ODD

巫夏希

第十七話 二人旅と船

 地面に落ちた玉は粉となり、風に吹かれて消えた。
 と、同時に、


 ゴゴゴゴゴ…


「な、なんだ!?」

 フルは叫ぶ。

「…崩れる、逃げろ!!」

 脱出口だろうか。明かりが見える。
 それに向かって、走る。走る。走る。

「急げ!崩れるぞ!!」


 ガラガラ


 ガラガラ



 フルたちは間一髪研究所から脱出することに成功した。

「…ハッ!メアリーは!?」

 ルーシーが気付いた。
 しかしフルは、「メアリーは大丈夫だよ」と優しく言った。

「どうして?」

 ルーシーはフルの言ったことに疑問を感じ訊ねた。

「ほら、これを見てよ」

 フルはルーシーに言う。
 フルが指差した場所には杖が落ちていた。
 『エルフのかくれざと』で得たシルフェの杖が。

「…これが落ちているということは、メアリーがここにいた証明になる。」
「でも、ここから何処に?」
「……」

 フルは口をつぐんだ。
 そうだ。その通りだ。
 『杖』はメアリーがここにいる証明にはなってもここから何処に向かった…なんてことは分からないのだ。

「うーん」


 クション


 フルが大きくクシャミをした。良くみたら、フルもルーシーも先程のメタモルフォーズ戦の時、水を被ってしまっていた。
 クシャミをして当然かもしれない。

「…とりあえず、夜だ」

 フルは空を見た。
 気付くと空は薄暗くなっていた。
 研究所に入ったのが早朝だから、あの研究所に1日いた事になる。

「…あれ、灯りじゃない?」

 フルは暗くなる東の空を指差した。
 そこにはフルの言った通り、灯りが見える。もしかしたら、村や町かもしれない。ルーシーはそう思って、フルと東に向かった。




 二時間後、村に着いた。
 小さいながら漁業で生計を立てている村で、村の外に刺さっている看板には『ラムガス』と書かれていた。
 すぐ村の奥にある宿に直行。
 設備の問題からかバイタスの宿の半分以下で泊まる事ができた。
 部屋に入り、女将さんに一言。

「あの、お風呂ってどこですか?」
「へ?」

 女将は口をポカーンとしている。

「いや、だから…」
「いや、この村に『お風呂』なんて…どのような物です?」
「いや、あの…暖かいお湯が桶いっぱいに入ってるやつ」
「あぁ。」

 女将はフルが何を言っているのかようやく理解したようだ。

「あれは首都にしかないんです。『燃糧』がないんでね」
「あ、そうですか…」
「ごゆっくり」

 この話をしている間に服はすっかり乾いてしまったが、気化熱で熱が奪われ、とても寒くなってしまった。

「なぁ、ルーシー。『燃糧』ってなに?」

 フルは寝る時にルーシーに聞いた。

「『燃糧』ってのは僕らラドーム学院のアルケミークラスで一年生から二年生への昇級試験で錬成するものなんだ。炭と水を分解・再構築して作るらしいんだけど、僕もあんまり分かんなくて…。これだってメアリーに聞いた事なんだよ」
「…なんか、うちら。メアリーに頼りっぱなしだな」
「うん。あのリーガル城でのメタモルフォーズ戦だって、メアリーの機転がなかったら、みんな死んでたよ」
「いい機会だよな」
「え?」
「僕らがメアリーを頼らずに闘っていく事が出来るようにするために。」
「…そうだね!」
「ねぇ、フル…」
「ZZZ…」

 フルは既に寝ていた。

「せめて話し終わってから寝てくれよ…」
「まぁ、明日も早いし…」


 フウ


 ルーシーは枕元のランプを消す。

「おやすみ…」

 二人はぐっすりと眠りについた。






 二人は同時に目を覚ました。
 朝早く、夜も更けない内に、村を出発した。
 早くこの国の首都ヤンバイトに着くためだ。




 その頃、謎の場所。

「…ASLが破壊された、か…。まぁいい。あそこはあまりいいやつが出来た覚えはない。なくなって清々したがな。」
「リュージュさま」

 突如、真っ黒い空間から誰かが出てきた。

「ご苦労だった。バルト・イルファ。で、どうだった?」
「予言の勇者一行はヤンバイトに向かっているようです。」
「メアリーは?」
「それが、ASLのやつら任務を怠って、逃げたみたいなんです」
「逃げた、何処へ?」
「さぁ…最後に目撃されたのがレキギ島の港だったらしいですが」
「まぁ、いいわ。あなたは引き続き予言の勇者を監視するのよ」
「はっ」

