ゲッスゲス童話~女好き男の冬の女王様篭絡物語~

シフォン

最終話:女王様と男のメリーバッドエンド

ある男が入って以降、決して開かなくなってしまった塔から出てこなくなって一年。
精神を病んだ王様は、毎日のように塔の前に立って、無駄だと知りながらも叫び続けていました。
そこに民を救う目的などはなく、ただただ自らの精神を安定させるための行為に過ぎないのですが………しかし、王様は叫び続けました。
ひたすらに冬の女王様の名前を呼び、出てきてくれと懇願します。
しかしそこに変えされた返答はなく、虚しく時間だけが過ぎていくのでした。
ただ、その日々にも僅かながら変化が生じていました。
冬であることは変わらないのですが、しかしそれでもこれまでよりまだ寒くない、といった状況になったのです。
人々はそれを喜びましたが………しかし、それでも窮地に立たされているのは変わりありません。
氷に閉ざされている状況だけはどうにかある程度抜け出しましたが、作物はほとんど育たないのです。寒さに強い作物であればどうにかこうにか育つ、と言った状況なので食料は不足しているのです。
民たちは頭を抱えていました。
目の前にどうにかする方法があるのに、それをどうにかする方法はなく、さらにどういうわけか塔に入ることすらできないので、解決のしようがないのでした。

………しかし、ある日も塔の前で叫び続けていた王様の元に、一通の手紙が届けられました。
その内容はこう。
『いい加減騒がしくて眠れないから、この条件を呑むのならここから出てあげる』と始まり、次に二つの条件が記されていたのです。
1:自分と共に出てくる男と結婚させろ。これを了承しない場合、自殺する。
2:自分と、その男に対して投獄、死刑、流刑、領地の没収及びなんらかの罰を与えないこと。これを了承しない場合も、自殺する。
つまり、中に入っていった男と自分をお咎めなしにして、結婚させろという事なのです。
この国の方によれば王族の結婚には王様の了承が必要、という条件を突破しようとしているのでしょう。
ですがこれは容易なことではありません。まず王族は基本政略結婚をするものですが………春の女王はその酒癖の悪さから、夏の女王は根に持つ性格ゆえに、秋の女王は………なんとなくで大変なトラブルを引き起こす、その性質から結婚を申し込んでも断られてばかりで、冬の女王以外に政略結婚が出来る女王が居なかったのです。
でも、王様にもこの国にも、その条件を呑む以外の選択肢は一切残されていなかったので、彼らは一日と待たずにその条件を呑みました。
余裕などなかったので議会も何も通さない、強行採決でしたが、しかしそれしかなかったのです。

そして、その回答の二日後。
男と冬の女王様が出てくるのをいまかいまかと待ちわびていた王様たちの野営陣地には、たくさんの雪が積もっていましたが関係ありません。
彼らはただ、早く冬が終わることだけを祈っていたのです。
………やがて、昼を過ぎたころ、塔の扉が開きました。
二人が出てきたのです。
そしてそこへすかさず春の女王様が塔へ突入し、季節を春へと変えました。
国は、救われたのです。冬は、終わったのです。
王様たちは全員そろって喜び、宴を開こうとしました。
しかし、そこであることに気付きます。
冬の女王様が塔に入ったにも関わらず、気温は上がるどころか(まぁ、上がるにしたって感じられるほどのものにはなりませんが)下がっていっているのです。
なんということでしょうか………

これは、二人による仕返しだったのです。
実は男は、あのあと冬の女王様と暮らすうちに、他の女王様による仕打ちを知って憤っていたのでした。
そして、女王様も最初からもう二度と塔から出ない覚悟だったのです。
ですから………ちょっとした罠を張りました。
塔の入り口に氷を張っておき、さらに刃物やらなにやらをバラ撒いておく、原始的な罠を。
春の女王様は、それに見事にはまってしまい、滑って転んで顔面を強打し、そこに刃物による追撃を受け悶絶していたところ、運悪く後頭部に刃物が当たって失血死してしまったのでした。
すぐ死んでしまったのは流石に計算していませんでしたが、おおむね男と女王様の計算通りにことは進んでいたのです。
正にこれは、傾国の復讐劇。最初はただの痴情のもつれに過ぎなかったはずなのに、気付けば国1つ滅ぼしかねない大問題へ発展してしまったのです。
………なんということでしょう。
男は、終わると思っていた冬が終わらず、むしろ深刻になってしまったことで顔面蒼白な王様に、こんなことを呟きました。
「この塔、季節を回すためのそれだと思っていたりするだろう?王様」
「………」
「でも違うんだ。この塔は………最終兵器だよ。国を奪われ王族が全滅した時に備えた最後の切り札………国ごと凍らせる、そんな最悪の兵器」
「………」
「この兵器を作動させるために必要なキーは、中に女王が居ない状態が10分続くこと。まぁこんなに早く春の女王が死ぬなんて思ってなかったがね?」
「………」
「つまり、アンタはこの中に女王を入れたばかりに、自分の国を滅ぼしてしまったというわけだよ」
男は、誰も聞いていないのを察しながらも、語りました。
そして王様は、その言葉を聞いたのちにこんな質問をしました。
「何故………お主はこの国を亡ぼすのじゃ………?」
その質問に、男はこう答えました。
「俺は、ただ惚れた女が望むからやっただけだよ………言っちゃなんだが、俺は惚れた相手のためなら国や自分の命くらい、いくらでも捨てられるんでね」

………やがて、男も女王様も王様も、等しく凍り付き、何もかもが分厚い氷の中に封じ込められたのでした………めでたしめでたし。

コメント

コメントを書く

「童話」の人気作品

書籍化作品