧嘩を始めてしまった。
ど、どうしよう……下手にお話してボロが出てしまったら大変だ。普通、初対面なら自己紹介をするのがマナーだと授業で習った。
少なくとも、彼女たちはルイスと初対面ではないのだろう。名前も分からないから呼びかけることさえ出来ない。困っていたその時……
「ルイス、ここに居たのか」
後ろから声をかけられ、振り返ると本日の主役、リヴァイド王子が立っていた。
「少し話がある。すまないが、借りていっても良いか?」
「も、勿論です! リヴァイド様」
「ルイス様、また今度ゆっくりお話しましょうね!」
た、助かった。令嬢達に別れを告げて、リヴァイド王子の後を歩きながらほっと安堵の息を漏らす。
「らしくないな、ルイス。どうした?」
ホールを出て少し歩いた所で声をかけられる。
安心している場合じゃなかった。一番警戒すべきはルイスと一番仲の良いリヴァイド王子じゃないか!
「え……いや、何でもない。助かったよ、ありがとう」
「いつもお前に助けられているからな。これくらいどうってことない。それより……」
急に立ち止まったリヴァイド王子は、こちらをじっと観察するように眺めている。
「僕の顔、何か付いてる?」
「いや……」
短くそう呟くと、王子は再び歩き出す。おくれを取らないように私も足を進めるものの、人の少ない方向へ進むにつれ、何だか嫌な予感がしてくる。
王子は一体どこへ向かっているのだろう。このまま2人で居たら必ず何かボロが出る。何とかして逃げなければ……
「リヴァイ、そろそろ妹の演奏が始まるから会場に戻ろうと思うんだけど……」
「……大丈夫だ。それまでには戻る。約束していた楽譜が出来上がったから渡しておきたい。楽しみにしていただろう?」
なるほど、王子は楽譜を渡したいからルイスを探していたのか。さっさと楽譜を受け取ったら退散しよう。そのために、今は適当に話を合わせておこう。
「本当かい? 嬉しいな、ありがとう!」
「今度、それで二重奏をやろう」
「ああ、もちろんだよ」
王子の控え室の前まで来て、中へ入るよう促されて足を運ぶ。扉の番をしていた兵士さん達に一言話した後、王子も部屋の中へ入ってきたが、何故か閉められた扉の前で立ち止まる。
──カチャリ
その時、鍵を閉める音が聞こえた。背筋を氷柱で撫でられたような悪寒が走り、全身に鳥肌が立つ感覚がした。ゆっくりと顔を上げた王子はたんたんとした口調で静かに問いかけてくる。
「どうしてお前が、ルイスの格好をしている?」
「な、何をおかしな事を言ってるんだ、リヴァイ」
「俺の目が、誤魔化せると思っているのか?」
必死に取り繕うも、王子の眼光が鋭くなるだけだった。やばい、何とかしないと……
「誤魔化すも何も、僕はルイスだよ」
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