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巫夏希

第二十九話 決戦の始まり


 フル達が船に乗り込み、二日経った朝─。

「メアリー!フル!起きてよ!」

 いつもは誰よりも遅く起きる筈のルーシーがフル達を起こした。

「う、うーん…なんだい、ルーシー、こんな朝っぱらから」

 フルは言った。

「いいから来て!」

 ルーシーは二人を甲板に連れていった。

「あ……」

 空は霧がかっていた。
 しかし、その晴れた隙間から、あの懐かしいリーガル城が見えてきたのだ。

「あれが…リーガル城…」
「久しぶりに見たなぁー」

 メアリーの言葉に対して、フルは背伸びをしながら答えた。

「…リュージュは一体何をする気なんだ…」

 安堵の表情だった三人の表情ががらりと変わった。
 霧はどんどん晴れていく。
 それに従って、黒い煙が見えてくる。
 それは紛れもなく、リーガル城城下町からの物だった。




〔港〕

 三人を乗せた船はリーガル城そばの港にたどり着いた。
 ここでももう暴動は起こっていた。
 近くの宿屋から酒、食料などを盗み、道具屋からも盗み盗んでいた。
 誰かが火をつけているのも見受けられた。
 その様子はまるで、地獄絵図のようだった。

「ひどいな…」
「このままじゃ、この船も盗まれかねないわ。」


 パン
 ヒョイ
 メアリーは卵を側に置いた。
 すると、船がみるみる卵に吸い込まれていき、最後は消えてなくなってしまった。
 メアリーは卵の蓋を閉め、しっかりと塞いだ。

「もしかして…それって…」
「うん。『マジック・エッグ』よ。」
「塞いでしまって大丈夫?」
「大丈夫よ!問題ないわ!」

 ルーシーの言葉に、すぐにメアリーが返した。

「これは酸に弱いの。だから酸性の水溶液につければ、溶けて元通りになる。」
「へえ」
「じゃあ、行きましょう。」

 メアリーが二人を促した。



〔リーガル城城下町〕

 三人は城下町にたどり着いた。

「ひどい有り様だな…」

 城下町は港よりも醜態をフル達に見せていた。

「…とにかく城に入ろう。リュージュについての情報が何か掴めるかもしれない」


 ピクン
 ルーシーは立ち止まった。

「どうした、ルーシー…」
「いや…守護霊が…『きずな』を通して僕に言ったんだ…」
「なんて?」
「…『この先にとてつもない力を持ったのが二つある』…と」


 フン
 フルは鼻で笑った。

「望むところだ。倒してやろうじゃねぇか!」
「…クフフ、自信があるようだな!」
「!!」

 フル達は声のする方向に振り返った。
 そこには一組の男女がいた。
 二人とも銀髪で男は赤いスーツを着て、紳士のように直立不動で立っていた。
 女は水色のワンピースを着て、屋根に腰かけていた。

「バルト・イルファ、ロマ・イルファ!!」

 三人は叫んだ。

「まさかこんな早くここにたどり着くなんてね…ロマ、手加減しすぎたんじゃないか?」
「ごめんなさい。お兄様。」
「さ、て、と…」
「まだ君らは僕達のメカニズムを分かってないみたいだし…倒される事はまずない。ここまできたごほうびリワードに教えてあげるよ。彼らが暴動を働いている理由を!」
「彼らはね、『アリス』によって統制されているんだ。」
「『アリス』?」
「君らはもう知っているだろう?この世界は一度滅んだことを」
「!!」

