ODD

巫夏希

第二十七話 魔導書と主従融合


「本?」
「…あらら、まさかこれまで早く来るとはね…。」

 フル達はその声を聞き、後ろに振り向く。
 そこには水色のワンピースを着た銀色の長髪…。
 ロマ・イルファがいた。

「…さぁ!おとなしくそれをよこしなさい!!」
「……………」
「…いい度胸ね。ならば、」
「あなたたちに地獄を見せてあげるわ!!」


 ヒュン
 ロマ・イルファが言った瞬間、フルは消えた。

「!?」
「何処にいった!!フル・ヤタクミ!!」


 ヒュヒュヒュ…


「前…右…左…いや、」

 ロマ・イルファが振り向いたその時、目の前に剣があった。

「な…」


 ドガァァァァァン


「…何をする気だ?」
「見ての通りの事よ。リュージュ様の為にそこにある『伝説の魔導書』を消滅させる!」
「ならば、倒す」

 フルは構えた。

「…やはり言葉では通用しないようね。ならば…」


 ゴゴゴゴゴゴ…


「戦うしかないようね…」
「覚えているかしら?予言の勇者さん。ASLにいたメタモルフォーズを」
「…あのメタモルフォーズ…それがどうした!」
「私はそれを元に作られた人間…人造人間、って言ったらおかしいかしら?」
「…馬鹿な!そんなこと、あり得ない!」
「『あり得ないなんて事はあり得ない』。」
「私達『シグナル』のポリシーよ」
「だからって…世界でそんなことが通用するはずない!」
「やっぱだめね…危険因子は」
「排除しなくちゃ」


 バァァァァァァッ
 ロマ・イルファの体内から大量の水が出てくる。

「ゴボバッ…」

 フルは水を取り除こうと剣を振る。
 しかし水はフルにまとわりつく。

「なんで…!!」
「さてと、一番手強い勇者が消えれば…」
「あなたたちを倒すなんて、造作もないことよ!!」

 その時、


 バチ…


 ドガァァァァァン
 突然、稲光がロマ・イルファを襲った。

「…そんな…魔法を扱えるのは勇者だけ、と聞いていたのに…。」
「残念だったな。確かに俺はつい先程まで魔法を使う事はできなかった。だがな…」
「守護霊と力を合わせる事に因って魔法を打った!!」

 そこには異なる形をしたルーシーの姿があった。



「主従融合!まさかこの目で見られるとは…しかし」
「先程の攻撃で私ももう瀕死の状態。ここは一旦退くことにしましょう。」
「決戦の地で待っていますよ!フル・ヤタクミ!」


 シュン
 ロマ・イルファは消えた。
 同時にフルを包み込んでいた水も消えた。

「ガハッ…」
「フル!大丈夫!」
「うん…とりあえず、ね。」
「ご無事ですか」

 頭の中に声が響いた。これはエルフだ。

「え……」

 メアリーが前を見るとそこには一匹(一人?)のエルフがいた。

「あぁ。なんとか」

 フルは答えた。

「…もしかしてあなたが予言の勇者…」
「まぁ、そういう事になるね。」
「ならば、こちらに来て下さい。」
「分かった…」

 フル達は疲れた表情でエルフについていった。

「…こ、これは…」

 そこにはぼんやりと光に包まれる樹が存在していた。

「これは我々エルフが守り続ける樹、」
「『能力の樹』です」
「能力の…樹…」
「この樹に触れた者は真の力を得る、という伝説があります。何故ならこの樹は、」
「『知恵の木の実』が成る樹なのです」
「!?」

 三人は驚いた。

「…では、だれか一人、お願いします。」
「メアリー、行きなよ」
「え?」
「だって僕は魔法の加護を得ているし、ルーシーだって守護霊を得ている。一番何もない、といっちゃあれだけど、メアリーが一番その能力を得るに値するんじゃない。」
「…そうかな」
「…早く決めて頂けませんか。」

 エルフが促した。 

「…分かった。私が行く」

 メアリーが一歩前に出た。

「…樹に触れて下さい」


 ピタ
 メアリーは樹に触れた。
 キュウウウウウ…
 同時に手からエネルギーが入って来た。
 血液の流れを逆らって、どんどんエネルギーが逆流する。
 耐えきれない。メアリーは思わず声を出す。

「手を放さないで下さい」

 頭の中にエルフの声が響く。
 その声に従うメアリー。

「………………ッ」
「あと少しです」

 エネルギーが、正体を現した。





「え…?」

 そこにいたのは、人間。
 しかし、形が保たれた靄のようにも思われた。

「え?」
【…あなたはメアリー・ホープキンね】
「…なんで私の名前を知ってるの?」
【私は何もかも知っている。あなたの全てを、ね】
「何もかも?」
【そう。何もかも、よ】
「…何を教えてくれるの?」
【私は…錬金術の全てを教える。それが理解出来れば自身が構築式となり円を作るだけで錬成が出来る…ようになる。】
「…」

 メアリーは全てを理解しきれなかった。いや,何を言っているのか解らなかった、と言った方が正しいのか。

【ただし、】

 その『靄でしかない何者か』が言った。

【あなたはあなたの記憶の全てを知る事となります。それでも…良いですか?】

 コクリ
 メアリーは頷いた。

【いい覚悟ね】

 グニャッ
 突然、空間が歪んだ。

「え…」
【決して後悔しないでよ】
【それがあなたの選んだ道なのだから】

 ギュウウウウウ…
 真っ白な空間から、訳の分からぬまま、落ちた。
 落ちたさきには今までの歴史が詰まった『なにか』。
 何故それが分かったのか?
 それは、今までの自分の歴史がまるで走馬灯のように流れていくからだ。
 しかし、気持ち悪くなかった。寧ろ心地よい…そんな感じの空間が広がっていた。
 そして、一つの空間にたどり着いた。
 それは、かわいい女の子が巫女服を着た女に抱かれている姿。
 その女の顔に見覚えがあった。

「え…そんな…まさか…」

 そう。そこにいた女は、紛れもない。
 リュージュだったのだ。

「…そんな」

 シュウウウウウ…
 空間が、元に戻った。

【…人は儚い。真実を知ると自分の今までのイメージが砕け散る…悲しい存在よ】
「…でも、」

 メアリーは立ち上がった。

【む?】
「運命なら、定めなら仕方がない」
【…そう。あなたには受け入れるしかない。この忌まわしき記憶を】
【…だいたいこの樹にまでたどり着く者も少ないのに、自分の記憶を思い出すとその精神的苦痛で死んでしまう…あなたは、はじめて生き残った。その強い精神を持ったあなたに会えて私は幸せだ…】

 ヒュン
 意識が、元いた場所に戻った。

「…戻って…来たのですか」

 エルフが驚きの表情を見せていた。
 メアリーは一瞬強ばった表情だったが、すぐにフルたちに笑いを見せた。
 しかし、直ぐに何かを隠している、そんな表情を見せた。

「フル、ルーシー、聞いて欲しい事があるの」
「?」
「私の母親は…」
「リュージュよ」

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く