悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!

花宵

第十話 お出かけ準備

 あれから一ヶ月が経って、私の冒険者レベルは8になった。やっと、やっと8だ。走り込みからどんどん追加される基礎トレーニングに、全身が筋肉痛で悲鳴をあげている。
 運動しているせいか、ご飯も前より一層美味しく食べられるようになって健康的になった。決して太ったわけではない。健康的にお肉がついただけ! だと、信じたい。


「リオーネ、君は魔法の素質があるようですね」


 私のステータスの伸びをみながら、先生が呟く。頭に乗せられた手が少しこそばゆい。
 確かにHPやSTRよりMPやINTの上がり幅の方が大きいから魔法タイプなのだろう。
 作中では最初の質問内容にどう答えるかでステータスの伸び方が戦士タイプか魔法タイプか変わったんだよな。
 錬金術を極めるには魔法タイプの方がMPが多いからやりやすいけど、素材を集めに行くのに戦士タイプの傭兵を雇わないといけないから高くつく印象だった。
 戦士タイプだとオールマイティにいけるからソロでもある程度はよかったんだけどな。


「そろそろ専用の武器を持っても良い頃でしょう。ということで、今日はお出かけです」
「武器を見に行くのですか?」
「ええ、外出の許可はロナルド公より頂いているので安心して下さい」


 お父様に許可をとっているなんて、流石はセシル先生。仕事が速い。

 最近では夕食も一緒に食べるようになって、少しずつ先生のことも分かってきた。なんでもセシル先生はお父様の恩人の息子さんらしい。
 お父様がまだ独身の頃、花の都と名高いカトレット皇国へ行く道中、お父様の乗った馬車が盗賊に襲われ、それをたまたま通りかかったセシル先生のお父様である凄腕の冒険者バルトハウザー様が助けてくれたそうだ。

 それから交友があるようで、私が錬金術を学びたいと言ったその日に、錬金術士を紹介して欲しいとお手紙を書いたら、息子を派遣しようってことでセシル先生が来てくれる事になったみたい。
 何でも錬金術の学校を15歳の頃、主席で卒業した優等生らしく、流石は後に伝説の錬金術士と呼ばれるお方だけあるなと感心させられた。

 バルトハウザー様の息子さんだからか、お父様もセシル先生の事をかなり気に入ってるみたいで『息子が増えたみたいだ』なんて言って年甲斐もなくはしゃいでいた。

 終いには『リオーネがセシル君の所へ嫁げばそれも現実になるな』なんて言い出すから、思わず口に含んでいたお茶を噴き出しそうになったっけ。

 セシル先生は今18歳で、私はまだ7歳。普通に考えて相手にされるはずがないでしょう、お父様。

 隣ではそれを真に受けたルイスが『ダメだよ、そんな遠くは! リィには近くに居て欲しいから、リヴァイの所ぐらいでちょうど良いよ。お城は近いし』なんて言いだして、今度は持っていたフォークを落としそうになった。

 リヴァイって、リヴァイド王子のことだよね。そっか、ゲーム上の設定では2人は古くからの親友だった。ルイスはお父様についてよく王城に出入りしているから王子とも仲良くなってたんだとその時初めて知った。

 物語は、私の知らないところでもう動き出している。音楽という道に進めない私は、錬金術を極めてしっかり手に職つけて生きていくのだ。そのためにも、素晴らしい先生が付いてくれているうちに頑張らねば!


「リオーネ? 聞こえていますか?」
「……す、すみません。先生。武器を見に行くのですよね」


 危ない危ない、先生が目の前に居るのに回想に浸っている場合ではなかった。
 外出の支度をするため、一度自室に戻ることに。
 鞄に必要なものを詰め込んでいると、メアリーが小さな缶を握りしめて駆け込んできた。


「セシル様がご一緒なので大丈夫だとは思いますが、もしものためです。いいですか、お嬢様。もし傷が出来たらすかさず塗って下さいね」


 どうやら傷薬の軟膏を持ってきてくれたらしい。


「ありがとう、メアリー」
「一番は傷を作らないようにすることが大事なんですからね? これはあくまでも保険ですからね!」
「う、うん。わかったよ」
「それではお嬢様、気をつけていってらっしゃいませ」


 メアリーは私以上に私のお肌のコンディションに詳しい。傷をつけて帰ってきたら泣かれることは間違いない。くれぐれも転ばないよう気をつけよう。

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