ゲッスゲス童話~女好き男の冬の女王様篭絡物語~

シフォン

ロリータ女王様陥落編

さてさて、よってらっしゃい見てらっしゃい(今作品二度目)、牢屋にぶち込まれた男と、女王様の根競べだよー!
到着早々男を牢に居れた女王様は、実は現在春夏秋の女王様がやらかした事件のせいでぼっちだと(少なくとも読者には)判明しましたが、男はそんな女王様の心の隙に付け入ることが出来るのか!?
………いや、彼の事だからきっと付け入るんでしょうがね。

「しまった………食料がもうないぞ」
男は、閉じ込められてから一か月近くを7日に一度の食事と、僅かな雪解け水(女王様が気を利かせてくれたのかこればかりはたくさん流れてくる)のみで過ごしてきましたがそれも底を尽き、最後の堅パンを残すのみになっていました。
こうなるともう、いっそ出て行って説得でもした方がまだマシなんじゃないかとも思いましたが、そこは百戦錬磨の男のことです。
やはり、普通の行動はとりませんでした。
まず牢を当然のように出て、女王様が居ると思われる部屋に訪れる………も、見付かりません。
しかし一時間ほど待っていればあっちから来るだろうし、こっちから下手に探すよりあえて待つことで確実に出会おうという魂胆です。
………それに、どうやら食事が用意されていることからも考えるに、すぐ帰ってくるでしょうからね。
「………何してんのよ」
「あ、どうも。食べ物がなくなったので、何か分けてもらえないかと思いまして」
男は、この状況で、フレンドリーに食料を何か恵んでもらえないかと頼みに来たのです。
これを世界の常識では愚かな行動、愚行というのですが………この状況においてはある意味で正解でした。
まず男が女王様と会話するきっかけになりますから、会話を増やすことで情報を収集しやすくなります。
そして………運が良ければ一緒に食事が出来るかもしれないので、一気に距離を詰められるのです。
「バカじゃないの?普通、自分を閉じ込めた奴が食べ物なんて与えると思う?」
「いやいや、私だってそれほど期待はしてませんよ。ただ、ここで食料がもらえないとなるともう飢えて死ぬのを待つことになってしまいますがね」
「………ま、まぁ勝手に死なれて汚い死骸を見せつけられても困るから、パンとスープくらいなら恵んであげるけど?」
「それは光栄なことで」
そして、男はその目論見通り食料を手に入れることに成功するのでした。
しかもちゃっかり女王様の部屋に居座り、何気なく軽い会話を交えています。
アレですね、『出て行けとは言われてないから出ていかない』作戦ってやつです。もちろん普通の相手にはあまりやらない方が良い戦術ではあります。
ただ男がこれから篭絡するのはどう考えても普通ではない相手、一国の女王様で、その上現在は国を巻き込んで引きこもっているんですから。
そんな相手を篭絡するには普通じゃない手段、という事なのでした。
そんなわけで一回の女好き貴族と一国の女王様の不思議な食事が始まるのでした………

女王様は先ほど言ったとおり、キッチンからパンとスープだけを持ってきて分けてやり、まるで男などいないかのように食事を始めました。
男は無視されても気にせず話しかけていますが、その姿は滑稽を超えてむしろ哀しくすら映ります。
だって、傍から見ればまるで透明人間のような扱いを受けているんですよ?どんな話題を振っても反応なし。
しかも話題を変えて気を引こうとしてもまったく動じないものだから、もうこの人完全に無視する体制に入ったな、と誰もが思い、ひとまず諦める事でしょう。
しかし………男は、違いました。こういう時に相手に自分への興味を持たせる丁度いい方法を知っていたのです。
それは諸刃の剣でもある『煽り』。やってキレさせてしまえば命はありません。でもそこでやるのがこの男。
そこに痺れる憧れるぅ。とか言いたいところではありますが、しかしどんな言葉で煽れば良いのでしょうか。男はそこで悩みました。
まず身体的特徴で煽るのは危険。確実に消されてもおかしくない。
そもそもこういう場合の煽りは、あくまで相手の興味を引き、さらに反応を引き出すためのものに過ぎないので会話不可能なまでにキレさせてはいけないのです。
だとすれば………と考え、男はある話題を思い出しました。
少し前まで付き合っていて、今でも友人としては仲がいい女性が言っていた話です。
彼女は王国でも中々に立場の高い女性で、それゆえに女王様たちの内ゲバやら何やらに詳しく、それで冬の女王様が春の女王に男を奪われ、夏の女王に親友を奪われ、秋の女王には人間関係ぶち壊された。という話を………
あれ?
男はここで気付きました。『これってただ他の女王様たちの責任じゃね?冬の女王むしろ被害者じゃね?』ということに。

………まぁ、そんなことを理解したところで、その情報は冬の女王を口説き落とすためだけに使われるのですが。
ここまでにかかった時間は数秒。思考が加速していたのでした。
そして男は、加速された思考の中で導き出した答えをもって、冬の女王を煽ります。
「………」
「な、なによ!?」
しかし、それはただ、黙って憐みの目で冬の女王様を見るという方法で。
あえてここで言葉に出さず、視線だけで煽ることにしたのです。
その作戦は功を奏し、冬の女王様は反応してしまいました。
男の作戦勝ちです。
「………」
「言いたいことがあるなら言いなさいよ、私は何を言われたってあなたには屈しないわよ」
しかし男は動じません。ただ手元のパンをかじっています。
流石は百戦錬磨、流石は未だ不敗の男。彼に落とせぬ女はいない、というわけです。
ただ、冬の女王としてはさっきまで喋っていた男が急に黙ったものだから、不審で仕方ないなぁ、という心境なのでした。
ちなみにその中に僅かながら寂しいなんて感情が混ざっていたのは内緒にしておきましょう。彼女の名誉のために。
「………」
「べ、別にアンタが話しかけてくれなくたって、寂しくなんかないんだからね!」
そして、ついに冬の女王は煽りに完全に乗ってしまいました。
「いやいや、私はあなたに寂しいかどうかなんて一度も聞いてませんよ?………もしかして、寂しいんですか?ねぇ寂しいんですか?」
男は、そこから一気に畳みかけるように煽りました。
冬の女王が図星を当てられて微妙に動揺した精神に追撃を食らわせるかのごとく、煽りに煽ります。
あわよくばここで篭絡してしまおうという魂胆なのでした。

まぁ、この程度で落ちる女なんていないだろうとの考えの元の行動なので、実はこの続きもあったりしま………
「そ、それは………その………」
「………(問い詰めるような眼)」
「えぇそうよ!寂しいわよ!これで満足!?」
あれ?と男は思いました。
よほどちょろい女でなければこのタイミングで落ちるわけがないのですが、意外にもあっさりと落ちてしまって驚いたのです。
「えぇそうですね………でもそんなに寂しいというのなら、しばらく一緒に暮らしましょうか?」
「なんでそんな流れになるのよ!」
「まぁ良いじゃないですか。私が信用ならないというなら、氷漬けにでもすればいいでしょう?」
でも、こうなってしまえばあとは揺さぶるのみなのです。
揺さぶって、自分のペースに持ち込んで、あとは常に一緒に居ても良い、と思うようになるまで待つ。それだけなのです。
「………なら、少しでも信用ならないと思ったら氷漬けにして、砕いてあげるから」
「それは怖い。でも私はこう見えて二股をしたことだけはないのでご安心を」
「そういう問題でもないと思うけどね」
そして、ついに冬の女王様は男を自分に随分と近いところに招き入れてしまったのでした。
これからどうなるのか、それは………誰にでも分かることでしょう。

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