 三人は驚いた。

「おや?知らないみたいだね。じゃあ…教えてあげるよ。昔、科学技術の発展した世界があった。しかしロボットの反乱によって人類が滅亡した…これが表向きの歴史、さ」
「しかし、本当は違うんだよ」
「ロボットの中にも人間に味方する物がいた。その名はアリス。アリスは死者の魂から無作為に五人選んだ。」
「五人の"勇者"は『反逆者』ロボットのルーニーを倒した。いや、勇者から聞いたアリスの記録では、『自ら機能停止を選択』したと聞いたが…」
「その後、人間は平穏に暮らしていったと聞く。そして、役目を終えたコンピュータ『アリス』は機能を停止した──。」
「しかし、15年前、リュージュ様が発見したのだよ!コンピュータ『アリス』を!!」
「何千年も経っていたからところどころ回線も切れていて、使えようがなかった。」
「しかしリュージュ様は当時のスノーフォグの全技術を注ぎ込んで、ついに『アリス』は復活した。」
「…し、しかし『アリス』はスノーフォグでなくハイダルクの、しかも首都リーガルに置かれていた。流石にハイダルクも見てみぬ振りは…」

 メアリーがそこまで言ったとき、ロマ・イルファが言葉を遮った。

「…私達が所属する魔法科学組織『シグナル』を甘く見るんじゃないわよ。『シグナル』がリュージュ様によって復活したのち、我らは裏で世界を統治した─。そう、今まで準備を進めていたのよ。長かった─。とても、とても。」
「さぁ…どうせ、君らは僕たちに勝てないんだ。ここで潰してあげるよ。」

 ボォォォォォ
 バルト・イルファは炎を放つ。
 それは今までの戦いで一番強力な炎だった。

「くうっ!!」

 キィィィィィン
 同時にフルがシールドを作る。
 ゴォォォォォォ
 パキパキパキ…
 炎とシールドが力を加え、反発し…それの繰り返し。

「くぅ…」
「こうなれば…『Zero-G』!!」

 ググググググ…
 ロマ・イルファが魔法を唱えた。
 すると、
 フワッ
 フル達の体が浮いた。

「!?」
「フハハ…『Zero-G』はその名の通り、重力を0にする魔法!この空間で100%の力を出す事が出来るかな?」
「…なに」

 フワ
 フワ
 体を踏ん張ろうとしてもその『大地』となる場所がない。即ち力が空回りして、空間を漂う。

「うわぁぁぁっ」

 フル達は空間に浮く。

「…もう、終わりよ」

 バシャアアアアン
 ロマ・イルファが大量の水を生み出す。それは浮いてバブル(泡)が光線のように三人に命中する…しかけた。
 ガシッ

「…お前は…」
「…あ」

 フル達の前には一人の女がいた。
 確りと大地に足を着けている。
 フル達は、見覚えがあった。
 そして三人は、

「サリー先生!」

 その名を叫んだ。

「…貴様、確かにラドーム学院で殺したはず…」
「…確かにラドーム学院は校長もろともあなたたちに滅ぼされた…でも」
「私は『これ』を使って障壁錬金術『バリアッシュ』をかけ続けたのよ」

 スッ
 サリー先生が出したのは、金色に輝く林檎─『知恵の木の実』だった。

「そうか…お前も木の実を持っていたんだったな。しかし一人でどうにかなるのか?」
「甘いわね。私だけじゃないわよ」

 ズラッ
 サリー先生の後ろには、各分野の先生が一列に並んでいた。

「なにっ」

 魔術、錬金術、獣使い、戦用獣錬成、守護霊…各分野のエキスパートが集っていた。

「ぐく…まさか、ここで計画が実行に移される事を知っていたとは…」
「…校長は大分昔からあなたたちの計画を知っていた。そしてついにその地を突き止めた。そして今、その計画が実行に移される。だから、止めに来た。」
「フフフ…愚かな人間どもよ…ここで朽ち果てるがいい!」
「ヤタクミ。行きなさい」

 サリー先生が言った。

「…え」
「校長の考えが正しければ、奴らのいう計画の第一段階はコンピュータ『アリス』によるマインド・コントロールのはずです…奴等の出鼻をくじく為にも…さぁ!ヤタクミ!行きなさい!」

 コクリ
 フル達三人は無言で頷き、走っていった。

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