 バルト・イルファはまた闇に消えていった。





 その頃、フルたちは、北国『スノーフォグ』の首都ヤンバイトに着いていた。

「ここが首都ヤンバイトか。何か食べ物のいい匂いがするな」
「そうだよ。なんたってここは『食の都』って呼ばれているくらいだからね」
「へえ」
「あ、あれ!」

 フルが指差したそこには、


 ゴウン ゴウン


「ここは…造船所だね。」
「うわぁぁ─」
「おい」

 フルは周りを見渡すと、

「うしろ、うしろ!」
「?」

 その声に誘われ、うしろを見ると、筋肉隆隆、ランニングシャツ、ズボン、頭にタオルを巻いたゴツい男がいた。

「ここ、入口なんだが」
「あ!!」
「す、すいません。」

 フルは謝り、その場を去った。

「あれ…ルーシーは?」

 気付いたらルーシーが何処にも居なかった。
 しかし、すぐ発見する事が出来た。
 造船所の脇にあるお店『QWERTY』のショーウィンドーから何か、見ていたのだ。

「ルーシー、何やってるんだよ!」
「ほら、見てよ!フル!」
「ん?」

 フルはルーシーが指差した方向をみた。

「えーと…タイプライター?」
「そう!!文字が打つだけで出るんだよ!!」
「そんなもん、僕の世界では150年くらい前から販売されてたよ。今は凄いんだ。『インターネット』を通じて世界中と繋がる事が出来るんだよ」
「へぇ…見てみたいなぁ」
「さてと、今日はゆっくり休んで明日王様に謁見しよう」
「うん」

 ルーシーは頷いた。
 そして次の日。

「あー、やっぱ設備良かった分、あそこの宿屋は高かったなぁ」

 フルは言った。

「でも仕方ないよ。一応『一番安い宿屋』にしてたけど、あんまり変わんなかった…一応首都だもん」

 ルーシーがフルをなぐさめるように言った。





〔ヤンバイト城・城門〕

「すみません」
「む。何だ」

 フルは警備兵に話しかけた。

「これを…」

 フルはリーガル城を旅立つ時に王からもらった手紙を渡す。

「…む?」

 警備兵はすぐ側にある詰所に戻る。
 そして受話器に手をかけ、

「こちら警備兵詰所、コード6085U7。グランド・ダイムラーです。城兵、城兵。リュージュさまに会いたいと申す者が…えぇ。子供二人です…。名前?おい!」

 グランドはフルとルーシーを呼んだ。

「名前は?」
「フル・ヤタクミ」
「ルーシー・アドバリー」
「えーと、フル・ヤタクミとルーシー・アドバリーです。はい…わかりました。」


 カチン


 グランドは受話器を置き、言った。

「城内に入ることは許可された。が、ここで身体検査をする…まぁ、子供だからいいだろう」
「いいの?」
「あぁ。もうすぐ扉が開いて中から兵士が出てくる。そいつについていけ」


 ゴゴゴゴゴ…


 重い鉄の扉が開かれていく。

「フル・ヤタクミ、ルーシー・アドバリーだな?」
「はい」
「ついてこい」

 兵士はフルとルーシーに先行して進む。




 しばらく、フルたちは巨大な扉に辿り着いた。この感覚。何処かで…。そうだ。リーガル城で王に謁見するとき…こんな感覚だった。


 ギィィィィィ


「ここが王の部屋だ。粗相のないようにな」

 兵士は扉が開くと同時に言った。




 ギィィィィィィ




 ついに扉が全開された。
 王の部屋はやはり赤いカーペットが敷かれていた。石の造りで少し冷たく感じた。玉座の上にはやはりステンドグラスがあった。
 木の実を抱えた一人の女性─もしやあれはガラムドだろうか? 
 などと想像している内に玉座の前に辿り着いた。

「警備兵から聞いているぞ。フル・ヤタクミにルーシー・アドバリー。」

 優しい声がフルに降りかかる。

「我が名はスノーフォグ国王、リュージュと云う。」
「何しにきた。そして何処からきた。」
「私達はラドーム学院から来ました。『メタモルフォーズ』なる謎の生物兵器がこの国の方向から来たものでして…」

 ルーシーはリュージュの問いに答える。

「アハハ、謎の生物兵器が我が国から来た、と申すか。この国の王の前でよく言えるな…にしても」
「そうか。リーガル城が襲撃されたのを守ったのはお主らだったか」
「何が欲しい?」
「え?」
「そのような旅をしているのだろう?この私が一つだけ支援してやろう。ただし、」
「君たちに任務を与えよう」
「任務?」

 二人は声を揃えて言った。

「そうだ。実はつい最近城から錬金術師が逃げてな…。その者を捕まえてもらいたい。」
「ある物を研究していた物でな…。使い方次第では大変な事になりかねない」
「え?」
「どんな錬成をも可能にする幻の術式増幅器、」
「『知恵の木の実』の錬成だ」
「知恵の木の実!?」

 フルとルーシーは驚いた。

「頼む。世界の平和の為に」
「わかりました!」

 二人は一礼し、外へ出る。

「あなたらしくないですね。『頼む』とは」

 いつの間にかリュージュの隣にはバルト・イルファがいた。

「仕方ないわ。あの計画の為には彼が必要だもの」

 リュージュは不敵に笑みを溢した。






 フルはリュージュからもらった紙を見る。
 名前はタイソン・アルバ。
 似顔絵をみるとかなり細く、悪人のような顔だった。

「街には居なかったから…あと一週間かぁ。船が出来るまで」
「うん」

 そう、二人はリュージュから船をもらったのだ。






 そして一週間後。
 二人は造船所を訪れた。

「なんだ、お前らか」

 この前会ったランニングの男だった。

「あの、これ」

 フルは紙を渡す。

「むっ」

 男の目付きが変わった。

「…分かった。ついてこい」

 フルとルーシーは男についていった。

「ここだ」

 しばらくして、男は足を止めた。

「うわあーーっ」

 フルとルーシーは上を見上げた。
 そこにはとても大きな船があった。

「この船はなんだかんだで設計から12年もかかってな…俺たちの自慢だ!」
「へええーー」
「おっと、だれか錬金術が使える奴はいるか?」
「あ、僕少しは使えますけど」

 ルーシーが手をあげた。

「水は切らすなよ。最低でも10リットル。船底にタンクがあるから、錬金術を使って海水から真水にすりゃいい。そうじゃないとこの船動かなくなるからな」
「え」
「その時はマストに帆を張ればいい」
「頑張れよ!」
「ええ!」




 ボオオオオオ




 船は大きな汽笛を上げ、すすむ。

「どうする?」

 ルーシーは地図を見て言う。

「『レガドール』に出てもいいけど北にはチャール島もあるし…」
「よし、とりあえずチャール島を目指そう!」
「うん」


 ボオオオオオ


 フルは舵を左に旋回。
 その時フルは「取り舵いっぱーい!」と言った。
 しばらく船を進ませていると右に岩山で隠れた島が見えた。

「ルーシー、あれ、なに?」
「確か、セカンドインパクトの時に強力なメタモルフォーズを封印した場所、って聞いた事があるよ」
「ふうん」

 左前方に島が見える。

「あれがチャール島だよ」
「結局メアリーはどこに行ったんだろう…」
「?」

 ルーシーは何かを見つけた。

「どうしたの、ルーシー?」
「ちょっと待ってて」

 ルーシーはマストに登り、望遠鏡を出して、見た。

「やっぱり!!」
「やっぱり、ってなに?」

 フルが下から叫んでいる。

「あー、ちょっと待って」

 ルーシーは下に降りる。

「…この船に海賊が向かってる」
「え!?」
「海賊!?」
「うん…もしや、と思ってマストに登って見たんだけど、やっぱり海賊旗だった」
「海の上で決戦!?いつもだったら、メアリーが機転を効かせるんだけどな…」

 そう言ってる内に海賊船はぐんぐん、ぐんぐん向かってくる。

「…あーもう!!やるっきゃない!!」
「そうこなくっちゃ」

 フルとルーシーは剣と弓をそれぞれ構えた。


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